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第42話 今日はここまで



よく言えば静謐、悪く言えば地味。

『栄都の残骸』の地下階層は、見た目一発そんな印象を抱く構造になっていた。


石材を敷き詰められてできた、床、天井、壁……それら全て、特に染色も装飾もされていない状態なので、視界がほぼ灰色一色だ。


それ以外の色は、壁のわずかな松明の明かりと、それで照らしきれない闇の黒と……襲い掛かってくるアンデッドたちが白かったし青白かったり半透明だったり……ってとこかな。


地下に入ってからは、地上よりも襲ってくるアンデッドの数も頻度も増えた。


全体的に動きが緩慢なので、このくらいなら特に脅威に感じることもなく対処できる。注意しなきゃいけないのは、暗がりや物影からの奇襲や、トラップくらいだな。


ダンジョンにおける定番の1つ……矢が飛んできたリ、落とし穴が開いたり、って感じのトラップは……誰が仕掛けたわけでもないだろうに、ひとりでに出現して挑戦者を苦しめる。

が、注意していれば見抜けないこともないし、僕らの中では、レガートとフォルテがそこらへんに心得があったので、どうにかなっている。


襲ってくる魔物は地上と変わり映えしないけど……戦う回数が増えてるので、疲労と残弾には注意しなきゃいけない……ってくらいかな。


特に、ゾンビの団体さんに出くわしたりすると、フォルテの魔力弾はともかく、僕&レーネの石礫ランチャーは結構消費が激しい。魔力とかじゃなく、弾が。

なので、手ごろな柱とか石壁とかがあったら、ガリッといただいて補充したりしている。


ちなみに、レーネは基本1人で戦っている。自前の大剣で。

僕が武器化して大火力を振るうのは、敵がめっちゃ多い時だけだ。その方が彼女自身の訓練にもなるし、それだけの実力は十分あるからね。


しかし、その間僕も遊んでるわけじゃなく、自前で敵を倒している。


今僕は、自分の体の周り4か所に、丸盾を装着して回転させ……車輪にして動いている。

ゴムタイヤみたいな弾力はないので、ガタガタ盛大に揺れるけど……普通に移動しようとすると、ぴょんぴょん跳ねねばならず、着地時にガタゴトうるさいので、こっちのがいい。


その状態で、フタを開けて中から出したクロスボウや石礫その他で攻撃している。


なお、基本かみつきは使わない。なんかばっちいので。

獣の体を食いちぎることはできても……さすがにゾンビにかみつくのは、うん。


ギリギリ、スケルトンくらいなら……なんとか。

あ、ゴーストは普通にいける。アレ、魔力込めて攻撃すれば普通に攻撃あたるし。歯ごたえはゼリー以下であっさり食い殺せるので、いいカモだ。


ところで、僕のスキル『変形トランスフォーム』は、今回のように色々な形に変形できるスキルだけど……そういう仕様なのか、変形できる形態にも、ある程度の限界がある。


その一部に、あるいは全体的に……元の僕の姿である『箱』の面影がないと、理屈はわからないが、変形できないのだ。


なので僕は、おおよそ箱型に見える変形か、剣の鍔、バリスタの砲身、ドリルの駆動部などが『箱』の形のままになっている変形しかできない。少なくとも、今は。

今後レベルが上がればレパートリーが増えるかもなので、そのへんは期待である。


さて、だいぶ戦闘にも慣れてきて、ほぼ作業っぽくなってきたところで……おっと?


「――到着、か……案外早く着いたな」


レーネが大剣でスケルトンを砕き割り、フォルテがその奥のゾンビを3体まとめて神聖魔法で消し飛ばしたその向こうに……数十分前にも見た、重厚な扉が見えた。


石……に見えなくもないけど、少なくとも周囲の壁とかその他からは完全に浮いている。

明らかに、というか、間違いなく……ボス部屋の扉だな。


とりあえず、周囲の敵を全滅させて……僕ら2人と2体で、その前に立つ。


「休憩したい人、挙手ー」


と、僕が声をかけると……レーネが、ちょっと遠慮しつつ手を挙げようとして、レガートとフォルテが上げる様子がないのを見てひっこめた。

が、しっかり全員気づいていたので、いったん休憩して水分補給とかすることになった。


「えっと……ごめん、私1人のために」


「気にするなレーネ。むしろ、疲労を押して無茶をした結果として取り返しのつかないことになる方がよくない。ボスは弱くはない相手だろう……きちんと休んで、万全の状態で挑むべきだ」


隣に座って、一緒に水分補給&ついでに夜食タイムしているレガートにそう諭され、ちょっと気まずそうにしていたレーネも、『そうですね』と頭を切り替えることにしたようだ。

うんうん、それがいいそれがいい。僕らみたく、疲労とは縁遠い体じゃないんだし。


保存食のドライフルーツを水で胃袋に流し込み、レーネはふぅ、と一息ついて言った。


「今度のボスはどんな奴かしら? やっぱアンデッドかな?」


「多分そうだろうな……ここアンデッド系しか出てこねえしよ、今んとこ」


「1階層はスケルトンの強化版だったから……ゾンビか、ゴーストの強化版とか?」


「そんな安直……いや、ランクの低いダンジョンっぽいし、それもありうるか。仮にそうだとすると……出るのは『グール』あたりかもな」


グール、ね……ゾンビの強化系の魔物だな、たしか。

ゾンビよりタフで、スピードもパワーも上。腐りかけの体の癖に頑丈で、剣とか斧とかで攻撃しても中々倒れない上、有毒の体液や呼気で攻撃してくる。


能力的にも見た目的にも、接近戦での相手はしたくない魔物だ。


もし出たら……フォルテに任せよう。それか、遠距離攻撃で対応だな。近づかれる前に確実に仕留めたい。……弾、補充しとこうかな?


「まあ、仮に何が出てこようが……この間戦った『豚鬼王オークキング』や、あの悪魔みたいなのが出てくるわけでもさすがにないだろう。私たちはアレに勝てたんだ、どうにでもなる」


「そうですね…………ふぁ、やば、ちょっと眠くなってきたかも」


石壁に寄りかかって楽にしていたレーネが、おっきなあくびをしていた。


「おいおい、食ったからってそりゃいくら何でも気ぃ抜きすぎ……いや、時間も時間だし、自然といえば自然なのか?」


「かもしれないけど……いくら何でも、今寝ないでよ?」


「いや、わかってるって……えっと、確かこのへんに……」


言いながら、軽鎧の下の服の中をごそごそと探り出すレーネ。

多分だけど、眠気覚ましのポーションを探してるんだろう。ハーブとか刺激の強い材料で作った、体力補給と眠気覚ましが一度にできる、栄養ドリンクみたいなのを、こないだ作ってた。


ボス戦を前にシャキッとするつもりなんだろうな、とか思いながらその様子を見ていると……


「えーっと、たしかこっちのポケットに……ん?」


ふいにレーネが、何かに気づいた感じの表情になった。


その直後……


『あぅー』


「「「……!?」」」


鎧の中から、そんな、舌っ足らずな感じの声が……声!?


驚いた僕らの視線の集中する先で、彼女自身も何だか驚いたような気づいたような表情になっていたレーネは、乱暴にひっかきまわすように鎧の中で手を動かしたかと思うと……その中から、何かをつかみ出した。


それは、ポーションの便などではもちろんなく……


『やっと、でれたー』


「「「リィラ!?」」」


つい数時間前にこの世に生を受けた、小さな妖魔人形リビングドールだった。


☆☆☆


何のことはない。単なるレーネのうっかりだった。

ビーチェ達が出かける話がいきなり出て来たもんだから、ポケットに入れたまま鎧を装着した結果、ここまで気づかずに持ってきてた……ってだけの話だ。


リィラ曰く、何度かレーネに向けて呼びかけたりしてたらしいんだけど……戦闘音や敵のうなり声にかき消されて、誰も気づかなかったわけだ。

リィラ自身、声小さい上に舌っ足らずで、お世辞にも聞き取りやすい声じゃないし。


結果、ここまで連れてきちゃってたわけだ。


……そしてもう1つ、予想外のことが起こっていた。


いやまあ、こういう形でリィラが僕らに『同行』してたわけだから、そのへんを考えればある意味当然ではあるんだけど…………うん、コレ見てもらった方が早いな。



★名 前:リィラ

 種 族:妖魔人形リビングドール

 レベル:4

 攻撃力:11  防御力:21

 敏捷性: 7  魔法力:16

 能 力:???(未覚醒)



御覧の通り……上がってるのだ、レベルが。

レーネの鎧の中にいたことで、僕らに『同行』していたと判断されたらしい。わずかずつだが経験値が流れ込み、こうしてレベルアップしていたわけだ。


とはいえ、それでもまだまだ弱い。

少なくとも、戦闘に出られるようなレベルとは言えない。

なので……


「もうちょっと、この中で休んでてね、リィラ?」


『うんー』


とまあ、再びレーネの鎧の内側、服のポケットの中に格納。

安全をある程度確保させたところで……僕らは休憩を終了。扉の前に立ち、観音開きのそれを押し開けた。


中に待っていたのは……


「ご明察、だったようだな……グールだ」


部屋の真ん中に、座り込むようにして待ち構えていたのは……青白いを通り越して、緑や青に変色している肌の屍。

白く濁り、生気の感じられない目がこちらを向くと……のっそりと、動き出す。


僕ら全員が中に入ったところで、背後の扉が音を立てて閉まり――あ、コレ終わるまで開かないパターン?――それと同時に、グールが、背筋が凍るようなおぞましいうなり声をあげて……



……それが終わる前に、フォルテの魔力弾丸の直撃で上半身を焼失させた。



……うん、まあ……事前の打ち合わせのとおりなんだけどさ。

まさに『今から始まります』的なタイミングで終わりが訪れたので、何というか……雰囲気にのまれつつ傍から見ていた者としては、なんか、こう……ポカンである。


いや、別にいいんだけどね? どっちみち、接近戦とか遠慮したい相手だったしね?


……さて。


「……じゃ、帰ろっか?」


グールを倒した向こうには、さらに下への階段が開いてたけど……そろそろ夜明けも近いぐらいの時間になるので、今日はもうここまで。


僕やフォルテはともかく、レーネとレガートは眠気も出てきてるようだし。

明日以降、準備整えてまた挑戦します。一同、撤収。





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