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転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
第1章 はじまりの洞窟のエリア
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第2話 ミミックの生き方



まずは……状況を整理しよう。

もう何度もやってるような気がするけど、他にやることもないのでもっかい整理しよう。


僕が人間だった頃の最後の記憶は……確か、町内会の行事のキャンプに参加してて……そこで、小学生の小さな参加者たちの引率・監督しながら、昆虫採集してたところだ。


別に子供が好きとか、アウトドアが好きとか言うわけじゃなくて……ただ、バイト代が出るからちょっと小遣い稼ぎに、って程度の理由だったと思う。

事務的に、仕事だけしてたような気がする。頭の中では、バイト代で何買うか考えつつ。


で、そんな中……首筋にちくっとした感触を覚えて……ああ、そこから記憶がない。


多分だけど、アレ、ハチだったんだろうな。

僕、小さい時に1回ハチに刺されたことがあったはずだから……アレでいわゆる、『アナフィラキシーショック』とか起こして、それで死んだのかもしれない。


うわぁ、完全なる不幸なめぐりあわせだわ。ただの。


子供をかばってトラックに轢かれたわけでもなければ、通り魔に刺殺されたわけでもなく、神様が手違いで殺しちゃったわけでもない。ホントに普通の?死だ。


……まあ、死に様はともかくとして、そこからこうして僕が転生しているのは確かだ。

…………ミミックに。


僕けっこう、ネット小説とか好きで、よく読んでたけど……珍しいパターンかも。

虫とか、ゴブリンとかに転生ってんならまだ小説で聞く話だけど……無機物・無生物に転生はさすがにあんまりなかったと思うなあ……つかコレ、転『生』でいいのか?


まあ……魔物だし、生きてるには違いないと思うから……いいか。


いいとして……これから僕はどうすりゃいいんだ?


よくある転生ものだと、その転生した魔物として生き抜いてやる! ってな感じで主人公が決意して戦っていくパターンが多いけど……うーん、果たして僕にそんなことができる強靭なメンタルがあるかどうか……


そう考えると、小説の主人公の皆さんってすごいよなー……いきなりモンスター無法地帯に叩き落されても、めげずにサバイバルして立身出世だもんなー。

現代っ子にはなかなかない能力だよ……マジ尊敬するわ。


……っていうか、それ以前の問題が1つある。


いや……僕の場合、『それでいいのかどうか』……ってとこだよ。


ミミックとして生きる? いや、だからそれ……『どう』生きるんだって話。


そもそもだ……考えてみて、浮かんでこないんだもんな。『ミミックの生態』とかって。


RPGでよくあるミミックの特徴って言ったら……『宝箱に化けて、財宝目当てに近寄ってきた人間を食い殺す』ていう感じだろう。多分、ほとんどのゲームでそういう扱いのはずだ。


そして、それだけだ。


普段何を食べて、何をして過ごしているとか、そういう知識はない。

というか、気にしたこともなかった。


だって、ミミックってそういうもんじゃん。トラップとしての存在意義しかないじゃん。

それ以外の場面でのミミックとか、考えても仕方ないじゃん。出番も需要もないもん。

多分だけど、ゲームの開発スタッフだってそんなこと考えてないだろう。


でだ。話戻るけど……そうなると僕、いったいどうすりゃいいんだ。


この石造りの部屋……ひょっとしたらダンジョンかもしれないここで、トラップの1つとして、ただひたすらに誰かが来るのを待っていればいいのか? そして現れた哀れな人間――かどうかはわからんけど――を、まんまと罠にはめて食い殺せばいいのか?


……それ以外にやることないのか?


……そもそも、人、来るのか? ここ。

この部屋……なぜか、窓も扉もないんだけど。隠し部屋みたいな位置づけなんだろうか? だとしたら、ますます人が来そうにない環境、ってことになるんだけど……。


ただ、壁には松明たいまつが備え付けられている。


どう見ても人工物だし、こんなものがあるってことは人も来るってことだろう……と、最初のうちは思ってたんだけど……どうやら、それもちょっと違うかもしれない。


というのも、この松明……僕が『転生』し、ミミックとしての意識を持ってから……おそらくは丸一日以上は経っただろうに――時計ないからわからんけど――延々と、平然と燃え続けている。


松明ってさ、油とか燃料をしみこませた布を巻き付けたりして、それを燃やして明かりにするじゃん? つまり、燃えるものがなければ燃えないっていうか、いつかは消えちゃうわけだ。


なのに、普通に何時間、何十時間、何日間とぶっ続けで、火の勢いすら変わることなく燃え続けているって……おかしいよねどう考えても。誰がメンテしてるわけでもないのに。


……よく考えてみれば、RPGのダンジョンでなんて、人の手が入ってる描写があろうがなかろうが、壁とかにある松明が途切れることなんてない仕様は当たり前だし……この松明も、なんかそういう不思議な法則によって、燃料補給なしでも燃え続けるのかもしれない。


さて、こんな風な推察もできたことから、おそらくここは異世界であり、ダンジョンなんだろうなあ……というところにまで思い至ったわけだけども……そうなると本格的に、この部屋、だれもこないんじゃないのか?


いや、来たところで、それはそれで困るんだけどさ……


仮にこの部屋に、人間が入ってきたとしたら……そいつの行動、予想ついちゃうし。

部屋に宝箱が! → 開ける → バトル開始! ……たぶん、これで大体あってる。


それを考えると……別に誰にも来てもらわなくてもいいかもしれない。


幸い、と言っていいのか……どうやらこの体は、食事の必要がないようだ。

目覚めてからかなりの時間こうしているが、全く腹が減らない。


つか、顔というか体全体が口、といってもいいようなこの体……消化器官とかあるのかもわからん。仮に獲物が来たとして……食いついて、その後のみこんで、食ったものはどうなるんだろう? 消化するのか? 吐き出すのか? 単に消えるのか? うーん……わからん。


わからんし、わかりようもない。何か試しに食ってみようにも、食えるものがない。

食料、っていう意味ではもちろん……単純に、口に入れられるようなものがない。


……まあ、わかんないんなら気にしても仕方ないか。


しかし、そうなるとホント、これからどうするか……。


人が来る・来ないにかかわらず、この部屋にい続けるってのもな……さすがに、何もすることがなくて暇だ。


今までは、突然の『転生』なんて事態にパニックになってたせいや、色々と考えることが多かったせいもあって、そういうのを感じずにやってこれたけど……ある程度思案を終えて落ち着いてきてしまうと、途端に襲ってくるのは……退屈だ。


何もない、薄暗い部屋で、ただひたすら動かずにじっとしている。


……きついもんがあるな。前世で半ばスマホ中毒だった僕には。


さっきは面倒って言ったけど……これなら、誰か訪ねてくるくらいはしてくれてもいいかもしんない。バトルは嫌だけど。


それか……僕がこの部屋から出られれば、それでもいいのかも知れないな。


今更ながら思い出したけど……こないだ、この部屋を蝙蝠が飛んでたっけ。

けど、今はもういなくなっている。

無論、僕が食い殺してしまったとか、そういうんじゃない。


と、いうことは……あの蝙蝠は、この部屋を出ていった、ということだ。何らかの手段で。

となれば……僕だって、この部屋から外に出ることはできるのかもしれない。よっぽど小さな、抜け道とか使ったような手段でなければ。


そして僕は……こんなナリだけど、動けないわけじゃない。

ふた(口)はもちろん開閉するし、舌も結構器用に動かせる。ドアノブ回すくらいはできそうだ。


加えて……足はおろか、筋肉なんてものすらないのに、まるでばねでも仕込まれているかのように、ピョンピョンと床をはねたり、ガタガタ、ズルズルひきずるように移動できる。

床に箱の底面がぶつかって音を立ててるわけだから、うるさいけど。


もしこの先……退屈が限界に達して耐えがたいほどの境地に至ったり、あるいは他の理由でこの部屋にいたくなくなるようなことがあれば……その時は、外に出る、っていう選択をしてみてもいいかもね。


ま、出方わかんないし……今んとこは、とりあえず部屋の中でゆっくりしとくかな。





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