最終話 平和な日常の中でも
最終話です! どうぞ!
月日が流れるのは早いもので。
あの戦争が終わり、王国と帝国が『帝王国』という名で1つになり……そのトップにアルベルトが君臨し、さらにその裏のボスに僕ら『ドラミューザファミリー』が君臨したのが、もう1年も前の話だ。
あれから、長いようで短かったこの1年間に、色々なことがあった。
僕ら『ドラミューザファミリー』は、あの戴冠式からほどなくして、旧帝国領においても裏社会全体を仕切る立場に立つことができた。流通、人脈、物資、その他諸々……僕の『箱ネットワーク』を駆使して、完全に優位な立場をつかみ取った。
アルベルトの表の権力と上手く連携し、時に助け、時に助けられながら、結果的に国家全体を、波風立てずに平和に回していくことができている。
そんな『ドラミューザファミリー』の本拠地は、最初に僕らが用心棒商売を始めたあの町だ。
もっとも、そこにあるのは表向きの拠点であるって点は変わりないけど……あれから町自体が成長したというか、色々と発展したので、今や帝王国全体でも有数の大都市になっている。
僕らが全面的に支援したとはいえ、ほんの1年でよくここまできたもんだ。感心せざるを得ない。
そこで、ビーチェは『ドラミューザファミリー』のボスの座につき、レーネはその右腕として、時に穏やかに応対し、時に過激に行動し、組織を回している。
しかし、四六時中その『マフィアのボス&右腕』って感じで過ごしているわけではもちろんなく……むしろ普段は、思い切り力を抜いてリラックスしてる。美味しいものを食べたり、町に出て遊んだりして、普通の女の子として過ごしている。
町で遊んでいる、小さな子供たちと遊んであげているシーンすら時々見る。
2人とも、子供の相手は別に嫌いじゃないようで、平和になった世の中の象徴的な感じで訪れるその場面を大事にしているようにも見えた。
裏社会の大人物という立ち位置にありつつも、きちんと2人は、駆け足で色々頑張ってきた分、今、ちゃんと人生を思いっきり楽しんでいる。
レガートとフェル、そしてピュアーノは、そんな2人の側近として動いている。
護衛兼事務員? 秘書? 参謀? ……なんて言ったら正確なのかいまいちわかんないけど、彼女達は時に仕事場のデスクで、時に重要な会談で、時に荒事の現場で、見事にレーネとビーチェを助けている。
仕事の内容としては、『戦争』以前からやってたことがほとんどで、大きな変更はないんだけどね。
せいぜい、その頃やっと戦力になり始めだったピュアーノの仕事が適正量に増えてきただけで。
そしてそれが終われば、あるいはその合間に……2人と同様に、今まで通りのアットホームな空気の中でリラックスして過ごしている感じだ。
ピュアーノは母として、立派に育った……けどやっぱり『自分の娘』っていう感覚がきっちり今でもあるレーネと、親子水入らずの時間を過ごしたり、お母さん直伝の料理を教えてあげてたり。
それを遠くから、邪魔せずに、しかし嬉しそうに見ているレガートやフェル、なんて光景もよく見られる。その後、作った料理は皆でいただいたりなんかしちゃったりして。
そういう光景を見ると、マフィアのボスだろうが何だろうが、これは彼女たちの『日常』なんだな……って、実感したりする。目に見える場所、見えない場所、所々ぶっ飛んでても、一瞬一瞬が大切な人生の1ページなんだと。
一方、『ドラミューザファミリー』所属でないアルベルトは……さっきもちらっと言ったが、帝王としてきちんと『表社会』を掌握している。
今までの2倍以上の面積を収めることになり、それに合わせて統治プランも見直しになる。それでも、アルベルトと彼が育てた文官たちの優秀さゆえに、何も問題なく国は回っていた。
けどさらにそこに……『ウィントロナ連合国』から、属国として迎えてほしい、っていう申し出があったから、さすがにその時はさらに大変そうにしてたな。
国の恩人である『ドラミューザファミリー』が、きちんと裏で噛んでいる、というのが信用する判断材料になっている様子だ。今『帝王国』を収めているのは、民からの人望もある、優秀で誠実な、信頼できる男だ、っていう目利きもきちんと行っていた。
そうした方が、いつかと同じく、平和で平穏な生活が手に入る、国民たちの暮らしが楽になるってんで、なんと中央の議会でまで、僕らの属国になることが決まったんだそうな。
光栄と言うか何というか……裏組織の存在が信用する材料になる、ってのもおかしなもんだが。
そして僕ら、無機物3体は……所属は『ドラミューザファミリー』であるが、仕事はファミリーと、『帝王国政府』の両方から回ってくる。
正確には、『政府』の依頼は『ファミリー』を通してこっちに来るんだけどね。
フォルテは主に、僕らの拠点で警備担当を担っている。
あの機械龍モードで四六時中いるわけには行かないので、いつもは『機人モード』でそこらへんでくつろいでたりするけど。
加えて、ああ見えてあいつは僕らの中でも頭の回転が速く、知識量的にも博識な部類に入る。
特に、魔法関係に知識が多く、造詣も深い。今すでにある知識だけでなく、新たに勉強して色々と知識を吸収していっており、それを活かした仕事につくことが多い。
今ある魔法の改良とか、マジックアイテムの作成とか、だな。
そしてどうやらフォルテは、今までガーゴイルとして戦闘ばかりの日々だった反動……かは知らないけど、こうしてできた平和で暇な時間を、趣味としても主にそういった『勉強』に費やしている。色々な知識を、今まで知らなかったことを学んで自分のものにするのが楽しいそうだ。
前世の地球にもいたなあ……そういう奴。
僕は違ったからいまいち気持ちはわかんないけど、勉強が楽しいって豪語してる奴。自分の知識を増やすのが、今まで知らなかったことを知るのが楽しくて、学校の授業やテストどころか、この先の人生で出番あるのか、ってことまで嬉々として掘り下げて勉強していく奴。
今は主に、戦闘の他は、さっき言った魔法関連の仕事をこなしているフォルテだけど……もしかしたらこの先、先生みたいな『教育』に携わる仕事に就くような日もくるのだろうか? ……あんまり想像できないけど、見てみたくもあるな。意外といい先生になるかもしれない。
リィラは、知識量だけで言えば、キャリアの長いレガートや、英才教育を受けて育ったビーチェなんかには劣るものの、『超速演算』なんていかにもなスキルを持っていることもあり、頭の回転の速さはぶっちぎりで『ドラミューザファミリー』ナンバーワンである。
それを活かして、内政・事務系の仕事を今は主にやっている。戦闘もしないわけじゃないけど、今までに比べれば出番は各段に減ったしね。
機械の頭脳ゆえか、インプット・演算・アウトプットの三拍子がすげー早いんだよな。
……そんな彼女ですら勝てないアルベルトの思考速度と発想力その他はどんだけなんだ、って正直思う今日この頃。
そして僕は……立ち位置としては雑用、あるいは庶務とかその辺なのかな?
前世で相応の教育を受けてたし、この世界に来てからも時間を見て勉強とかはするようにしてたので、知識量やらノウハウも徐々に上がっていっているので、色んな場面に対応できる立場だ。事務でも現場作業でも。
ただ、単なる雑用であるはずもなく……僕が担当することになる仕事は、色々な意味でスケールが全体的に大きいものが多い。
復興の時にも同じようなことをあちこちでやってたけど、建物作ったりとか、設備作ったりとか、アイテム作ったりとか……そういうのをスキルで簡単にやれるので、そういう現場に引っ張られて動くことが多いのだ。
あるいは、雇用創出のために工場とかを作ったりする時。建物も設備も僕が作る。
もっとも、時間と資材に余裕があれば、あえて普通の業者とかに回すようにしてるけどね。仕事、というか雇用を作って、労働者に賃金を下ろして経済を回すために。
だから、僕が主に動くことになるのは、大概が緊急時、あるいは、危険だったり時間がなくて普通のやり方では難しい時だ。
魔物が多くて危険な地域に建物を建てるとか、そんな感じだな。
……復興を急ピッチで進めている時に、町一つ作るのを任された時もあったっけな。
あの時は楽しかった……地味な仕事や単純作業も割と好きな僕だから、図面から引いてマジで一から町をデザインして作って……複数回あったから、趣味全開で色々やったなあ。
コンクリートジャングルよろしく、タワマンや大規模アパートが乱立しているような町や、京都みたいに碁盤の目状に箱ハウスが並んでいる整然とした街、湖の上の離れ小島にいくつも水上ハウスが建っている町……エトセトラ。
……一回、全体が巨大な箱の中に収められていて、その中で全ての生産から消費活動が完結するようになってる、コロニーとかアーコロジーみたいなのを作った時は、さすがに怒られたけど。
まあ、ディストピア化してるわけでもあるまいし、そんなもん作っても過剰だよね。
ちなみにそれは、民間人が暮らすには問題が多いらしいので、軍の施設としてアルベルトに丸投g……もとい、プレゼントした。笑顔が引きつってたな、そんなに嬉しかったんだろうか(棒)。
そんな風に、僕らはそれぞれ、戦いが終わったこの『帝王国』で……新しい人生を歩み出している―――僕ら主要メンバーの中に人間は1人もいないので、『人』生かどうかは微妙だけど。
……けども、
そんな、平和になった世界、手に入れた平穏な日常の中でも、1つだけ、変わっていないというか……以前そうしていたことで、今でも続けていることがある。僕ら、9人の中で。
それは……
☆☆☆
「よっし、それじゃ皆、用意はいい?」
「ええ、いつでも行けるわよ」
場所は、帝王国の領土の北端……よりも、さらに先。
隣国である『ウィントロナ連合国』にある危険区域……その深部にある、ダンジョンの前だ。
そこに、いつもの9人……僕、フォルテ、リィラ、レーネ、ビーチェ、レガート、フェル、ピュアーノ、アルベルトが、完全武装で並んで立って、目の前にそびえたつ門を見上げている。
遺跡型のダンジョンか……周りが大自然だから、妙に浮いてるな。
何で僕らがこんなところにいるかっていうと、だ。
正式に『属国』となったウィントロナだが、最近、隣国――もちろん帝王国ではない――から、たびたびちょっかいをかけられているのだという。
聞けば、亜人に対して差別的な考え方の国だそうで……この国の豊富な資源や、豊かな土地を狙って、領土を切り取ろうとか、居座って実効支配しようとか、あくどいことを考えている気配があり……どこの世界でもあるんだなそういうの。
で、それへのけん制のために、表では既に動き出しているんだけども……備えあれば患いなし、できる手は全部打っておこうってことで、いつもと同じ準備もしておくことにしたのだ。
『黙示録』所有者の……『ダンジョンマフィア』の本領発揮。ダンジョンやエリア掌握により、地理的な有利の確立である。
こんな風に理由があれば、そしてそこまで確たる理由がなくても、僕らは今もこうして、たまにだけど集まって『ダンジョンアタック』を続けているのだ。
これだけは……どれだけ優秀な、信頼できる部下ができても、何か、誰かに任せる気にはなれないんだよね……もう。すっかり、攻略する楽しさが身に沁みついちゃってるというかさ。
安全圏で何もせず平和に、だらだらと惰眠をむさぼるのも好きだけど……たまには運動したくなる時もある。
人生における適度な刺激になるし、戦いの勘をさび付かせないのにもいい。
政務やら何やらでたまったストレスの発散にもちょうどいい。
何分、それに向いた能力も多いもんで、もう僕らにとってはレジャー感覚だ。
『秘宝創造』で作った、わざと呪いがかかって能力ダウンするようなアイテムをつければ――致命傷クラスの攻撃等に対してはオートで防御機能が発動するようになってるけども――縛りプレイにもなって緊張感を保って臨める。
……やれやれ、我ながら何というか、物騒な趣味を持ったもんだなあ。
争いばっかりの過酷な世の中で生きてきて、平和な日常を欲して必死に戦って……しかし、いざそれが手に入ってみれば、今度は刺激が欲しくなる……自分で言うことじゃないかもだし、精神性が未熟なだけなのかもしれないけど、人間ってのはホントにわけのわからない生き物だ。
ああ、人間じゃないけど、僕ら。
多分だけど、この時間、このイベント?は……これからも、ダンジョンを見つけては、幾度となく繰り返していくんだろうな……なんて思いながら、僕は、手に持っていた『黙示録』を『無限宝箱』の中にしまい、
「それじゃ皆、行こうか!」
また新しい、平和の中のほんの少しの刺激へと、足を踏み出した。
『転生箱道中』これにて完結となります。
ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました!
思えば2年前の夏、色々あって『あ゛ー……』ってなってた時に、気分転換もかねて、頭の中にプロットができていた話を書き起こし始めたのがコレでした。
ほわほわ~っ、としか道筋ができてなかったこともあり、途中矛盾とか出てきて大変だったこともありましたし、筆が進まなくて半年も続きが書けなかった、なんてこともありましたが、
どうにかここまで続けてこれたのも、読者の皆さんのおかげだと思っております。
いただいた感想は全部読ませていただいて、執筆の力にさせていただきました。
今後もしかしたら、今頭の中にいくつかある新作とか書き始めるかもしれませんし(書きたいのがすでにいくつかあるので……)、現在他サイトで継続中の『魔拳のデイドリーマー』ももちろん続けていく予定です。
そちらの方も、お気が向きましたら除きに来てもらえれば幸いです。
感想などいただけましたら、励みにして続けさせていただきます。
この『箱』についても、気が向いたら後日談とか書くかもしれませんし。
最後に、今いちどここまでご愛読いただきました皆様に感謝申し上げまして、ひとことご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
そしてこれからもよろしくお願いします。和尚でした。