第4話 おじいちゃんの知恵袋
見た目一発、大ボス級の貫禄を漂わせているモンスターと、ばったり遭遇。
その瞬間には大いに取り乱し、全然冷静じゃない思考の中で死を悟ったもんだけども……
『全く、これだから最近の若いもんは……きちんと落ち着いて人の話を聞くもんじゃ』
『ははは……す、すいません』
意外と穏やかな方でした。
圧倒的な能力を誇っているであろう、謎のモンスターを前にして、盛大にテンパってしまっていた僕を……しばしの間、きょとんとして見ていた後、『やれやれしょーがねーなこいつは』って感じで、何もしないから落ち着くように言ってなだめてくれたのである。
落ち着けなかった一番の要因はあんただとか、そもそもあんた人だろじゃないとか、言いたいことは多々あるものの……まあ、それを言ってもいいことないだろう。
その後間もなくして、ようやく僕は落ち着きを取り戻し……まあ、現在に至る感じだ。
どうやらこのおじいちゃん?は、この部屋を住処にしてるらしいんだけども……やることなくて退屈してたところに僕がいきなり現れたもんで、驚きつつも面白がっているようだ。
折角だから上がってけ、って言ってもらえたので、お呼ばれすることにした。
その際……こんなことを言われた。
『む? 何じゃお主……生まれたてなのか。レベルがまだ1とは』
『あ、はい……ん? え? 何でわかるんですか?』
『そりゃ、お主のステータスを見たからじゃよ。……そうか、生まれたてでは、知らんのも無理はない……というか、知らんで当然じゃったな』
聞けば、どうやらある程度以上に成長すると……他者の強さ、というかステータスを見たり、感じ取ることができるようになるらしい。
種族にもよっては、数値化された部分まで正確に知覚することもできるそうだ。
なんか、よくある『鑑定』とか、そういう感じのスキルみたいだな。
この世界では、ただの技能というか技術というか、そういうカテゴリーみたいだけど。
それと、今こうしておじいちゃんと会話しているのも……『念話』という技能によるものなんだそうだ。
……そうなると、こないだステータスで見た『能力』枠に入るスキルってのは……どういう位置づけになるんだろうな?
いわゆる、スキルとか、特殊能力みたいなもんだと受け止めてたんだけど……そういうものとして存在するかもしれない、と思ってた『鑑定』が、技術として存在すると今、聞いてしまった。
単に『鑑定』系の能力がそうであるだけなのか、それとも……僕が認識しているようなスキル的な能力とは、考え方・概念として違うようなものなのか……
……と、思案していた僕の胸中を読み取ったのか、
『ふむ……ならばお主、ちとこの爺に付き合ってみるか?』
『はい? えーと……というと?』
『うむ。さっきも言ったが、ぶっちゃけわし、今暇での。何かちょうどいい暇つぶしがないかと思うとったところに、お主が来たんじゃ。で、お主に話し相手にでもなってもらおうかと思っとったんじゃが……お主、生まれたてじゃから、一般常識とか何も知らんじゃろ?』
そりゃまあ……だてに生後3日くらいじゃありませんからね。
『ならば……興味があるなら、わしがお主に色々教えてやってもよいぞ? この世界で生きていくための一般常識とか、応用知識とか……色々との』
え、マジで? 超助かる!
ぜひ、ぜひお願いします!
やった! ゲームっぽいけどリアルなこの世界で、チュートリアルを受けられるとは思わなかった! どの程度教えてもらえるのかはわかんないけど……受けないよりは受けた方がいい!
前世でおじいちゃん子だった僕は知っている。おじいちゃんの知恵袋を舐めちゃいけない。
長く生きてるってことは、当然多くの知識を蓄えているっていうことであると同時に……その知識の使い方、活かし方を心得ているということにもつながる。
場合によっては、ある意味普通に勉強するよりも理想的な学び方ができたりもするんだ。
『ふむ、ならばよかろう。しかし……ほとんど話を聞くだけじゃから長いぞ? それに、お主はミミックじゃから、種族的に大きく移動するようなこともなく、学んでも活用できる知識は限られてくるじゃろうが……それでもよいのか!』
『もちろんです! お願いします!』
『うむ……その意気やよし! あくまで暇つぶしと思うたが、見所もありそうじゃし……気が変わった。きっちりがっちり知識というものを叩き込んでしんぜよう。そこに座れい!』
『はい! お願いします先生!』
座るっつっても足ないけど……気持ち、座っているつもりで……よっこいしょ。
こうして、馬っぽいおじいちゃんの異世界チュートリアル的学習会が始まった。
……あ、おじいちゃんの種族とか名前、まだ聞いてないな。
ま、いいや、後で聞こ。
☆☆☆
さて……それから数日。
おじいちゃんの知恵袋教室は、不眠不休で何日も続いた。
……いや、どうもおじいちゃんも、睡眠とか食事があんまし必要ない種族らしいんだよね。
僕もミミックだから、食事も睡眠取らなくて大丈夫。だから、不眠不休で続いた。
僕の学習意欲と、おじいちゃんの指導意欲、どっちも尽きなかったから。
それによって得られた情報は、本当に膨大な量であり……なおかつ、無駄なところなどほとんどない感じで、僕はそれらを余すことなく『知識』という名の武器にすることができた。
何を学んだか、それを全て一気にこの場で語るのは不可能なので……近々で役に立ちそうな部分だけ、おさらいがてら説明してみようか。
まずこの世界は……思った通り異世界だったわけだけど、僕が想像していたのとはだいぶ違う、かなり独特?な世界だった。
何せ……ダンジョンそのものが世界だというのだ。
この部屋みたいな、石壁石床の空間が延々と続き、それ以外は存在しない世界……っていうわけじゃなさそうだけど、『世界=ダンジョン』という認識らしい。
世界の中で、ダンジョンでない部分というのは存在しない。ダンジョンの中にしか世界はなく、言い換えればダンジョンという概念もとに世界が構築され……だめだ、うまく説明できん。
ただ、ダンジョンっぽいところとそうでないところもあるらしい。
例えば、ダンジョン内――屋内であるにもかかわらず、植物が生えそろっていて、清水が川のように流れ、太陽光みたいなのが降り注いだりするような場所もあるんだとか。
ちゃんと昼も夜もあって、風が起こったり天気が変わったりもするんだとか。
で、そういう場所には村や町ができて、人が住み着いてたりするんだとか。
……ホントにそれ、ダンジョンの中なのか?
植物や川はまだわかるけど……太陽光とか、天気とか、昼夜ってさすがに……いや、ファンタジーなら、そのへんは不思議現象でどうとでもなる……のか?
まあいい。とにかく、この世界はダンジョンだ、ということだ。
そしてこのダンジョンでは、エリアやら階層ごとに魔物が多数生息している。どこにでも生息する魔物もいれば、特定のエリアにしか出ないような魔物もある。
そしてエリアというのは、場所によって環境が大きく変わる。
さっき言ったような過ごしやすい環境であることもあれば、移動・通過することすら困難であるような過酷な環境であることもあるとのこと。
この世界で生きていくということは、上手いこと魔物やら何やらを退けながら、ほとんど自給自足に近いやり方で、質素に無難に生きていく……というやり方が基本だ。
けど、大きな集落が形成されている場所においては、現代社会で言うところの市長とか町長、都知事みたいなのがいたりするらしい。相応の武力や権力も同時に持っているそうだ。
それに伴って、豊かな暮らしをしている場合もあるんだとか。
おじいちゃんも見たことはないらしいけど、世界のどこかには、地球の国くらいの規模の集落を形成している場所もあるとかないとか。その辺はさすがに知らないそうなので、詳しいことは聞けなかった。
それに、生活自体の豊かさとはまた別に……ちょっと特別な生活の仕方?もあるらしい。
これについては……また今度。長いし、ややこしいから。
あとはもう1つ……ステータスについて話しておこうか。
ステータスを開くと、名前や種族と一緒に、レベル、攻撃力、防御力、敏捷性、魔法力が数値として現れる。そして同時に、各人が持っている『能力』も表示される。
このうち、数字で見える能力値については……説明は必要ないだろう。意味そのまんまだし。
しいて言うなら……魔法力くらいかな、説明が必要そうなのは。これは、魔法を使った際の攻撃力とか、魔法に対する抵抗力とか、そのへんの魔法関連の能力の総合値だそうだ。
これらのレベルを含む数値の最大値は、種族やら何やらによって違うらしい。
そして最後に、『能力について』
これは、人間だろうと魔物だろうと、ほぼすべての存在が1つか2つは持っているらしい。
才能のある人だと、3つとか4つスキルを持っていたりもするらしい。
ただし、スキルには4つ種類があり、それごとに希少さが違う。
まず、『通常能力』。
世の中のほとんどの人ないし魔物その他が持っているのがこの分類の能力だ。特に珍しくもなく、際立って強力だったりすることもない。
例としては、『一時的な身体能力の強化』とか、『火属性魔法強化』とか、『自然治癒力の強化』とか……そんな感じ。役に立つっちゃ立つけど、地味、とでも言えばいいのか。
次に、『希少能力』。
通常よりも強力で、その分使える人が少ない能力だ。各分野で天才と呼ばれるようなごく一握りが持っていたりする。
次、『固有能力』。
これは、希少とかそれ以前に……一部の魔物やら種族が、文字通り固有の特性として持っていることが多い能力だ。
僕の『蓄財』もその1つだ。やっぱりコレ、ミミックってことで設定されてる能力だったんだな……ってかつまりコレ、宝自力で集めろってことか?
『固有能力』は完全に千差万別と言っていいものらしいので、例を挙げづらい。その種族にあった能力で、なおかつ技術・技能にカテゴライズされないものである場合が多い。
そして最後に……『特殊能力』。
これは、『固有能力』以上に独特なもので……何か特定の条件を満たしたりすると、取得することができるらしい。もっとも、その条件やら何やらについてわかっていることは皆無に等しい上に、その条件が途中で変わっちゃったりする場合もあるそうだ。
しかし、一番希少な能力だけあり、非常に強力な効果を持っている場合が多い。
結論言うと……ほぼ情報なし。とにかく特別な能力だ……ってことだ。
ちょっと興味あるな……いつか、僕もそんな能力を手にできる日が……来るのか、来ないのか……。