第100話 黒金の牙城
遅くなりましたが、投稿100回超えました。お祝いいただいた方ありがとうございました!
そして今回、題名の方でも『第100話』までたどり着きました……こっちはこっちで感無量。
今後ともよろしくお願いいたします。
話は……僕らが『リッチ』を倒した時点にまでさかのぼる。
『――選択を確定しました。『シャープ』が『禁宝魔城』に進化します』
『進化が完了しました』
『シャープは固有能力『居住空間構築』を手に入れた!』
『シャープは固有能力『環境掌握』を手に入れた!』
『特殊能力『悪魔のびっくり箱』より、能力『謎核黒箱』が派生した!』
『特殊能力『悪魔のびっくり箱』より、能力『神速急便』が派生した!』
『特殊能力『悪魔のびっくり箱』より、能力『凶罠黒箱』が派生した!』
『特殊能力『悪魔のびっくり箱』より、能力『呪殺災棺』が派生した!』
『派生能力『箱庭』が成長しました。空間歪曲拡張機能が実装されました』
『条件を満たしました』
『アイテム『銀の黙示録』が『金の黙示録』に変化します』
『閲覧可能な情報の範囲が拡大しました』
そんなメッセージが流れて、僕の最後の進化が完了し、『第五位階』に歩を進めたことを知らせて来た。
しかし、僕の外見には大きな変化はない。
正確に言えば、『機人モード』に変化している僕の外見に、だ。
せいぜい、防具だかパーツである箱型装備のカラーリングが、黒と青を基調とした、より重厚で、なおかつよりスマートな感じに変わっただけだ。
しかし、確かに僕は進化を終えていたし、自分を『鑑定』してみると、種族名も変わっている。レベルも1になっている。能力も……ちょっとすごいことになっている。
ちなみに、進化の際に表示された『進化先』が『城』だったので、コレ狭い場所で進化するのまずいんじゃないか、と思って、僕は急きょ『旧帝都』を出て、半径3km圏内に何もない荒地のど真ん中まで場所を移してから進化したわけだが、肩透かしを食らった形になる。
どうやら気を利かせて、進化の際も含めて、任意で『城モード』と『機人モード』を切り替えできるらしい。
さらには、他の姿……以前の姿である『宝箱型』や、変形して剣、盾、大砲、メイス、その他色々な形態への『変形』も普通に使えた。
基本形態が、バカみたいにでかい『城モード』になったこと以外は、今まで通りと思ってよさそうだ。
なお、戦闘能力はやはり『城モード』の方が『機人モード』よりも上……かと思いきや、そうでもないようだった。巨体ゆえ、馬力なら圧倒的に上だが、小回りのきいて汎用性のある『機人モード』とは、出来ることできないことが一長一短、という感じのようだ。
『魔物図鑑』の記載や、その後実地で色々試してみて、さらには同じく進化したフォルテも一緒になって色々調べてたんだけども……正にその最中だったのだ。
本部の方から、『襲撃』を知らせる手紙が届いたのは。
で、その後……早速僕の新スキル『居住空間構築』によって、僕の体内に皆がくつろいで休憩できるスペースを作り、そこにレーネ達を入れた。
巨大化して、僕の体に作った扉の中に皆が入っていくのを見てるのは、不思議な気分だった。
その後も、体の中……に、作った部屋の中で、皆が思い思いに過ごして、体を休めているのが……なんとなく感じ取れて。監視カメラで見てるわけでもないのにわかるんだよな。
ホントに、何かこう……もう何て言ったらいいかわかんないけど、微妙な気分だった。
皆の方も、他者の体の中に入って休憩する、なんてことは初めてだっただろうし、緊張してと言うか、色々気になって余計に落ち着けなかったようだった…………最初は。
しかし、皆さん精神的にタフなことで……1時間後には『もう慣れました』と言わんばかりに、いつも僕が使っている『箱庭』の中でそうするような感じで、思い思いにくつろぎ始めた。
レーネは鎧を脱いでベッドに寝転がり、ビーチェも同じようにして、ベッドの端に腰かけて、足を投げ出してリラックスしていた。
レガートとピュアーノはリビングのソファに集まってゆったりとくつろいでいて……いつのまにかキッチンでフェルがお茶を入れて、お茶菓子と一緒に持ってきていた。
フォルテはベランダに出て外の景色を眺めながら、勝手に持ち出したらしいサンドイッチをぱくついてるし、リィラは暇つぶしなのか、本棚にあった本を適当に選んで読み始めていた。
そしてアルベルトは……風呂に入ってバスローブに着替えて、グラスに注いだワインを片手に、個室のソファで優雅にくつろいでいた。なぜ一番付き合いが短いこいつがここまで無防備に、かつ遠慮なくくつろいでいられるのか……いや、別にいいけども。
つか、僕の中の『居住空間』、異様なまでに設備充実してないか?
寝室に大きなベッド、リビングには柔らかそうなソファ、キッチン、バスルーム、ベランダ……高級ホテルも真っ青な感じで、至れり尽くせり、痒い所に手が届くラインナップだ。
つか、ベランダってどこだよ、僕の体のどこかにできてるのか? それとも、疑似的に外の風景を映し出してるだけ、とかだろうか?
食べたり飲んだり読んだりしている物品は……どうやら、僕が無造作に『無限宝箱』に突っ込んどいたものが陳列されているらしい。さすがに飲食物や消耗品が無から生み出されるわけじゃないのか……ベッドとかは明らかに生み出されてるんだが。
まあいいか、皆が楽しそうに、おちついて休んでくれてるなら。
……ただ、僕はそんな中、進化して爆上がりした能力をフルに生かし、高速戦車モードで一路、王国を目指して1人寂しく走っていたわけだが。休まず。
皆がくつろいで休んでいる所、ただ1人、休まず。
気分は、行楽地からの帰り道、車を運転しているお父さんである。
助手席、後部座席では、遊び疲れた子供たちやお母さんがすやすやと寝ている中、同じように疲れているにも関わらず、1人孤独に車を運転し、家へ帰るまでを引き受けているお父さん。
平日の会社勤めで疲れがたまっているにも関わらず、たまの休日に家族サービスで遠出するために、休みだと言うのに寝坊もせず早起きして皆を遊園地に連れてきたお父さん。
眠気覚ましのガムを噛みながら、時にノロノロ運転で渋滞を乗り越え、時に高速道路のSAで簡単な食事だけをとってエネルギー補給を済ませ、ただただ家族のために走るお父さん。
……なんかちょっと前世のお父さんに、言えなかった『ありがとう』を言いたくなってしまった。
まあでも、ネガティブな感じのことを言ってしまったけれども……皆に力を取り戻すために休んでもらわなきゃいけないのは事実だし――無機物組は僕と同じく休憩は不要なはずだが――その時間を僕の頑張りで作れるのであれば、さほど嫌な気分でもない。
……と、今はまだ思っていられる。
たぶん、この放っとかれる時間が長くなると寂しくなって不満がたまってくると思うので、その時はそうだな……フォルテにでも代わってもらおうか。
前みたいに、箱モードになって、その僕を持って飛んで運んでもらおう。
……ってか、そっちの方が早いよな絶対。あいつも進化して、飛行能力さらに強化されたはずだし……いやでも、アイツの飛行はエンジン式だから、うるさいし光って目立つんだよな……。
そんな感じで、王国に戻ってきた僕は、前々から目をつけていた場所に、『城モード』で体を展開し、『ドラミューザファミリー』の戦闘用拠点とした。
そしてそこで、王国軍が来るのを待ち受けていた、というわけ。
そして今、攻城戦のつもりで挑んできた王国軍を……いやまあ攻城戦には違いないんだけど、その攻略される側の『城』本人として迎撃してるというわけ。
待ってる間に、色々と準備もした。
色々と兵器を作り、何かあった時に、その場のシチュエーションに合わせて様々な手を用意できるように、『無限宝箱』内に整理整頓して配備しておいたりとか。
アルベルトやビーチェにも手伝って貰って『城モード』の設計図を作り直して改造し、より戦闘に向いているように作り替えたりとか。
新たなスキルを身に着けたフォルテやリィラと一緒に、協力して新しい『眷属』ないし『精製モンスター』を作り出せないか、それを強化できないか試したりとか。
決して準備期間は長くはなかったけども、僕らが今の体のスペックを、できることを大まかに把握するには十分な時間だったと言える。
その結果、こうして不安なく王国軍を迎撃……というか、圧倒、蹂躙できているわけだ。
場面?は変わって、城(僕)の中にある、大会議室。
議事堂みたいな作りの、全員分の豪華で座り心地のいい机とイスが置かれている部屋だ。
そこには、ホログラムみたいに外の風景が空間に投影されている。コレを見ながら、さてこれからどう動くか……ってことで議論しつつ、それに従って僕は各種ギミックを駆使して応戦しているわけである。
なお、会議には分体の僕(機人モード)も参加している。
「正面見て10時方向、新たに攻城兵器を持ち出してきた。重装歩兵が護衛についてる。大砲で吹き飛ばせるか?」
「了解……ええと、照準合わせて……ほい、着弾、完了」
「よし、これでもうアレらは使えまい。残骸と死体が邪魔で行軍にも障害になったな」
「あっ……と、1時方向、敵戦線後方、騎兵が動き始めてる。これは……横撃かしら?」
「裏口か何かないか探ろうとしてるんだろう。騎兵は機動力は脅威だが、攻城戦では……入り口が開いていなければ、できることはほぼ皆無に等しい。放っておいてもいいだろう」
「一応追跡して……そうだな、射程圏内に入ったら狙撃、でいいのではないか?」
「あ、なら私の作った眷属たちを配備するのです。私同様、狙撃能力に優れますので……たまには性能のチェックも兼ねるということで。弾幕はシャープやフォルテに任せるですので、ここはひとつ、ヘッドショットで1発1殺を狙ってみるのもよろしいかと」
「そだね、なら、その兆候が見られたら、通路組み替えて直通ルート作るから、そこ通って行ってもらって……あとはリィラに任せる感じで。あ、でも、もし真後ろに来たらそれも要らないかも」
「ああ……確かお前、裏門周辺に地雷わんさか仕掛けてたもんな……騎兵とか、踏み込んだ時点で何もできずに吹っ飛ばされるわな。爆音で馬もパニックになるだろうし」
「感圧式の爆弾に『凶罠黒箱』のスキルの組み合わせでやばいことになってるんですよね……踏んだら即爆発する上に、範囲広いわ、破片は飛び散るわで、明らかに殺しに来てます、って感じの兵器でした。ストーンゴーレムが一撃で粉々になりましたもんね」
「でもぉ、どうせならそこに来る前にリィラちゃん達に仕留めてもらわない? 軍馬は貴重だし、出来るなら、乗ってる騎士だけ仕留めて、馬は回収すればいいと思うんだけど」
「でも母さん、馬より早くてタフな魔物くらい、シャープなら簡単に作れるけど?」
「私たちが使う分にはいいけど、もっと下の……傘下の団体とかに下賜したり、貸し出したりする場合は、なじみのあるものの方がいいと思うのよ。あまり広く、『眷属』をばらまくのも考え物でしょう? なら、本来育てるのに手間もかかるものだし、有りものを無駄にせず、回収して再利用する方が、手間も少なく安上がりだと思うのよね」
「ふむ……ピュアーノの言うとおりだな。シャープ、そうできないか?」
「うーん……やってはみる。あんまり得意じゃないけど……ってかリィラ、手貸して」
「了解なのです。というか、もう今始めますか? やるなら早い方がいいのです。パニックになって地雷原にでも迷い込まれたら、馬が使い物にならなくなるのですよ」
「あー、そだね……って、お?」
と、空中に映し出されている画面の1つに……再びあの『勇者』が映った。
その周囲に、4つの魔法陣……それも、さっき『ファイアードラゴン亜種』を召喚した時よりもさらに大きなそれを形成していた。
「あの……『勇者』だったか? テイマー型みてーだな」
「だね。しかし、あの魔法陣の大きさからして……サイズ的に結構なのが出てくるな。防衛設備だけだと抜かれるかもだし……フォルテ、スタンバっといて」
「おう。任せろ」
☆☆☆
『勇者』タツヤ・アンドーの周囲に浮かぶ魔法陣。
その中から……彼が最も信頼を寄せる、最強の召喚獣4匹が姿を現すところだった。
「遊びは終わりだ、本気で行くぞ……召喚!」
赤、青、黄色、緑に輝く、4つの魔法陣。そのそれぞれから、巨大な魔物が姿を現す。
赤の魔法陣からは、赤黒く輝く鱗と無数のとげを持つドラゴン。
青の魔法陣からは、蛇のように長い体に、ワニのように大きな口と鋭い牙を持つドラゴン。
黄色の魔法陣からは、翼を持たない4足歩行の、2本の長い角を持つドラゴン。
緑の魔法陣からは、鳥のような細身の体を持つドラゴン。プテラノドンに近いな。
どれも見たことのない魔物だ。どれ、順に……
★名 前:レッド
種 族:ブレイズドラゴン
レベル:45
(以下略)
★名 前:ブルー
種 族:エルダーシーサーペント
レベル:44
(以下略)
★名 前:イエロー
種 族:ヘビーリザード希少種
レベル:43
(以下略)
★名 前:グリーン
種 族:ワイバーンロード
レベル:42
(以下略)
なるほど……たしかに、普通にというか、この世界の標準的な戦力比較で考えれば、これらのうち1匹だけでも破格の戦力だろう。
それが4匹……勇者の名にふさわしいだけの力、と言えるな。
もっとも……君らの基準で、だけどね。あくまでも。
「レッドは俺と一緒に場内に乗り込んで暴れる! イエローは城門をぶち破って軍が入れる隙間を作れ! ブルーは陸から、グリーンは空から掩護! 行くぞ!」
勇者の号令と共に、4匹の龍が雄たけびを上げて動き出す。
その勇ましく、力強い姿に、恐慌状態になりつつあった兵士たちも。いくらか落ち着きを取り戻し、失われそうになっていた士気を再燃させ始めていた。
あの『勇者』が本気を出したのなら大丈夫だ。俺たちは助かる。この戦い、勝てる。
そんな風に思えてきているのかもしれない。
まあ、無理もないけど。
ファンタジーの花形と言ってもいい『ドラゴン』は、この世界においても力の象徴、強力な魔物の代名詞、と言ってもいい存在だ。一般的に知られている範囲・常識では、だけど。
それの、かなり上位の種族が、しかも4匹同時に現れる。
そりゃあ、敵にとっては絶望以外の何物でもない。逆に、味方にとってはこの上ない希望だ。
それに、体が大きければ、それだけ大きいものを相手にできる。だからこそ、この勇者は……『攻城戦』が予定されるこの戦線に駆り出されたのかもしれないな。
「とか何とか考察してみたけど……それでも結局、倒しちゃえば同じ、問題ないわけで。んじゃ、出番だよフォルテ。Are You Ready?」
『おう、いつでも行けるぜ……つかむしろ早く開けろ。体が鈍ってしょうがなかったとこだ』
「了解、了解。じゃあ……『戦機龍王』フォルテ、発進!」
言うと同時に、城の真ん中の棟、そのてっぺんの部分が横に開き……格納庫のようになっている内部があらわになった。
そしてそこに鎮座していたのは……鋼の龍。
進化して、これまでの姿である『機械龍』から大きく姿を変えた……僕の最古参の仲間である、フォルテだ。
★名 前:フォルテ
種 族:戦機龍王
レベル:1
攻撃力:3848 防御力:3929
敏捷性:2573 魔法力:3936
能 力:希少能力『最上級魔法適正』
希少能力『悪魔特効』
固有能力『機動生命体』
固有能力『眷属精製・機』
固有能力『眷属精製・龍』
固有能力『機攻魔法』
特殊能力『杯』
サイズは以前よりさらに大きく、そして装甲はさらに重厚で、それでいて洗練されたデザインになっている。腕も足も、以前より細く、長くなっているが、まるで甲冑のようにその身を覆う白銀の装甲版は、脆さ、ひ弱さなど微塵も感じさせない。
前傾姿勢ながら、人間に近いフォルム。爬虫類やネコ科の肉食獣を思わせる足の構造。
鞭のように長い尾に、機械仕掛けの蝙蝠を思わせる鋼の翼。その付け根には、ブースターと思しき機構が備え付けられていた。
その体中に、近代を通り越して、近未来のそれとも呼ぶべき兵器群が搭載されている。
肩から背中にかけてついているキャノン砲や、口から放つレーザーブレスその他に加え、見た目からではわからないような兵器も、あちこちに隠されているのだ。
最早、僕やリィラ以上にSFの存在と化しているフォルテは、空母から発艦する戦闘機のごとく、僕の『格納庫』的な場所から飛び立ち……城門を超えて迫ってくる赤い龍の正面に立ちはだかった。
「何ッ、だよ、アレ……!? 機械のドラゴン!? 何であんなものまで……っ、虚仮脅しだ!」
『はっ……そりゃ自分に言い聞かせてんのか? 『勇者』だか何だか知らねえが……自分の実力も含めて、現状を正しく認識できねえ奴は……長生きできねえぞ?』
「うる……さいっ! レッド! グリーン!」
フォルテがからかって言ったように……恐怖や雑念を振り切ろうとするように、わざとらしい大声で反論してきた勇者は、赤いトゲトゲの龍と緑色の細身の龍に合図を出した。
……どうでもいいけど、名前がこう、安直だな……あんまり考えないで決めたのかな?
最初に召喚したドラゴン……ゼファーだかっていうアレと、名前のセンスがえらい違いなんだが……ひょっとしてアレだけ別な誰かが名付け親だったとかか? ありうるな。
まあその辺はどうでもいいとして。
また火炎ブレスか何かで襲ってくるかと思いきや、赤い龍はその両手の爪(もしくは棘)を振りかざして接近戦で戦おうとしてきた。緑色の龍は……高速で周囲を飛び回りながら、風の刃をフォルテに向けて飛ばしてくる。そういやさっきも言ってたけど……支援担当らしいな。
赤い龍の突撃を掩護する形で飛んでくる風の刃だが……フォルテはガン無視している。
理由は見ればわかる。直撃しても、痛手になりえないからだ。
風の攻撃が有効打どころかけん制にもならないままに……しかし特に邪魔もされなかったので、赤い龍がフォルテに接敵。そのまま腕を、爪を立てて振り下ろして攻撃するが……
―――ザシュッ!!
『GYAAAAAA!!』
「う、うわあぁああ!? れ、レッドぉ!?」
止まった状態から急加速し、巨体からは想像もできないようなスピードで動いたフォルテが、すれ違いざまに、右腕から出したエネルギーの刃で斬りつけていた。
今まさに振り下ろされんとしていた、レッドとかいう龍の腕は……肘の上あたりからきれいに切断され、城の中、城壁の内側に落ちた。……回収しとくか、一応。
急停止して振り向き、再度『勇者』と赤い龍に向き直ったフォルテ。
しかし、勇者たちの方は、今起こったことのショックからまだ立ち直れていない様子。はっきり言って隙だらけ、というような醜態をさらしている。
その代わり、ってわけじゃないだろうけど、支援役である緑色の方が……今度はきっちり攻撃を目的としてか、風の刃がいくつも束ねられて竜巻になったような感じのブレスを吐いてきた。
が、フォルテは振り向きもせずに尾を振るい、それをあっさり散らしてしまう。
『遊んでんなら……帰れ』
視線だけを後ろに向け、ぎろりとにらむフォルテ。
それに恐れをなしたか、単純に距離を取ろうと思っただけかはわからないが、緑のプテラノドンもどきは大きく後退し……
その瞬間、城壁の上にいたリィラの狙撃で脳天を撃ち抜かれ、即死した。
さっきの会議での話の通り、騎兵の狙撃のために城壁まで来ていたリィラだが、ついでとばかりに1発ヘッドショットでドラゴンを仕留めていってくれた。
その光景に勇者が絶句している間に、戦況は容赦なく遷移していく。
まず、さっきから城門に突進を繰り返している、トリケラトプスみたいな、くすんだ黄色の龍。
このまま続けても破れるとは思えないけど、単純に鬱陶しいので……突っ込んできた瞬間にわざと城門を開け、その勢いのまま城の中に突っ込ませる。
そして、即座に城門を閉じる。結果、中に閉じ込められる。
そして、あらかじめ仕掛けておいた地雷が一斉に爆発。トリケラもどきに大ダメージ。
留めに、さっきと同じように塔を使った超巨大フレイルで叩きつぶし、息の根を止める。
これで、2匹。
続いて……さっきから何もアクションのない、蛇とワニを合わせたような青い龍。
……どうやら、緑の龍と同じように、こっちは黄色い龍を掩護しろって言われてたようだが、そいつが一瞬で殺されたせいで、何をしていいかわからない感じだろうか? 肝心の飼い主というか、勇者様も何も指示出せてないしな。
好都合なので、ちょっとだけ門を再度開き、中に倒れ込んでいる黄色い龍を見せてやる。
それを見て、助けようとしてだろうか、すごいスピードで青い龍が突っ込んできた。門をくぐって、中にまで……
……その瞬間に、門に仕込んでおいたギロチン風の刃を落とし、首と胴体を泣き別れにする。
仲間を助けようとしたところを悪いけど、これも戦争だと思って納得してほしい。
で、最後に残った赤い龍……と、その背中の勇者だが。
その命は、最早風前の灯火だった。
どうやら、今フォルテが赤い龍の腕を斬った時に、羽にも傷をつけていたらしい。機動力が完全に殺され、ろくに動けない状態になっていた。
そんな赤い龍に向けて、フォルテは……体内にチャージしていた、レーザーブレス……を超える威力を持った、重粒子砲のブレスを発射し、その直線状にあった全てを飲み込んだ。
その瞬間、腐っても『勇者』ということだろうか。到底耐えきれないレベルの一撃が飛んでくることを察した彼は、ドラゴンの背中から飛びのいて退避し、間一髪その攻撃の直撃から逃れていた。
受け身まではとっている余裕はなかったのか、落下し、ごろごろと地面を転がって痛そうに呻くが、すぐに立ち上がる。そして、苛立ちと憎しみを込めた目でフォルテを見上げる。
『ほぉ……大したもんじゃねーか、今のをかわすとは』
『いやあ、かなり大ぶりの一発だったしね……どっちかっていうと、あんだけやられて、メインらしき召喚獣も全滅して、今なおやる気が衰えてない、っていうメンタルの方がすごいかもよ?』
『いや、ありゃどっちかっていうと、むしろ頭に血が上ってんじゃねーか? メンタルはそうかもしれねーが、勢いだけだな。どっちみち周りは見えてねえぜ』
そんな会話が、『杯』のパスを介したテレパシーで交わされる。
ちなみに今僕は、城壁のところから跳躍して、フォルテの肩のところにちょこんとのっかっている。いやー、いい眺めだ。
それはそれとして……なるほど、やはりあの勇者、まだ戦意は失われていなかったらしい。
苛立ちとか勢いメインの感情かもしれないけど、まあそれは構うまい。というか、気にしても仕方ないというか。
ぎり、と、奥歯を噛みしめる音がここまで聞こえてくるようだ。
「……できれば、こいつらは使いたくなかったよ。僕でも制御できない、化け物だから……! でも……もう、そんなことは言ってられない……!!」
そしてこいつ、さっきから説明口調のセリフがやたら多いのは何なんだろう? 癖か何かか?
まあ、わかりやすくて助かるけども。
勇者の背後に、黒色の光を放つ、今までで一番巨大な魔法陣が現れる。
その大きさたるや、円の直径が城壁の高さにせまるほどだ。
そこから現れたのは……蛇だった。
タダの蛇じゃない。巨大だ。魔法陣に見合ったサイズだ。
重厚な鱗が黒光りしていて、いかにも頑丈で強靭そうなイメージである。
しかも、頭が……1、2、3、4……8、9……何個あるんだアレ?
ヤマタノオロチより多いな。全部で……13あるよおい。
★名 前:ブラック
種 族:キングヒュドラ
レベル:55
攻撃力:795 防御力:395
敏捷性:341 魔法力:258
能 力:通常能力『魔法耐性』
希少能力『超再生』
希少能力『超回復』
固有能力『尾を食む蛇』
特殊能力『呪毒の牙』
なるほど、切り札(ただし制御不能)というだけのことはある。大したレベルだ……このレベルってことは、第四位階だな。
―――キシャアアァァアアアァア―――ッ!!!
13ある頭で同時に方向を上げると、キングヒュドラは目の前のフォルテに、大半の頭を殺到させて襲い掛かる。
腕に、足に、尻尾に、胴体に、その巨大な口でガブガブと噛み付いた。
だが、その程度の攻撃が、能力値からして桁が違うフォルテに通じるはずもなく。
噛みついてる口のところから、毒液と思しきものがしたたり落ちて、地面でじゅうじゅう言ってるけども、肝心のフォルテの体には傷一つ、くすみ一つついていない。きれいなメタリックシルバーのままだ。
体格だけ見れば互角かもだが、あっさり振り払われて、さっきも使った腕のブレードで、4つ一気に頭を切り飛ばされた。
切り落とされた蛇の頭部が、血を吹き出しながら落下する。
が、その直後……胴体の方の切り口に異変が起こった。
切り口の所の肉が、何か不気味にうごめいたかと思うと……そこが盛り上がって、うねって、金戦意が絡み合って……たちまち頭部を再生してしまったのである。
『ほぉ……再生能力はたいしたもんだな。なら……これはどうだ?』
今度はフォルテは、『機械龍』時代にも幾度か使った兵器を……肩口のキャノン砲2門を、ガシャン、とせり出すようにして出現させる。
そしてそこから、魔力を凝縮した砲弾を放ち……キングヒュドラに直撃させる。
さっきより多い、九つの首が爆散し、血しぶきが、肉片が、骨のかけらが降り注ぐ。
しかし、どういうわけか再生もさっきより早い。
巻き起こった土煙があらかた晴れる頃には、9本とも全部元に戻っていた。
しかも……その段階になって、新たな問題が出て来た。
飛び散った肉片や、切り落とした首が……別な蛇の魔物に姿を変えていく。
『キングヒュドラ』そのものになるわけじゃないっぽいけど、それでもかなり大きな――いや、大小にはばらつきはあるが――恐らくは毒蛇の魔物。
それが、うねうねと肉片から生まれて形を成し、四方八方に散っていく。
おいおい、こんな能力まで持ってたのか……
傷つけても速攻で治る上に、傷ついた痕跡は『眷属』みたいな魔物に変わる。とことん嫌な相手だな……面倒この上ない。
というか、この眷属の蛇たち……制御できてないな?
広がっていって、誰彼構わず……それこそ、王国の兵士にも襲いかかってる。フォルテに襲い掛かろうとしてる奴もいるし、何匹か城の中……すなわち僕の体内にまで入ってこようとしてる。
……さっきから、召喚した『勇者』の姿が見えないのは……これを警戒してか?
制御できないって自分で言ってたし、こいつ、召喚したらひたすら無差別に暴れさせることしかできない、とか? 生み出される毒蛇軍団込みで。
それでいいのかよ、テイマー……なんちゅういい加減、そしてはた迷惑な。
『ちっ、鬱陶しい……まとめて消えろコラァ!!』
言いながら、フォルテは体中から魔力のミサイルを放って、眼下に見える一面を焼き払う。
まるで絨毯爆撃。ナパーム弾みたいに、見える範囲全てを炎で覆いつくしたその攻撃は……しかし、広範囲への攻撃だったからか、威力的にはそこまでじゃなかった。しっかり巻き込まれていた『キングヒュドラ』が、しかし今回は3つほどの頭の欠損ですんでいる。
しかし、小さい蛇たちはとても耐えきれず、全滅していた。残らず消し飛んだんだろう、死体もほぼ残っていない。ちょっとばかり、炭化した何かが残ってるだけだ。
……は、いいんだけど。
『あのさ、フォルテ……』
『あん?』
『……痛いんですけど』
『……ああ、わりい。流れ弾だいぶそっちに行ったか』
『いや、だいぶっていうか思いっきり当たってたけどね? 流れ弾っていうか、そうじゃないのまで結構当たってたけどね!? 気をつけてよフォルテの攻撃力は僕でも痛いんだから!』
……お忘れかどうかわからないが、僕の体、その本体はこの城であり、城壁であり、その他建造物である。地面とか、石畳すら全部含んで、僕の体の一部である。
そんなところに、フォルテの焼夷弾じみた魔力の爆撃なんぞくらったら、そりゃ痛いわ。
別に、ドラゴンが暴れても、大蛇の毒液が垂れてきてもびくともしないだけの耐久力はあるけど、単純にステータスで僕に迫る勢いの相手の攻撃はそりゃ痛い。
なので、出来る限り流れ弾とか生じさせないで戦ってほしいところではあるが……
『んなこと言ったって、そんな丁寧に周囲に気を配りながら戦える相手かよ……図体だけはでけーし、あっちはあっちで好き放題暴れてんだぜ?』
『むぅ……たしかに、図体はでかいわ無駄にしぶといわで邪魔だな。あの勇者(笑)がわざわざ城壁の内側で入り込んで召喚なんかするから……ああもう、仕方ない!』
『念話』で愚痴を吐き出しつつ、僕は、ヒュドラの目の前に飛び降りる。
唐突に目の前に降りて来た、小さな、弱そうな獲物を前にして、首の1つがひとのみにしようと食らいついてくるが……
「城壁盾」
一瞬にして構築され、僕の目の前に現れた、盾……というか、城壁そのものによって阻まれる。顔面から激突して、牙が何本か折れる羽目になったようだ。
それでも、頭の1つがふらついてるだけだし、そもそも蛇って脳が小さいから脳震盪も起こしにくかったはず。痛手を負った様子もなくそこにいる『キングヒュドラ』に対し……僕は、次の手に出る。
わかりやすく、『これから右手でパンチする』というような構え。半身になり、右腕を後ろに引く。
同時に、ちょうど『キングヒュドラ』の後ろにある城壁を操作し、その巨体が楽に通れるくらいの切れ目を作る。
そして、再度かかってこようと鎌首をもたげたと同時に、
「塔拳!!」
突き出した右の拳、右の腕が……そこだけ変形して巨大化。
さっき僕がフレイルにしたような、地上数階建ての高さの石造りの塔になり、その先端部を拳として『キングヒュドラ』に激突した。
僕の腕から生えた『塔』……重さ数万トンどころじゃない超弩級の質量兵器が直撃、あらかじめよけさせておいた壁の隙間を通って、外まで吹っ飛んだ。
突如として飛び出してきた蛇の巨体に、王国軍の兵士が何十人も押しつぶされる中……フォルテの方の準備も完了したようだった。
口元に……さっきの重粒子砲よりもさらに高エネルギーが凝縮したブレスが充填され、今か今かと発射の時を待っている状態だった。
『よし、やれ』
『おう』
直後……放たれる、暴力的なまでの破壊の奔流。
十重二十重どころじゃない。百重千重の光条が迸り、眼前の全てを貫き、焼き滅ぼす。
どうやら、これにはさすがに『キングヒュドラ』も耐えられなかったようで……その身を炭化させ、粉々に砕け散らせた。再生する様子もなかった。
巻き添えにして王国軍の連中もだいぶ消し飛ばしたし、あと残るは……『パン!』……あ。
見ると、向こうの方……城壁の陰になってるあたりで……召喚した後ずっと隠れて様子を見てたっぽい『勇者』が、リィラのヘッドショットで脳天を撃ち抜かれたところだった。
そして、その1時間後。
旗印である『勇者』を失った王国軍は、これ以上の軍事行動を続けるのは不可能、作戦は失敗と結論付け、わずかに残った兵を指揮して撤退していった。
おまけ
作中にうまく入れられなかったので、あとがきですが、シャープ達が進化した種族のデータです。
○禁宝魔城
気の遠くなるような長い年月を経て、巨大な城そのものが魔物と化した存在。一説には、かつて存在した『魔王』と呼ばれる何かが住んでいた居城がこの魔物だったという。
巨体ゆえの攻撃力と防御力もさることながら、自らの体、つまりは城全体を自由自在に変形させることができる。そのため、城壁に兵器を配備して攻城戦に対応したり、内部に入ってきた侵入者を次々にトラップを発現させて削り殺すなどの大胆かつトリッキーな戦術を操る。
体は城そのものであるため、内部に自らが主と認めた者や、その仲間を住まわせ、外敵から守る性質を持つ。その状態で移動したり、体の大きさや形を自由に変えることもできるため、難攻不落であると同時に神出鬼没の魔物である。
○戦機龍王
超合金の肉体と、体中に搭載した無数の戦闘用兵装を武器とする魔法生物。
ガーゴイル系モンスターの機械型亜種の頂点に立つ存在で、人間の持ちうる工学・魔法技術では決して創造できない水準の性能を誇り、いつどのように誕生したのか一切が不明。
本物のドラゴンすら軽くねじ伏せる戦闘能力を持ち、その怒りに触れた大都市一つを一瞬にして焼き払い、吹き飛ばし、更地にしたとも言われる。
超合金の体は物理・魔法両方に驚異的な耐性を持ち、大抵の攻撃は避けるまでもなく無効化してしまう。巨大な体躯とすさまじい膂力を活かした接近戦や、機械兵器による攻撃以外にも、魔法や眷属の使役等、多彩な戦闘手段を持っている。また、改造により兵装の変更や強化も可能。
○機攻戦乙女
美しい女性の体に鋼の兵装を備え、射撃による高機動戦闘を得意とする機械人形。
ドール系モンスターの機械型亜種の頂点に立つ存在で、人間の持ちうる工学・魔法技術では決して創造できない水準の性能を誇り、いつどのように誕生したのか一切が不明。
魔法金属等による強固な装甲と、体の各部に搭載された様々な武装を持つ。
魔法力や知能を含めた全能力が高く、配下の統率や兵士の教導すらこなす。また、精製した眷属もまた高い知能を持ち、高度な作戦行動や、専門技術を駆使した戦闘すら可能であるとされる。