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転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
最終章 この異世界というエリアで
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第104話 帝国掌握、残り半分



そんなことはなかったぜ。


……うん、まあ、わかってはいたんだけども。

大したことなかったよ。悪魔たち。


一応『鑑定』も使って調べてはみたものの、あれらの強さは、せいぜいが以前戦った『アークデーモン』級であり、第二皇子が使っていた『グレーターデーモン』にすら届くような強さの奴はいなかった。


そして、ダンジョンボスすら単騎で倒せるレベルにまで至っている僕らが、その程度の相手に今更苦戦するはずもない。


僕が手足長ゴブリンをランチャーで爆散させ、

フォルテが頭2つのよだれ犬をキャノン砲(威力控えめ)で消し飛ばし、

リィラが翼ゴリラをハチの巣にして終わりである。所要時間、わずか2秒。


「ひ、ひぃいいいぃ!? バカな、そんな……あ、悪魔が、我々の切り札が!」


「なぜだ!? これさえあれば、いかなる敵もおそるるに足らんのでは……こ、候爵! どうすればいい!? どうにかしろ! お、お前達もだ! 私を守れぇ!」


切り札だったのであろう、悪魔3体。それらをあっさりと倒されて、これでもかってくらいに慌てている彼らに、やれやれ、と呆れ気味にアルベルトは頭を振った。

そして、すたすたと近づいていく。両脇を僕とフォルテに固めさせた上で。


「く、来るな、この裏切り者め! それ以上近づけば……」


「近づけば、何だ? 見た感じ、一緒にいる近衛たちもへっぴり腰になっているようだが」


さっき、虎の子の悪魔たちを一撃で粉砕したのが相当にインパクト大だったんだろう。

伝え聞いた話では、相手がどれほど兄弟だろうと、皇族を守るために死をも恐れず向かっていく裂帛の気合を持つ志士、とかいう連中だったと思うが……さすがに相手が悪いか。


自画自賛になるけど、1秒の時間稼ぎもできるとは思えないしな。彼らじゃ。


そんな風に、近衛たちも役に立たなそうな状況であるが……アルベルトが半分くらい、第一皇子との間の距離を歩いたところで、なぜか、にやりと笑った。


そして、懐に手を入れ……黒い真珠のような何かを取り出し、目の前に掲げるように持った。


「馬鹿め、油断したなアルベルトォ!!」


その瞬間、水晶から魔力の波動が放たれ……直後、アルベルトの真後ろに、先程と同じ魔方陣が現れる。完全に背後を取る形で、さっき倒したのと同じような悪魔が現れた。


そしてその悪魔は、奇襲の成功を確信して、狼狽を笑みに換えた第一皇子の目の前で、アルベルトの首を引きちぎらんとカギヅメを振り下ろし……




……それより早く放たれた、アルベルトの振り向きざまの上段回し蹴り――しかも諸々のスキルの効果で強化した上、悪魔・アンデッド相手に特効を持つ――で、一撃で粉々になった。




「……へ?」


今起こったことが信じられない、といった様子の第一皇子。


その目の前で、アルベルトはその勢いのまま一回転して……灰になった悪魔が背後で散っていく中、再度第一皇子にむきなおる。第一皇子、まだ立ち直れない。反応しない。


あまりにも予想外だったんだろうな。どこからかすさまじく強い護衛を調達してきただけじゃなく、アルベルトまでこんだけ強くなってるなんて、予想外にもほどがある展開だろうし。


しかし、再起動を待ってやるつもりは、アルベルトにはないようだった。


「……さて、仕上げに入るか」




その後、剣で斬られて殺された第一皇子・カルロスの死体が、玉座の間にて発見された(ということになった)。


その下手人は、第一皇子の義理の父親でもある、候爵である。

彼がカルロスを皇帝に即位させ、その後で操り人形にして、私利私欲を満たすための悪政に加担させようとしていた。が、国のことを第一に考えていたカルロスはそれを拒否。

結果、自分の言うことを聞かない第一皇子に対し、逆上した候爵はこれを殺害してしまう。


そして、その候爵は、心労がたたったのか、患っていた持病の容体が急変してそのまま死んだ。


候爵はもうずいぶん前から死病を患っており、そのせいで長くないと医師に診断されたことが、今回の凶行の原因の1つでもある、とされた。要は、自暴自棄に近い状態だったわけだ。判断能力も、幾分鈍っていたと思われている。


なおこの推測は、現に候爵が死病を患い、それが彼の体の中を隅から隅まで侵していたことが、彼の死後に死体を検分した際に明らかになったため、信憑性は高いとされている。


こうして、ただ1人残った皇族であるアルベルトが、次の皇帝として即位することになった。


☆☆☆


と、いうのがカバーストーリーである。


実際は、瞬殺された悪魔が消滅していくのを前に『こんなはずでは』的なことしか言わなくなってパニックだった第一皇子様をさくっと処分し、その罪を候爵その他に着せるために、色々と偽装工作しただけである。


侯爵の死にざまが、体には傷一つない状態での病死だったことも、建前とは言え、広く発表する内容に説得力を持たせる要因となったと言える。

体の中に病が実際に育っていて、毒なども検出されなかったからな。


皇室の権力争い、お家騒動の末の事件だと睨んでいた連中も、これには首をかしげただろう。


もっとも、きちんと種も仕掛けもあるんだけどね。

ただし、ちょっとやそっとじゃ見破れないようなのが。


僕が進化してあらたに獲得した、いくつかのスキル。

その1つ……『呪殺災棺コトリバコ』。


名前からしてヤバそうな感じがする能力である。思いっきり、前世で怖がられていた都市伝説系ホラーなタイトルの1つだし……その効果も、ほぼほぼそれに準じたものだった。

なお、意味が分からなくて検索する際は自己責任でお願いします。


このスキルの使い方は簡単。


スキルを発動すると、木でできた箱根細工みたいな箱が現れる。

そしてその箱に……ちょうど『インベントリ』に収納するような感じで、生きた人間や、使う相手に対する恨みの思念、僕の魔力といった、『呪い』の材料になるものを手当たり次第に放り込んでいく。そうすると、箱の中で強力かつ悪辣極まりない呪いが構築されていく。


今回は、あらかじめアルベルトがとらえていた、『過激派』ないし『候爵派』とでも呼ぶべき連中が、スパイや暗殺者として潜り込んできていたのも含めて何人もとらえてあったので、作戦結構前にそいつらを生贄に使ってコレを作った。


それを、最後の仕上げとして、玉座の間にただ一人残されてぎゃんぎゃん喚く候爵に使った。


その直後、候爵は発狂したようなおぞましい叫び声をあげて――本当にあの瞬間発狂したのかもしれないが――胸を、喉を抑えて苦しみ出し、痙攣して……動かなくなった。


この『呪殺災棺コトリバコ』には、対象に任意の状態異常を付与する呪いのスキルだ。

言ってしまえばただの状態異常攻撃なわけだが……その『呪い』をどれほど強力にするかでその効果は変わり、しかもその効果には上限がない。

あるのかもしれないが、ないのと変わらなくらいには高い。何せ、呪殺すら可能なのだから。


今回僕は、それ相応の魔力と生贄を捧げて呪いを構築した。

それは、発動した瞬間に候爵を発病させて一気に末期にまで至らせ、病死させた。あとは、アルベルトが『神聖魔法』でその死体に残っている邪気や瘴気を散らせば、証拠も残らない。


周りの人間に悟られないようにしていたが……それも限界にきて死を迎えた、殊勝で哀れな老人の病死体の完成、というわけだ。


ちなみに、箱は使い捨てだ。使った瞬間に消滅する。


さて、種明かしはこのへんにして……


「では諸君……このたびはよく頑張ってくれた。このアルベルト、先に拝命した、『ゲルゼリア帝国』第13代皇帝として、心より感謝を表明しよう」


つい数時間前、簡単な『戴冠式』を済ませて、正式にこの国の皇帝となったアルベルトが、そう恭しく言って……会議室にそろっている僕らに、会釈程度に頭を下げた。

簡単な所作ではあるが、その動きにはよどみもなく、優雅さもある。アルベルト本来の育ちのよさというものが伺える場面だった。


……が、すぐにそれは、普段通りの気さくな彼の雰囲気へともどり、『よっこいせ』と普通に座席に腰かけ、僕らに向き直る。


「本来ならここで、今回のあれこれの立役者を集めて晩餐会でも開いて労をねぎらう所なのだろうが、いかんせん色々と立て込んでいて時間がないので、あとでまとめてやらせてくれ。全部終われば、いくらでも派手に祝うだけの時間はできるだろうからな」


そう言って、アルベルトは部下に目配せし、机の上に資料を広げさせる。


僕らとしても、今日はもともとそのつもりで集まっているので、文句はない。

祝ってやる気持ちがないわけではないにせよ、それは後にすべきだ。


何せ……この後控えているのは、隣国『トリエッタ王国』との戦争。

それも……長きにわたる戦乱に決着をつけるべく行われる、決戦である。


「すでに軍部の連中には話をつけた。向こうもおそらくはその前提で軍備を進めているだろうから、と言ってな。遠からず、皇帝の代替わりの報はかの国にも飛ぶだろう。その際、負けが込んでいる現状を少しでも取り戻すため、不安定になっていると思われるこの時期を逃さず、帝国にひと当てしてくるに違いない。……それを逆撃し、そのまま王国内部に攻め込んで決定打とする」


「プラン通りってことね……にしても、よく軍の人たちがこれ、OKしたわね? 裏をかく作戦は確かに有効でしょうけど、実際、皇帝の代替わりで色々混乱してるのは本当でしょうに」


と、レーネが聞くが、アルベルトは得意げににやりと笑って、


「何、そのあたりも見越して準備を進めていたと言ったろう? 厄介なことになりそうな点や、説得に苦労しそうな老獪な御仁は、ひと月以上前に全員根回し済みだ。そう出来なかった者も、先の戦いの混乱の中で消えてもらったし……現状、突発的な思い付きで何か言ってくるような者でもなければ、邪魔はない」


とのこと。相変わらず半端ないというか、おっかないというか……

何か起こったと思ったら、その時にはすでに何もかも終わってる、っていう状況をさらっと作り出して、この笑顔だもんな……何度も思うけど、こいつ絶対敵に回したくないわ。


しかし、アルベルトは『ただ……』と、珍しくその顔に怪訝な色を浮かべた。


「1つだけ、懸念事項もあってな」


「? 何?」


「先の混乱の中……候爵の邸宅も制圧したのだが、その娘、つまりはカルロス兄上の妻が、どうしても見つからなかった。おそらく、混乱に乗じて隠し通路か何かで逃げたのだと思われる」


つまり、アルベルトの義理の姉ってことか……だからってかける情けも何も持っていないだろうけど、政治的にはちょっと厄介な火種に逃げられた、っていう認識なのかな。


「それもあるが……どうやらそやつ、候爵家に保管されていた、『悪魔召喚』の力を持つ宝珠をいくつか持ち出しているらしい。そっちの方が心配だな」


あー……それは確かに。文字通りの火種になりうるな。


これは最近聞かされたんだけど、ここ帝国で、第二皇子ディヴォルによって解明され、編み出された『悪魔召喚』は、『宝珠』と呼ばれるアイテムを使うことで、魔力を代償に悪魔を召喚し、使役する……といったものらしい。


ディヴォル以外は『宝珠』を作ることはできないため、現存する宝珠がなくなれば、また一から仕組みを解き明かさない限り、新たにアイテムは生まれない。


が……その『宝珠』自体は、皇族に連なる者なら――それがたとえ血がつながっていなくても、嫁入りしてきた縁つながりであっても――誰でも使えるアイテムである。

使用者が弱者でも愚者でも油断はできない。


召喚される悪魔の強さは、個人の素質による。ディヴォルはその素養が特に高かったせいで『グレーターデーモン』なんて大物を、デチューンした上でとはいえ召喚し、使役することができた。真の力を使わせるためには、自分の魂を削って生贄にする必要があったが。


一方、カルロス皇子の場合は、そこまでではなかったとはいえ、一般的な兵士たちからすれば十分に脅威となる『アークデーモン』級を3体も召喚できていた。


ともかくやはり、そんなアイテムを持った状態で、政治上の火種にもなりうる人物が逃げているというのは、頭の痛い問題らしい。


「欲の皮が突っ張っていても、老練には変わりはなかったというわけだ。早急に対応はとるが……それを差し置いても、今は……王国との決着に注力したい」


「当然ね……もともとその予定だったし。私達の目的でもあるんだから」


アルベルトに続いて、ビーチェも言う。


「既に王国側でのプランは発動してる。先の『ドラミューザファミリー』拠点襲撃事件の後、各国とタイミングを合わせて流通をストップさせたから、今、王国内は足元がガタガタになってきてる。戦線を維持する兵糧も満足に捻出できていないはずよ。それを補うための搾取も始まった」


「しかし、我々が事前に手配した通り、それに応じて動く、表裏合わせた国家の暴力装置については、全て沈黙させてある。遠からず、王政府と主要都市は、支持を失って孤立するだろう」


「要するに、王国は今、滅ぶ一歩手前ってわけだ。ただし、無茶やって破たんしようとしてるのは、現状、王政府とその周辺にとどまっている。平民にそのとばっちりが及ぶ前段階だからな。今このタイミングで潰して全部かっさらうのが、一番周囲への被害が少なく済む」


うん。と、いうわけで……


「軍の再編成が終了し次第、総攻撃に移る。これが……最後の戦いだ」


「帝国の……アルベルトの用事メインの方は終わったし、エルフの隠れ里の仇は打った! 『ドラミューザファミリー』としては目的は残り半分! これより残り半分、王国をぶっ潰しに行きます! それじゃ皆……気合い入れていくよ!」


「「「オ――――ッ!!!」」」








「ところでアルベルト、ちょっと聞きたいっていうか、気になってたことがあるんだけど」


「? 何だ?」


「あのさ……前に戦ったあの第二皇子様……が、使役してた悪魔なんだけどさ」


「ああ、グレーターデーモン級の……『魔将・バルバトス』だったか。あれがどうかしたか?」


「そいつさ、散り際に『私は四天王の中で最弱の存在!』とか何とか言ってたんだけど……四天王って言うからにはさ、もうあと3人? 3体? いるわけじゃん?」


「ああ、まあ、いるんだろうな。私は見たことないが」


「さっき聞いた限りだと、帝国で一番悪魔召喚に適性というか才能があるのって、その第二皇子だったんだよね? もう死んでるけど」


「そうだな。もう死んでるけどな」


「それってつまり、グレーターデーモン級を召喚できるような奴って、帝国にもういない?」


「ああ、いないな」


「……つまり、結局残り3体の四天王は日の目を見ることはないと?」


「ああ、迷宮入りだな」


えぇー……。そんなのありかよ。

あんだけ思わせぶりにしといて……伏線回収しろよー……


「……まあ、気持ちはわからんでもないが、どこかに、ディヴォル兄上以上に、そういった才能を持っている奴でもいれば別だが……それはそれで、というかそっちの方が面倒だろ? あんなもんホイホイ召喚されたら」


「まあ、そりゃそうだけどさ……」





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