閑話1 劇的! シャープ・クリニック
ある日のことだった。
魔物の襲撃を警戒しながら、草原を歩いて進んでいた僕らは、見晴らしのいい小高い丘の上で、昼食もかねて休憩を取っていた。
森と違って、このエリアは視界を遮るものがほとんどない。
なので、周囲の警戒も楽でいい。今のところ、魔物が来てもすぐに察知して対処できてるし。
背の高い草が生えてるような地帯でもない限りは、割と楽に進めそうだ。
なんてことを考えつつ、ゆっくり休んでいた僕に……こいつは、声をかけて来た。
「なあシャープ、ちっといいか?」
「うん? どしたのフォルテ?」
ちょっと面かしてくれや、的な感じで呼び出され……なぜか、他の人らに聞こえないようにちょっと離れたところに来た。
んで、話を聞いてみることに。
「……笑わねーで聞いてくれるか?」
「無理」
「即答かおい!?」
ホントにこいつはツッコミが早いな。
気配も前フリなしのボケにもきっちり反応してくる。無機物の肉体の中に漫才師の魂でも入ってるんじゃなかろか、と時々思うくらいだ。
「おま……せめてそこは『努力するよ』くらいのこと言うもんじゃねーのかよ!?」
「いや、だってその前フリがすでに面白い」
「何でだ!?」
「だってさあ、そういう前置きで始まる話って、すっごい重い話かすっごい面白い話のどっちかじゃん(偏見)。でもお前から重い話が出てくるイメージないじゃん。ってことは面白い話の方じゃん。面白い顔のお前が面白い話するってそれ笑うなって無理じゃん」
「じゃんじゃんうるせえ! つかひどい偏見だなおいそれ……そしてお前俺に対していったいどういうイメージ持ってんだコラ! あと何で顔ディスった!? 今顔関係ないどころか話題にも上ってきてねーだろ!」
ホントにこいつのツッコミのキレは何なんだ。
叩けば響く的な感じでどんどんボケ倒したくなる……あ、やばい。ツッコミに感心してて話が頭に入ってこなかった。集中集中。
「それはさておき、話って何? 笑わないように善処するから言ってみ?」
「この状況で言うのか……まあいいか。ちっとな、相談があってよ」
「ふーん、何?」
「……その、お前が今言ってた……顔のことなんだけどな」
「爆笑していい?」
「殺すぞ」
んで、聞いてみると……率直に、この不細工な顔をどうにかしてほしい、とのこと。
本人(本像?)はあくまで不細工の部分は頑として認めようとはしなかったけど、正直言って今の顔には色々と思うところがあるらしい。
具体的に言うと、オークみたいな豚鼻のケダモノをベースに、サーベルタイガーみたいな牙を上下から生やし――長すぎ。口閉じるとはみ出す。口の中に納まらない――そこにやたら長くて謎に曲がりくねってる角までつけて、さらに目つきは凶悪に鋭い上に黒目なし。
後、顎のあたりに謎のとげみたいな突起物がいくつもあるという……とりあえず魔よけには効果ありそうかな、って感じの顔だ。
何というか、ちょっと過剰というか、頭悪いくらいに凶悪な外見である。とりあえず怖がられる要素盛れるだけ盛ってみました、みたいな。
見てる分には面白いんだけど、1日も見てれば飽きる。
というか、しらける。言うなればそう……出オチ顔だな。
「てめ、この野郎……言いたい放題言いやがって……」
「それで? その顔を……何て言えばいいんだろ? 最低限常識的な感じにすればいいの?」
「……もうちっとましな言い方をしてほしいところだが、なんというかその表現が異様にマッチしちまってるのが自分でも腹立つな」
そういうこと。
要は、『絡繰細工』で、自分の顔を整形してほしい、というお願いだ。
僕のスキル『絡繰細工』は、無生物であれば割と何でも、どのようにでもいじくることができる改造スキルだ。武器をより強化したり、機能に多様性を持たせたりできる。
当然、外見をいじくるくらいなら朝飯前である。
ただこのスキル、基本的に僕の『無限宝箱』の中にあるものが対象なんだけど……ああでも、外でも触れてさえいればある程度使えるっけな。
けど、それもせいぜい壊れたものの修復程度しかできないんだけど……整形手術なんて、結構神経使いそうな作業をやれるだろうか?
ちょっとその辺が懸念である、ってことを話したら、
「あん? なら、お前の収納空間の中に俺の顔が入ればいいのか?」
「いや、そんな簡単に言わないでよ……無理でしょそんなの、かといって、体ごと入れるもんなのかどうか……まさか頭だけ外して入れるわけにもいかないでしょ?」
「これでいいのか?」
がこっ ← フォルテが自分の頭部を胴体から取り外す音
…………はえ?
え?
ええ?
ええええええええええええ!?
ちょちょちょちょちょ……ちょっと!? 何してやがりますか!?
え、何、マジでか!? その首、とれんの!?
「まあ、基本的にパーツから組み立てて作られたからな、俺。取り外しはできんだよ」
マジでか……食玩かプラモみたいな奴だな。
ううむ、こんな飛び道具まで持っていたとは……つくづく芸人としては優秀だなこいつ。
「何一つうれしくねえ評価をされてる気がするが……そんで? コレをお前に収納してもらえばいいのか?」
そう言って、自分の首を「ほれ」とこっちに差し出してくる、首なしガーゴイル。
なんつー絵面だ。
ま、まあ……これで何とかなりそうなんだし、その辺は目をつぶろう。
「お、OK。じゃあ、ちょっと借りるわ……この休憩終わるくらいまでには直すよ」
「おう、頼むわ」
「デザインどうする? お任せでいい?」
「あー……今より酷くなることはねーだろうしな。とりあえず、さっきおめーが言ってたように、最低限常識的な感じで頼むわ。他は、うん、任せる」
「りょーかーい」
☆☆☆
30分後。
フォルテは……
「「「誰!?」」」
レーネやレガートを含む同行者全員から、そんな言葉と共に驚愕されていた。
「まあ、あの顔がいきなり整った……とは言わないまでも、マシな感じになったわけだし、この反応もしかたないだろうね。うん」
「顔だけじゃなくて全身いじっただろうが、お前」
うん、そうなんだよね。
途中からなんか面白くなって、休憩時間いっぱい使って改造しまくったのだ。フォルテの体。
バラバラにして取り外しできるのをいいことに、両腕、両足、翼、尻尾、胴体とまあ、結果的に全身いじくってしまった。うん。
……最初に顔に気合い入れすぎて、それをそのままのっけたら、違和感酷かったからなあ。
結果的に……なんかこう、前よりはるかにマシにはなったんだけど……別な方向にとんがり始めたというか……。
なんか、特撮に出てくる怪人か、SFのロボット兵みたいな感じになった……かも?
オーク+α、的な感じだった頭部は、トカゲとか蛇みたいな、爬虫類系のそれをモチーフにした感じに変えておいた。割とスタイリッシュになったかな、と思う。
長すぎる牙は撤去。適度な長さのを作って設置。角も、邪魔にならない程度の長さに。
それに合わせて、ただ岩を削り出して形を整えただけ、って感じだった手足を整えた。
……そもそも、あの顔に対して体の方は、ホントに形を作っただけって感じに適当だったから、アンバランスなのもあって余計不細工に見えてたんだよな。
そこを、きちんと今の顔に合う感じで全身整えてやれば……このようにかっこいいだけじゃなく強そうに見えるまでになった。
特撮好きだった前世の僕の趣味嗜好がやや表面化してる気もするが……まあいいだろう。
別に、何か機能が低下したりしてるわけじゃないんだし。
慣れるまで、ちょっと大変かもだけど。
本人も……周囲も。




