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第25話 真打登場

お久しぶりです……多忙につき更新が遅くなり、申し訳ない。

夏忙しいのは去年もそうでしたが、今年は秋も忙しい……9~10月いっぱいはこの調子かもです……。


その分、ではありませんが。今回少し長めです。どうぞ。



どうやら、順調にいってるな……とか思うだけでも、だめらしい。

口に出さなくても、いらん旗が建つようだ。


ただまあ……これについては、完全にこっちの作戦負け、みたいなところがあるし、そもそもフラグ云々は最初から関係なかった、と割り切れなくもない。

レガートやフォルテも含め、僕ら全員……舐めていた。連中オークたちを。


思いのほか、順調に行き過ぎていたのが、逆にまずかったのかも。油断もあったから。


山の斜面沿い。少し道が細く、そして……というか、道と呼ぶにはいささか傾斜がきつい感じになっている場所。

そこで、僕らは……圧倒的な恐怖とか、絶望とか……そんな感じの呼称で呼べそうな奴と、対面していた。


身長は……3mはあるだろうか。


でっぷりと太った体系の豚鬼オークたちとは対照的に、ボディービルダーも裸足で逃げ出しそうなほどに、筋骨隆々の肉体。歴史の教科書で見た……金剛力士像を彷彿させる。無駄な肉なんてどこにもついてない、肉体美がそこにあった。


そんな肉体で、身の丈に合った大きさの剣を両手に持って、ごつい鎧に身を包んでるっていうんだから……その威圧感たるや、推して知るべしだ。


顔に、他の豚鬼たちと同じ豚鼻が見て取れなかったら、まず同種族だとは見れないだろう。

おまけにその目には、ただの獣の本能だけではなく、確かな知性が見て取れ……流調に人の言語を話すと来たもんだ。


名前が名前だし、豚鬼たちのパワーアップ版だとは思ってたけど……予想以上の怪物だ。

これが……『豚鬼王オークキング』か。


☆☆☆


こいつが僕らの前に姿を現す、その数分から十数分前。

僕らは、少し急いでその道を走っていた。


と、いうのも……それまで順調に、オークたちにほとんど見つからずに逃げ続けていたものの……何か異変を察知されたのか、はたまた単に運が悪かったのか、後方から大勢のオークたちがこちらに向かってきていることが、偵察の兵士の報告で分かったからだ。それも、相当な数が。


当然、見つからない+追いつかれないように、総員急いで移動を始めたのだが……運の悪いことに、前方にしばらく進んだところにも、オークのそこそこ大きな部隊がいた。

それも、斜面の道の出口付近に。


斜面の道は、ただでさえ安全のため移動に慎重になるため、足が鈍る。正直、いまのペースでも、後ろから迫るオークたちに見つからず逃げ切れるかはギリギリだ。

もし、オークたちと交戦してその間足止め、なんてことになれば、まず間に合わない。


その排除のため、先遣隊と奇襲部隊が先行し、さっさとそいつらを片付けてしまう、という作戦に出た。さっきのオークとの戦いでは、囮どころか壊滅させることができたんだから、今回もそうしてしまえばいい……と。


しかし、それがまずかった。


本隊が来る前にオークたちを早急に掃除する、という目的のため、先遣隊2つは、本体よりかなり早く進み、悪い道の出口付近にいたオークたちとの戦闘に入った。

当然この時点で、足の遅い本隊と僕らの間は、相当に距離が開いていた。


だがその直後……突如としてその道の、僕らと本隊の間のあたりで大規模な崖崩れが発生し……道が埋もれて、というか、ほとんど崩れてなくなってしまったのである。

道は最早、誰がどう見ても、通れないレベルに封鎖されてしまっていた。


その知らせに唖然とした僕らは……そのさらに数秒後、理解した。

やられた、と。


前方・後方の両方にオークの一団が確認されたこの点から、すでに仕組まれていたのだ。


前方のオークは、数はいるがそこまで多くない。

後方のオークは、かなりの数がいて、混戦になれば犠牲者多数は必至。

だったら、さっさと前にいるオークたちを倒して道を切り開き、急いで通ってしまえ。


そんな単純な結論に行き着いた結果……先を行った先遣隊と、遅れて進軍する本隊を、見事に分断されたのだ。

恐らくは……オークたちが、人為的(豚為的、か?)に起こしたトラップで。


僕らが先遣隊と本隊にわかれることを、敵は予測していた。

それをうまく利用し……両者を分断して戦力を激減させた。


一応、双方に戦闘するだけの力は残っているものの……片方は時間稼ぎ『だけ』を、もう片方は防御『だけ』を行うことを前提にしている。先遣隊が切り込んで相手の体勢を崩し、本隊がそこをさっさと通り抜けて逃げ、そして先遣隊も離脱する。それが全てだった。


そのため、いざ『片方だけ』となると、状況に応じて臨機応変に動けるだけの力がない。


足手まといを大勢抱え、突破力も機動力もほぼないと言っていい『本隊』。


戦闘力・機動力に優れ、本隊よりはましであろうものの、それゆえに荷物やら装備は最小限。継戦能力は低く、状況的に奇襲もできず、おまけに強行軍で疲労も抱えている『先遣隊』。


そこに、そもそもの問題だった『物量』を武器にしたオークの軍団がかかってくればどうなるかなんてことは……考えるまでもなくわかる。


それでも、エルフ達はレーネ含め、素早くその危機に対応し、襲い来る豚鬼たちを迎撃した。


レーネは鞄(僕)を構えて、さっきも大活躍した矢の連射弾幕で、向かってくるオークたちを一掃した。そこを物量を武器に運よく、あるいは味方を盾にして向かってきた少数のオークは、他のエルフの弓兵や、剣や槍を手にした兵士が引き受けていた。


そこには、レーネをよく思っていない兵士と、ある程度ましな兵士が混在しているけど……事ここに至っては、さすがにそれを理由に動きを鈍らせたりする者はいない。


そんな余裕はない。油断すれば死ねる戦場だ、これは。


それゆえに、今だけはいがみ合いをやめて――おそらく無意識に――呉越同舟、って感じで戦ってる。もともと戦闘訓練をある程度でも積んでるからか、いざ連携を始めればとてもスムーズだった。皆、普段以上の力を出して戦えている。


まあ、火事場のバカ力的なものも混じってる気がするけども……そんなこたあどーでもいい。

きちんと実力を発揮さえしてくれていれば、最終的に勝てればそれで何も問題ない。


敵の数の多さに正直焦ったけど、このままいけば……とか考えてた、まさにその時だった。

奴が、現れたのは。


「ブォオォァァァアアアア―――ッ!!」


「「「……っ!?」」」


突如として、戦場に響き渡った咆哮。

僕らエルフ全員が、危うくその身をすくませてしまいそうになった、その超大声の主は……その数秒後、オークたちをかき分けるようにして、のっしのっしと歩いて出てきた。


そして現れた、圧倒的存在感の巨躯の大鬼『豚鬼王』に、言いようのない絶望感をエルフ達は……ってまあ、ここらへんで冒頭のあのシーンだ。




「くっ……な、舐めるなよ、この、醜い豚鬼オーク風情がッ!」


と、そんなやられる気満々にしか聞こえない、小物感漂うセリフと共に、1人のエルフの男が特攻していき……あ、やっぱだめだった。


振りかぶったロングソードが、豚鬼王オークキングの肌に届くより先に……豚鬼王が振り下ろした大剣が、エルフの男を脳天から真っ二つにしていた。


切れ味はそこまでよろしくないのか、『叩き切った』っていう表現が似合いそうな感じだ。

多分、背骨とか内臓とかは、さぞ悲惨な状態になってるんだろうな。見たくもないが。


目の前で、あまりにもあっさりと同胞が殺されたことに頭が追いつかないのか、動こうとしないエルフ達だが、敵はそれを待ってはくれなかった。

大剣を、今度は横凪に振るう。武器の大きさや重量を考えると、信じられないくらいの勢いで。


技術も何もないように見える、しかし単なる力任せでも十分に必殺と言っていい威力を持ったその一撃は、間合いにいた2人のエルフを両断しつつ吹き飛ばした。

ヒットの瞬間にもう屍になっていたであろう2人の死体は、飛び散る血液や肉片で、あまりキレイとは言えない放物線を描きながら飛んでいき……森の奥に消えた。


「ぼさっとするなお前達! 死ぬぞ!」


と、どうやらいち早く我に返ったらしい他のエルフの誰かがそう叫んだのを皮切りに、エルフ達は再び武器を構えなおし、臨戦態勢に入った。


……訂正。入ろうとした。らしい。

失敗してるけど。


3人。同胞が無残に、しかもあまりにあっけなくやられたことで……エルフ達ほぼ全員の腰が引けてしまっている。さっきまでの戦意を保っていられている者が、見事に1人もいない。


まあ、それでも戦おうとしている者、完全に逃げ腰の者、逃げ腰というか逃げ出そうとしている者、パニックになっている者……状態と程度は様々、だな。


ただコレ、放置しておけば無視できないどころではない損害が発生するであろうことは確かだ。


エルフ達がこのざま――まあ、あんなもん見せられたわけだし、責めることもできまいが――な上に、敵の豚鬼たちが、ボスの登場で士気を高揚させてきている。

このままいけば、まず間違いなく物量と暴力に押しつぶされ、蹂躙されるだろう。


『っっ……シャープ!』


『合点!』


と、驚愕しつつも戦意は失っていなかったレーネからの『念話』に応じ、僕は彼女に構えられるや否や、鞄の横のスリットから、さっきと同じように、クロスボウの矢を乱射する。


今日一日で何十体もの豚鬼を屍に変えてきたこの攻撃。下手な鎧の防御なら貫通する威力のそれを……しかし、


「むっ!?」


豚鬼王は、本能的にコレの危険度を察知したのか、はたまた前に使った光景を見ていたのかはわからないが……素早く反応してみせた。

両手の大剣を前でクロスさせるようにし、盾にして防御したのだ。


そのせいで、撃った矢の大半が耳障りな金属音と共に弾かれ、力なく地面に落ちるか、明後日の方向に飛んでいって見えなくなる。

それでも、カバーしきれない範囲に何本もクロスボウの矢が突き立つ。的が大きいから、着弾数も多い。連射と威力にだけ力を割いて、狙いは適当にしても当たる。


しかし……


「ぐははははっ! やるじゃねえか小娘! ひ弱なエルフの分際で、この俺の肉の鎧を穿つ矢を放つか! だが……ぬぅぅぅん!!」


言うと同時に、全身の筋肉に力を籠める豚鬼王。

バンプアップにより膨れ上がる筋肉。それに押されて……なんと、刺さったクロスボウの矢が、全て押し出されて地面に力なく落ちた。


刺さっていたとうの本人(本豚?)はというと……さして応えた様子もない。矢、先端がほんのちょっとしか刺さってなかったしなあ。どんだけ頑丈なんだ、あの肉体。

というか、血ほとんど流れてない……え、もしかしてもう止まった!? どんな生命力だ!?


……つか、あまりの急展開に『鑑定』忘れてた。

恐らくは、麒麟おじいちゃんを除けば、今まで見てきた中で最強の部類であろう、この怪物。能力はきっちり把握しておく必要があるだろう……というわけで『鑑定』。



★名 前:レフトン

 種 族:豚鬼王オークキング

 レベル:43

 攻撃力:311  防御力:222

 敏捷性:117  魔法力:39

 能 力:通常能力『絶倫』

     希少能力『統率』

     希少能力『防御力強化(大)』



……マジか、コレ。

すごいステータスのがおいでなすったな。


そのへんの、普通の豚鬼オーク達とはレベルが違う。違いすぎる。

能力値だけを見ても数倍……実際はそれ以上だろう。まるで、大人と子供だ。


能力スキルも3つもあるし……おまけに、固有名まであるのか。魔物なのに。

……まあ、それは気にしなくてもいいか。僕だって名前あるわけだし。


武器も武器だし、まともに食らったら防御してても簡単に殺されるレベルだ。鎧や盾があったって意味をなさないだろう……現にさっき、エルフが防御ごと両断されてたし。


そんなことを考えていると……突如、目の前の豚鬼王オークキングのプレッシャーが膨れ上がった。


「ただのつまらねえ弱い者いじめにしかならねえと思ってたが……中々どうして、楽しめそうじゃねえか! なあ、エルフ共!」


顔の造形は、人間やエルフとはだいぶ違う。

それでも、目の前のこいつは……にやりと笑みを浮かべているのがわかった。


牙をむき、舌なめずりをしてのその表情は、醜悪であり凶悪。

見ていたエルフ達全員に、生理的な嫌悪感と、それ以上の恐怖を抱かせた。


そして、その威圧感で目に見えて動きが悪くなっているエルフ達を見据えながら、豚鬼王オークキングは体をやや前傾姿勢気味にして……


「すぐに全滅すんじゃねえ……ぞォ!!」


その直後、矢のような勢いでこちらに向けて駆け出してきた。


って……速っ!?

十数mあった距離をほぼ一瞬でつめて、瞬きすらする暇もないくらいのうちに、オークキングは僕らの前で、その2本の剣を大きく振りかぶっていた。


轟、という音と共に、空を切って叩きつけるように振り下ろされる双刃。

さっきと同じで力任せだが、その腕力で繰り出されるというだけで、その威力はとんでもないものになっていた。


間一髪、バックステップで回避が間に合ったレーネだけど……一瞬前まで彼女がいたところに、オークキングの攻撃が着弾。


瞬間、生物が起こしたものとは思えないような、すさまじい音と衝撃が発生。

大量の土砂・土煙が吹きあがり……クレーターができた。斬撃なのに。


しかし、これだけ大振りの攻撃の直後なら、多少なり硬直による隙があるはず。

チャンスと見て、他のエルフが斬りかかったり、弓矢や魔法で攻撃を加えようとする。


が、その隙は……ないことはなかったものの、エルフ達の想定よりもずっと小さかった。

本当にほんの一瞬あるかないか、という程度の硬直の後、すぐさま剣を構えなおして体勢を立て直したオークキングの横凪の一撃で、近くにいたエルフが容易く肉塊に変わる。


遠距離からの弓矢や魔法攻撃は……頑強な肉体に阻まれ、そもそも痛打になっていない。


「はっ……甘ェよ!」


そしてなんと、手に持っていた剣の片方を……ぶん投げた!?


そのまさかの行動に驚く、エルフの遠距離攻撃要員達に……超重量の剣が、当たれば死亡間違いなしの投擲攻撃アイテムとして迫る。

疾い。しかも、ただでさえ大きい上に、横に回っているので、攻撃範囲が広い。


ほんの一瞬……しかし、あまりにも致命的な一瞬を呆けて過ごしてしまったエルフ達は、はっとして防御、あるいは迎撃に回ろうとするも……到底間に合わない。

弓を構える前、魔力を練り上げる前に、その凶悪な質量の刃が眼前に迫り……


「…………はぁああああ!!」


……しかし間一髪、レーネが間にあった。


この一瞬前、レーネはバックステップから一気に反転し、地面を蹴って前に飛び出したと同時……僕に念話で合図を送ってきた。

もっとも、僕はこの展開を察して、念話を待たずに準備を始めてたんだけど。


変形トランスフォーム』発動。形態モード……『大剣』。


――ガシャガシャガシャ……ジャキィィーン!!


レーネが持っている取っ手部分を中心に……鞄は縦に割れ、中から……どう考えても体積・容積的に入りきならないであろう大きさの刃が、生えるように現れる。

まるで中華包丁のような、四角い刃。分厚いし、重量級の叩き切るタイプのものだとわかる。


鞄の外装はさらに変形し、鍔やナックルガードのような形になった。そのあちこちに、中から何か出せそうな感じのスリットがある。


1秒にも満たない時間で、目の前で鞄が変形したのを見て……エルフ達も、オークキングも、驚きに目を見開いていた。


その眼前で、レーネは思いっきり横に薙ぎ払う感じで僕を振るい、飛んで迫ってきていたオークキングの大剣を弾き飛ばす。


そして勢いそのままに、オークキングに向けてレーネが突っ込んだ。


それにまた驚いた様子のオークキング。しかしすぐに、さっきと同じ感じの笑みを浮かべ……もう片方の手に持った剣を構える。今度は、両手でだ。


ただ蹂躙されるばかりだろうと思っていたエルフ達の中に、予想外に戦える奴がいた。驚いたけど、それ自体はむしろ面白いし望むところ……とでもいったところだろうか。


突きの予備動作のように、顔の前に剣を持ってきて構えているレーネ。

中段に構えた剣を引き絞るようにして、突っ込んでくるレーネを待ち受けるオークキング。


しかし、互いの間合いに入るよりも前に……こちらがカードを切った。


レーネが構えている僕から……その鍔部分のスリット各所から、さっきと同じクロスボウの矢が何発も乱れ打ちで発射。狙い? もちろん急所――頭とか、首元とかである。


「ぬっ!?」


これにはさすがに驚いたのか、慌てて剣を盾代わりにして顔を防御するオークキング。


しかし、それによってできたわずかな隙に、レーネは間合いを詰めて懐に潜り込んでいた。


それでも、さすがというべきか……オークキングは慌てることはなく、剣をそのまま少し下にずらして急所をカバーする形をとる。


加えて、少しだけ中腰になり、重心を下にして、踏んばって耐えられるようにした。

自分が投擲したあの剣……重量級の一撃をはじいて防いだのを見て、レーネにそれ相応の腕力があることを見抜いたんだろう。野蛮に見えても、こちらを必要以上にあなどってはくれないか。


この状態で斬りかかっていれば、防御された挙句に手痛いカウンターをもらっていたかもしれないけど……ここでまたしても僕とレーネは、オークキングにとって予想外の手に打って出た。


「……はっ!!」


「何……!?」


オークキングと接触する直前、相手の刃が届かないくらいの距離・タイミングで……突如として真横に跳躍、さらにそこで大きく真上に飛んだ。


オークキングの身長をさらに超えるくらいの高さ……数mほどにまで一気に跳躍したことに、エルフ達はもちろんオークキングも驚いていたが、同時にいぶかしげにもしていた。

意図が分からない。真横に離脱したのはともかく、なぜ跳ねたのか、と。


が、次の瞬間……剣(僕)の横のスリットの1つから、ばしゅっという音と共に、ロープ付きの太いかぎ針が射出され、オークキングを挟んで反対側の木に突き刺さる。


そのさらに直後、僕はそのロープを猛スピードで巻き取る。

すると必然……巻き取られるロープの勢いに引っ張られ、空中を猛スピードで移動するレーネ、という図が出来上がる。


「なぁ!?」


翼も持たず、浮遊魔法も使えないであろうただのエルフ。

空中に放り出されたら、何もできずあとは落下するしかないはずのそんな存在が、急に高速で動き出す――剣に引っ張られる形ではあるが――のを見て、またしても虚を突かれるオークキング。


そこを狙ってまたしても連射されるクロスボウの矢。


慌ててそれを防ぐオークキング。

しかしその間に、同じことを繰り返してさらに別の地点に空中高速移動するレーネ。今度は、オークキングの斜め後ろに陣取る。


しかしそれにも反応し、発射した矢を切り払って……さすがに業を煮やしたのか、今度は接近して襲い掛かってくる。


「このっ……ちょこまかとォ!!」


さっきも見せた、その巨体に似合わない俊敏さでこっちに突撃してきたオークキングは、ものの数秒で間合いを詰めてしまった。


その巨体を挟んで向こう側に見える、生き残ったエルフ達の表情が、驚愕や悲壮を浮かべたものになっているのが見える。多分……レーネが真っ二つにされる光景でも幻視したんだろう。


そして、実際にそういう状態を作り出すべく、飛んでるハエを叩き落すように、レーネめがけて大剣を振り下ろそうとしたオークキングは……その瞬間、驚愕に目を見開いた。


なぜなら……目の前で、またしても|剣(僕)が変形したからだ。

自分に向けられた大剣の刀身が、縦にパカッと2つに割れて……それがそのまま、弓のような形になる。さらに、その中央に位置する形となった鍔の部分には、いつの間にか、凶悪な鋭さの切っ先を自分に向けて、短槍がセットされている。


これぞ、奥の手の1つ形態モード巨大弓バリスタ』である。


地面を踏み切って跳躍し、さらには得物を大上段に振りかぶってしまったばかりのオークキングは、それを回避することも防御することもできない。

その顔に驚愕を浮かべた後……しかし即座にそれを覚悟の表情に変え、そのまま突っ込んできた。同時に、胸筋を含めた胴体の部分の全体の筋肉が膨れ上がるのが見えた。


負傷は覚悟の上で、自慢の筋肉の鎧で防ぐ、あるいは耐えるつもりってわけか……力と力の真っ向勝負なら、自分の方が有利だと踏んで。


まあ確かに……下手な金属鎧すら貫通する威力のクロスボウの矢をその身に複数受けても、気にも留めずに戦えるだけのタフネスを持つ奴だ。槍が相手でも、耐えきれると踏んだのかも。


実際、エルフの兵士がこいつに、手にした槍の一撃をクリーンヒットさせたとしても……強靭な肉や骨に阻まれて、致命傷にはなりえない確率の方が高いだろう。さっきのステータスを見ても、なんとなくどころじゃなく想像できてしまう。

それを考えれば、決して無謀な選択というわけではない


ただしそれも……相手が僕でなければ、の話だ。


―――ガヒュンッ!!


発射の際、矢、というか槍のサイズゆえにか、風切り音以外にも金属音も響かせつつ射出された短槍は、オークキングの大剣がレーネに向けて動き出すよりも早く、その体に着弾し……鎧を貫通し、胴体の肉をとらえ……そのまま勢いを失わせることなく、柄も半ばのところまで豪快に突き刺さった。


その結果に、信じられないものを見るかのような表情になったオークキングは、今の一撃の威力で完全に突進の勢いを殺され……力なく墜落。


受け身も取れずに墜落したオークキングは、今の驚愕や、文字通り身を貫いているであろう激痛もあって、すぐに起き上がったり反応することができず、結果……


「はああぁあああ――っ!!」


「な――」


再度『大剣モード』に変形した僕を手にし、その刃を思いっきり振り下ろしたレーネによって……首と胴体がきれいに泣き別れになり、その生涯を閉じることとなったのである。


その強靭な筋肉や延髄、首の骨。感触からして、生半可な剣なら生身でも受け止めただろう。


けど今回は……さっきもちらっと言ったように、相手が悪かった、ということで。

今の僕のステータス……こんな感じなんだよね。



★名 前:シャープ

 種 族:変幻罠魔シェイプシフター

 レベル:9

 攻撃力:288  防御力:335

 敏捷性:244  魔法力:266

 能 力:希少能力レアスキル共鳴ハーモニクス

     固有能力ユニークスキル財宝創造トレジャーメーカー

     固有能力ユニークスキル変身メタモルフォーゼ

     特殊能力スペシャルスキル換装アームドチェンジ

     特殊能力スペシャルスキル変形トランスフォーム

     特殊能力スペシャルスキル悪魔のびっくり箱パンドラボックス

      派生:『無限宝箱インベントリ』『絡繰細工ギミックアート

         『奇術道具トリックスター



攻撃力以外の全てにおいて、敵さんより上だったわけ。

そこにさらに、僕らとの契約で能力が上がったレーネの腕力その他も加わっての一撃だったから……首どころか、その勢いのまま両腕も切り落とせてしまった。


そして、共同作業とはいえ、『使い手』としてそれを見事にやってのけたレーネは、周囲の生き残ってるエルフ達の『マジかよ』とでも言いたげな視線を受けながら……深呼吸を繰り返し、激しい戦闘で乱れた息を整えていた。


……って、ちょっと待て。オークキングは倒したけど……まだ配下のオークいっぱいいるよね? ダメだろそんな唖然としてたら。


と思ったら……そのオークたちも、なぜか固まっていた。

あ、ひょっとして自分らの大将がやられたから戸惑ってるのかな?


どうやらその予想は正しかったらしく……その動揺は時間と共に、収まるどころか大きくなっていき……しまいには恐慌状態となってしまったオークたちは、我先にそこから逃げ出してしまった。恐怖の感情を隠すこともなく、武器も放り出して、あっけなく去っていく。


……ひょっとしたら、オークキングが持ってた『統率』とかいうスキルも、この状態の原因の1つかもしれない。

名前からして集団の運用にプラス補正がありそうな感じだ。それを持っていたボスが死んで、スキルの効力が失われ……軍として機能していたオークたちも烏合の衆に、ってとこか。


まあ、ひとまずこれで……目下の危機はしのげたか。


とりあえず、摩耗した武器の整備とか交換とか……最低限の準備だけ整えたら、後ろの方にいるはずのレガートたち『本隊』と合流しないとな。

この落石による分断が敵の戦略なら……あっちはあっちで襲撃食らってるだろうし。


まあでも、あっちも僕と同じく、進化して強くなったフォルテがいるし……大丈夫だろうとは思うけども。


恐らくは、敵の最大戦力であろう『豚鬼王オークキング』だってこっちで倒したんだから、もうそんなに不安要素は……



――ぴこーん!


『条件を満たしました。特殊なクエストが発生しました』



…………ない、と思ってしまったのがまずかったんです、かね?





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