閑話2 毎度ご利用ありがとうございます!
「どーもー! お疲れ様でーっす! いやー、このたびはご利用ありがとうございますー! さっそくなんかごひいきにしていただきまして、にひひひ」
「……あのさ、仮にも精霊的な存在なんだから、もうちょっと神秘的な雰囲気醸し出す努力とかしたらどうなのかなー、って正直思うんだけど」
「いやー、500年くらい前だったらそれも考えたんですけどねー。もう待ちぼうけも1000年超えちゃうとあんまりそのへん気にしなくなるというか……あんまり肩ひじ張っててもアレだなって思って。ほら、長い付き合いになるんですし、極力打ち解けた感じの方がいいでしょ?」
とまあ……今現在、こないだ知り合ったばかりの本の精霊こと、ミューズさんと語らってます。
旅の間の夜の見張り、寝なくても大丈夫な僕らが担当してたんだけど……なんかエルフさんたちが気を回してくれて『たまには休んでください』って、代わってくれたんだよね。
まあ、元人間としては、大丈夫でもゆっくりな睡眠に癒される部分はあるわけなので、たまにはいいか、ってことでお言葉に甘えさせてもらったんだけども……そしたら、夢枕に立たれたんだよ。この人(?)に。
「ていうか、折角エルフの皆さんが寝る機会くれたのに、正直それを阻害しないでもらいたいところなんだけど……」
寝ないでも平気な箱転生後だったからよかったものの……人間だったらキレてる自信がある。
「そんなこと言ったって、シャープさんあれから一睡もしてないじゃないですか。そりゃ、うまいこと眠ったタイミング見計らって夢枕に立つしかどーしようもないですよ。起きてる時に強制的に意識こっちに持ってこれるの、チュートリアルの時かランクアップの時だけなんですから」
と、ちょっとぶーたれるような感じで言うミューズ。
ああ確かに、言われてみれば……この『銅の黙示録』の所有者になってから、今の今まで僕、何だかんだで一睡もしてないわ。
そしてどうやらミューズは、例外を除けば夢枕に立つくらいしかこっちに対してコンタクトを取ってくる手段がないと。
あれ、でも念じるだけで話せる的なこと言ってなかったっけ?
「それはシャープさんの方からだけですよ。私は基本的に、システムメッセージとかチュートリアルくらいしか、能動的に動くことはできないんです。まあ……『銀』とか『金』とかになれば、まだ多種融通きいてくるんですけど……」
聞けば、あくまで『黙示録』はアイテムに過ぎず、それをどう使うかは持っている人次第。それゆえ、精霊とはいえアイテムの方からああしろこうしろ、って指図したりすることはできないようになっているんだとか。
親切……なのかな? 過剰に干渉しない、っていう、神様からの。
「まあ、それはこの際置いといて……改めてこのたびはお疲れ様ですシャープさん。いやあ、気合入ってましたねー初日から。クエストクリアしまくりじゃないですか!」
と、ミューズ。
ああ、うん、まあ……そうね。オーク軍団やら黒幕の悪魔やらと戦って、色々とはっちゃけた自覚はあるからね。
中身も確認したけど、ガンガン『CLEAR』の文字が出てきてたし。
で、ホントに『報酬』出てくるんだもんなー……びっくりしたわ。
何もないところから、こう……パッとアイテムとかお金が出てきて。
まさに神の奇跡、って感じなのかもだけど……あまりにのゲーム的な演出(?)だったもんだから、逆に戸惑った。
正直、VRゲームとかが実用化されてたらこんな感じなのかな、とか思ったし。
「この調子でじゃんじゃんお願いしますね! 私からも報酬サービスさせてもらいますんで!」
「いやそんな営業努力みたいなこと……ていうか、え? ミューズって、『試練』の報酬とかそっちでいじれんの?」
「多少ですけどね。報酬の豪華さの総合計とかに差し支えなければ」
聞けば、できるクエストとできないクエストがあるらしいけど、それによってはある程度報酬の内容を融通聞かせたり、ボーナス的に追加したりすることもできるらしい。
クエストをこなすたびに、なんかこう……不可視のポイントみたいなのが『黙示録』自体にたまっていっているらしく、それを使用して色々できることがあるらしい。今言ったクエストの報酬の変更・調整もその1つだそう。
他にも、ポイントの獲得総量によってできるようになることもあるんだとか。
……ホントにポイントカードか会員証みたいな感じだな、神のアイテム。
まあ、逆にどう便利なのかわかりやすいからいいかもしれないけど。
「あーそうだシャープさん、もしよかったらなんですけど……今後行くエリアによっては、ボスとかと戦ってみるのもいいかもしれないですよ? ポイント高いですし」
「え、ボス? ボスって何?」
また出て来たよ? ゲーム的な用語が。
「ほら、外の世界って、世界そのものがダンジョンじゃないですか。だから、洞窟とか遺跡とかの、いかにもな感じのダンジョンじゃなくても……エリアごとに、そこを統べる『ボス』がいたりするんですよ」
今僕がいる『草原のエリア(仮称)』や、こないだまでいた『エルフの森のエリア』みたいに、この世界は『エリア』によって区分されている。
そのエリアごとに、『ボス』が存在するというのだ。
ただし、必ずいるわけではなく……いないエリアもあるみたいだ。
こないだまで僕等がいた、あの森もボスがいないエリアの1つらしい。
けど大体、ボスがいるかいないかの比率は半々くらいらしいので、やけに魔物が多かったり、活性化してるようなエリアとかに言ったら、探してみるといいそうだ。
というか、大概は『天啓試練』として『黙示録』に載るそうなので、疑わしかったら開いてみればほぼ一発でわかるそうだけど。やっぱやばいなこのネタバレブック。
「『ボス』を倒すと、『クエスト』クリアの時と同じように報酬受け取れる場合が多いですからねー……っていうか、そもそも『黙示録』持ってれば、『ボス』討伐そのものがクエストの1つになってる場合が大概ですから、実質二重に報酬がもらえちゃうって寸法で。ああ、あとは変わり種で……倒したら自分がそのエリアのボスになれる、とかもあったりしますね」
「え、何それ!? 自分がボスって……討伐される側に回るってこと!?」
「あーいや、そういうケースもなくはないんですけど……なんていうんでしょうね? 行ってみれば……陣取り合戦、みたいな? 縄張りとか、シマとか、シノギとか……ボスになることによって受けられる恩恵とかもあるんですよ。例えば森だったら、木の実とか山菜収穫できたりとか」
「……ファンタジーなのか生活感あるのかわかんなくなってくるな」
「そんなもんですよ、世の中なんて」
複雑だな、ダンジョン異世界。
なんかこう……RPGやら育成やら戦略シミュレーションやら、いろんな要素が入り混じってて……知れば知るほどゲームちっくな世界構造が明るみに出ている気がする。
「まあそれはそうと、無事にエリア移動も済んだみたいですし……これからも期待してますよ、シャープさん。じゃんじゃんクエストクリアして、強くなっちゃってくださいね!」
というミューズの言葉と同時に、視界がかすんでいく。
あ、コレ見覚えある。そろそろミューズのこの世界からお別れすることになる前兆だ。
ミューズもそれに気づいたのか、『あー、もうか』って顔してる。
「今日はここまでですねー、じゃあシャープさん、引き続き頑張ってください! あ、それと……今回の『豚鬼王』と『悪魔』のポイントが結構大きかったんで、私からもちょっとだけサービスさせてもらいますね。うまく使ってください」
「え? あ、ああ、ありがと。タダならもらっとくよ」
「ははは……どっちかっていうと前払いでもらってる感じですけどね。というわけで、どうぞご遠慮なく。そして、ご武運を! ……あ、それと、寂しいんでたまには声かけてくださ――」
『条件を満たしたため、シャープは新たな能力を獲得しました』
『特殊能力『悪魔のびっくり箱』より、能力『箱庭』が派生した!』
最後まで言い切る前に、ホワイトアウトしていく景色の中に、ミューズはその声もろとも消えていき……同時に、新たなスキル獲得を知らせるアナウンスが聞こえて……
……気が付くと、僕は夜明けの光を浴びながら、寝床で目が覚めたところだった。
この前みたいに、精神の世界に入って出てくるまでほんの一瞬、ってわけじゃないみたいだな。きちんとぐっすり、朝まで眠ってから目を覚ましたらしい。
しかし、やれやれ……会うたびにいちいち濃い印象を残してくれる精霊だな。
まあ、その分?恩恵もけっこうなもんだから、悪い気はしないけど。
とりあえず、新しく獲得した『箱庭』なる能力の確認と、このエリアに入ってから新しく増えたであろうクエスト何かの確認もしつつ、出発の時間まで休んでますかね。




