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第14話 ハーフエルフの少女



ゴブリンたちを一掃し、静寂の訪れた洞窟の中で……僕とフォルテは、ゴブリンたちの『獲物』であったエルフ(多分)の少女を前に、さてどうしたもんかと首をひねっていた。

僕、首、ないけど。


……いい加減このパターンのボケも飽きてきたな。


「狙ってやってたのかよ。相変わらず意味のわかんねー野郎だな」


「いーじゃん別に。それよか、マジどうするこの娘? なんか、状況を見る感じ……さらわれてきたっぽいけど」


見た感じ……10代半ばから後半ってとこだろうか? いや、エルフって寿命長かったりするから、見た目とかあてにならないのかもしんないけど……見た目から判断するなら、ね?


察するに……村とか町から、何かの用事でこの森の中に来ていて、さっきのゴブリンたちにつかまった、ってところじゃないかな?

だとすれば、家族とか、同じ村の人たちが心配してるかもしれない……と思っていたら、


「いや、そうとは限らねーぜ?」


と、フォルテ。


「? 何で?」


「お前確か……鑑定能力使えたよな? それ使ってこいつ見てみろ」


とのこと。


そういえば、急展開すぎて使うの忘れてたな、と思いつつ、フォルテの言う通り、エルフ娘に対して『鑑定』を発動。そのステータスを見てみる。


すると……



★名 前:レーネ・セライア

 種 族:ハーフエルフ

 レベル:13

 攻撃力:13  防御力:9

 敏捷性:27  魔法力:45

 能 力:希少能力『使役術テイム



弱っ……じゃなくて、種族……『ハーフエルフ』?

純粋なエルフじゃなくて、混血ってことか? ファンタジー小説とかに出てくる、人間とかと交わって生まれるやつ。


「この近くにはエルフの集落があるんだが……この娘、『ハーフエルフ』ってことは……果たしてそこに、家族、家庭なんてもんがあるかどうか……」


「? 何でそう……あ、もしかして、種族差別的な感じ?」


聞き返しかけて、思い至る。フォルテが言ったことの意味に。


「おう。まあ、ほとんどのエルフや、その集落において言えることなんだが……総じてあの連中、見下し体質っつーか、選民意識強えーんだよな。人間とか獣人とか、蛮族呼ばわりしててよ」


うわー、テンプレにヤな感じ。


「でよ、そーいう他種族以上に、差別、っつーか嫌悪されてるのが……『ハーフエルフ』なんだわ。連中、見下すだけならまだしも、奴隷扱いしたり大っぴらに虐待したりするからよ。『混ざりもの』なんて言って、罵詈雑言飛ばしたりは当たり前だな」


「へー……何でそんな感じなの? 半分とはいえ、エルフなのに」


「連中の頭の中なんぞ知るか……と言いたいところだが、どうやらあいつら、自分たちの高貴な血(笑)に人間その他の血が混ざるのが我慢できねーんだそうだ。基本的に、婚姻はエルフ同士のみ。他種族とのそれは禁忌。……で、そんな禁忌の象徴とも呼べる混血児となれば……」


「扱いは最底辺においてしかるべき……ってわけか。半分は同じなのにね」


「その半分の血に対する温情として、奴隷として自分たちの近くにおいて生かしてやる……とかなんとか、よくわからん考え方持ってた気がする。だからこの娘もおそらく……」


「集落では、そこのエルフの奴隷だった……と?」


「多分な」


何とも言えない気分のまま、僕らはそろってため息をつき……ちらっと少女を一瞥する。


そして、再び少女から視線をそらして別の方向を向いて、そのまま……


『……ねえ、ところでさ、フォルテ』


『……あ? 何だ? いきなり、念話テレパシーなんざ使って』


声を出さず、念話で話しかける。これも、最近使えるようになった力だ。

何でかって? すぐわかるよ。


『いやさ……この娘、起きてるよ。もう』


『……何? マジか?』


『うん、顔向けないようにして見てみ。こっそり』


言いながら、ちらっと僕もエルフ娘の方に視線を向ける。


すると、石の床に転がってるその子は……体は動いていないが、うっすらとその目を開き、僕とフォルテを交互にちらちらと見て、様子をうかがっているのがはっきり見えた。


フォルテも同じものを確認したんだろう。『あー』って、念話で気の抜けた声が聞こえる。


そして女の子は……フォルテが顔をそっちに向けると、素早く目を閉じて、気絶し続けているフリをする。

そして、僕らが別な方向を向くと、またうっすらと目を開ける、


すでに僕ら2人に思いっきりばれているとも知らないで。


『しかし、何で寝たふりなんかしてんだ、こいつ?』


『僕らが出てくの待ってんじゃない? 多分、寝たふりってよりは死んだふり的な意味だよ』


『熊か、俺らは』


ちなみに、実際に野生の熊に出会った際は、寝たふりは逆に危険らしいよ?

ゆっくり後ずさりで逃げるのが正しいんだってさ。熊は本来的に臆病だけど、好奇心強いから……死体だと思うといじくりだすらしい。


いやでもまあ……自分がなすすべもなく捕まったゴブリンたちを、一方的に虐殺した正体不明の魔物2匹が相手じゃ、死んだふりするくらいしかできることがない……とも言えるか。


多分、彼女の内心は恐怖と焦燥感でいっぱいだろう。狭い洞窟内に、自分ではどうすることもできない、恐ろしいモンスター2体と一緒に押し込められて……頼むから早くどこかに行ってくれ、と心の中あたりで叫んでいるに違いない。


恐怖もそうだし……じっとしてるだけって、案外体力面でもつらいもんね。


さて……それじゃあ、


『じゃ、フォルテ。今日は僕ら、とりあえずここに泊まろっか』


『そしてテメーは鬼か』


一晩死んだふり継続強制コースを提案した僕に、呆れのこもった視線を送ってくるフォルテ。

表情筋がない石像フェイス(不細工)なのに、呆れてるとわかる不思議。どうでもいいけど。


てゆーかやだなあ、本気にしないでよフォルテ。冗談だよ、冗談。


ここ、この近くにあるっていうエルフの集落の連中が狩りの時の拠点として使ってるんでしょ? だったら、あんまり長いことここにいたらその連中に見つかっちゃうかもしれないじゃん。そんな面倒ごとごめんだし、さっさと立ち去るわ。


『その心配がなかったらやんのか?』


『ノーコメント。じゃ、行こっか』


『行くってどこに?』


『どこかに』


ごと、ごと、ごと……と、足音を立てて、僕とフォルテはそのエルフ娘の元を、ひいてはその洞窟を後にした。


「……ふぅ、やっと行ったわねってわああああぁああ!? ちょ、まだ居っ、何でぇ!?」


……というフリをしてみた。徐々に小さくなっていく足音を演出して。


結果、こちらの期待通りのリアクションを目にすることができた。

驚愕のあまり、ずざざーっ、と後ずさりする女の子。うむ、面白し。満足。


欲を言うなら……ここで一発『ドッキリ大成功!』とか書かれた札なりプラカードなり掲げたいところだった。くっ、作っておけばよかった……。


「俺はお前が何をしたいのかわかんねーよ……」


と、僕の斜め後ろで呆れ気味に言うフォルテ。ちっ、笑いを理解しない奴め。

しかしこっちはこっちで、胡坐をかいて猫背でため息をつき、額に片手を当てて『やれやれ』的な……何というか、あんまり怖くない雰囲気になってる。


そしてそういった、どうにも微妙な感じになってしまっている洞窟内の空気も理由の2つなのか……僕らがまだいるというこの状況にもかかわらず……何というか、あんまり恐怖というものをこの女の子が覚えている様子がない。


多少びくびくしている様子はあるけど……それだけだ。気の強そうな目で、こっちをにらみ返してくる。


「……っていうか、あんたたち一体、何なの? 見た目は……魔物、よね?」


「見た目っていうか、中身も普通に魔物だけどね」


「……いや、中身そっちはあんまり同意できないっていうか……少なくとも私は、そんな風に活発に動くミミックや、あんな感じに人間臭い仕草をするガーゴイルがいるなんてのは初めて見たし……そもそも、そんな風に流調に人語を話せる魔物自体初めて見たんだけど」


「正論だな……まあ、そのへんについては俺らも多少は自覚はあるんだが」


「そーだね。あ、お嬢さんよかったらコレ、お近づきのしるしにどうぞ」


言いながら僕は、一旦口=蓋を閉じ、再び開ける。

すると今度は、開けてもそこには牙も舌もない、普通の『箱』として蓋が開く。そして、中には……回復薬ポーションの入ったガラスのビンが、2本入っている。


それを見て、少し驚いた様子の女の子は……今更ながら、袋からはい出しながら、聞いてくる。


「えっと……いいの? 後で請求されても、私……貧乏だから、お金とか払えないわよ?」


「質問に質問で返すのはアレだけど……そもそも僕、お金とか必要そうに見える?」


「……それは、まあ……そうね……」


魔物だからね、僕。店とか、使う機会ないからね。お金あってもね。


まあ、もしかしたら役に立つ時が来るのかもしれないけど、とりあえず今はいい。


「わかった。それなら……ありがたく使わせてもらうわ。それと……」


そこで一拍置いて、


「まだ、言ってなかったわね……2人? とも、助けてくれてありがとう」


そう言って……ちょっとだけ緊張の残る感じで、しかし間違いなく……笑った。


残念ながら、表情筋ってもんを持たない僕ら無機物コンビでは、それに微笑み返すっていう無難な対応も取れなかったわけだけど……どうやら、最初よりは、お互いの間の……距離? みたいなものが縮まったような、そんな気がした。





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