表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
第4章 王国と帝国という名のエリア
100/118

第98話 欲望の魔の手



さすがに、超強力なアンデッドの軍団を相手取っては、僕らも油断どころか、戦い方を選んでいることすらできなかった。

いや、出来なくはなかったけど、一歩間違えば大怪我につながる状況に変わりはない。


なので、もうなりふり構わずって感じで戦った。


具体的には、僕が『アーティファクトメーカー』で作ったマジックアイテムや魔法武器、さらには近代兵器(もどき含む)の類を解禁して。


―――キュラキュラキュラキュラ……!!

―――ズガガガガガガガガガガガガ!!

―――ドゥン、ドゥン、ドゥン…………ドゴォォオオン!!


さっきから僕は、こんな感じである。


詳しくというか、具体的に言うと……『機人ショタモード』のまま、下半身をキャタピラに、右腕をガトリング砲に、左腕をショットガンに換え、両肩と腰の左右両側にキャノン砲を、背中にはランチャーミサイルポッドを装着し……戦車人間のような形態になっている。


その状態で、高速で動き回り、次々に放たれる魔法をかわしたり撃ち落としたりしながら、『リッチ』と真正面から弾幕バトルをやっている所だ。キャタピラって割と速く走れるんだよね。


リッチは、本当に魔力が底なしなんじゃないか、ってくらいに苛烈に攻めてくる。

『ファイアボール』に『アイスアロー』、『ウインドカッター』に『ストーンバレット』……その他諸々、さらにその上位互換と思しき魔法までバンバン使ってくる。


そこらのスケルトンメイジならまだしも、魔法力1000超えのこいつが使う魔法では、当たれば僕でも結構な痛手になる可能性がある。

なので、重武装でありながら機動力は保ち、こうして撃ち合いで抑え込んでいる。


……僕しかできないからね、この役目。

弾幕張って、攻撃と防御を同時に行って……こいつを釘付けにしておくっていう役目は。


そしてその間に……邪魔な取り巻きを、皆が相手してくれている。


「こん……にゃろォが!!」


『グオオォォオオオ!!』


フォルテは今、『機人モード』を解除し、『スケルトンドラゴン』と戦っていた。


機械の龍に姿を戻したフォルテは、真正面からぶつかってきた『スケルトンドラゴン』を、よけも防ぎもせずに受け止めて……そのまま、力任せに引き倒す。

足で踏みつけてその体を押さえつけ……神聖属性を付与したレーザーブレスで、焼き払う。


だが、どうやら以前『栄都の残骸』で戦った個体と同様、『神聖属性耐性』かそれに類するスキルを持っていたらしい。直撃を受けても消滅せず、強引に拘束を振りほどいて体勢を立て直し、再びフォルテに相対していた。


時を同じくして、レーネとビーチェは、2人がかりで『スケルトン・バーサーカー』と戦っていた。身の丈ほどもある大剣を持ちながら、かなりのスピードとパワー、そして疲労を感じない体を武器に襲ってくる難敵だ。


その攻撃力を危惧し、最初のうちは慎重に戦ってたんだけども……だんだんと動きに慣れてくると、徐々に大胆に切り込んでいったりする場面も見られるようになった。


その反対側で戦っているフェルとピュアーノは、2人が『無機物』であり、状態異常系の攻撃が効かないことを活かして、『凶毒デッドリー屍鬼コープス』と戦っている。


動作自体は比較的鈍重で戦いやすいが、腐肉でできたゾンビの癖に、その戦闘能力……特に、膂力と耐久力が群を抜いて高い。しかも、体液が強い毒性を持っていて、攻撃のほぼ全てに毒の追加効果があるという凶悪さである。運良く致命傷を避けても、追加ダメージが襲ってくるわけだ。


もっとも、さっき言った通り、この2人にはそれも意味のないことだが。


2人とも、優れた技量を持つ戦士だけあり、1発も被弾することなく、軽やかに立ち回っている。フェルなんか、あの重装備でよくああも動けるもんだ。


……ピュアーノは、自分の本体でもある剣で、腐った体を切りつけるの、若干嫌そうだけど。


そして、残る『魔魂騒霊ホーロガイスト』……半透明の亡霊野郎には、レガートとアルベルトが相対していた。


リッチほどではないものの、魔法主体で攻めてくるこいつに対し、2人は距離を保って、霊体にも有効な神聖属性の魔法で対応しているようだ。2人とも、敏捷性は僕らの中でもトップクラスである。弾幕というほどでもない『魔魂騒霊ホーロガイスト』の魔法攻撃を、全て避けて反撃している。


時には、隙を見つけて鋭く切り込んで、接近戦で攻撃することもあるようだ。

レガートはスキル『祓魔士エクソシスト』が、アルベルトは『月兎烈脚』がある。この2つは、いずれも体術や剣術に神聖属性の力を付与できるようで、アンデッド相手に相性がいい。


そして最後に残るリィラは、戦場全体を俯瞰しつつ、不測の事態が起こらないように目を光らせている。もし、誰かが命にかかわるようなピンチに陥った場合にのみ、彼女が介入する手はずになっている。

その場合は、経験値の分配が酷いことになりそうだが……命には代えられまい。


だが、幸運にも、そういう事態は訪れず……戦いは、やがて収束に向かっていった。


フォルテのレーザーブレスを何度も食らった『スケルトンドラゴン』はついに力尽き、


一瞬のスキをついてレーネが『スケルトン・バーサーカー』の剣をカチ上げて体勢を崩し、そこに切り込んだビーチェが頭から股下まで両断する。


削られ続け、とうとう耐久が尽きた『凶毒デッドリー屍鬼コープス』は、フェルとピュアーノの怒涛の連携攻撃の前に、動くことのないただの屍と化し、


同じく耐久力も魔力も尽きた『魔魂騒霊ホーロガイスト』を、レガートの剣が真っ二つにし、アルベルトの蹴りが霊魂ごと粉々に砕く。


そして、残った『リッチ』に全員でかかり……弾幕にフォルテや、魔法攻撃が使えるレガートやアルベルトが加わったことで、物量で押し返すことに成功。


とうとう止めきれなくなった攻撃が自分の方に向かってきた瞬間、リッチは攻撃魔法を放つのをやめて、周囲に強固な障壁を展開した。


その障壁のおかげで、僕らが放った、魔法やらブレスやらランチャーやらは防がれてしまったものの……その一瞬の隙をついて、矢のような勢いで、僕らの後方からレーネが飛び出してきた。


レーネはすれ違いざまに、一瞬で剣に変形した僕をキャッチして右手に握り、装備。

そして左手には……『偽装体』を解除して剣に戻ったピュアーノを装備していた。


右手に僕。左手にピュアーノ。

この状態のレーネは……それぞれの素の攻撃力に加え、『杯』で結ばれていることによる補正、さらにはスキル『重魔剣術』『修羅の剣』等の相乗効果により、攻撃力が爆発的に上がっている。


接近戦の一撃の攻撃力で言えば、フォルテやビーチェが僕を装備した時すら上回る攻撃力をたたき出す。現時点における、物理攻撃の最大火力の一手だ。


すれ違いざまに、僕とピュアーノを横凪ぎに振りぬき、結界を破壊して……中でなすすべもなかったリッチを、上下3つに切り裂いた。


☆☆☆


ところ変わって、場所は、『トリエッタ王国』の王宮。

その深部にある、玉座の間。


シャープ達が『リッチ』との死闘に終止符を打ったちょうどその頃……そこでは、国王や王族たち、有力な貴族たちが見守る中……1人の若者が、謁見をしていたところだった。


上等な素材で作られた礼装に身を包んでいるその青年は、しかし、どこか面倒くさそうな、不真面目さが感じられる態度で、玉座に座る国王の前に立っている。


その青年に対し、国王は口を開いた。


「勇者、タツヤ・アンドーよ、そなたに重大な指令を下す」


「はい」


青年……タツヤ・アンドーこと、安藤達也は、気持ちのあまりこもっていない声で返事をした。


「そなたには、わが軍の1個師団を率いて、今から言う場所に行き、そこに巣食っている犯罪組織を壊滅させ、そこにある物資全てを徴発して持ち帰ってもらいたい」


王が説明することには……昨今、国内において、未整備だったスラムやその周辺、あるいは、吸収した元敗戦国の領土を中心に、影響力を強めている地下組織が存在するという話だった。


その組織は、非合法の裏取引や、違法な奴隷を使った過酷な労働によって、巨額の不当な利益を上げている犯罪集団である。


このたび、その本拠地を突き止めるに至ったため、一騎当千の戦力である『勇者』を軍と共に差し向けて、その討伐を行いたい……とのことだった。


「度重なる戦いにより、国民は疲れ切ってしまっている。それでも彼らは、苦しみながらも懸命に戦後復興を進め、立ち直ろうと頑張っているところなのだ。我々も精一杯それを応援しているが……そんな国民たちの生活の糧を搾り取り、懐を肥やす者達を許しておくわけには行かぬ。皆の笑顔のため、この国の明るい未来のため、悪しき者達の討伐にその力を振るってはくれぬか?」


「わかりました。お受けします」


「うむ! よろしく頼むぞ!」




概ねそのような形で謁見を終え、自室に戻ってきた王は、高価なソファに身を預け、冷やしたワインで愛する娘と共に楽しんでいた。


「謁見、お疲れさまでした、お父様。これで万事うまくいきますわ」


「うむ。これで我らの生活も、帝国との再戦に向けた軍費の捻出も問題なくなる。先の貴族家から搾り取る案といい……お前は本当に有能だな、娘よ」


「ありがとうございます! それにしても……本当に腹立たしいですわ! 私達の国で、そのように勝手な商売を行って金を稼ぐなど。私達、国を治める立場の者達に断りもなく……」


「うむ、全くだ……それらの金は本来、国のかじ取りや、他国の侵略から国を守る役目を担う我々の手にあるべきものだというのに、犯罪組織ごときが懐にしまうなど言語道断だとも。全て取り上げて、あるべきところに戻してしまわねばならんだろう」


「確か……マフィア。『ドラミューザファミリー』と言いましたか? 今までこそこそと隠れて上手くやっていたようですけど、それも終わりですわね」


会話からもわかるように、先の謁見は、何から何まで嘘で塗り固められたもので……今回の『勇者』を動員した遠征は、単に彼らが犯罪組織……『ドラミューザファミリー』がため込んだ財産を没収するために起こしたものだった。


国民を搾取で苦しめているのは、他ならぬ王国政府であるし、応援などしている事実はない。

いや、なくはないものの、少なくともそれは自分達の利益になる範囲でだ。その他の地域の町村は、勝手に滅べとばかりに放置されている。


それらを助け、支え、復興を後押しし……その結果として自分達も収益を上げている存在こそが『ドラミューザファミリー』であり……それを知った王政府は、それをどこまでも自分達に都合のいいように解釈し、この組織の財産を奪い返すべきだ、という結論に達した。


自分達の生活の維持はもちろん……これからさらに、帝国との戦争に力を注ぐための、軍備に充てる資金として。


「平民たちも平民たちです。無理やり働かされているとしても、そんな金があるのなら、この国のために使うべきだということが、どうしてわからないのかしら? 私達に差し出すべきでしょう!」


「ああ、全くだ……だが、そんなところに金がたまるような余裕があるのなら、もっと税をあげてやってもよさそうじゃないか? 集まるべき所に集まらない今の仕組みが間違っているのなら、そうなるようにすればいい。余分な金など、下々の手が届くところに置いておくべきではないのだ」


「そうですわね! この討伐戦が終わったら直ちに着手いたしましょう! そのマフィアの連中も、二度とこんなことがないように皆殺しにしてしまわなくてはいけませんわね!」


「そうだな……まあ、ある程度見た目のいい者がいれば、奴隷市場に流すという手もあるぞ? 多少は金になるだろうしな」


すでに作戦の成功を確信し、その後の対応や金の使い道を話し始めている王とその娘。


だが、彼らからすればそれも無理はない。

今回の戦いには、王国の虎の子の兵器とも呼ぶべき『勇者』が動員されているのだから。


王族にのみ伝えられる、秘伝の魔法によって、異世界から『召喚』された4人の勇者。

本来であれば、魔物の大量発生や悪魔の侵攻など、国家存亡の非常事態にのみ許される、とされた秘術だが……彼らはそれを、当然のように、戦争のための道具として利用しようとしていた。


そのうちの1人……『長谷川裕』については、帝国軍との戦いの中で命を落とした、と伝わっているが、今回動員するのは、その勇者・長谷川よりも強いとされている男だった。




そして同じころ、城の廊下で、その討伐軍に選ばれた男は、同じような服を着た少女と立ち話をしている所だった。


「えー、じゃあ達也、そのなんとかってマフィアを倒すために出撃することになったの!?」


「ああ。でも大丈夫さ。どうせ弱い者いじめして金をむしり取ってるようなケチな悪党だし、ちゃちゃっとぶっ殺して全部終わらせて来るよ」


軽薄そうな笑みを浮かべてそう言う男……先ほど、謁見の場で討伐軍への従軍を拝命した『安藤達也』は、自分を心配するように上目遣いで見てくる少女に、安心するように言う。


その少女はと言うと、東洋人風の顔立ちに、黒い髪。

見た目からして、安藤や……以前シャープ達と戦った長谷川と同じ、日本人だった。


「大丈夫。俺もだいぶ修行して強くなったし。今じゃ、この国の将軍たちにだって楽勝なんだぜ? まあ、さすがに石原ほどじゃないけど、マフィアだの盗賊だのくらいなら1人でも余裕だよ」


「そうだよね……私達、勇者なんだもんね! どんな相手でも勝てる勝てる!」


「そうだ、よさそうな宝物……宝石とかがあったら、持って帰ってきて美香にプレゼントするよ。ボーナスも出るって言ってたし、2人で食事にでも行くのもいいかもね。楽しみに待ってて」


「うん、頑張ってね、達也!」


名前は『船井美香』。安藤達也とは、恋人関係にある少女である。


『召喚』される前からの関係の少女は、これから戦いに、もっと言えば略奪に行くのだと言っている男の言葉を、何の疑問も抵抗も持たずに肯定し、応援する態度を見せていた。


そこに、戦場になる町に暮らしている人々に対する配慮や、責められる立場にある者達に対する思慮はない。本当に王たちの言う通りの内容なのか、あるいは、それしか方法がないのか、というような疑問を抱くこともなかった。


それが、元々の性格によるものなのか、あるいはここに召喚されてからの、意図的に偏った情報しか渡してこなかった王族の意図したところかはわからない。


わからない、が……この2人に、真実を見極めるだけの思慮も意思もないことだけは確かだった。


この時、少しでもそのあたりを考えるだけの思慮が、この2人のどちらかにあれば。

あるいは……未来は変わっていたのかもしれない。


この3日後……王国軍と勇者・安藤は、『ドラミューザファミリー』のアジトへ旅立った。

そこで彼らを待ち受ける者が何者であるか、最後まで、正確に知ることのないままに。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ