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第15話 お別れとお約束



エルフっ娘がポーションを飲んで一息つく間に、僕はさっさとゴブリンたちを回収してしまう。無論、食って=収納して。

味覚ないし、最近は色々とゲテモノと呼べるようなものも食べてるから、忌避感もない。


ただ、食べると自動的に素材に分解が可能らしい僕の体の謎機能をもってしても、ゴブリンは『ゴブリンの死体』という表記のままだった。

どうやら、こいつらの体に素材として有用な部分はないらしい。


つまんないの、と心の中でぼやきつつ、向き直ると……少女はちょうどポーションを飲み干したところだったようで、体の表面にあった細かな傷はふさがっていた。


「……ごちそうさまでした」


「はい、お粗末様。美味しかった?」


「まずかったわよ……明らかにアレ、味とかそういうの考慮されてない薬でしょ……」


エルフ娘は、我慢していたらしい、どうにか整えていた表情を、僕の質問に答えると同時に、げんなりとしたそれに変えて言った。


うん、まあ、知ってたけどね……鑑定して。



★品 名:エルフの回復薬ポーション

 レア度:3

 説 明:エルフ秘伝の調合法によって製作された飲み薬。傷の治癒や疲労回復に効果がある。効果はそれなりに高いが、味は度外視して作られているため、吐かずに飲み下すのはやや大変。



……などという説明文を目にしていた。


けどまあ、効果が確かなら問題ないでしょってことで、進呈させていただいた次第である。

決して、まずさのあまり吹き出しでもしたら指さして笑ってやろう、とか考えていたわけではない。僕指ないけど。


それに、どっちみち手持ちの回復薬ポーションはあの種類だけだったしね。


「しかし、その割にゃ一気飲みしてたよな? 我慢強いというか……喉でも乾いてたか?」


「いや……薬の味には慣れてるのよ。よく作るから」


え? よく作るって……もしかして、薬師さんとかですか?


「別にそうじゃないけど……エルフは昔から、森と共に生きてきた種族だから……誰でも多少なり調薬の知識や技術は持ってるものなのよ。旅してるエルフとかは、小遣い稼ぎに自分で調合したポーションを売ったりもするらしいわ。私たちが作ったそれは、人間のそれより効果が高くて、いい値て売れるから。私も、似たような感じ」


「あ、本職ってわけではないのね」


「ええ……もっとも、それ以外に収入を得る手段がないから、実質は本職だけどね」


「うん? それってどういう意味―――!」


その瞬間、僕とフォルテがほぼ同時に……それに気づいた。


((何か……来る!))


洞窟の外から……何かが近づいてくる。

直感的にわかる。ゴブリンなんかとは……全く格の違う、何かが。


その直後、僕とフォルテは素早く動いた。


フォルテは奥の壁際に、僕は側面の壁際にそれぞれ飛び退る。

そしてそのまま、身じろぎ一つせず……『擬態』を開始した。


「……え? え、ちょ……な、何?」


突然の僕らの行動に、きょとんとしたのちに慌て始めるエルフっ娘。


しかし、僕らは答えない。あくまで、石像と宝箱のふりをするのに徹している。


あ、勘違いしないでね? コレ別に、迫りくる何かしらの脅威に対して、やり過ごすためにエルフっ娘を見捨てて退避してるわけじゃないから。

あくまで、僕ら『トラップ型』の魔物の真骨頂……『奇襲』のためだから。


ただし、あんまりにも相手が強そうな場合はその限りでは……ごにょごにょ。


……それはいいとして……洞窟奥で『擬態』しているフォルテはアレ、狙ってやってんだろうか? とっさに取ったであろうポーズが……すげー見たことあるんだけど。


具体的に言うと、両手と片足を上げて口を適度に開いて……もう一回言おう、超見覚えある。

生前家族旅行で行った大阪の道頓堀とか、近所の駄菓子屋あたりで主に。


……やばい、一旦意識してしまうと、笑いをこらえるのが存外に大変だ。


耐えろ、頑張れ、僕の腹筋! あ、僕腹筋とかなかった。


早く! 早くこい、何かもしくは誰か! 味方からのまさかの攻撃で、擬態に綻びががが……。


人知れず僕が苦行に耐えている中……とうとう、それはやってきた。

洞窟への来訪者、その正体は……


「……いるか、レーネ? 無事か?」


「……っ! その声……レガートさん!?」


洞窟の入り口から聞こえてきた声に、エルフっ娘……レーネが反応。

それと同時に、そのレーネの声を聴いたのであろう……『誰か』が姿を見せた。


目視にて視界に収めると同時に……はい、すかさず『鑑定』。



★名 前:レガート・ディミニー

 種 族:エルフ

 レベル:31

 攻撃力:59  防御力:23

 敏捷性:78  魔法力:92

 能 力:希少能力『精霊魔法適正』



一言でいうと……入ってきたのは、金髪ロングヘアの女騎士だった。エルフの。

あまり重厚さのない、動きやすさ重視っぽい鎧を身にまとい、手には抜身のロングソード。


たたずまいや動きは、素人目にもそれなりに洗練されいているとわかるもので……彼女自身の見た目の単純な美しさも相まって、余計に優雅?見事?に見える。


しかしまあ……これは中々どうして、高いな、能力値が。

こないだの『フォレストウルフ』に比べれば、ちと見劣りする部分はあるものの……それなりに強力なステータスだ、と言っていいだろう。


この世界の訓練された兵士の平均的な能力値が、せいぜい30から50程度だってことを考えれば、十分に一流とか、その辺の扱いをしても問題なさそうな数値だ。


……ただ、僕らからすると……そこまで脅威でもなかったり。



★名 前:シャープ

 種 族:狩喰箱ハンターボックス

 レベル:22

 攻撃力:160  防御力:195

 敏捷性:121  魔法力:120

 能 力:通常能力コモンスキル『擬態』

     固有能力ユニークスキル財宝創造トレジャーメーカー

     特殊能力スペシャルスキル悪魔のびっくり箱パンドラボックス

      派生:『無限宝箱インベントリ



★名 前:フォルテ

 種 族:魔導ウィザードリィ悪魔像ガーゴイル

 レベル:26

 攻撃力:119  防御力:159

 敏捷性:139  魔法力:168

 能 力:通常能力『擬態』

     通常能力『魔法適正』

     希少能力『自己修復オートリバイブ



うん、多分これは、明らかに僕らの方がおかしいというか、特別……と言っていい感じのステータスゆえなんだろうけど。

……これなら、わざわざ擬態する必要とか……なかった、かな?


いやでも、波風立てない、っていう点で考えれば……正解だった。


今現在、目の前で繰り広げられている光景を見てると、そう思う。

感動の再会……って感じで、2人はひしっと抱き合っている。知り合い……程度の関係でないのであろうことは、この時点で明らかだった。


ついでに言えば、2人ともスタイルがナイスバディといっていいそれなので、お互いの胸部装甲がハグのせいでぎゅっとむにゅっとぷにゅっと……なんでもないです。


ともあれ……どうやらこの女騎士ことレガートは、レーネを助けに来たようだ。


それなら話は早い、さっさと連れ帰っちゃってください。

僕らはここで大人しくしてるので。出てっても、厄介ごとにしかならないだろうし。


そんな僕の願いが天に通じたのか知らないが……レガートは、レーネの体に特に目立った傷などがないことを確認すると、その手を引いて洞窟の出口に向けて歩き始めた。


その時レーネは、ふと思わず、といった感じで……僕ら2人? 2体? の方を振り返る。


しゃべらず、動かず、じっとしてただのモノになっている、宝箱の僕と、石像のフォルテっ……ぶふぉっふ……!! …………!!


――ごとごとっ


「? 今、何か音が……いや、気のせいか……」


「……そうですね……」


物音を聞いて振り返るも、何も変わったところがない様子だと見て、再び歩き出すレガート。

何か言いたげにしつつも……何も言わず、代わりににこりと一度だけこっちに向けて微笑みかけ、レガートについていくレーネ。


それを見送り……さらに、洞窟の出口より先に、2人の気配が全く感じとれなくなるのを待って……


「…………行ったみてーだな」


「そうだね……さて、それじゃあ」


「うん?」


「一発殴らせろこのバカーゴイルがぁ―――っ!!」


「うぉい!? 何だいきなり!?」


さっき、レガートのステータスに気を取られて『それ』を一瞬忘れた後、再びフォルテの姿を目にして、不意打ち気味にそのポージングの破壊力にあてられ、危うく擬態がばれそうになって焦っていた僕の八つ当たりが始まります。


覚悟しろこのグ○コ!! 手がないから殴れないなんて思うなよ、箱の角部分を使えばそのくらいいくらでも可能だってことを教えてやる!


「何だおいマジでいきなり!? 俺が何をした!?」


「うるさいこのKY! あんな場面で往年の定番コント仕掛けみたいなもん用意して人の腹筋に不意打ちしかけやがって! 笑いを取りたきゃ素直にその顔面を武器にしろ!」


「せめて意味と意図くらいはわかるようにしゃべれ!」


最後は結局そんな感じの空気になってしまったため……レーネと別れることになってちょっと寂しいな、とかいう空気は瞬く間に霧散、というか構成すらされないまま、しばらくの間洞窟からはぎゃあぎゃあとうるさい声と、硬質な衝突音・打撃音が聞こえてくるのだった。




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