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転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
最終章 この異世界というエリアで
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第110話 狂気

一挙2話更新になります。コレの前に109話も更新されてますので、あわせてどうぞ。

まあ、ちょっと長くなった上にあちこち話が飛んだからメリハリつけるために分けたってだけなんですがね。では、どうぞ。



バカ王女とその側近・護衛たちについては、いたぶる趣味も時間もなかったので、さくっと始末して、現在、ダンジョンアタックを続行している。


ただ、口の軽そうな、貴族風のおっさんを1人だけ残しておいて、情報を吐かせた。


拷問したわけじゃなく、殺す順番を最後にしただけだが、十分に恐ろしかったんだろう。自分より地位の高い王女や、戦闘力も強い騎士達があっさり殺されたのを見て、どうにかしないと自分も普通に殺される、と思ったんだろう。権力をいくらひけらかそうとも、助からない、と。


それで、色々情報を吐いてもらった後は……まあ、死んでもらったけどね。普通に。


しかしそのおかげで、一体何が起こってこんなことになったのか、それについて有力な情報を知ることができた。もしかしたら、『原因を探る』っていう目的については、これで達成したかもしれない、とか思えるほどに、


どうやら話は、僕らがあの勇者……『石原要一郎』を見逃した時にさかのぼるらしい。


あの時、突如として消えたあいつは、残っていた最後の一人の勇者の魔法によって、強制的に城に呼び戻されていたようだ。

そりゃすごいな……あの距離を、王都まで一気にテレポートさせるような魔法を使うとは。


その勇者、女性であり……『ミカ・フナイ』というらしい。

語感からして日本人だな。ちょっと珍しい苗字だけど。


そしてどうやら、僕らがあの『籠城戦もどき』で殺した、『安藤達也』とかいう勇者の恋人さんだったらしく……アレ以降、ショックでふさぎこみがちになっていたと。


それを聞いて、ちょっとばかり一瞬悪いと思わなくもなかったけど……あの場面では、僕らにとっての最適な対応はアレだった。強盗殺人目的でこっちに攻めてきてるような連中に尽くす礼儀は、あいにくと持ち合わせていない。


そもそもそんなこと言ったら、あそこにいた兵士たちにも、バックグラウンドはあるだろう。家族がいるとか、婚約者がいるとか。子供が生まれるとか。


戦争やってんのにいちいちそんなこと考えてられん。そもそも、再三言うけど、向こうはこっちを殺しに来てたのだから、殺されたって文句は言えまい。


この辺の区切りは、僕らはずいぶん前にもうつけているので、それを聞いても『へー、そう』くらいにしか思わなかった。今更だ。


が、問題はここからで……どうもその女勇者、泣きっぱなしだったのが落ち着いてきてから……妙に陰のある空気を漂わせていたらしい。簡単に言ってしまうと、ヤバそうな雰囲気を。


もともと貴族達への愛想もいい方ではなかったので、暴力装置としての役割さえ果たせれば文句はないと言って、気にしなかったらしいが……彼女は、単純に落ち込んでいるだけとかではなかった。もっとやばいものを、腹の底にため込んでいたようなのだ。


彼女本人の口から語られたわけではないので、これ、って特定することはできないが……まあ、大方の予想はつくな。恋人を奪われたわけだし。


そしてそれは……ついに爆発した。


貴族のおっさん曰く、彼女は、何をしたのかはわからないが、膨大な魔力を発生させ……その魔力が周囲を飲み込んでいき、城を、空間を破壊し、その場で作り替えていった。

同時に、魔物が発生し、その場にいた人間を手当たり次第に襲いだしたそうだ。


一部の貴族と、あの王女様は、他の貴族達が襲われ、食われている隙に逃げ出せた。

町の中にまで魔物が出てきていないうちに逃げたので、王都の門の近くにまで逃げ延びられたそうだ……それを出る前に、町にも魔物が出るようになってしまって、孤立することになったが。


なるほど、どう見てもザコの集まりだったあの連中が、王城から逃げ出せた理由はそれか。


そして……何が起こったのかは、おっさんの話だけじゃまだよく分からないけど、この異変を起こしたのが、その女勇者だってことは確かなようだ。

その原因、もしくは手がかりは、恐らく王城に残っているであろうことも。


なら、やっぱりこれからやることに変更はないな。

ダンジョンアタック。その目的に追加されるだけだ。その女勇者の捜索や、事情聴取、その他諸々が……高確率で、戦いになるだろうけど。


しかし、不思議なことが1つある。


貴族のおっさん曰く、勇者4人の実力はやはりというか、あの石原って奴がダントツで一番強くて、次点であのテイマー・安藤。その下に、ほぼ同じくらいで、最初に戦った長谷川ってのと、今回の女勇者が続くらしい。


一番弱い、あるいは二番目に弱い、って程度の能力なのに、なぜこんだけの事態を引き起こせたのか……それについても調べなきゃいけないな。




……けどそのへんはとりあえず頭の片隅にでも置いておいて今は戦闘に集中ゥ―――!!


『ガルルルルァアア!!』


「うわっと!」


後ろに飛び退った僕とレーネの目の前に、上級から急降下して襲い掛かってきていた、獣のような龍のような魔物が舞い降りた。空振りした鋭い爪が、道路に深々と突き立つ。

ネコ科の肉食獣を、真っ黒にして首を伸ばして、顔をちょっと爬虫類に近づけて、翼を生やしたらこんな感じになる、って感じの見た目だ。


★種 族:グリーフデビルジャガー

 レベル:32

 攻撃力:313  防御力:291

 敏捷性:302  魔法力:252

 能 力:通常能力『暗視』

     通常能力『敏捷強化』


今、多分王城までの道のり……半分から3分の2くらい進んだと思うんだけど……どんどん魔物が強くなってきている。こんな感じのが普通に出てくるようになった。


まあ、まだこの程度なら苦戦することもなく倒せる範囲だけど……


この『グリーフデビルジャガー』が、挟み撃ちにするように、僕らを2体で襲ってきている。


そのうちのもう1体……今、僕らが飛び退ったところに、連携プレーで襲い掛かってきたわけだが……毎度おなじみ『箱庭』で防ぐ。そしてそれを一瞬で解除し……頭をアイアンクロー気味につかむと、攻撃力3800オーバーの腕力を使って、地面に叩きつけた。


強靭な皮膚と筋肉のおかげか、ぱーん、と破裂するようなことはなかったものの、恐らく中身は骨も脳髄も何もかもぐちゃぐちゃになっているはず。

現に、一発で動かなくなって死んだし。


向こうを見ると、ヒットアンドアウェイ的に距離を取ろうとしていたもう1匹を、レーネが素早く追いかけて距離をつめ、サッカーキックで顔面を下から蹴り上げていた。

そしてその結果、長い首が無防備に目の前に来たところを、手に持っていた大剣を一閃させ、刈り取る。勝負はついた。


しかし僕もレーネも、油断なく周囲を警戒している。

どこから新手が襲ってくるかわからないし、第一他の皆はまだ魔物と戦っている。


右を見れば、フォルテが尻尾を大きく振り回して、群がってこようとしていた、『スケルトンナイト』の群れを粉砕して一掃してるし、


その少し向こうには、空中を飛び回っている『レッドグリフォン』……通常の『グリフォン』とあの『ゴールドグリフォン』の間くらいの強さの赤いグリフォンの群れを、ショットガン魔力弾でまとめて撃ち落としているリィラが見えた。


左を見れば、3mくらいの『メタルゴーレム』の振り上げた拳を、フェルが大盾で受け止めている隙に、カウンター気味の一撃でビーチェがそれを切り裂いて倒す。


その奥の方では、アルベルトとレガートが、神聖魔法で空中のアンデッドや悪魔を消し飛ばしたり、近づいてきた奴は蹴ったり斬ったりしてて、


後ろの方では、ピュアーノがあああぁあ―――! またあの人(?)は『偽装体』を囮にして! 一旦偽物の体を殺させてからカウンターで剣の本体を突き刺して!

ライオンの頭にサソリの尻尾を持つキメラ系の魔物『マンティコア』を、そんなだまし討ちコンボで斬首して、再構築した体でドヤ顔をこっちに向けていた。


そんな感じで、今の所は順調に戦い続けている。

出てくる魔物は相変わらず、一般兵では数をそろえても何もできず蹂躙されてしまう程度の連中だけれども。


しかし、そんな道中ではあるが、悪いことばかりじゃない。


強いだけあって、ここに出てくる連中からは得られる経験値が多いのだ。

戦えば戦うほど、皆、どんどん強くなる。


特に、ちょっと前までの僕らと同じく、最終進化を目前に控えた、ピュアーノとフェルには好都合だ。現在すでに、2人のレベルは60台に突入している。このまま戦い続ければ、あるいは、何体かエリアボス級と戦えれば、進化のボーダーであるレベル70に手が届くだろう。


さらに強い魔物たちが、そして未知の存在が待ち受けて居かねないここでのダンジョンアタックにおいて、それは大歓迎したいところである。


もっとも……ここまでザコモンスターが強いところまで来ているとなると、エリアボスもそれ相応に強い奴が待ち構えているだろう。油断なんてもんが許されるはずもない。



そしてその予想は、すぐに現実のものになった。



そこからさらに進み……王城の城門前の広場に差し掛かった時。

上空から、門を守るように舞い降りて来たそいつと、僕らは対峙し……そのまま、即座に戦闘に突入した。


というか、そいつが問答無用で襲い掛かってきたからなんだが……そいつが、ここで初めて戦うエリアボスだったのである。


見た目は……4mくらいあるジャガー、あるいはクロヒョウ。

しかし、背中に翼が生えていて……体格を抜きにしても、威圧感が尋常じゃない。というか、何か気配が……獣系の魔物とは違う気がするな?


鑑定してみると、なんと……



★名 前:魔将・グラシャラボラス

 種 族:グレーターデーモン

 レベル:59

 攻撃力:1104  防御力: 613

 敏捷性:1072  魔法力:1009

 能 力:通常能力『闇魔法適正』

     希少能力『魔法耐性』

     希少能力『眷属召喚・獣』

     固有能力『酸魔法』



まさかの悪魔系。それも、あの、王都脱出の時に戦ったのと同じ『グレーターデーモン』であり『魔将』……しかも、あの時の奴より強い。

固有名も持ってるし……これでエリアボスかよ!? そこらのダンジョンボスがかわいく見えるレベルだぞ!


しかも、その周囲にいくつもの魔法陣が浮かび上がり……あーコレ最近何度も見る光景。

魔法陣の中から、『グラシャラボラス』をちょっと小さくして、翼を取り外したような見た目の連中が躍り出て来た。

やっぱりね、眷属ね、数もそろえてくるか。


しかも、鑑定してみたところ……こいつらもエリアボス級の力をきっちり持っていると来た。

小国の軍隊なら、これだけであっという間に壊滅だろう。偉い相手だな……。


もし進化前の僕たちだったら、『合体』も視野に入れて戦う必要がある相手だっただろう。

今なら、僕単体でも相手をできると思うが……油断はできない。何より、能力値的に、僕ら3トップ以外の皆にはきつい相手でもある。得体のしれないスキルもあるし……


☆☆☆


「……来たわね。帝国軍の……いえ、『ダンジョンマフィア』だったかしら」


王城の奥。玉座の間。

そこに、壁際の段差になっている部分に腰かけて、足をぶらぶらさせている、1人の少女がいた。


その顔には笑みが浮かんでいるものの、薄く影が差しているようにも見え……目には光が灯っていない。


「『グラシャラボラス』と戦闘に突入……アレを相手に戦えるのなんて、ううん、それ以前に、アレが見張っている城門前までたどり着ける奴なんて、この国にはいない。多分、石原君でも無理……そんなことができるとしたら……」


その先を続けて言うことはなく、少女は腰かけていた場所から飛び降り、黒い髪を振り乱して床に着地する。


そのまますたすたと歩いて……入り口から玉座に続いている、赤絨毯の真ん中に立った。


そのまま、右側……入り口側を向く。

そこには、漆黒の鎧に身を包み、両手剣を背負うようにして帯剣した、1人の騎士がいた。


「行きなさい。侵入者を殺して」


こくり、とうなずいて、その黒い騎士は入り口を開けて歩き去っていった。一言も喋らずに。


少女は次に、逆側……玉座側を向く。

そこには、玉座に座っている……少し前まで人間だったモノがいた。


しかし今の、干からびたような体で、骨と皮だけの見た目になっているその姿は、とても人間ということはできないものだった。


加えて、体や手足はぴくぴくと震えており……口からは、か細い声が漏れだしている。


『苦シイ……痛イ……助ケテクレ……誰カ、誰カ……オラヌカ……』


「誰ももういないわ。……いなくはないけど、そのへんに転がって、死んで腐ってるわ」


『ナゼ、余ガ、コノヨウナ……余ハ、余ハ……王……コノ国ノ……王……ナゼ……』


「あなた達が私達を『召喚』なんてしなければ、私達は平和に暮らしていられた。あなた達のせいで、私達は不幸になった……だから、その分のお返しをしただけよ?」


『助ケテ……苦シイ……痛イ……』


「それは何よりね。でも……足りない」


少女は、ポケットから、謎の黒い球体……黒真珠のようにも見えるそれを取り出し、玉座に座るミイラの、力なくだらんと空いている口に放り込んだ。


直後、その体から爆発的な魔力が立ち上る。


『……アァア……ア……ア、ァア……!!』


苦しげに呻くそれは、ゆったりとした動きで玉座から立ち上がり……そこを退いて道を譲るように動いた、少女の向こうに見える、いくつもの死体を見据えた。おぼつかない足取りで、それらに近づいていく。


「お腹減ったでしょう? それ、残さず魂ごと食べなさいね……そうすれば、お腹も膨れるし、強くもなれるから……食べ終わったら、あなたも私のために働いて」


『アァ……アア……!』


「今まで役に立ってあげたんだから、最後ぐらい私の役に立ってね、王様。達也の敵を討つために。……そいつらだけじゃなく、私達を不幸にしたこんな国も、全部……滅ぼしてやるために」


この国の王だったものは、自らを支えていた貴族達だったものに向けて、うめき声を漏らしながら近寄っていき……その結末を見届けることなく、少女は玉座の間から出ていった。正面の入り口とは別な出入り口の扉を開けて。


直後に繰り広げられるであろう、おぞましい光景に……自分で命じたそれに、興味を示すこともなく。扉越しに聞こえる『くちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃ』という音もスルーして。


彼女はそのまま、ある場所に向けて歩き出し……戻ってくることはなかった。





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