表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/118

第20話 黙示録の導き手


「はい! このたびはよーこそいらっしゃいました、新たなる『天啓試練オラクルクエスト』への挑戦者の方! わたくし、『黙示録の導き手』ことミューズは、あなたを熱烈に歓迎します!」


「うん、まずは説明ください。さっぱりわかんない」


「…………はぇ?」


狂喜乱舞を終えたと思ったら……いきなりそんなことを言い出したこの人。

とりあえず……全部説明しろ。


あんたは誰だ。ここはどこだ。何で僕はここに呼ばれた。『黙示録のなんとか』って何だ。その他もろもろ「ちょ、ちょ、ちょっと待って、ごめんホントマジ待って?」あん?


見ると、ハイテンション女子――ミューズっつったっけか。彼女は、さっきまでの楽しそうなうれしそうな様子から一転、若干困惑したような表情になって、さらに頭に手を当てて、こっちに『待って』のジェスチャーをよこしていた。


「えっと、そういうことを聞いてくるってことは……あー、もしかして……」


そこで、しばしの間空中に視線をさまよわせ、


「あの、もしかして箱さん? あなたもしかして……この本、何もわからずに使いました? アナウンスとか、ありましたよね? キークエスト、出てましたよね?」


「? アナウンスは聞こえたけど……キークエスト、出てた、って何? てか、本って?」


「あーなるほどわかりました、そーいうパターンか……あーうん、ありえる。うん。考えないじゃなかったし……うん、そうよね。現実そんなもんよね」


勝手に舞い上がったと思ったら勝手に戸惑って、挙句勝手に落ち込む情緒不安定女がいる。

ちょっと、ホントマジ説明してくれ。一体何なんだ。


「あーはい、それはもちろん説明させていただきますです。どうぞ座って。あ、足ないか」


「あ、それ今僕が言おうと思ってたのに」


「マジすか、それは申し訳ない。無意識にボケ殺ししてしまった……ま、それはおいといて、説明の方始めさせてもらってもよーござんしょかね?」


よござんすよ。やっとか。むしろ。


「えーとじゃあまずは……箱さん。あ、お名前シャープさんね。コレ、見覚えあります?」


そう言って、空間からいきなり何かを取り出したミューズは、こっちにそれを差し出してくる。

見ると、それは……あの、『黙示録の写本』だった。さっぱり用途がわからない、謎アイテム。


「その様子だと、コレがどういうアイテムなのかもしらなかったみたいっすねー。じゃ、そこから説明しましょか。コレはですね、シャープさん。その昔、神様が作った伝説のアイテムのレプリカなんですよ」


言いながらミューズはそれをめくる。

その本は……僕が見た時と同じように、ページは何も書かれておらず、真っ白……じゃない?


開いてめくった最初の1ページから、いきなり何か書かれてる!?

えーと、何々…………詩か、コレ?


☆☆☆


かつて世界は、今よりも広かった。

今よりも平和で、今よりも解き放たれていた。


空に限りはなく、地平に壁はなく、

人々は思うがままに、世界に生きるという自由を享受していた。


輝かしい時代は、しかし、唐突に終わりを告げた。

世界の果てより現れし、魔なる物たちの侵略によって。


人々は剣を、弓を、杖を手に、勇敢に戦った。

しかし、無限に押し寄せる魔なる物たちの侵略は、止まらなかった。


人々は追い詰められ、時に滅び、時に逃げた。

打ち捨てられた土地には、魔なる物たちが住処を広げていった。


魔なる物たちがはびこるところ、邪悪なる力のはびこる穢土と化す。

世界全てが穢土となる。それすなわち、世界そのものの死を意味する。


それを嘆いた神は、穢土に染まりつつある世界を救うため、奇跡を起こした。

世界はそれそのものが、魔を封じ、人々に試練を与える迷宮と化した。

その時より、この世界は、狭く、閉じた箱庭となった。


神は言った。

『この世界に生きるものよ、私の試練を受けよ』

『己が力を持って戦い、魔の闇を退け、光ある未来を切り開け』

『さすればいつの日か、世界はあるべき姿を取り戻すだろう』


この本は、神よりもたらされたもの。

閉じた暗き世界の中で、希望の未来へ進むための、道標みちしるべ

その紙面に神の意志たる試練を現し、成し遂げた者に褒美を与えん。

この本を手に戦う全ての者達に、いつの日か勝利の栄光があらんことを。


☆☆☆


「わかります?」


「あんまし」


「でしょうねー。まあ簡単に説明すると……むかーしむかし、この本が作られた時代に、悪魔が世界に攻めてきた、って言われてるんですよ」


「悪魔?」


「はい。魔族とか言ってもいいかなー。で、その戦い、結局当時の人間とかその他もろもろ、負けちゃったんですよね。で、あわや世界滅亡、ってところになって……神様が介入して、魔族その他をまとめて封印したんです、結果、どうにか首の皮一枚的な感じになりました」


「なら……よかったんじゃないの?」


「いえ、そーでもないです。確かに世界は助かりましたけど……今言った通り『まとめて』……そこに暮らしてる人たちとかも一緒に封印しちゃったんで」


「おい!?」


「外の世界を知ってるならお判りでしょうけど……ここ、世界そのものがダンジョンでしょ? つまりはそういうことなんですよ。ダンジョンの中に、魔族やら何やら全部封印した、と。で、そのまま放っとけばとりあえず世界は大丈夫なんですが……ダンジョンの中で、一緒に封印された人間とか色々な方々が、最悪、一緒に閉じ込めた魔族やら魔物に殺しつくされます」


うん、全然大丈夫じゃないね。

いやまあ、非情に徹するんであれば……世界のためにそれらを切り捨てる決断をした、っていうのも……神様視点からすればアリなのかもしんないけども。


それにしたって、封印された人たちはたまったもんじゃないだろうな。いくら、そのままほっとけばどのみち世界ごと滅んでお陀仏だったとはいえ。


「で、こっからが重要です。ダンジョンってのは基本無法地帯であり、魔物が跋扈する危険な場所なわけです。けど同時に……作った神様の力を、より大きく反映させやすい環境でもあるんです。聞いたことないかな? ダンジョンを攻略して、特定のアイテムを手に入れたり、特定の魔物を一定数以上倒したりすると……特殊なアイテムとか、能力スキルが手に入るって」


「まあ、聞いたことくらいは……あるような、ないような」


うん。確か……麒麟おじいちゃんの話とか、フォルテとの雑談の中に、そんな感じの内容があったような気がする。


「実はそれ、神様の設定した『試練』に打ち勝った褒美なんですよ。ある特定の条件を達成することで、世界そのものからご褒美が降りてくる仕組みになってます。これは、ダンジョン攻略におけるデフォルトでの仕様なんですけど、この世界ではそれを最大限に強化して、魔族と一緒に封じ込めちゃった人たちへの神からの恩恵とし、彼らが全滅しないためのある種の武器にしてるわけです。で、その仕組みの集大成とでも呼ぶべきものが、コレ。『黙示録』なのです」


そして今度はミューズ、手の上の『黙示録の写本』に、なぜか布をかけておおい……ぱちん、と指を鳴らしてから布を取り去ると……その下にあった本が、別なものになっていた。


ボロボロの古びた本だったそれが、今は……赤銅色の光沢をわずかに放つ、真新しい、立派な装丁の本へと姿を変えていた。


「ま、今は覚醒して、この『銅の黙示録』に名前変わってますけどね。要はこの『黙示録』シリーズについてなんですが……このダンジョンの世界の中で、あなたが挑戦できる、神からもたらされた試練……『天啓試練オラクルクエスト』がここに記されてるんです」


言いながら今度は、その本をパラパラとめくるミューズ。

その本は、さっきまでと違い……どのページもびっしりと文字で埋め尽くされていた。白紙の本の面影は、もうどこにもない。


「『天啓試練オラクルクエスト』は、クリアするたびに、色々な報酬を神様から、世界そのものから受け取ることができます。時にアイテム、時に財宝、時に武器、時に能力スキル……確実に言えるのは、こなすほど強くなれる、ということ。この『黙示録』は……世界で起こっている問題を積極的に解決すると同時に、使い手がどんどん強くなれるようにと、神様がもたらしたアイテムなのです」


「何の目的で?」


「ダンジョンの中に一緒に閉じ込めてしまった人たちを救うための、足掛かりとして……と聞いています。強くなれれば、それだけ魔物たちに対抗する手段が増えるし、確かな防衛力となる。ダンジョンの中で、魔族や魔物に押しつぶされて人が滅ぶ、という未来に、より効果的に歯止めをかけられます。あわよくば、そうして強くなって……最終的に、ダンジョンから魔族を駆逐しつくしてしまえ、っていう意図もあったかもしれませんね」


なんか……選ばれた勇者とかがもってそうな感じのアイテムだな、それ。


「実際に勇者が持ってたりするらしいですよ?」


マジで?

てか、勇者とかいるの? この世界。


「ええ、まあ。ただ、ゆーても基本アイテムですからねコレ。コレを持つことによって戦いの宿命を背負うとか、何かをしなきゃいけないとか……強制力っていうの? そういうのはないんですよ。ただ、うまく使えばめっちゃ強くなれるよー、っていうね。もしよかったら、その強くなった力で、周りの罪もない一般市民とか守ってあげてね、っていう神様のささやかな願いが詰まってます」


「なるほどね……そういうもんなのか。じゃあ、コレ持ってるからって、あまり変に何かを意識するようなことはなくてもいいわけね」


「そうそう、そんな感じで気軽に気楽に構えちゃってくださいな。まあもちろん、個人的には弱きを助け云々的な感じで戦ってくれればうれしいけどもね。他に質問とかある?」


「んー、じゃあ、最後に1つ」


「ほいほい、何?」


「えっと……ミューズさんだっけ? あなたは結局何者? 神様?」


「うん? あれま、言ってなかったか、うわちゃー、こりゃ失敬」


ぺし、と額を手のひらでたたいて、『うっかり』的なリアクションと共に言うミューズ。


……仮にこれで『神です』って答えられたとしても、何か……敬ったりとか、そういう対応がちょっと難しそうな印象が、今、僕の中で固まりつつある。


「あー、何だろ。私はねー……言ってみれば、この本……シャープ君が持ってる『黙示録』に宿ってる疑似人格というか……妖精みたいなもんかな。必要に応じて、シャープ君に助言とか色々出したりする感じの役目だよ。今回のこの、初回チュートリアルみたいにね」


「なるほど……理解した。これからよろしく、でいいの?」


「おう、よろしくですとも。あ、今回シャープ君、最初のキークエクリアしたことで、完全にコレの『所有者』になったから、もし私に話しかけたければ、以後は念じるだけでいいよ?」


「了解。何かあったらよろしく。多分、使うのこれっきり……ってことはない気がするから」


そんなに便利ですごいアイテムなら……活用しない手はない。

神様の思惑は正直あんましわからんけど……まあ、頭の隅に置いとくらいのことはしとこうかな、と思ってる。今んとこね。


「おーけーおーけー、じゃんじゃん活用してくれたまえ。それじゃ、これにてチュートリアルは終了! 意識を元の世界に戻すね」


そうミューズが言うと同時に……僕の意識が、急激に遠くなっていく。


ああなるほど、この世界……チュートリアル用の空間から出るってわけね。あの、元の洞窟に戻るのね。

と、僕が納得し、その流れに身を任せようとしていたら、


ミューズが唐突に、何か思い出したように……『あ、そうだ』とつぶやいた。


「シャープ君さ、『黙示録』の所有者になったことで、色々得点受け取れると思うよ? 例えば、特別な能力スキルとか、ステータス補正とか、特殊な進化先とかさ。つってもまあ、来たらその都度アナウンスあると思うけど……戻ったら一応、チェックしてみてねー」


え、ちょ!? このタイミングでなn―――




特殊能力スペシャルスキル『黙示録の綴り手』を手に入れた!』

『条件を満たしているため、特殊な進化先が解禁されました。一覧から確認できます』




☆☆☆



「――るんてこと言うば……っ……」


そして、僕の意識は……視界は……洞窟の中に戻ってきていた。


さっきまで……それこそ、僕があの不思議空間に意識を飛ばした直後と、全く変わらない景色がそこにあった。

恐らくは……あの空間に意識を飛ばしていた時間は、ごくごくわずか何だろう。


しかし、あそこでの体験が、夢や幻の類ではない、ということは……僕のこのステータスが、雄弁に物語っている。



★名 前:シャープ

 種 族:狩喰箱ハンターボックス

 レベル:30

 攻撃力:200  防御力:245

 敏捷性:158  魔法力:140

 能 力:通常能力コモンスキル『擬態』

     固有能力ユニークスキル財宝創造トレジャーメーカー

     特殊能力スペシャルスキル悪魔のびっくり箱パンドラボックス

      派生:『無限宝箱インベントリ

     特殊能力『黙示録の綴り手』NEW!!


『進化先を選択してください(保留中)』


『選択肢① 銀人喰箱シルバーミミック

『選択肢② 殺喰箱キラーボックス

『選択肢③ 魔導罠箱マギウストラップ

『選択肢④ 変幻罠魔シェイプシフター』NEW!!



「……おい、何だいきなり大声出して……女共が起きるぞ?」


色々と考えているところに、横からかわいそうなものを見るような目で見ながらそんなことを言ってきたフォルテには……とりあえず、後で説明することにしよう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ