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第28話 来襲



「全く、こんなことになってまであのざまとは……つくづく愛想が尽きた」


保存食として持ち歩いていたパンと干し肉、それにチーズとドライフルーツで昼食を取りながら、レガートはそんな風に苦言を呈していた。

まあ、無理もないだろう。老害連中の罵詈雑言に、さっきまで付き合わされてたんだし。


やれレーネは追放だだの、やれ武器と魔物は置いていけだの。

自分たちの立場ってもんをわかってない。見苦しいったらなかった。


結局のところ、とどのつまりは我が身大事……それに加えて、気に食わない『混ざりもの』への八つ当たりが一緒に行われているだけ。

これ以上は聞く意味なしとして、レガートとレーネは早々に切り上げてきたのだ。


で、こうしてわざわざそいつらから離れたところで食事をとっている……ってわけ。


ただし僕らの周囲には、ちらほらと、程度ではあるものの、レーネを見直す形で認識を改めた、まだ『話の分かる』部類のエルフが何人か集まっていて、少しぎこちなさはあるものの、一緒に食事をとっている。


今までが今までだったから、レーネに対して思うところもあるんだろう。それでも、できるなら今からでも仲良くしたい……とは思っている様子だ。

その姿勢自体は、まあ、好ましく思わなくもない。


レーネも、困惑しつつも少しずつ話してみてるようだし……レガートはその間に立って、もしかしたら改善するかもしれない可能性を後押ししようとしているようだった。

レガートの部下の立場の人が大半のようだし、時間さえかければうまくいくと思う。


まあでも……あっちの連中は、時間かけても無理そうだけどね。相互理解。


「それよりレガートさん、これからその……どうしましょう?」


「これから、とは?」


「その……森を抜けた後です。昨日の話し合いで、あの連中との付き合いはそこまでで、そこから先は私とレガートさんは離脱する、っていう話になりましたけど……」


「そうだな……まあ、もともと帰る場所を失った状態だからな。どこへ行くか、何をして生活していくか、というだけの話ではあるが……」


虚空を見上げて考えるようにするレガートと、少し不安そうにそれを見ているレーネ。


まあ、無理もないだろう。居心地は最悪とはいえ、曲がりなりにも帰る家が……屋根のある安全な寝場所があり、日々の食料があり、日々の糧を得るための仕事があった。今までは。


けど、これからはそういった安定した暮らしの基盤が一切ない、旅人のような不確かな暮らしが始まろうとしている。……っていうか、実際に旅人みたいなもんか。

旅行に行くのとはわけが違うんだ。そりゃ、不安にもなるだろう。


「そうだな……仮に考えていたことではあるんだが、しばらくはあてもなく、ぶらぶらと旅してまわってみるのもいいかと思うぞ? 人生経験を積む、とでも考えてな。それに飽きたら……定住する当ても、一応あるからな。心配はしなくていい」


なんでも、レガートもかつてそんな時期を過ごした経験があるということで、レーネを連れて森を出た後は、人生勉強もかねてあちこち回ってみるつもりでいたそうだ。


それを聞いて、多少不安に思いつつも、同時に楽しみそうにもしていた。

レーネ自身、こことは違う世界……というか世間、っていうものに興味あるようだし。


「どこかに定住するにしろ、あちこち回るにせよ……焦って決めることもあるまい。しばらくは

気楽にさまよってみればいいんじゃないか、と思っているよ。レーネはどうしたい?」


「私も、それでいいと思います。自分で言うのもなんですけど、私、その……世間知らずだし」


「うむ、そうか。……ところで……」


と、レガートはそこまで言って、ちらっとこっちを見る。それにつられて、レーネも。

座って休みつつ、だべったり『クエスト』の確認したりしてる、僕とフォルテを。


何だろう? と思ってたら、レーネから念話が来た。


『えっと、さ……シャープとフォルテは、どうするのかな、って』


『え、僕ら?』


『うん……わ、私としては、さ。できればその……ここ出てからも、一緒に旅とかしていけたらなー、と思ってるんだけど』


『いいよー』


「軽っ!?」


そうレーネに返事をしたら、驚愕が帰ってきた。しかも、念話じゃない方で。

おい、落ち着けレーネ。いきなり大声出したから周りが『何?』ってびっくりしてるぞ。


それにはっとして、レーネはちょっと顔を赤くしつつ、今度はちゃんと念話で。


『ご、ごめん、うっかり……でも、なんか、随分軽くない?』


念話で、音量はひそひそ話くらいに抑えるという、何気に起用+あんまり必要なさそうな芸当を披露しているレーネであった。それに続く形でフォルテも、


『随分あっさりだが……そんなに簡単に決めちまっていいのか? お前が、ダンジョンとかに引きこもってただの魔物として生きるつもりはない、ってのは前に聞いたが……お前なら別に、そいつらと一緒じゃなくても普通に旅とかしていけるだろ? 実力的にもよ』


『いや~、僕はそうは思わないけどなぁ?』


そりゃ確かに、僕やフォルテは強いよ? その辺の魔物なら、相手にならないだろうね。

けど……だからって普通に、自由に旅ができるか、って聞かれたら……そりゃ否だよ。


何でかって? そりゃ……


『だって僕ら、魔物じゃん』


片や、擬態して人間に襲い掛かって食い殺す(しないけどね)魔物。片や、見た目にも醜悪かつ凶悪な外見の石像の魔物。


そりゃまあ、単に生きていくだけなら、僕らくらい強ければ可能だと思う。

ただしそれは、あくまで『魔物として』という但し書きが付くだろう。


まあ、さすがに人間、あるいはそれに近い存在として生きていきたい、なんてことまでは思わないけれども……人間その他の作る文明に、全く縁のない生活ってのも寂しい。

そんなの、ダンジョンでミミックやってた頃と大差ない気がするのだ。いくらその場所が、あの洞窟より閉塞感のない山林や草原だとしても。


今こうして、レーネやレガート、フォルテなんかとしゃべったり交流できている現状が、余計にそう思わせる。

この現状から、またあの魔物ライフに戻れってのは……ちょっと、やだ。そう思う。


だから、彼女についていくことに否はない。彼女という『主人』が……『使役術テイム』というスキルを持った存在が一緒にいれば、僕という魔物が――武器とか手荷物でもいいけど――文明に触れて生きる、ということはできる。

イコール、さびしくない。これが、僕が彼女と一緒に行く理由だ。


『それにさ、どっちかっていうとほら、フォルテの方がむしろ、レーネと一緒にいた方がいい感じじゃないの? 見た目一発凶悪なんだから』


『うるせーよ……まあ、でも……』


……その時だった。



―――ドゴオオォォオオン!!



「「「!?」」」


突如として、木々の向こう……僕の記憶が正しければ、ちょうど、レーネを受け入れる気のない『本隊』もとい『差別派』の連中が休憩を取っているはずのあたりから……まるで、爆弾でも爆発したかのような轟音が聞こえてきた。


☆☆☆


明らかな異常事態。

そこで休憩していた全員、大慌て準備してそこに駆けつけてみれば……そこに広がっていたのは、惨劇だった。


さっきまで、歳に見合わず元気にレーネを罵倒していた老害連中を含む、『本体』サイドのエルフ達。護衛の兵士たちも含む、そのほとんど全員が……死んでいた。

それも、すごく無残な感じで。


何せ……どれもこれもバラバラになってしまっているのだ。

人の形をとどめたままの死体が、数えるほどしかない。腕だけだったり、首だけだったり……どこのものかぱっと見わからない肉片とか、骨の破片みたいなものも多い。


そして、状態も一様ではなく……爆発で吹き飛んだみたいに焦げ跡がついているものや、刃物で切られたみたいな鋭利な傷口をさらしているものもいた。……力任せに引きちぎられたり、強い力で圧砕された感じのものもあるな。


一応、生存者は何人かいるようだ……無傷ではないようだけど。


そして、そんな惨状の中心に……おそらくは、これを引き起こした犯人であろう存在がいた。


見た目一発、魔物である。それも、相当に危険な類の。


一言で言えば……そいつは、2足歩行の獣を思わせる姿をしていた。

しかし、ただ2本脚であるくだけの畜生ではないことは、誰の目にも明らかだった。


頭は山羊と牛の中間みたいな感じで、嫌悪と憤怒を表情に浮かべた醜悪な見た目になっている。歯をむいた口の端からは、唾液がぽたぽたと滴り落ちていた。

つか、鋭いな、牙。頭は草食動物のそれなのに、何かアンバランス。


毛皮に覆われている体躯は、よく見ると筋骨隆々で、手には重厚な剣を一振り持っていた。

そして……その背からは、蝙蝠のような羽が生えている。


……いや、こういう場合は、アレは……『悪魔の羽』って言うべきなんだろうな。

こいつ……種族がアレだし。



★種 族:アークデーモン

 レベル:27

 攻撃力:329  防御力:288

 敏捷性:301  魔法力:405

 能 力:通常能力コモンスキル『暗黒魔法適正』

     希少能力レアスキル『闇の神官』

     希少能力『爆発魔法適正』



アークデーモン。悪魔……いや、正確に言えば、『魔族』ってやつか。


本当にとんでもないステータスだな。『豚鬼王』の2体よりさらに上……魔法力に至っては、コレ、400オーバーって……マジかよ。


「……もういっぺん聞くぞ、エルフの爺。本当にここにはねーんだな?」


そしてそいつは、エルフの村長の胸倉をつかんで体を持ち上げ、尋問していた。

老体は、ケガをしているらしく、頭から血を流していて……すでに死に体だ。


「ほ、本当だ! む、村から盗まれて……人間の盗賊に! だから……」


「ちっ……無駄足だったってことかよ! しかも、あの双子は殺されるし……無駄骨の上に大損じゃねえか、くそが!」


その直後、そいつ……アークデーモンは、手に持っていた剣を振り下ろした。

こちらが止める間も、駆けつけて助ける暇もなかった。袈裟懸けに振り下ろされたその刃を受け……村長は一撃で、物言わぬ死体へと変わった。


一瞬のうちに、自分たちのトップが惨殺された光景に、兵士たち全員が絶句していると……悪魔は、ゆらりとした動きでこちらに振り返った。どうやら、気づいていたらしい。


「……んで? てめえらもこいつらの仲間、ってことでいいんだな?」


「っ……!?」


直後、あたり一帯を席巻する、凶悪なプレッシャー。


その威圧感に……兵士として訓練を積んでいるはずのエルフ達ですら、足がすくんでしまったようだった。剣や槍を構えてこそいるものの……あきらかに腰が引けている。


……コレを受けたとしたら……まあ、非戦闘員の皆さんじゃ、動けなくもなるわ。


そして、こいつの目的は……というか、こいつ『も』かな?

さっきの話を聞くに……『黙示録』だろう。というかもしかして、こいつがあの双子の『豚鬼王』の黒幕的なアレか? 理由は、相変わらずわからんけど。


しかし、村長とやらに話した結果、それがすでに人間の盗賊に持ち去られて村にないと知った。それに苛立って、八つ当たりでこの光景を作り出した……。

そして、八つ当たりはしたものの、まだ彼の気はおさまっていないようで……。


「ちょうどいい……憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ、エルフ共……せいぜいいい声で鳴いて、むごたらしく死んで、俺を慰めてくれよォ!」


……コレは、今回ばかりは……まずいかもしれん。


逃げるのは……多分、無理。戦うしかない。

しかし、戦うにしても……相手は、いまだかつてないレベルに強大だ。


気を抜くと……死ぬな。






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