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第26話 真打、その2


豚鬼王オークキング』を倒し、とりあえず窮地は脱した……と思っていた。

けど、一難去ってまた一難、とでもいうのか……それとも、そもそも『難』を退けてなどいなかったということか……一休みする暇すらなく、次なる厄介ごとが降りかかる。


僕らの方に『豚鬼王』が来た以上、向こうはただ立ち往生……悪くても、追いついてきたオークの軍勢と戦ってる、ってくらいだと思っていた。


もしそうなったとしても、レガートやその部下たち、そして遊軍兼伏兵として備えてくれているフォルテもいるんだし、大丈夫だろうと。


……こんなメッセージが、頭の中に現れるまでは。



『条件を満たしました。特殊なクエストが発生しました』

『特殊クエスト『双子の豚鬼王を討伐せよ!』が発生しました』



……これひょっとして、さっき見たとき『●●●●●』だった奴ですかね?


てか、おい。もう1匹いるってか、アレ。

1体だけでも、奇襲とか変形とかトリッキー戦法色々駆使してやっと勝てたのに、結構危ない感じだったのに、アレもう1匹相手にしろってか。


そしてだ……『片方の』豚鬼王がこっちに来てたってことは、普通に考えて、もう片方は……



☆☆☆



「あ、悪夢だ……!」


あるエルフは、目の前の光景に……思わず、といった感じで、そう口にした。

それも、茫然自失になりながら……戦いの最中にあるまじき、隙だらけな様子で。


しかし、誰もそれを咎めたり、いさめたりしようとしない。

できないのだ。皆……似たような思いを、胸に抱えているがゆえに。


ある者は、蹂躙される故郷を焼く炎の向こうに見た、その姿に……恐怖が蘇り、

またある者は、初めて見る圧倒的な存在を前に、戦意を喪失して脱力し、

またある者は、これから何が起こるかを思い、絶望に涙を流していた。




『それ』は、唐突に……戦場に姿を現した。


ただの豚鬼オークが開いてなら、どうにでもなると、皆、思っていた。

レガート率いる精鋭部隊に守られている自分たちは、安全だと。強行軍は足腰に響くが、この森を抜けるまでの辛抱だと。


そんな、状況を考えればだいぶ楽観的と言わざるを得ない見通しは……豚鬼の軍勢の奥から、のっしのっしと歩みを進めてくる、巨躯の『豚鬼王』を前にして、粉微塵に砕け散った。


「……慢心していたのは我らの方だった、ということか。まさか、わが弟が……貴様らのような貧弱な種族に討たれるとは……」


何やら独り言らしきことをぶつぶつとつぶやきながら、兵士である豚鬼たちを押しのけて、最前線に出てくる『豚鬼王』。


ただそこにいるだけで、相対している敵を威圧し委縮させるその存在は……その心中を反映してか、周囲にすさまじい怒気や威圧感をまき散らしている。


それにさらされているエルフの兵士たちは、攻撃を加えられずとも、今にも総崩れになりそうなほどに委縮しきっていた。まともに武器を構えている者が、数えるほどしかいない。


レガートや、彼女と同じ指揮官肌の者達は、恐怖にすくんだ者達を必死で統制を取り戻そうとするも……直後、目の前で『豚鬼王』の圧倒的な暴力が振るわれる。


シャープ達の方に現れた個体とは違い、長大な薙刀を手にしているその豚鬼王は……自ら最前線に出たかと思うと、次の瞬間、目にもとまらぬ速さで2度、3度とその獲物を振るった。


その直後……盾を構えて敵の攻撃を食い止める役割を担っていたエルフ達が、防具ごと切り刻まれて吹き飛ばされ……その血と肉片が、バラバラになった体が……後ろに控えていた者達の頭上から降り注いだ。


一瞬の静寂。

今、何が起こったのか、すぐには理解できないがゆえに生まれる、空虚な時間。


唐突な出来事によってもたらされたその静寂は……同じく、唐突に破られる。


「……う……うわあああぁぁぁああああ!!」


無残に切り刻まれた仲間たちの血肉に染められたエルフの兵士たちは、恐慌状態となって武器を放り出し、我先にとその場から逃げ出し始めた。


こんな化け物に勝てるはずがない。そう、本能で理解して……全てを捨てて、逃走を選んだ。

命を賭して守ると決めていた、力なき女・子供や老人たちを置き去りに。


そんな、背を向けて必死で逃げ出すエルフ達を、レガートたち指揮官は懸命に呼び止めようとするも……その声は届かない。

守られるべき女たちが、子供たちが助けを求めるも、それに一瞥もくれない。


そうして逃げていくエルフ達を、オークの軍勢の何割かが嬉々として追跡し始める。

果たして、彼らのうちの何割が逃げ延びられるのだろうか。


この場に残っている戦力は、先程までの3分の1以下。

これでは、いかにレガートたちが優秀と言えど、その何倍もの非戦闘員を守りつつ、同じく何倍もの数のオークたちの相手をする、などということは、到底不可能だった。


おまけに、憤怒を宿した目で残るエルフ達をにらんでくる、巨大な獲物を手にした豚鬼王がいる。あの手の薙刀が閃くだけで、先程と同じように、防御の陣形など、紙きれのように切り裂かれてしまうのだろう。


のっしのっしと歩み寄ってくる豚鬼王を前に、レガートは必至でその身の内の勇気を奮い立たせ、一歩も引かずににらみ返す。

それを受け止めた豚鬼王は、ほう、と感心したように、


「ほう……なかなか気骨のある者もいるようだな。力の差がわかっていないわけでもあるまいに……大した女だ」


「……お前達の目的は何だ? 何ゆえ我らの里を滅ぼし、我らを根絶やしにせんとする?」


内心の恐怖と委縮を押し殺し、気力で心と体を支えながら、レガートはそう問いかけた。


「それを聞いてどうするというのだ、エルフの女? どの道お前たちは、これから全てを奪われ、散りゆくのみの定め……今、それを知ったところで何になる?」


「っ……」


「お前達の牙は、我らの予想を超えたものだった。慢心は我らにあり、その結果として我らは大きな痛手を負うこととなった……それは認めよう。だが、だからこそ……貴様たちはここで、私がこの手で殺す」


そう言って、薙刀を握る手に力を籠める豚鬼王。

同時に襲い掛かる、先程と同じ……すさまじいまでの殺気。


それを受け、体の動きが鈍くなるのを自覚しつつも、一歩も引くそぶりを見せないレガートと、その部下たち。その様子に、豚鬼王は内心でひそかに称賛を送るも……これからやることが、何か変わるわけではない。


その覚悟に報い、せめて真正面から叩き潰さんと、薙刀を中断に構えて地面を踏みしめた……次の瞬間。


「――むっ!?」


野生の勘か、それに近いものによって何かを感じ取った豚鬼王は、巨体に似合わぬ俊敏さでその場から飛び退る。

その直後……一瞬前まで豚鬼王がいた場所に、上空から何かが降ってきた。


ズシィン! と重量級の音を響かせて地面に降ってきた……否、降り立ったそれは、禍々しい外見の、魔物の像であった。


もっとも、それがただ投擲攻撃に使われただけの粗大ごみなどではないことは明白である。

直後に生き物のように滑らかに動いて、豚鬼王をにらみつけて威嚇しているのだから。


驚きに目を見開くエルフ達と……その先頭に立って、幾分ほっとしたような表情になっているレガート。

エルフ達とはまた違った、警戒すべき存在を見据えて、様子をうかがう豚鬼王。


それらの視線を受けて、その石像――否、


「……こやつ、悪魔像ガーゴイルか」


『いや……その上だ』


シルバー悪魔像ガーゴイル』のフォルテは、牙をむき出しにして凶悪な笑みを浮かべた。


☆☆☆


僕ら先行メンバーは、休憩もそぞろに分断された本隊の方へ急いでいた。一刻も早く合流しないと、あっちはあっちでオークの相手をするのに大変だろうという理由で。

それに加えて、僕とレーネは、向こうにもオークキングがいると知っているわけだし。


しかしながら、元来た道は使えない。土砂崩れ(人為的)やら何やらのおかげで、足場が最悪なことになっているためだ。

なので、迂回する形で森の中を走っているのだが、これでは時間がかかりすぎる。


なので、他の人たち(エルフだけど)には悪いが……僕らだけ先行させてもらうことにする。


やり方は簡単。さっきと同じように、僕がワイヤーを射出して……前方の木や岩壁なんかに突き刺し、それを巻き取ることで、僕を持っているレーネごと高速で移動する。その繰り返しだ。これなら、不安定で危険な足場とかそのへん、気にせず移動できる。


今思うとこの移動方法、前世の漫画とかアメコミに似たようなのがあった気が……いや、考えないようにしよう。意味のないことだ。


ともあれ、このやり方で突っ切った僕らが、本隊のところへ到着すると……


「ぬがああぁぁあああ!!」


「ガァアアアァァアッ!!」


そこでは……明らかに周囲の豚鬼オークやエルフ達とは別格である2体の怪物が、片方は素手で、もう片方は薙刀を手に、すさまじい勢いで戦いを繰り広げていた。

片方は、さっき僕らが仕留めたのと似たような感じの、まぎれもなく『豚鬼王』。


そしてもう片方は……僕らの仲間である、フォルテだ。

シルバー悪魔像ガーゴイル』に進化し、全身が重厚な光沢を放つ銀色に染まっているフォルテは……形はほとんど変わっていないものの、今までよりも力強く見える。


戦況は、見る限り互角の様子。両者一歩もひかず、って感じで切り結んでいる。

どれ、ステータスは……



★名 前:ライトン

 種 族:豚鬼王オークキング

 レベル:48

 攻撃力:308  防御力:149

 敏捷性:191  魔法力:54

 能 力:通常能力『絶倫』

     希少能力『統率』

     希少能力『敏捷性強化(大)』



……まさかとは思ったけど、名前はアレか? ネタか? ネタなのか?


『双子の』ってついてたから、こいつさっきの奴の兄か弟なんだろうな。どっちがどっちかは知らんし……どうでもいいけど。


それはそうと、片割れ同様……こいつもやっぱり強い。

コレ、僕らいなかったら普通にエルフ滅んでただろうな。エルフの中では最強クラスであろうレガートですら、まるで勝負にならずに。

恐らくスキルの差だろう。さっきの奴に比べて防御力が弱く、敏捷性が高い。


そのためか戦い方も違って見える。さっきの奴は、力任せに正面突破で全部なぎ倒すようにしてたけど、こっちのは堅実というか……相手の攻撃をよく見てうまく受けたり流したり、交わしたりしつつ、隙を的確についてフォルテに反撃している。

そして、『敏捷性強化(大)』とやらの効果だろう。それら全ての動作が、すごく俊敏だ。


ただそれでも、フォルテ相手には通用していない。

というか……少し見ていてわかった。この戦い、フォルテの方が押している。


まあ……それも、当然と言えば当然なのだけども。



★名 前:フォルテ

 種 族:シルバー悪魔像ガーゴイル

 レベル:8

 攻撃力:254  防御力:298

 敏捷性:260  魔法力:343

 能 力:通常能力『擬態』

     通常能力『上級魔法適正』

     希少能力『神聖魔法適正』

     希少能力『共鳴ハーモニクス

     希少能力『自己修復オートリバイブ



これを見ればね。

僕と同様、魔法生物系であるフォルテは……簡単に言えば、『堅い』。

攻撃力・防御力において、僕には劣っていれど……十分に高い。敵の攻撃が直撃しようとも、ほとんど痛手にはなりえないほどに。


進化したフォルテの種族名である『銀悪魔像』は、どちらかと言えば魔法を得意とする魔物らしい。それだけあって、魔法力のステータスがめっちゃ高い。進化前から比べてもはね上がっとる。

しかし、物理方面も弱体化したりはしておらず、十分に強いのだ。


実際、豚鬼王・ライトンの攻撃は、何度かフォルテにヒットしているにもかかわらず、全くと言っていいほどダメージになっていない。

まあ、全くの無傷、ってことはないみたいだけど、あいつスキルに『自己修復オートリバイブ』持ってるので、多少欠けたくらいなら瞬く間に修復されている。


そして、ライトンの頼みの綱?である敏捷性についても……残念ながらフォルテに軍配が上がっている。今のところは、年の功的に鍛えられているらしい戦闘技術でしのいでるけど……こりゃ時間の問題だな。


……それはそうと……フォルテの方は心配なさそうだからいいとして、

問題はむしろ……こっちかもしれない。


フォルテとライトンの戦いから、少し視線をずらすと……そこに広がっているのは、中々に凄惨な光景である。


レガートを含むエルフの護衛兵たちが応戦しつつも、数で圧倒的に上を行く豚鬼オーク達によって押し込まれ、かなりの被害が出ている。

兵士だけでなく、その奥の非戦闘員にも。主に、投擲とか流れ弾が原因で。


力や数の差が主な要因だろうけど……それにしたって、なんかエルフ少ないな? 転がってる死体を足しても、兵士の数が……ついさっきまでいたはずの護衛の数より、だいぶ。

最初の落石やがけ崩れに巻き込まれたか、あるいは、恐れをなして逃げ出したか……。


この分だと、フォルテが勝つのが早いか、エルフが全滅するのが早いかは微妙なところだ。


『フォルテ、お疲れさん』


『あ? シャープか……合流すんの、やけに遅かったな。そっちにもやっぱいたのか?』


『下っ端の豚鬼だけじゃなく、キングもね。こっちにもいるようだけど……加勢する?』


『いらねーよ、むしろそっち頼むわ。騎士のねーちゃんが頑張ってるが、このままだと全滅しそうだ』


『みたいだね……了解。レーネ!』


「OK! レガートさん、加勢します!」


「っ……レーネに……いや、助かった! すまんが、頼む!」


レガートさん、安堵のあまり僕の名を呼びそうになったっぽい……まあいいや。


じゃ、行きますか……もうひと頑張りだ!





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