第114話 爆誕!! カイザーシェイアーガー!!
――ずずぅ……ん
着地した僕らの――合体して『カイザーシェイアーガー』となった僕ら5体の――重みで、あたりに地響きが起こる。
当然だろう。サイズ的には割と圧縮されているとはいえ、元々は1つの巨大な城だったものが、こんな風に人の形にまとまってるんだから。さらにその体の各部は、超硬合金に換装されて。石材よりも比重が重くなってる部分もあるわけだし。
まあその地響きは置いといて……目の前に着地した巨大な体躯を持つ僕ら『カイザーシェイアーガー』にも、『魔王ピエンドロラ』は怯む様子を見せない。
……もともとこいつに感情らしきものが見受けられた様子は、今の所ないんだけども。
それどころか、対抗したのかどうかは知らないが……ピエンドロラは、その身をさらなる異形のそれに変化させてきた。
最初、上半身だけしかなかったその体に……まるで蛇のように、滅茶苦茶長くて太い下半身が生えた。が、鱗が生えてるわけでもなく……その長い体も表面は人の皮膚みたいな質感と言うか感じなので、余計に気持ち悪い。
さらに、その長い体に、一拍遅れて何百本もの腕が生えてきて、肌色のムカデみたいな見た目になってしまった。さらに気持ち悪い。
ものの十数秒でその変容を終え、たちまち体の大きさ(というか長さというか高さというか)における優位性を取り戻した『ピエンドロラ』は……値踏みするように、こちらを見下ろしながら周囲を回っていたかと思うと……先ほどまでとは違い、一直線に突っ込んできた。
その6つの頭の口は、全て大きく開かれ、牙をむき出しにしている。どうやら噛み付いて攻撃するつもりのようだ。
確かに、数値的にもアレの攻撃力は、食らえば即死級だし……そもそも、あの6つある頭全部で噛み付かれようもんなら、五体全部食いちぎられたり、加えられて引き裂かれてもおかしくない。
魔法じゃない攻撃が来るのは初めてだが、こっちも十分凶悪だ。
……まあ、それも僕らにしてみれば……ちょっと前までの話なんだが。
『……いくよ、皆!』
『『『『『応!!』』』』』
体の中から、静かな、だが力強いレーネの声が聞こえたのと同時に……『魔導操縦席』を操作され、『カイザーシェイアーガー』の体が動き出すのを感じる。
次の瞬間、僕はすさまじい速さでその場から前に踏み込んでいた。
6面による噛み付きをかわし、懐に潜り込んだ僕らは、握りしめた左の拳……フォルテの力が宿っている鋼色の鉄拳を、ピエンドロラの鳩尾に叩き込んだ。
すさまじい音がして、ピエンドロラは一瞬体をこわばらせたかと思うと……拳を振りぬかれるままに、その巨大で長い体が吹き飛んでいく。
拳の一発で、王城の敷地から出て、かつて賑わっていたであろう市街地にまで吹っ飛んだ。上半身部分の勢いに引っ張られる形で、長く伸びた下半身も、うねるように大きく動き、暴れる。
ぴくぴくと墜落した場で痙攣する上半身と、のたうち回って苦しみを如実に表している下半身。
それは、僕らがこいつと戦い始めてから、初めて見受けられた……ピエンドロラに、明確にダメージが通っている光景だった。
その光景を生み出した僕らのボディは、少しの間、拳を振りぬいた姿勢のまま止まっていたが、すぐに構えなおして、ボクシングのファイティングポーズのようにする。
『どう、レーネ?』
『上々! これなら……行ける!』
聞こえてくるレーネの声には、嬉しさと楽しさをメインにした、興奮の感情が多分に込められていたように思えた。
そんな僕らの目の前で、倒れていたピエンドロラが、ゆらりと起き上がった。
そして、半開きだった目を……相変わらず白目のままだが、6つある顔の全てでカッと見開いて睨みつけてくる。今のでどうやら、本気になったらしい。
―――ァアァァアァアアァアァアア――――ッ
興奮してるのか知らないが、甲高い叫び声を上げ、再び突っ込んでくる。
今度は噛みつきじゃない。15本ある腕のうち6本が……手刀の形をとって、さらに手首のあたりから伸びる光の刃が形作られている。魔力の刃……あれで接近戦か。
直後、僕らは今度は右腕を動かし、肩口についている剣の柄をつかんで引き抜いた。
そこから……さやから引き抜かれたように、光の刀身が姿を現した。
抜き放たれたその剣は、身の丈ほどもある長さの両手剣……を通り越して大剣だった。
もちろん、身の丈というのは『カイザーシェイアーガー』のだ。
突っ込んできて振り下ろされる剣を、光の剣を一閃させて4本一気に砕く。
さらに素早く手首を返して斬りつけ、ピエンドロラの胸に大きな傷を刻む。
その痛みに、またしても耳をつんざく悲鳴を上げたピエンドロラ。それで一瞬ひるみ、ガラ空きなったボディ――わき腹に、ダメ押しでもう一太刀を刻み込んだ。
そのまま地面を蹴り、すれ違うように後ろに抜ける。そして、伸びている下半身を切り落とした。
さっきまでとほぼ同じ形……上半身のみになったピエンドロラは、耐えきれずにその場に倒れ込んだ。傷口は……徐々に再生を始めているが、叩き込まれたダメージの絶対量は、今までの比じゃないに違いない。今までと同じようには動けないだろう。
しかし、その代りなのか知らないが……切り落とした長いムカデ部分に異変が起こった。
切り口の肉がうねうねとうねりはじめ、そこに新たな頭ができた。
さっきまでのと同じ頭が再生したわけじゃなく、1つだけ人の頭(っぽい顔)が形成され――結局キモイ異形だな――鋭い牙をむき出しにして襲い掛かってきた。
肉片とか残滓が、眷属的な魔物・悪魔に変わるのか……こないだの『ヒュドラ』みたいだ。
すると、
『ふむ……ただ単に斬ってもダメなのなら、きちんとそれに見合った対応が必要ということだな』
そんな声が、また体の中から聞こえて……直後、レーネとは別のコクピットから、別の『指令』が『カイザーシェイアーガー』の体に発せられたのを感じ取れた。
噛みつこうとかかってくる人面ムカデの異形を、僕らは鋭く距離を詰めて……噛みつかれる前に繰り出した回し蹴りを、その出来立ての顔面に叩き込んだ。
そして、その一撃には……アルベルトの『月兎烈脚』の力が、アンデッド系や悪魔系に特効となる力が込められている。
巨大な質量による蹴撃のダメージに加え、神聖属性の力を顔面から叩き込まれたことで、そいつの頭は爆散し……そのまま再生することなく、長い胴体ごと消滅した。
なるほど……思った通りだ。
この『コクピット』……操縦者、あるいは搭乗者のスキルを使えるってことらしい。それも、この巨体に合った効果の強さになるように、すさまじくブーストをかけた上で。
するとその直後、気配を感じてその場から飛び退る。
ほぼ同時に、起き上がった上半身が投擲してきた光の槍が飛来し、今まで僕らがいたところに突き刺さっていた。
見ると、既に上半身は復活し……切断面の傷も塞がっていた。元の通りの姿だ。
背中から生えている手の1本が、今まさに何か投げた直後、みたいな形になってる。
攻撃がかわされたのを見ると、ピエンドロラは別な手にもさらに光の槍を作り出し……3本ほど投げると同時に、手に持った状態のものも何本か残して突っ込んできた。見ると、下半身の人肌ムカデ状態も、さっきほど長くはないが、再生している。
僕らは、後ろに流れるようにたなびいている翼を、掲げるようにし……そこにいくつも開いている孔から、何発もの魔力のミサイルを放ち、飛来する槍をすべて撃ち落とした。
そして次いで、そのまま飛翔する。
上から飛びかかる形で突っ込んできていたピエンドロラをかわしつつ舞い上がり、上から、さっきと同じように雨あられと光弾を降り注がせる。
ピエンドロラはそれを無理やり突破し、長い下半身を立てて、立体的な動きで襲い掛かってくる。それをさらに僕らは、こちらも飛行して立体的、三次元的に動いて、無数の手とそこに持っている槍による攻撃をかわしながら、攻撃を続ける。巨大さには似合わないほどの身軽さ、素早さで。
時に水平に旋回するように飛び、時に地面すれすれを飛び、時に宙返りやスピンを交えたアクロバットな軌道で飛び、時にわざと着地して不意の一撃を叩き込んだ後、再び飛び上がったりした。
何回も、何十回もピエンドロラはその身に傷を刻まれる。そのたびに癒し、修復するが。
対して、ピエンドロラから僕らに対しては、有効打になるような攻撃は1発も入らない。
それに業を煮やしたのかどうかはわからないけど、今度はピエンドロラは、さっきと同じように、両手を何組も柏手みたく合わせて……しかも、ムカデ型の下半身についている手も使っている。そのせいだろうか、僕らの周囲には、10や20では効かない数の魔法陣が現れ、そこから複数の種類の攻撃魔法が放たれる。どれも上級以上の威力のそれだ。
最早弾幕だ。避けられるだけのスペースがない。
しかし僕らは焦らず……今度は左腕に巨大な盾を出現させ、それで身に当たる魔法を防ぎながら突貫する。恐らくはフェルの力に由来する盾の守護を、それらの魔法は突破できなかった。
再び接近してきた僕らを、1人で作った槍衾で迎え撃つピエンドロラだったが、それに接触する直前、急停止して僕は横に大きく回転し、フォルテの尻尾で薙ぎ払う。
横からのその一撃で、光の槍は全部折れてピエンドロラは無防備になり……そこに僕らは、その回転の勢いを殺さないままに空中で、両足を使って連続回し蹴りを放つ。
ご丁寧に計6回、6つ全部の頭に叩き込まれた。
その勢いで吹き飛ぶピエンドロラ。また距離が開く。
今度は僕らの方から踏み込んでその距離を詰め、大上段に振りかぶった剣を両手で持って、思いっきり振り下ろす。
ピエンドロラは、光で今度は盾を作って、さらにそれを複数の腕に持ち、何枚も重ねて使って攻撃を防ごうとするも、威力を殺しきれずにそれら全ては砕け散った。さらに、持っていた手も大半が斬り飛ばされたり潰されたりした。
それでも、どうにか受け流すことに成功していた。
欠損した手も、すぐに再生するだろう。
逆に、大ダメージを与えたとはいえ、渾身の一撃を受け流されて体勢が崩れた僕らに、ピエンドロラは無事な腕と、得意の噛み付きで襲い掛かるが……ここで、背中についている機械の翼が、3本目、4本目の腕のように動き、それを防いで逆に弾き飛ばした。追撃に魔力弾まで放つ。
自分で言うのもなんだが、見事な動きができてるな……もっとも、レーネ+その他3名の、『コクピット』で操縦してくれている面々の功績が大きいが。
それにコレ、あくまで感覚だけど……各パイロットの得意分野がそれぞれ強化されてる気がするな。
基礎的な戦闘は主にレーネがやり、剣を巧みに扱うような場面では、レガートの剣の冴えが感じられた。蹴り技はアルベルトが、魔力攻撃の制御や、飛び道具を使った遠距離攻撃はビーチェだ。さらに、各々のスキルの効果もそこに相乗される。
なるほど……コクピット能力の長所はここにもあったのか。
単にロボットとして強力になるだけじゃなく、合体したメンバーに加え、操縦するメンバーまで、その能力を組み合わせて最適運用し、掛け算的に強化できる。
すると今度は、意図的に後退して距離を取ると、ピエンドロラの周囲にまたしても魔法陣がいくつも現れる。中から出て来たのは……何十体、いや何百体もの強力な悪魔たちだった。
下はグレムリンなんかの下級悪魔から、上はアークデーモンやグレーターデーモンまで、多種多様。中には、『魔将』級すら混じっているようにも見えた。
それらは皆一様に、恐れることもなく僕らに襲い掛かってくる。巨大ロボットである僕らに。
『ち、数が多いな……別に負ける気もしねえが、面倒そうだぞ?』
『でしたら任せるのです。あ、シャープ、ちょっと手伝って貰えるですか?』
『了解リィラ、大体やりたいことはわかるよ』
『あん? どういう意味……』
合体した面子での、内部での会話が終わらないうちに、こっちはこっちで周囲に魔法陣が浮かび上がり……中から、僕らが召喚した眷属が現れる。リィラの種族である『機攻戦乙女』を、1周りほど小さくしてデフォルメしたようなのが、
もっとも、こっちは美少女フェイスではなく、せいぜいちょっとよくできたお面、って感じの見た目である。コレを見て『可愛い』とは……まあ、マスコット的な意味でならギリ行けるか?
で、そのリィラの眷属たちの隣に、さらに1つずつ魔法陣が現れ……そこから、僕の眷属である宝箱モンスターが登場。出た直後に変形し、銃になる。
そしてそれを、リィラの眷属が装備して完成。
個体の野力が十分に高いリィラの眷属に、僕の眷属を装備させることでさらに火力その他にブーストをかけ、さらには『悪魔のびっくり箱』の恩恵すら一部受けている、超強化人型ロボット軍団が誕生した。
襲い掛かってくる悪魔たちはそいつらに任せ、軍団対軍団の形にする。
が、せっかく召喚した眷属たちが戦っているその中を、まるで気にすることなく突っ込んでくるピエンドロラ。その直進ルート上にいた者達、悪魔も、僕らの眷属ロボも、轢かれて消滅していく。ただ体当たりがぶつかっただけだとい言っても、あのでたらめなステータス相手じゃ無理もない。
もっとも、そうして味方すら考慮しないピエンドロラの行動の結果として消滅するモンスターの数は、向こうの悪魔の方が10倍は多いが。
そうなるように、配置やら陣形やら、アルベルトが指揮してロボ軍団を動かしてるから。
で、そのピエンドロラはというと……何度かまた光の槍で僕らと切り結んだ後、初めて見る攻撃方法に出た。6つある顔の、6つの口から……雷属性っぽいブレスを吐きだしてきたのだ。
魔法と違って、タイムラグなし、魔法陣の出現と言う前兆もなしに、口を開けただけで即放たれたのでちょっとびっくりしたものの、見てから盾で防御余裕でした。
が、どうやらそれは囮だったらしく、長く伸びたムカデ部分の体が後ろから伸びてきて、僕らの体に絡みつき……締め上げる。さらに、生えている手が体のあちこちをつかむ。キモイ。
このまま絞め殺すつもり……ではなかったようで、さらに二重、三重に巻き付いて僕らを拘束すると、今日一番の量の魔力を練り上げ始めた。
おいおい、まさか……
『自分の下半身ごと吹き飛ばす気か?』
『随分とまあ思い切ったことを……まあ、千日手である現状を打破する上では、有効な手であるというのはそうだろうがな……再生するし。で、どうする? まさか、大人しく食らってやるわけでもあるまい?』
『当然。お母さん、お願い』
『了解~。どれ……よいしょっと』
レーネとピュアーノのそんな声と共に……彼女の力が込められている右腕が光を放ち……次の瞬間、『カイザーシェイアーガー』のボディのいたるところから剣が出現した。
肩口、背中、わきの下、腰、肘、手首、二の腕、首元……そういった個所から、突如、鋭利な刃が出現し、さらにその状態で強引に体をひねったことで、巻き付いていたピエンドロラの下半身はズタズタ……を通り越してバラバラに切り刻まれた。
しかし、そうして脱出したものの、一拍早く向こうの魔法が完成してしまっていた。
頭上に1つだけ浮かんだ、巨大な魔法陣から……まるで太陽が落ちてきたのかと思えるような、凶悪なほどの熱気を放つ球体が出現し……
しかしその時、こちらも同時進行で進めていた攻撃手段が完成した。
『カイザーシェイアーガー』の胸の部分が開いており……そこに、魔力を限界まで圧縮・収束させた光球が形成されている。しかも、胸からだけじゃない。肩に発現している、おなじみのキャノンや、背中の機械翼、腰、腕、足……その他、体中から魔力が供給されている。
そうして形成されている光の玉は、落ちてくる巨大な光球の強烈なと光すら押し返すほどのエネルギーを放っていた。まだ、その余波だけで。
『拘束した上でのタメが必要になるくらいの技を使ってくれてこっちも助かったというものだ……バカみたいな再生能力を持ってるお前を消し飛ばすには、相性のいい属性やスキルをしこたま上乗せした上で、超火力の一撃で消し飛ばす必要があるからな』
と、アルベルト。
コクピットで操縦しながら、『金の黙示録』を使ってあの『魔王ピエンドロラ』に関する情報や、その倒し方を探ってくれていた奴が、得意げにそう言った。
そう、すなわち……既にそれは発見され、僕ら全員に伝え終わっている。
というか、情報を吸い上げるごとに、リアルタイムで僕らの脳内にも共有されていってたしな。さっきの軍団指揮といい、ここでも『戦略魔法・智』は大活躍だ。
さて、そういうわけで……だ。
『『悪魔特効』『光属性魔法』『神聖魔法』『祓魔士』『天霊剣・翠風』『月兎烈脚』その他諸々、悪魔に効果抜群なスキル全乗っけ! さらに火力も限界まで上げて……きたきたきた!』
『用意はいい、シャープ!?』
『おっけぃ!! いつでも!』
『よし、じゃあ……これで、トドメっ!』
言うと同時に、コクピットでレーネが、その攻撃のトリガーを引いた感触が伝わり……3つの光球は1つに重なり……すさまじい光を放ちだす。
それを、『カイザーシェイアーガー』の手で……掴み、握りつぶし……その力を拳に宿す。
顔の前に掲げるようにされ、握りしめられているその拳。巨大な拳自体の力強さ、ほとばしる凄まじい魔力、それらが醸し出す存在感や圧力が感じられ……自分で言うのもなんだけど、いっそ神々しいまでの輝きを放っていた。
実際に中に込められている力はそれを上回ることを考えれば、今にも爆発しそうな爆弾にも見えるし、例えられるかもしれない。
そんな、戦略兵器も真っ青な拳を、振りかぶり……足を引き……腰を落として膝を軽く曲げ……『カイザーシェイアーガー』は、この上なくわかりやすい、原始的な攻撃姿勢をとる。
その構えは……空手家やボクサー、拳法家や軍隊が使うような、丁寧に精錬された動きじゃなく、もっと大雑把で適当で……しかし、それゆえに僕らが使い慣れている……『パンチ』のそれだ。
そして次の瞬間、落下してくるピエンドロラの光球が、僕らに直撃する……その直前、
「完・全・燃・焼!! カイザーシャイニングパァァアアァァアァンチ!!!!」
地割れを起こす勢いで地を蹴り、突き出した拳で、降ってきていた光球を容易く粉砕して爆発四散させ……その拳の勢いで余波が拡散することすら消し飛ばす。
そして、『カイザーシェイアーガー』の巨体は、全く勢いを衰えさせることなく直進し……その向こうにいたピエンドロラに……輝く拳が突き刺さった。
瞬間、解き放たれたすべての力がピエンドロラに叩き込まれ、電流のように、またたく間にその全身を駆け巡る。長大なその体全体に、致命の一撃が染み渡ったのが、感触でわかった。
周囲に漏れ出す魔力の余波は、すさまじい衝撃波や暴風になる。まるで、台風の中心にいるようだ……いや、中心が一番酷いことになっているが。
その中心にいるピエンドロラは、全身の細胞全てで悲鳴を上げているように、崩壊寸前の体全体で断末魔を轟かせていた。絶叫だけじゃなく、体中がひび割れて漏れ出す光が、朽ち果て、発火すらしていく体が……存在全てをもって『断末魔』を上げていた。
そして、少しの間、体の形を保ちながらゆっくりと崩壊していっていた魔王は……輝く拳がその体をとうとう貫き、向こう側に振りぬかれたと同時……宮殿の敷地全体を覆う大爆発を起こして、消滅した。
数十キロ先からでも見えたであろう極光、聞こえたであろう爆音を伴った爆発。
その数十秒後、爆風と土煙が収まった時、そこには……更地を通り越して、クレーターとなった王城跡地だけが、一転して見事なまでの静寂と共にそこにあった。
その上空に、『カイザーシェイアーガー』は悠々と、堂々と浮かんでいる。
――ぴこーん!
『隠しクエスト『魔王ピエンドロラを討伐せよ!』を達成しました!』
最早耳に馴染んだアナウンスが、僕らの勝利を告げてくれる。
長いようで短かった、イレギュラーな戦いが、ようやく……終わった。