第19話 動き出す『物語』
「まずは、お礼を言わせて……2人とも、本当にありがとう!」
「ああ。おかげで助かった……感謝している」
追ってきていたオーク、総数11匹。
そいつらを全滅させ、腹に収めて収納し、とりあえず離れたところにある洞窟まで来た。
エルフが狩りの時に拠点にしている場所の1つ……ってわけじゃないけど、それなりに広さもあるので、一時的に休憩するにもってこいの場所だ。
そこで僕らは、助けた2人……レーネとレガートから、そうお礼を述べられていた。
あ、ちなみに、呼び方は2人とも呼び捨てでいい、って許可もらってる。
「いえいえ、無事でよかったです」
「無事っつーか、ケガはしてるけどな、普通に」
「いや、十分に無事さ。お前たちに助けてもらえなければ……今頃、2人ともオーク共につかまっていただろう。そうなれば……想像もしたくないことになっていただろうさ」
と、レガート。洞窟の岩壁に体を預け、笑い話のようにそんなことを。
体のあちこちに傷を負っていたレガートだが、一応、治療は終えている。
僕が洞窟その他で調達してきた回復薬を使おうかと思ったけど、それより先にレーネが自前の回復薬を取り出して使っていた。効き目は上々で、血は止まり、細かい傷がふさがっていく。
そこにさらに包帯で応急処置を施し、とりあえず後は安静に……ってところだ。今。
少し休めば……全回復は無理だろうけど、とりあえず動けるようになるだろう。負傷していた足も、幸いなことに骨は無事だったし。
なお、レガートは最初、僕とフォルテに対しても警戒感バリバリだったんだけど……レーネの説得と、さっきこうして助けてやったこともあり、一応は信用してくれるようだった。
あの日、ゴブリンたちからレーネを救ったのも僕らだと、さっき暴露済みだ。
ただ、様子からして……完全にはまだで、見極め中、って感じだけど。
まあ、このへんは仕方あるまい。僕ら、魔物だし。
とりあえず、休憩の間、色々と話を聞いて時間をつぶすことになった。
「つまり、何の前触れもなく、いきなりオークの大群が攻めてきた、と?」
「ああ……いや、今になって考えれば、前触れはあった。森の魔物たちが騒がしくなっていた件……あれは、オークの大群の接近によるものだったのだろう」
記憶を掘り起こし、悔しそうにぎりっ、と奥歯を鳴らすレガート。
「森の中は魔物たちの縄張りになっているが、連中なら縄張りにいる魔物たちを皆殺しにして場所を略奪するのは難しくない……そうして進行ルートを確保していたのだろうな」
「でもさ……300以上いたんだよね、オークの大群。そんな大規模な群れが近づいてきてたのに、何で察知できなかったの?」
「それは……」
「見回りのルートの問題だろ。基本的にエルフの連中の警戒範囲は、村の周囲と、いくつかある獣道だけだ。群れからはぐれた魔物や、魔物の群れの襲撃への対処がメインだからな……はっきり言って、それ以外の事柄に対しての警戒がザルなんだよ」
「……!」
と、割り込むようにして指摘してきたフォルテの言葉に、驚きをあらわにするレガート。
その横を見ると、レガートほどじゃないが、レーネも驚いている。
「そもそも、里の外と関わること自体、ほぼ前提にしてないからな、あいつら。何か来るとしても、険しい森の中を進むなら、少しでも楽な道を選んでくるだろうってあたりつけてる。ひきこもってれば安全、攻め込まれるなんて夢にも思ってない。仮に思っていたとしても、見つけてから対処しても十分なんとかなるとか思ってた……はっきり言って平和ボケだ」
「その裏をかいた手段に出たオークたちに、結果見事にやられたってわけ?」
「さてね、裏をかいたつもりが連中にあったのかどうか……案外ただ、獣道は全員で通るには狭いから適当に進軍してきた結果、偶然エルフの警戒ルート外から来た、ってだけかもな。ま、だとしたら本格的にどうしようもなかったが……っと悪ぃ、つい言い過ぎた」
「……いや、本当のことだからな……何も言えんさ。だが、1つ聞かせてくれ。お前……フォルテ、といったか? なぜそんなにも、我々の集落のことに詳しいんだ?」
「村のはずれに、偏屈な魔術師が住んでたろ? ほら、自意識過剰っつーか、選民意識の凝り固まった感じの……何つったっけ、ライス?」
「ライ……いや、ラオスか!? そうか、奴が持っていたガーゴイルだったのか……!」
白米? って突っ込む前に、レガートはその、フォルテの元主人の正体に思い至ったようだ。
聞けば、少し前に生まれ故郷であるこの隠れ里に戻ってきたエルフらしく……それ自体は比較的歓迎されたものの、都会暮らしが長かったせいか、何か妙に偉そうにしてたそうな。
都会で暮らしていろいろ勉強してきた自分はすごい、みたいなこと言いだしたとかなんとか。
……幼稚園児を相手に威張る小学生、みたいなもんか? 程度低いな。
そんなわけで、速やかに嫌われ者になったらしいんだけど……それを見返そうとして、フォルテを連れてあの洞窟のダンジョンに潜った結果……ああなったと。
「あ、先に言っとくがよ……俺別に、エルフの里には何の義理も何もねーから、前の主がエルフだったから自分たちのために戦え、とか言われても知らねーかんな?」
「ああ、そんな恥知らずなことは言わんさ……安心してくれ。むしろ、そんな事情があったにも関わらず、助けてくれたことに……感謝する」
「あっそ……ならいーんだけどな」
「……でも、レガートさん、これから私たち、どうすれば……里は連中にやられちゃったみたいですし、協力して対処しようにも、里の他の皆は……」
「ああ、散り散りになってしまった。だが……」
そこでレガートは、少し考え込んで、
「……おそらくだが、全員とは無理でも、ある程度の人数との合流なら可能だろう」
「……っ!? 本当ですか!? どうやって!?」
不安そうにうつむいていたレーネだが、ばっと顔を上げてレガートを見る。
「この辺りに、我らエルフが狩りや自警団のためにあつらえた、洞窟型の拠点がいくつかあるのは知っているな? そのうちの特に大きい一つが……有事の際、村人の避難先として設定されているものなのだ。そこになら、武器も、食料もある。皆、まずはそこをめざすだろう」
だが、とレガートは続ける。
「もうすぐ夜だ……魔物の跋扈するこの森を、武器はあるとはいえ、夜に移動するのは自殺行為……朝になってから動くしかないな。今は……ゆっくり休もう」
「……はい……わかりました」
どうやら、方針は決まったみたいだ。
とりあえず、今日は休むってことね。懸命だな。必死に逃げてきたから気づいてないんだろうけど……相当疲れてるだろうし、それがいい、それがいい。
その証拠に……ほら、2人とももう寝ちゃったよ。
……しゃーないな、朝までの見張りは僕らでやってやりますか。僕ら、寝なくても平気だし。
しかし、その後はどうするかねー……?
横を見ると、どうやら同じことを考えてたのか……こっちをちらっと見てるフォルテと目が合った。僕目ないから、向こうは目が合ったって気づいてないかもだけど。
……ちょうどいいから、今話しとくか。これから僕ら、どうするか。
「ねえ、フォr……」
――ぴこーん!
『キークエスト『運命の子を救出せよ!』を達成しました』
『これによりシャープは、『黙示録の写本』の正当な所有者となりました』
『これにより『黙示録の写本』が変化します……変化が完了しました』
『シャープは『銅の黙示録』を手に入れた!』
『黙示録の所有権獲得により、『天啓試練』が解禁されます』
『所有権獲得が初回のため、チュートリアルに移行します』
……はい?
え、ちょ、何コレいきなり……
と、僕が心の中で思うよりも若干早く、唐突に……あふれ出るように頭の中で響いたアナウンスと共に、僕の視界が真っ白に塗りつぶされ……
……その、さらに直後。
僕の目の前には……
「うぉー! ホントにきたー! もうここ1000年くらいさすがにもう無理だろうなーってあきらめかけてたのに来たー! 来てくれたー! うわー、超うれしー! 私いらない子回避いぇーい!!」
……タートルネックのセーターにゆったりめのズボン、ロングの茶髪という格好の、女子高生くらいの女の子が……何か、ちょっと頭の方を心配するレベルで狂喜乱舞していた。
……え、何この状況? コレ、誰!? ここ、どこ!?