第30話 今後の展望
『隠しクエスト『アークデーモンを討伐せよ!』をクリアしました』
『隠しクエストを達成したことにより、達成者全員に特別報酬が送られます』
『シャープは希少能力『悪魔特効』を手に入れた!』
『経験値が一定に達しました。レベルが上がりました 』
『経験値が一定に達しました。レベルが上がりました』
『経験値が一定に達しました。レベルが上がりました』
……
ひっきりなしに聞こえてくる、そんなアナウンス。
見ると、フォルテやレーネ、レガート、それに、今の戦闘にちょっとでも参加したエルフの兵士の皆さんにも同じことが起こってるらしく……唖然、困惑、驚愕といった表情があちこちに。
この状況から察するに、アークデーモンは……今の僕らよりも随分と格上の存在であったらしい。
前世のゲームでも、格上の相手を討伐すると大量に経験値が入ってくるのはテンプレだったけど……その法則は異世界のリアルファンタジーにも適用されるようだった。
……しかし、それにしたってすごいことになったな、コレ。
僕らの今のステータス……こんな感じになっちゃったよ。
★名 前:シャープ
種 族:変幻罠魔
レベル:23
攻撃力:321 防御力:387
敏捷性:299 魔法力:290
能 力:希少能力『共鳴』
希少能力『悪魔特効』
固有能力『財宝創造』
固有能力『変身』
特殊能力『換装』
特殊能力『変形』
特殊能力『悪魔のびっくり箱』
派生:『無限宝箱』『絡繰細工』
『奇術道具』
★名 前:フォルテ
種 族:銀悪魔像
レベル:19
攻撃力:290 防御力:328
敏捷性:289 魔法力:388
能 力:通常能力『擬態』
通常能力『上級魔法適正』
希少能力『神聖魔法適正』
希少能力『共鳴』
希少能力『悪魔特効』
希少能力『自己修復』
★名 前:レーネ・セライア
種 族:ハーフエルフ
レベル:41
攻撃力:81 防御力:202
敏捷性:97 魔法力:140
能 力:希少能力『使役術』
使役:シャープ、フォルテ
希少能力『共鳴』
希少能力『悪魔特効』
★名 前:レガート・ディミニー
種 族:エルフ
レベル:49
攻撃力: 67 防御力: 38
敏捷性:101 魔法力:141
能 力:希少能力『精霊魔法適正』
希少能力『悪魔特効』
『豚鬼王』2体に加え、悪魔なんていうとんでもモンスターとの戦いは……思わず目を疑うレベルで僕らを強化していた。
まず、僕とフォルテ。
最後に確認した時に比べて、一気にレベル10くらい上がってる。
もちろんそれに付随して、ステータスも上がってる。
今なら『豚鬼王』と正面から殴り合うことだってできるだろう。僕、手ないけど。
いや、『絡繰細工』で作ればできないことも……まあいいや。
加えて、能力の欄に新たに増えているコレ。希少能力『悪魔特効』。
アークデーモン戦に参加した全員――レガートの部下のその他大勢のエルフたち含む――のステータスにプラスされてるコレは、どうやら、ダメージ増加補正系の能力のようだ。
早い話が、このスキルを持ってる者が、悪魔系の敵に攻撃すると……ダメージが大きくなるということだ。強敵相手に頑張ったご褒美、ってことなのかね。
そして、レーネとレガートなんだけど……いや、なんかもう、すごいなコレ。
元があんまりアレだったとはいえ……上がりすぎだろ。レベルとか、能力とか。
レガートはまあ、まだギリギリわかんなくもない。上がったレベルは20弱程度で、能力もそれに見合った感じ。1ランク上の強さを身につけた的なステータスになっている。
いやまあ、こっちも十分にぶっ飛んではいるんだけども……レーネに比べればまだまともだ。
そのレーネだけど……レベル、『豚鬼王』前の3倍くらいになっとる。
しかも、能力はそれ以上にえらいことになってるし。
『使役術』使いの能力は、使役している魔物の能力の強化に応じて、自らも強化される。最もその度合いは、契約の際に受ける恩恵ほど大きくはないけども。
しかし、本来『使役術』は、自分よりも実力で劣る魔物しか配下にできないので、この恩恵は本来そこまで大きく術者を強化することはない。
……が、今回の僕やフォルテみたいに、格上だけど同意の上でレーネに『使役』されている場合は、その前提というものが違ってくる。
レーネのこの能力値は、僕やフォルテ、豚鬼王やアークデーモンといった存在の能力を先に見ている現状、見劣りしてしまうかもしれないが……絶対値的に判断すれば、とんでもないことである。
前にも言ったと思うけど、きちんとした戦闘訓練を積んだ兵士や傭兵といった者達の戦闘能力は……平均して、せいぜい20とか30程度。熟練の兵士の中には、50とかに届く者もいる……といった感じだ。一兵卒や下士官ではそれが限界である。
……で、このレーネの能力は……そんな、一握りの熟練さんレベルを軽く超えている。
つか、攻撃力――腕力でオークを軽く超えてるエルフってどうなんだろ。
敏捷性や魔法力も、僕らの強化に引っ張られる形で激増している。
まあ、本人の才能や、単純にレベルアップによる部分も大きいんだろうけど……やっぱりここまで大きく上がってるのは、攻撃力と同じく『契約』の恩恵によるものだろう。
ハーフエルフという種族は、魔法関係のスペックにおいて、純粋なエルフに劣るそうだ。
もっともこれは、混血として混ざっている種族が何なのかにもよるらしいけど……レーネは普通に人間とのハーフだそうだし、何よりその点を理由にいじめられてたらしいし。
しかしながら、今のレーネは、レベルですら劣っているレガートとそう変わらない高さの魔法力を有しているときた。
まだまだ未熟というか、年季の浅いであろうレーネの能力としては、これは破格だ。レガート自身が、鍛錬で能力の伸びを大きくしているであろうことも考えれば、余計に。
……まあ、生後1か月と経っていない僕が言うことではないかもしれないけども。
そして、一番やばいことになってるのは……言うまでもなく、またしても、防御力だ。
いや、もうコレ、どうなのマジで?
200超えって……何だこの数値? 『豚鬼王』超えてんだけど。
防御力強化のスキル持ってたレフトンに迫る勢いの数値なんだけど。素で。決して質の良いとは言えない装備で。
試すつもりはないけど……矢、刺さんないんじゃないのコレ?
能力値配分がタンカーのそれだよ……しかも、敏捷も魔法力も高いからかなり万能だし。
……そのレーネ自身……自分のステータスを見てだろう。ありえないものを目にしたような表情になって、目を白黒させていた。うん、無理ない。
あ、それとついでに、その他大勢のエルフの皆さん――つっても、だいぶ数減ったな……生き残り、10人切ってるよ――のステータスも鑑定して見てみたんだけど、やはり彼らも軒並みレベルアップしてるようだった。似たような表情になってる。
もっとも、彼らは雑兵のオークたち相手の他は、アークデーモン戦の最後のあたりでちょっと加勢したにとどまる程度の貢献なので、僕らよりは経験値は少なかったようだけど……それでも、多い者で10近いレベルアップだ。まあ、相手が相手だしね。
☆☆☆
それから数十分後。
僕らは……ついに、森を抜けることに成功していた。
……うん、抜けたのだ……これ以上ないくらいに、はっきりとわかる形で。
っていうのも……前に、僕が『洞窟』から『森』に出てきた、あの入り口付近で経験した現象を覚えているだろうか?
あのホラ、入り口の向こうが見えなくなってる、ゲームのダンジョンの入り口的な。
それと同じことが、森を抜けて、今いるこのだだっぴろい草原に出てくる時にもあった。
明らかに、今までとは違うエリアに来たってことがわかる感じで、空気が一変したのだ。
どちらも同じ『外』なわけだから、あの洞窟の出入り口みたいに、境界の向こう側が見えない……なんてことこそなかったものの、草木が密集している森を一歩出た瞬間に、気温、明るさ、風の強さ、匂い、湿度その他が明らかに変わった。
レーネやレガート、その他エルフたちも感じたようで、「おぉ…」なんて驚いてた。
で、それを確信に変えさせたのが……今、僕がチェックした情報だ。
今現在、僕らは一応見張りを立てつつ、休憩を取っている。
アークデーモン討伐後、一刻も早くこの森を抜けるために、生存者を集めて、疲労してるところを押して歩いてきたってことで……結構みんな、足腰がガタガタなのだ。
幸いここは見通しがいいので、見張りはしやすいのである。
その休憩中に僕は、『天啓試練』をチェックしてみたのである。
≪挑戦可能クエスト一覧≫
・『エルフの森を脱出せよ』……CLEAR!
報酬:上質な木材×20 エルフの薬草×30
・『豚鬼の部隊を殲滅せよ』……FAILED
・『豚鬼頭領を討伐せよ』……CLEAR!
報酬:銀貨5枚 鋼の戦斧
・『エルフ達を無事に森から脱出させよ』……CLEAR!
報酬:エルフの薬草×14 木の矢×70
・『囚われのエルフ達を救出せよ』……FAILED
・『運命の子と忠義の騎士を守り抜け』……CLEAR!
報酬:銀貨50枚
・『豚鬼を100体以上討伐せよ』……CLEAR!
報酬:銀貨30枚
・『豚鬼王を討伐せよ』……CLEAR!
報酬:銀貨50枚 鋼の鋳塊×15
・『双子の豚鬼王を討伐せよ』……CLEAR!
報酬:金貨1枚 参戦メンバーの成長限界上昇(該当者:シャープ、フォルテ、レーネ)
『エルフの森を脱出せよ』がクリアになってる。つまり、脱出したってこと……すなわち、ここは『エルフの森』とは別なエリアだってことだ。
『救出』と『殲滅』は『FAILED』――失敗、になってるな。
制限時間とか、挑戦できる時期に限定でもあるのか……何にしろ、達成する見込みがなくなった、って意味なんだろう。
一方で、『無事に脱出』のクエストはクリアになってるな。
しかし……クリアになったのは素直にうれしいけど……コレ、『無事』なのか? 途中の戦闘その他で、9割以上死んでるけど。しかも、荷物になるから死体とかほとんど放置してきたし。
一部例外は、僕の『無限宝箱』に入れてあるけど。供養するつもりで。
ある程度の人数、もしくはわずかでも森の外へ逃がせれば達成なのかもしれない。
根拠、というか気になる点として……報酬の欄に記載されている、報酬の数。
エルフの薬草が、14個。僕の偏見じゃなければ……何か、微妙に半端な数字だ。他のクエストの報酬が、30とか50とか、それなりにキリのいい数字なのに。
そして……だ。今、僕らが連れているエルフの人数が……ちょうど14人なのである。
レーネ、レガート、部下兵士エルフ7人、非戦闘員エルフの生き残り5人。この数に応じて算出された報酬なんじゃないか……と、僕は見ている。
あ、ちなみに、非戦闘員は、成人女性のエルフが2名に、子供が3名だ。
老害連中は1人残らず死んだ。あの悪魔にやられて。それについて思うことはない。
そして好都合なことに、この12人は全員、レーネというハーフエルフと行動を共にすることに、さほど忌避感を持っていない、あるいはむしろ好意的な面々だった。
兵士たちは、間近でレーネの活躍を見ていたから、実力も何もすでに認めている。
非戦闘員の女性2人も……まあ、いきなり好きになれというのは無理にしろ、守ってくれる相手に文句なんかつけるつもりはない、とのことだし、子供エルフたちは、純粋に強いエルフにあこがれを抱いている的な様子で、レガート共々好意的に受け止めていた。
そんなことを考えていると、レガートが口を開いた。
「……皆。少し、いいだろうか」
そんな言葉に、その場にいた全員の視線がレガートに集まる。
見張りを担当している僕とフォルテも、一応、意識はそっちに向ける。
そうしてレガートが話し始めたのは、ずばり、これからどうするか、というもの。
当初の予定では、レーネとレガート、それに僕とフォルテは、森を出たらこの集落そのものと縁を切り、さっさと旅に出る予定でいた。そして、残る集落の人たちは、どこか新たな新天地目指して旅に出る、と。
しかし、今の状況だと……まあ、僕らの方は特に何も問題ないとはいえ、残った集落の人たちの現状が、つい昨日までと違いすぎる。
ほぼ壊滅状態。戦闘要員はたったの7名。
全員、今までほとんど森の外に出たことがない。土地勘も何もなく、どんな魔物が出るかもわからず、挙句非戦闘員という足手まといがいる。
率直に言ってしまえば……とても戦える状態じゃない。魔物も出没するこのダンジョン世界で、一時的にとはいえ旅をするには、あまりにも脆弱だ。
こんなんで旅をすれば多分、いやほぼ間違いなく……遠からず全滅するだろう。
一方、僕らのチームは……問題ないだろう。まずもって。
おそらくだが、向こうさんのエルフ戦闘員たち全員を合わせても、この4人(2人と2体)で最弱であるレーネ1人にすら及ぶかどうか、って感じだと思う。ステータス的に。
それらを踏まえた上で、レガートは今回口を開いた。1つの『提案』と共に。
簡単に言えば、『このまま自分たちと一緒に行かないか』というものだ。
このまま別れれば遠からず全滅することが目に見えている集団を、もう約束は果たしたからと突き放してどっかに行くというのは、色々とためらわれるものがあり……また、昨日までと違って、それほどの嫌悪感・拒絶感情が互いにあるわけでもない、という理由もある。
さっきも言った通り、幸か不幸か、今こうしてここに生き残れている者達は、レーネというハーフエルフにも一定の理解を示し、受け入れることができるメンツがそろっている。
排斥の流れを率先して作っていた老害連中は消え、その他の差別主義チームもあらかた死に……彼らが圧倒的に多数派だった状況もなくなった。
その結果、柔軟な対応をするにためらうような環境がなくなり……彼らはレーネを、忌むべきハーフエルフの少女としてでなく、自分たちを何度も救ってくれた、やさしさと強さを兼ね備えた優れた戦士として見れるようになりつつある。
お互いに、いきなり全部を水に流して仲よくしよう……ってのはさすがに無理だろうけど、もう積極的にお互いを排斥しあう必要もなくなった。
ならば、もう少しだけ……行動を共にしてみる選択肢もあるんじゃないか、とのこと。
そう提案するレガートからしてみれば、まあ……もともと微妙なところだったんだろう。
レーネを邪険にする風潮や、積極的にいじめようとする差別派なり老害連中は許せないけど、自分たちを受け入れ、里に住まわせてくれた恩があるのも事実。
何より、自分の生まれ故郷なのだ。愛着も、そりゃあったんだろうさ。
そこまでレガートが話すと……今度は、全員の視線がレーネに向いた。
それもまあ、当然のことだ。今のレガートの提案……受けるも突っぱねるも、最終的には……レガートやエルフ達以上に、レーネの意思が重要なところであり……全てを左右する。
何せ、レガートと同等の戦闘能力に加え、『テイマー』として、僕とフォルテという――僕が武器じゃなく魔物だってことは、さっきの戦闘の最中にばれたこともあって、説明済みだ――大戦力を直接保有しているのが彼女だってのは、周知の事実。
彼女が拒めば……いくら自分たちやレガートが望んだところで、自分たちは受け入れられる見込みはほぼ0になる。そうなれば、待つのは……滅びのみ。
そして、今までの彼女の住環境を考えれば……それは、十分にありうる話だった。
期待、不安、焦りなど、様々な感情の入り混じった視線を受けながら、レーネは少しの間じっと考えると……ようやく考えがまとまったところで、目を、口を開き……
☆☆☆
その、夜のこと。
「あれでよかったの、レーネ?」
「? 何が?」
「ほら、その他大勢。同行させるんでしょ?」
「その他大勢って……もうちょっとあんた言い方ってもんが……まあ、いいけど」
若干呆れた様子のレーネは、今、野営用に設営した天幕の中で、僕とレガート、それにフォルテと一緒に、ゆっくりくつろいでいた。
昼間、豚鬼王や悪魔を相手に、思いっきりメインで戦ったのは僕らなので、夜の間の見張りは任せてゆっくり休んでくれ、との、エルフの兵士たちからのご厚意に甘えている形である。
加えて、多分……レガートの提案通り、今後も自分たちが同行を許してもらえたことに対しての感謝、みたいなものもあるんだと思う。
「そりゃまあ、今までつらいことばっかりだったし、ぶっちゃけ私自身、エルフの里とか別に思い入れないんだけど……だからって、積極的に見捨てたり、不幸にしたいわけじゃないから」
それに、とレーネは続ける。
「……私だってさ、嫌ったり、憎むよりかは……仲良くしたい、って思ってたんだ」
レーネは、レガートが、自分を大切にしてくれていることは、当然知っていた。
しかしその一方で、エルフ達とも仲良くしたい、と思っていることも……かなうなら、自分と他のエルフ達に、仲良くしてもらいたい、と思っていることも知っていた。
里に古くからある、混血差別の考え方に邪魔されて、中々かなわなかった願いだが……今、その風潮をかたくなに主張する老エルフ達はすでになく、また、幸いと言っていいのか、周りにいるエルフ達は、頭の比較的やわらかい者ばかり。
おまけに、今は……中身のない意地やわがままを言えるような、余裕のある状況にない。
今なら……里にいたころとは違った関係の築き方も、できるのかもしれない。
そんな風に、レーネには感じられた。
「まあ……これがあの爺さんたち相手だったら一蹴してたと思うけどね。我ながら現金だわ」
「いいんじゃないの、そんな感じでさ。人間なんてそんなもんだよ……あ、エルフか」
「それ以前に、俺やお前みてーなのが人間らしさを語るってのもアレだろ」
と、フォルテ。それもそーだ、僕ら、魔物だし。
まあ僕らとしては、レーネがそれでいいなら、別に何も言うことないけどね。
そもそも、僕はエルフ自体と付き合いが短すぎるせいもあって、印象なんてそれこそ、戦ってる間の対応や、老害連中がギャーギャーわめいてた部分でしか抱けていない。
そこからすると、あんまりエルフ好きじゃないんだけど……その一面だけ見て、『エルフ=ヤな奴』って決めつけるのもね。仲間以外には冷たかったり、突き放したり見下したりする種族なんて……いっぱいいるし……てか、地球における人間だって、ある意味その一種だろう。
せっかくまともそうなエルフもいるんだ、これから付き合いを作っていくのも一興だろう。
もし、その道中で『やっぱダメだこいつら』とでも思うようなことがあれば……その時は、相応の対処をすればいいだけの話だ。
「しかしそうすると、予定外に大所帯での移動になっちまうな。大丈夫なのか?」
と、フォルテがレガートの方を向いて尋ねた。
「大丈夫か、とは?」
「この4人なら……何つーんだ? 少数精鋭、って奴かね。少人数だから目立たず、それでいて戦力も十分に確保しつつ動ける感じだ、と俺は見てたんだが……それに、非戦闘員までいるわけだろ? 旅するには、ちと足かせになるんじゃねーかと思ってな」
「ああ、そういうことか……何、心配はいらんさ。大人数なら大人数で、非戦闘員がいるならいるで、それに合った旅の仕方というものはあるものだ」
何も問題ない、と言い切るレガート。
「大人数での旅というものは、確かに俊敏さが損なわれて目立つものになるが……その代わりにできることも増える。それにむしろ、そこそこの人数で旅をするなら、非戦闘員はいても何ら困らん。戦う者と完全に分業して、炊事や洗濯などの雑事を任せられるからな」
とのこと。
……ちょいちょい思ってたんだけど、レガートって……なんか、こういう団体行動のとりまとめとか、部隊の指揮とか、すごく得意だよな……。状況を的確に把握して、素早く指示を出して……アークデーモン戦で、一斉掃射で光弾を誘爆させた時なんか、まさにそうだった。
まるで……本職の軍人みたいな……。
「それでだ、レーネ」
「はい?」
「シャープ、フォルテも、聞いてくれ。今後の方針、というか、行先についてなんだが」
言いながら、鞄から取り出した地図を広げるレガート。この近辺の地図、かな?
……そうみたいだな、エルフの森とか、今いる草原が載ってる。
「気ままにさすらうにしても、無計画にさまようわけにもいかない。まして、体力のない子供も一緒に来ることになったわけだからな……まずは、ここを目指したいと思うんだ」
言いながら、レガートが指さしたのは……町?
場所的には……ここから数日くらいでつくんじゃないか、って感じのところ。
図を見るに、結構大きい町みたいだな。
「何でこの町に?」
「古巣でな……勝手知ったる、という奴だ。色々と案内できるし、伝手も多少なりある」
おー、そりゃ頼もしい。
ならレガートの言う通り、そこに向かうのがよさそうだ。旅慣れていない者が大半のこの一団、そういう、少しでも負担が小さく、できることの幅が広い場所ってのはありがたい。
……ってか、これ、町の名前の隣に……『王都』って書いてある?
マジか、予想よりさらに大きい町に行くことになりそうだな……っていうか、『王都』が古巣ってことは、レガートってもしかしてホントに昔、職業軍人だった、とか?
というか、それ以前に……このへんって、どっかの国の領土だったのか。
いや、そりゃどこかの領土ではあるんだろうな。今まで、気にもしなかったけど……
……まあいいや。いろいろ気になるけど……行けばわかるだろう。
見れば、レーネとフォルテも『それでいいと思う』という顔をしていたので、次の目的地は、これで決まった。
出発は……とりあえず、明日の朝から。
目的地は……王都『エイルヴェル』だ。
……ところで、
そこを目指そう、って決めた瞬間の……レガートの表情が、何か気になった。
一瞬のことだったから、僕の気のせいとか、見間違いとかかもしれないんだけど……なんていうか、レーネを見ながら……何とも言えないような表情になっていたような……。
まるで、懐かしむような……しかし同時に、心配するような……そんな、不思議な表情に。
……まあ、いいか。これも。
見当もつかないし……うん。後にしよう。
本章はこの話でラストになります。
次の投稿は、プロットまとめてからなので……少し開くかもしれません。




