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第12話 再会



結論から言わせてもらうと、先に入手したアイテム『黙示録の写本』とやらの使用用途はわからないままである。

説明はアレ以上表示されないし、その内容から推察することもできない。


何せ、試しに開いてみたけど……あの本、ページが全部白紙なのだ。

ホントに真っ白。文字の1つも書かれていない。


ファンタジーによくある『グリモア』とかいうやつみたいに、読むと魔法が使えるようになる不思議な本……というわけでもなさそうなので、現在のところ全く得体がしれない。


しかしなぜか、直感的に……この本はただの本じゃない、手放さず持っておいた方がいい……という気がする。理由はわからないけど、なぜか。


まあ、『無限宝箱インベントリ』という、容量限界なしの収納もあるし、持っているだけで害があるような呪いのアイテムってわけでもなさそうなので、もらっておくことにした。


今後、知る機会もあるかもしれない。

知識人は麒麟おじいちゃんだけではない。この本について、知っていて教えてくれそうな人も、どこかにはいるだろう……多分。


……まあ、その人?と僕が話せるかどうかは疑問だけどもね。僕、今、魔物だし。


それはそうと、僕は今日も今日とて、狩りにいそしんでいる。

遮るものがない……わけではないんだけども、どれでも洞窟に比べれば、圧倒的に縦横に広いこの森エリアは、迷子にならずに探索するのはかなり苦労するエリアだった。


……けど途中から、『迷子も何も別に帰る場所とかないんだし、適当でよくない?』って気づいてからは、開き直っていけるとこに手あたり次第行ってみている。帰り道とか考えずに。


なんとなく、洞窟エリアへの入り口を中心にして探索範囲を広げてたんだけども……あそこに戻るつもりも特にないしね。

そもそも、森より危険だもの。洞窟。魔物の強さ的に。


まあそれでも、一度探索した範囲をダブって探索するのは、時間とか労力的な意味でもったいない気はするので、そこだけ注意して進めていた。


ちなみに、麒麟おじいちゃんから聞いていた通り、外のエリアには――洞窟みたいな閉鎖的なエリアに比して、開放的なエリアをこう呼んだりするそうだ――きちんとした昼夜があり、暗くなったり明るくなったりきちんと分かれていた。

まあ、僕、適度に休憩取れば不眠不休で動けるので、あんまし関係ないけど。


それに、夜は昼と違う種類のモンスターが出てくるから、狩りがいもあるしね。




そんな感じで探索を進めていた、ある日のこと。


森エリアの突き当り部分にて……洞窟の入り口のようなものを、僕は発見した。


しかし、僕が最初にいた『洞窟エリア』の入り口と違い……こちらの洞窟は、暗闇のような不思議エフェクトで視界が遮られてるなんてことはなく、中の方まで見える。

洞窟っていうより……単なる洞穴? 横穴? みたいな感じかもしれない。


しかし、見た感じそれなりの深さはあるらしいことや、入り口付近にたき火跡や足跡なんかの生活痕があることなんかが気になったので、試しに入ってみた。


するとそこには……明らかに誰かがここで、一時的にではあろうが、寝泊りしていた、あるいは今もしている痕跡が残っていた。


暖を取るためであろう、入り口付近にあったものと同じ、たき火跡。


生活雑貨やら武器やら衣類やら、色んなものが雑多にまとめて放り込まれている木箱。


生ごみ……というか、どうやら食べかすのようである、肉片のついた骨。


そして……不自然に鎮座して妙なオーラを放っているやけにリアルな怪物の石像。


…………おい、コラ。


「お前何してんの、こんなとこで」


「その言葉、そっくりそのまま返させろ」


思いっきり聞き覚えのある声。

で、動き出す石像。


そのまま、僕の目の前で『よっこらせ』と腰を下ろして胡坐をかいたそいつは……見間違いようもない。こないだ出会ったブサイクガーゴイルこと、フォルテだった。


「一言多いんだよ、ボケ。ったく……何でこの短期間に、アクティブに動くミミックなんてレアだけどバカな光景を二度も見ることになるんだか」


「それ言ったらこっちだって、絶対にありそうもないところで健気に石像の真似なんかしてるガーゴイルに……いや、もういいやそれは。で、何してんの?」


僕もフォルテの真ん前に陣取ると、それを待ってかどうかは知らないが、ため息をつきながらフォルテは口を開いた。


「張りぼての『主』が死んでめでたく自由の身になったはいいが、これからどうするかってのも決めてなかったからな……とりあえず外に出て、適当に魔物とか狩って暇つぶしてた」


「この洞窟にも、そのために?」


「いや、ここは元々、『主』が……というか、この周辺で活動するエルフが拠点代わりに利用してる洞窟なんだわ。なんとなくで寄ってみたんだが……」


そう言いながら、フォルテは洞窟の隅……肉片つきの骨が積まれているあたりを指さす。


「どうも今は、エルフ以外が利用してるみてーでな」


「……みたいだね、ありゃ」


僕も、納得してそう返す。

どうしてそう思うのかって? そりゃ、明らかにあの骨……人間が食べた残飯には見えないからね。


骨にこびりついている肉片……色が、赤い。生だ。火を通すことすらせずに食べたらしい。

そんなものが無造作に捨てられているため、虫が湧いたり、ハエがたかっている。


それだけならまあ、まだ人間じゃないと決まったわけじゃなかった。世の中には、ナムルとかレバ刺し、北米の狩猟民族のアザラシ肉みたいに、生肉を食べる文化もあることだし。


けど……さすがに、同族の肉を食べる文化なんてもんはそうそうないだろう。


積み上げられている骨……そのいくつかの形状から推察するに、コレは人間、あるいはそれに近似の種族の死体だ。


サルとかじゃない。頭蓋骨の形が確実に人間だし……あんまり直視したくないけど、まだ肉がほとんど残っている状態で、腕が1本捨てられている。

そしてそれに、獣特有の毛深さや、長い爪なんかの特徴はない。つるっとした腕だ。


「魔物の仕業、ってこと? でも、一か所にまとめとくなんて、それはそれで随分几帳面だね」


「多分だが、亜人型の魔物……ゴブリンあたりだろうな。連中は多少の知性がある上に、雑食で、同族以外ならとにかく何でも食う。コレは多分、獲物にされたエルフあたりか」


「……その前に聞いときたいんだけど……この近くに、エルフの集落とか、あるの?」


さっきからちょいちょい、こいつの話に出てくる『エルフ』という単語が、地味に気になっていた。こないだの盗賊?の持ち物の中の盗品のこともあったし。


そう聞いたらフォルテは、ん? という感じの表情になって、


「ああ……言ってなかったか。この森をもう少し行ったところにな、あるぞ。俺のおっ死んだ『主』も、そこに住むエルフだったんだが……ああ、お前手首しか見てねーもんな」


納得したようにうなずくフォルテ。


確かにあの食いちぎられた手首と杖しか見てなくて、残りは蛇の腹の中だったからね。フォルテのご主人様がエルフだってのは、今初めて知った。


一応あの後、僕はあの大蛇を、中に飲み込んだ『主』さんの死体ごと回収させていただいたわけなんだけど……その時に出た『○○○を手に入れた』的なアナウンスの中に、エルフを連想させるものはなかったからなあ。気づかなかったよ。


しかし、そのエルフが暮らす集落が、この近くにね……ちょっと興味あるな。今度見に行ってみようかな?


「やめとけやめとけ。あんなもん見たって面白くも何ともねーぞ」


「そうなの? 勝手なイメージかもだけど、エルフって美男美女ぞろいとかじゃないの?」


「見てくれはな。ただ、氏族ごとに多少の差はあるものの……総じてプライドが高けーっつーか、高飛車で相手するのがめんどくせぇっつーか……」


「あー、エルフ以外の種族とか、見下してる感じ? 下等種族が! とか言って」


それはまあそれで、ゲームとかでもありがちだし、ある意味予想通りかもなんだけど……


おそらくはそれに答えようとして、フォルテが口を開こうとした瞬間……


「「―――!」」


僕とフォルテは、洞窟の入り口の方に気配を感じ……とっさにその身を隠れさせた。


僕は、道具類が雑多に突っ込まれている木箱の隣に、普通の箱を装って。

フォルテは、さっきまで同様、場所からしてミスマッチな石像に擬態して。


またかよお前は、って反射的にツッコミを入れたくなったけども……そんなことをする空気じゃないので、黙って僕もただの箱になって待機する。笑いは、どうにかこらえた。


その十数秒後、洞窟の中に入ってきたのは……予想通りの一団だった。


髪の毛のない頭に、醜悪な顔面。緑色の肌は、泥や土埃なんかで薄汚れている。

人間の子供ほどの大きさの体に、ぼろきれのような布を服として身に着け……手に、刃の錆びた剣や棍棒などを持っている。


フォルテが予想した通り。ファンタジーにおけるザコ敵の代名詞……ゴブリンだ。

徒党を組んで生活しているんだろうか。その数、8匹。


どうやらこの洞窟を拠点代わりにしてるっぽいけど、狩りにでも行ってきたんだろうか……とか考えたところで、僕とフォルテは、おそらくはほぼ同時に、それに気づいた。


げぎゃぎゃぎゃぎゃ、と、何だかそれだけで耳障りで下品に聞こえる感じの笑い声を響かせる、8匹のゴブリン……と、思っていたら、もう2匹残っていた。

荷物を運んでいたために、先行していた8匹よりも少し遅れて入ってきたのだ。


……問題は、その荷物だ。


ゴブリン2匹がかりで抱えて運んでいる、人1人入れそうな大きな麻袋に入れられた『何か』。

口部分を含め、何か所も雑に麻縄で縛られているようだが……ごそごそと、動いている。


ゴブリンたちはそれを、洞窟の床にやや乱暴に置き……袋の口を縛っている麻縄をほどき始める。仲間の他のゴブリンたちは、それをなぜか、落ち着かないような様子で見ていた。

時折、せかすようにぎゃあぎゃあと声が上がる。早く開けろ、とでも言うように。


その理由は……すぐに明らかになった。


袋の口を縛っていた縄がようやくほどかれたと同時に、その中身が自分から外に飛び出てきて……その姿をあらわにしたからだ。


「んーっ! んぅーっ!」


……うん、予想はついてた。

『人1人が入れそうな大きさの麻袋』に何かを入れてて、しかもそれが動いてるって時点で……こういうことだろうな、とは思ってた。うん。


袋から出てきたのは……生きた、人間の女の子……いや、違う。

よく見ると……耳が長くて、とがっている。


両手両足を縄で縛られ、猿轡を噛まされて、目隠しまでされて運搬されてきたのは……不運にも、このゴブリンの一団に生け捕りにされてしまったらしい……おそらくはエルフの少女だった。





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