第40話 僕らの思惑
どうやらこのダンジョン『栄都の残骸』は、地上部分は直径1km程度の円の内部に収まる、そんなに広くない範囲に広がっているらしい。ダンジョンとしては、だけど。
ここがダンジョン化している事実は、スラムの住民には広く知られている……とも言えるし、そうでないとも言える、不思議な状態になっている。
どういう意味かというと、ここは確かに『ダンジョン』であるし、『黙示録』でそうだときちんと確認しているものの……そう信じている者は多くないらしいのだ。
というのも、この世界では、町の外とかに出れば魔物は普通に存在するものであり、戦って殺したり、逆に殺されたりということは割と日常的に起こる。
何なら、条件さえそろえば、町の中にだって出るのだ。
出てくる魔物がアンデッド系で、そう見るものではないとはいえ、魔物は魔物。
町の中で出ても、所詮はそこはスラム街だということもあり、『ダンジョンなんて御大層なものじゃなく、ただスラムの住民が死んでゾンビになっただけだろう』と見ている者がほとんどだということだ。
というか、ぶっちゃけビーチェ達も半分くらいそう思っていたらしい。
思っていたらしいが、適当な呼び名もないので、とりあえずそう呼んでいたそうだ。
なので、ここが正式なダンジョンであり、地下に階層が広がっていて、ボスもいる……と教えてやった時は、そりゃもう驚いていた。
ただの手ごろな狩場だと思っていた場所が、そんな本格的な危険地帯だったんだから……まあ、気持ちはわかる。
そして当然、なぜそんなことが分かったのかと聞かれたわけだけども……その辺の説明は、うちのガーゴイルに任せてごまかしてもらった。
フォルテ曰く、
・魔力・魔法に敏感な僕とフォルテが、ダンジョン特有の『境界線』を感知できた。
・同時に、地下により濃密な魔力を感知できた。地上がダンジョンであることから考えて、地下にさらなる階層があるのだと考えられる。
・スケルトンが例外なく剣などの装備を身に着けているため、死体からの変化とは考えにくい。
・スケルトン1体ずつの戦闘能力が高く動きも機敏。ボスによる能力補正を受けている特徴。
よくもまあ舌が回るもんだ……専門的な内容があるし、説得力も妙にあるけど。
さすがは、高名な魔法使いに作られたガーゴイルということか。
3つめの装備云々がよくわかんなかったので、後で聞くと……死体がスケルトンになる場合は、そのまま骨が魔力をまとって動き出すため、生前に持ってたりしない場合は、そのまま骨だけ、装備品とかは無しでさまよいだす。
しかし、ダンジョンは不思議システムで魔物が文字通り湧いて出る。そしてそういうプロセスでスケルトンが生まれた場合、剣や盾など、一定のレベルの武装も同時に生まれるそうだ。
聞けば、ビーチェ達が相手にしていたスケルトンたちは、皆同じような武装を持っていたらしい。
装備は剣で統一、見た目というかつくりも統一。まるで大量生産品だ……こりゃ間違いないな。
こうして、とりあえずフォルテの口先三寸でビーチェ達を納得させた後は、僕らもここの攻略に加わったわけだけど……
「しゃぁっ!!」
レーネの剣の一撃で、スケルトンが2体まとめて砕ける。
「――ふっ!!」
レガートが2体のスケルトンを、素早く2回剣を振るって、一撃一殺で切り捨てる。
「お、団体さんだぜ、右頼まあ」
「はいよー、レーネー」
「OK! フォルテは左をよろしく!」
と、左右から近寄ってきていたゾンビの集団×2を、レーネとフォルテ、そして僕で迎撃。
左のは、フォルテが口から神聖魔法の魔力弾を連射して一掃し、左は、新形態『ランチャーモード』に変形した僕を構えたレーネがハチの巣にした。
人の頭くらいの大きさの直方体の箱で、肩で抱える形で使う『ランチャーモード』は、弾丸代わりのこぶし大の石つぶてをミサイルばりに連射する。動力はレーネの風魔法だ。
弾はその辺で、廃屋の石壁でもかじれば即座に補充できるので、惜しむものでもない。
魔力弾を受けたゾンビは消滅し、ランチャーで掃射したものは肉片になって飛び散る。
僕らが担当した方はばっちいというか、目に優しくないな……。
まあでも、あれらからは何もとれる素材はないので、別にいいだろう。
放っておけば……ダンジョンに吸収される形で『消滅』するし。
ここで、麒麟おじいちゃん知識。
ダンジョン――正確には、この世界というダンジョンの中の、さらに区分けされたダンジョン――の中では、魔物も人も、死ぬと一定時間で消滅する。ダンジョンに『溶ける』とか『食われる』とかいう表現をするらしいけど、詳しい仕組みはわかっていない。
ダンジョンの中に、魔物の腐乱死体なんかが転がっていない理由はここにある。
僕の場合、魔物は殺した端から『収納』してたから、その辺は別に気にすることもなかったけど……確かに、血痕とかはいつの間にかなくなってたっけな。
素材なんかは、消滅する前にはぎ取って鞄か何かに収納し、『荷物』にしてしまえば、なぜか消滅しないのだ。そのへんの細かいルールはよくわかんないんだよね。
さて、ここまで僕らエルフ&無機物組が無双してるわけだけど……ビーチェ達は、僕らのあまりの無敵っぷりにぽかんとしていた。
いや、このくらいの敵なら、ものの数じゃないしね。
レガート曰く、本来ならスケルトン程度、男衆はさほど苦戦せずに倒せるはずだとのこと。
苦戦しているのは、見えづらい夜であることと、昼間の労働で疲れをためたままに戦っていること、そして……日々の食事や休養が十分でないことなどが理由だと思われるそうだ。
確かに、関係ないことはないだろう。コンディションを整えられないままに臨む戦いでは、自分本来の力を発揮することは難しい。
……だとしても、すぐに解決できるような問題でもないところが困りものなんだけどね。
レガートから話を聞いたビーチェも、苦笑して応えていた。
「どうしてもね……苦しい生活だから、そのあたりにしわ寄せが来ちゃって……どうにかしなきゃとは思ってるんだけど、そのために他で無理するわけにもいかないし」
「理想は、ここに来ないで表の稼ぎだけで生活できることですが……難しいわけですね」
「何もなければギリギリ何とかなるんだけど……この間みたいに、戦いや現場作業で怪我したりすると、予備の薬代もかかるし。一番安いものを闇市で買っても、高くて……」
「そーそー、そこ私気になってた! 何でアレが高いのよ、納得いかないんだけど!?」
と、突然話に割り込んでいくレーネ。
さっき、軽い切り傷を作った男衆にビーチェが『使う?』って薬を取り出したんだけど……それがちょっと、いつもレーネや皆が作ってるポーションとは、全然違うものだったのだ。
具体的に言うと……その時の鑑定結果がですね……
★品 名:粗悪な回復薬
レア度:1
説 明:薬草から製作された飲み薬。傷の治癒や疲労回復の効果があるが、不純物が多く効果は低い。素材からして粗悪なものを使っているため、味も悪い。
これだもの。
加えて見た目も悪い。エルフ達の作った薬が透き通っているのに対して、こっちは濁ってるし……心なしか色も悪い。青汁みたいだ。なんか、固形物っぽいのも入ってるし……。
当然味も悪く、エルフ達のものとどっこいか、それ以下ってレベル。
効果が伴わない分、こっちには救いがない。
ついでに言えば、エルフ達の薬は、珍しくもない材料で、余計な手間を加えず最小限の労力で作るから味も度外視になってああなっているので……本来的にはかなりの高品質なのだ。
調味料……と言っていいのかはわからないが、花の蜜や上等な薬草を使えば、それこそ美味しくて効果が高い薬なんていくらでも作れる。それがレーネ達、エルフだ。
そんなだから、レーネのみならず、他のエルフ達も、薬づくりには結構なこだわりがあったりする。そんな彼らが、あの粗悪ポーションを見た時の反応は……今のレーネみたいな感じ。
「アレを薬と認めるのは、私の薬師としてのプライドが許さない!」
あんなものは、レーネ達に言わせれば、『調合の『ち』の字もしらないトーシロが適当に薬草をすりつぶして水で薄めただけの色水』であり、薬とは呼べないらしい。
品質をきちんと吟味し、分量を量り、よどみのない薬に仕上げるという、彼女たちにとっては芸術とも呼べる部分をないがしろにしているとかで、憤慨していた。
気持ちはまあ……わからなくもないけども。
そしてその後、ほとばしる善意(と怒り)のままに、レーネは自前のポーションを取り出して男衆の負傷者に与え、さらにビーチェに、彼女が持ってきていた薬(粗悪)と同じ本数の瓶を渡していた。
当然ビーチェは、明らかに品質が高そうなそれをみてぎょっとして、
「えっ、ちょ……コレ、何かすごく高級そうなんだけど……いいの?」
「いいわよ! むしろこんなもん使うな! 私の姉でしょうが仮にも!」
言いながら、レーネのポーションと交換、というか強奪する形でビーチェから没収した粗悪薬を、封を開けてひっくり返してばしゃっと残らず捨てるレーネ。そこまで嫌か。
瓶は後で洗って再利用するということで、僕が収納した。
「こんなんじゃ薬効なんて期待できても、調合後せいぜい2、3日よ。それ以降は劣化が始まって、下手すりゃ悪化するわ。というか、私の薬だってその辺で手に入る普通の薬草で作ったものなんだから、高級品なんかじゃ全然ないわよ」
「え、嘘でしょ? だってこんな……透き通って……」
「ロニッシュ家がご健在だったころは、我々も何度も回復薬の世話になっていますが……ここまで透き通っているものはそうそう見ません。特注品はともかく、量産品は多少なり濁っているものでは?」
「製法の問題だ。我々が持っている薬は、エルフ族の秘伝の製法によって調合している。ゆえに、そこらの薬草でも、人族が作るより1つ2つ品質が上のものができる。……ちなみに言えば、私がロニッシュ家に仕えていたころ、たまに作っていたぞ? 使ったことがある者もいるはずだ」
「そ、そうだったのですか!?」
レガートにそう教えられ、仰天しているバート以下の男衆。
「あ、ちなみにビーチェにあげた奴は私特性で、味もこだわってみました。旅の間は時間はあったからねー、キイチゴ味とかライム味とか、色々つくってあるから。味は保証する」
「そ、そうなんだ……すっご……」
「え、エルフ秘伝の薬……どうりで透き通って、美しい……」
「売ればいくらになるのか……い、いや、もちろんそんなつもりはありませんが」
「レーネ様が手ずから作った薬……はぁはぁ」
まるで高級な美術品を見るように、ビーチェの手の中の薬瓶を見る兵士たち。
最後の奴、後で体育館裏に来い。
あとちなみに、若い衆のレーネに対する呼び名は『レーネ様』になった。
ビーチェの妹――つまりは、故・ロニッシュ伯の実子だからだそうだ。
そんなこんなで治療も終わり、体制も整ったことだが……さて、これからどうするか。
ビーチェたち曰く、僕らエルフ組参戦後の怒涛の快進撃のおかげで、目標はすでに達成しているらしい。スケルトンが使ってた剣はけっこうな数が手に入った。売れば、当面の生活費と、もしもの時の貯蓄にはなりそうだとのこと。
が、これで終わっては僕らの思惑は半分だ。
僕らの興味は……このダンジョン自体にもある。
簡単に言えば、挑戦してみたい、ってわけだ。
ダンジョン内部の宝や、『黙示録』のクエストの達成報酬、そして何より……ネタバレ内容である『ロニッシュ家の隠し財宝』……これらが気になる。
特に最後の。何でこのダンジョンにあるのかは知らないが……もしあるなら、見てみたい。
その後は、欲しいものがあればビーチェに交渉してみて……残りはビーチェにあげてもいいんじゃないかなと思う。もともと、ビーチェのご実家のものみたいだし。
取り分というか、分け前については……レーネも腹違いの妹だから、ってことでひとつ。
あ、ちなみにこの内容はレーネとフォルテ、それにレガートには当然話してあるんだけど……それと一緒に、『隠れ里』の宝だった『黙示録』を僕が持ってることも話したので、驚いてた。
当然、盗賊からはぎとったもので、僕は盗んでないって、きちんと話したけどね。
レガートは、ちょっと色々思うところありそうな微妙な顔をしてたけど……レーネは別にエルフ達に何か義理立てするような感情もなく、『もうけた』的な顔をしていた。
僕が『ミューズ』から聞いた、この『黙示録』を使うことによる色んな特典を説明した後は、特にうれしそうだったし、今後にむしろやる気が出るそうだ。
そんなわけなので、僕らはできれば、このあと引き続きダンジョンに挑戦したいのである。どこかにある、地下への入り口を探して。
もともと、王都まで折角来たのに無駄足は嫌だったし……隠し財宝の件を教えてからは、レガートが特にやる気だ。
他にもいろいろと得るものもありそうだし、損はあるまい。
もちろん、危険も大きいだろうし、注意は必要だろうけどね。
まあ、一応ビーチェ達には話すとしても……無理に彼女たちについてきてもらうこともない。最悪、僕らだけで行けばいいだけだ。
ビーチェと姉妹の仲にあるレーネが行くってことで反対はされるだろうけどね。そのへんばかりは、要交渉かな。気楽に行こ。




