表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/118

第33話 孤児の懇願



「で、どうするよ?」


「どうするったって……ねえ?」


「…………」


フォルテと僕の問いに、レガートから返事……というか、答えは帰ってこない。


さっき聞いた話がよほどショックだったんだろう。うつむいたままだ。

レーネや他のエルフたちは皆、何もできずに、おろおろしてる感じ。


声をかけることすらはばかられる感じで落ち込んでいるレガート。こんな様子の彼女を見るのは……全員にとって初めてらしいのだ。


今現在僕らは、あのおじさんから言われた通り、町で宿はとらず、郊外まで出てきて、まんま野宿と言える形で寝泊まりの準備をしている。


……今日こそは、人間が普通に使う宿に泊まれると思ってたんだけどな。残念。

何気に僕、転生してからまともな宿や寝床に寝たことないからね。

まあ、魔物だから当然だけど。


それはそれとして、今僕らは、これからの予定というものを完全に見失っているわけなんだけど……さて、あらためてこれからどうしたもんかね。悩む。みんなで悩む。


そんな中で、一番に口を開いたのは……レガートだった。


「……正直に言って、完全にあてが外れた形だ。まさか、王都が……いや、この国がこんなことになっていようとは……」


僕たちは当初、ここ『エイルヴェル』で、今後の旅路に必要なものを買い揃えたり、色々と準備をする予定だったのだ。


4人で旅をする予定だった以前とは違い、大人数での旅にはいろいろと要り用になるもんだし。旅の途中の現地調達じゃ、いくらなんでも限界があるからね。


その間に、ここに定住したいと言い出して抜けるものがいれば、引留めずに送り出すつもりでいた。


もっとも今ココ、それどころじゃない治安状態になってるってことが、今さっき明らかになったわけなんだけども。


「買い物とかするつもりだったんだけどね……こんなんじゃ、まともに開いてる、品物が揃ってる店があるかどうかも疑わしいや」


「あってもぼったくられそうだし、そもそもろくなもんはそろってないだろうな。戦争ともなれば物資、特に薬や武器なんてもんは、真っ先に国が買い占めるはずだ」


「あー……なるほど、確かに。そうなると、国が欲しがらないような品質、あるいは戦争に全く関係ないようなものしか残らないわけか……嗜好品とか?」


「いや、精神的にきつい職場だからな。酒しかり、タバコしかり、国によっては『薬』しかり……軍って意外と嗜好品充実させてるぜ?」


「つまり、ないってことね」


嗜好品とは言えないようなやばいものがまじってた気がしたけど……まあいい。


さっきも思ったけど、日本でも戦時中は、金物に食糧に、全部軍が持ってったそうだ。戦争してるんなら、この国も高確率でそうだろう。


けど、それなら逆に……その軍の方になれば、品質のいい薬や武器は、のどから手が出るほど欲しいもののはずだ。

だったら……そっちに売れば、いい値がつくか?


僕らは買い物の他に、旅の途中で作った薬や武器を売ることも考えていた。


何せ、エルフたちはかなりの人数が調薬技能を持っているのに加えて、素材さえあれば『財宝創造』で僕がいくらでも武器を作れる。

量産の、十人並みな性能のものがせいぜいだけど、戦場に置いて武器はそもそも消耗品。ある程度の品質があれば、そのへんは構わない筈。


けど、なんかそういうの、死の商人みたいでアレだな……。

戦争している国に、外部から武器・物資を供給するっていうのが……いや、死の商人は戦ってる両方に供給して戦争を泥沼化させるんだっけ? 細かいとこ忘れた。


「いやあ、でも……なんか、人間の戦争のために、私たちが作った薬を売るのとか、あんましそのー……心情的にアレなんだけど……」


って、生産者レーネも言ってるしなあ……どうしたもんか。


そう考えていた時だった。

ふと、視界の端に……こっちに走って近づいてくる影が映った。


すぐに他の皆もそれに気づき、視線をやる。


そこにいたのは、というか走ってきたのは……まだ小学生くらいの、子供だった。

人数は2人。どちらも女の子で……お世辞にも上等とは言えない身なりをしている。


ろくに洗濯もしていなそうな、薄汚れたぼろぼろの服。体も似たようなもんだな。

見た目一発、孤児――ストリートチルドレン的な感じの者達だとわかる。


スリや物取りの類か、と思わず身構える。さっきのおじさんも言ってたけど、こういう町って、そういうのが頻発してそうだし。子供でも油断はできないだろう。

生きるためなら何でもする的な、たくましい、しかし他人にしてみれば迷惑な奴が多そうだ。


その子供たちは、僕らに気づかれた、ということに気づいても構わず走ってきたことから。隙を見て云々という狙いじゃないらしいけど……とか考える。


そしてその2人は、なぜかレーネの前まで走っていって止まったかと思うと。


「あ、あのっ! く、薬を持っていらっちゃるんですか!?」


(((あ、噛んだ)))


なんか、全員の心がきれいに一致した気がした。


それに特に気づいた様子はない……というか、自分が噛んだことにすら気づいてなさそうなその子は、まっすぐな、どこか必死そうな視線をレーネに向けたままだ。


もう1人の子は……なんか、残念そうな視線を、少しの間片割れの子に向けていた。

……こっちの子は、うん、気づいたらしいな。


しかしすぐに、同じように期待のこもった視線をレーネに向ける。


「ええと……お嬢ちゃん達、何か用?」


「く、薬を、その……持っているなら、分けてもらえませんか? けが人がいるんです!」


聞いてみると、どうも……おなじ孤児の仲間だか友達だかが、ケガをしているらしい。


その子の治療のために、薬がほしい、ってことか。


『お願いします!』と、腰を90度に折って頼んでくる2人の子供。

それを受けたレーネは、僕らの方に『どうしよう?』といった感じの視線を向けてくる。


うん、どうしようね……。


いい人……具体的に言うと、熱血系主人公的な人なら、困っているなら迷いなく助けるんだろうし、この場合は薬を分けてあげるんだろうけど……実際にこういう場面に出くわしてみると、正直、ちと対応にこまるものがある。


ここにいる全員、主人公属性とはちと違うもんね……。

道徳的にはあげるのが正しい、とわかっていても、打算的、懐疑的な考え方が邪魔をする。


『どうする? あげる?』


『……おすすめはできねえ選択肢だな。合理性と信憑性にかける』


と、念話にて、レーネとフォルテのやりとり。

はて、フォルテさん。そのこころは?


『合理性は、単純に対価だ。俺らが持ってるポーションは、もともと俺らが自分で使うか、この町で売って路銀の足しにしようと思ってたもんだ。ただでやるのはどうかと思う。このガキ……見たところ、言い方は悪いが浮浪児の類だろう。正当な対価を払えるとは到底思えん』


『そりゃまあ……ね。ストリートチルドレンがまとまったお金を持ってたりはしないよね』


『それにだ。こーいうのは隙を見せると、いくらでも群がってくる奴がいる。聞いたことねーか? 『助けるなら全員助けろ、できないなら全員見捨てろ』って言葉』


ああ……途上国や紛争地帯の飢餓の村とか、そういう状況多いって聞くね、うん。


例えば、村人全員が飢えている村で、誰かに物乞いをされて、それに応じて食料をわずかに渡したりすると……それを奪い合って争いが起こる。

最悪、『もっとよこせ』『あいつにやったんだから俺にもくれ』『くれないなら奪ってでも』……とかこんな感じで、かわいそうな民はいともたやすく暴徒に早変わりする。


こうならないためには、全員に分け与える余裕があるわけでもないなら……全員等しく見捨てた方がいい、という話だ。善意が常に、いい結果、望んだ結果になるわけじゃない。


そういうことが、ここで起こるかもしれない……っていう懸念ね。もっともだ。


『で、もう1つの方の理由は? 信憑性、とか言ったっけ?』


『そんな、ケガした友達が本当にいるのかって話だ。お涙頂戴で薬を分けてもらってそれを売り払っちまえば、金に変わる。確実に高く売れるからな、少し頭の回る奴ならそうするだろう』


『おう、さすがフォルテ。汚い大人の考え方』


『黙れゴミ箱』


いいながら、ただの箱に擬態している僕の上にどかっと腰かけてくるフォルテ。

げふっ……ちょ、重い重い! お前全身銀で見た目より重量あるんだからやめい!


ちなみに今、僕は今言った通り、ただの箱――ただの旅の荷物の1つにしか見えないように擬態している。

何かあった時は、わかりやすい戦力であるエルフの戦士たちや、ガーゴイルのフォルテに目を向けさせて、僕は毎度おなじみ奇襲……っていうコンボを可能にするための備えだ。

スキルの行使やアイテムの出し入れだったら、擬態したままでも可能だしね。


しかし、そういうさりげない感じでのフォルテの僕へのいやがらせは、孤児×2にとっては別な意味合いの行動に見えたらしい。


旅の荷物その他……おそらくは薬もそこに入っているであろう、大きめの箱。

そこに、見るからにごつい――こないだ僕の整形手術で幾分スタイリッシュになったとはいえ――フォルテが座った光景は、『この中のものはわたさない』という意思表示と、盗みを警戒した威圧行動に見えてしまったようなのだ。


少したじろぐような様子を見せた後、口を開く孤児たち。


「あ、あの……お代は必ず払います! だから、その……」


「? お金、あるの?」


「え、えっと……あ、あとで……いつか……」


あ、だめだなコレは。

払う気ない……かどうかは分かんないけど、少なくとも金はない。あてもない。


すると、劣勢を悟ったもう1人の方の子が、ここにきて初めて口を開いた。


「……お金は、ないけど……」


言いながら、自分の服のポケットをごそごそとあさり、中に入っていたらしいものを無造作につかみだして、こっちに突き出して見せてきた。


「……交換、してほしい」


レーネの前に突き出された、その手に乗ってるのは……まあ、なんというか……子供が『宝物』と呼んで、空き箱か何かにしまっておくようなものが多数。だった。

ぶっちゃけて言うと、見た感じ……ガラクタの類である。


あー、わかるわかる。思い出すわ。

お菓子のおまけのシールとか、河原で拾ったきれいな石とか、不思議な形の石とか……そういうの集めたりするよね、子供って。


うん、まあ、ほほえましくはあるけど……そういった宝物が本当に価値があるケースは、残念なことにほとんどないんだけども……とか思っていた、その時。


「……っ!?」


横からそれをのぞき込んでいたレガートが、何かに気づいたように目を見開いた。


そして……女の子が手に持っていたもののうちの1つ……何かの金属のパーツみたいに見えるそれを、つまむようにして手に取ると、


「……君、これを……どこで?」


「……? ビーチェお姉ちゃんにもらった。それと薬、交換してくれるの?」


それを聞いて、レガートは息をのみ、さらに驚いたような様子になる。

そして、質問に答えないまま、しばし考えると……


『……皆、話がある』


念話で、僕らに語り掛けてきた。

そして、あることを僕らに提案、というか、頼んできた。


僕らは、ちょっと驚きつつも……それを受け入れた。


そしてレガートは、答えを待っている少女たちに、


「……条件がある。もしそれを聞いてくれれば……薬をわけてあげよう」


「本当ですかっ!?」


「……条件、って?」


「簡単なことだ……君にこれをくれた、その『ビーチェお姉ちゃん』とやらに合わせてほしい。その子から、少し、話を聞かせてほしいんだ」





なんかこっちの話はさくさく書ける。字数が少ないのもあるかもですけど……

けど、移転した『魔拳』の方がどうもスランプ……がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ