第10話 新たなエリア
最近リアルが忙しくなってきまして……いや、夏~秋の時期は毎年忙しいんですけども。
休日も削れる見込みなので、更新ペースが今より落ちるかもしれません、ご了承ください。
もう1つの方も合わせて、なるべく暇を見つけて書くようにいたします。
このところ、僕は少しずつ移動しながら……出てきた魔物を狩り、アイテムと経験値に変え、素材は収納し……という感じで暮らしている。
トカゲが出てくれば、襲い掛かってきたところを体当たりで体勢を崩し、大口でかぶりついて食いちぎって仕留める。
蛇が出てくれば、かみつきや締め付けをかわして即座に反撃。胴体にかみついて食いちぎって2分割してしまうか、喉笛を食いちぎって仕留める。
蝙蝠が出てくれば……あいつら飛ぶので、追いかけると不利。じっと動かず待って、運よく近よって来たら……素早く飛びかかって食らいついて、そのまま仕留める。
そんな感じで、『トカゲの皮』とか『蛇の皮』とか『蝙蝠の翼膜』とか、色々なアイテムを順調に手に入れていっている。使い道ないけど。
加えて、ちょっと石の材質とかが違いそうだなって思ったり、人間が落としたか何かしたと思しきアイテムを見つけたら、積極的に拾ったり食いちぎったりして収集している。
集められるものは何でも集めていく主義なので、みるみるうちに色んなものが集まる。
そんな感じなので、『アイテムボックス』もそろそろいっぱいになりそうだな……と思ったあたりで、それは起こった。
今の今まで謎だった特殊能力『悪魔のびっくり箱』が、ついに仕事したのである。
どうやらこの能力、僕が強くなっていくごとに、徐々にその性能を開放していくらしい。
普通の能力みたいに、習得した瞬間に何かができるようになる……というものではなく、徐々にできることが増えていく……と。面白いななんだか。
そして、その最初の一歩として何ができるようになったのかというと……解放された能力は、その名も『無限宝箱』というもの。
その名のとおり、容量無限のアイテムボックスというわけだった。何このぶっ壊れスキル。
そしてそれを習得した瞬間、今の今まで持っていた『アイテムボックス』がそれに統合され、入れていた中身も『無限宝箱』の中に移った。
これにより、採取系ゲームによくある、『アイテムがいっぱいです!』という悲劇を心配しなくてもよくなった。これはうれしい。
油断すると、何をどこにしまったか忘れそうだという不安もあったんだけど……なんとこの能力、検索機能までついてて……ためしに『皮』というキーワードで検索したら、『トカゲの皮』『蛇の皮』といった皮系素材から、『革靴』『革の鎧』といった『かわ』製品まで検索してヒットさせ、リスト化して閲覧可能になった。何この便利すぎる上に親切なスキル。
読み仮名が一致するものの検索機能はON/OFFまできくみたいだし……すごいな。
『悪魔のびっくり箱』……パない。
こんな能力が、今後さらに増えていくのか……期待させてもらおう。
さて、そんな僕の今のステータスは……こんな感じだ。
★名 前:シャープ
種 族:狩喰箱
レベル:19
攻撃力:152 防御力:179
敏捷性:103 魔法力:99
能 力:通常能力『擬態』
固有能力『財宝創造』
特殊能力『悪魔のびっくり箱』
派生:『無限宝箱』
敏捷性も3桁の大台に乗り、残る魔法力も……次のレベルアップあたりで100超えそうな感じ。
随分と強くなったもんだ……もうこの辺の魔物には、苦戦すらしなくなってきた。
強敵の一つだった蛇が相手でも、真正面から挑んで勝てるし。ミミックなのに。
不意打ちがお家芸みたいな魔物の系列なのに、普通に正面から勝てる。どうなんだろコレ。
そこはかとなくコレジャナイ感が漂う光景を頭の中で想像してしまうも……まあ、できるもんは仕方ないと割り切っておく。
そんな感じで狩りを進めていた、ある日のこと。
相変わらず代わり映えしないダンジョンの中を進んでいると……不思議な通路を見つけた。
怪しい通路、いや、見るからにおかしい通路、と言ってもいい。
いや、通路と言っていいものなのかすら……ちと悩ましい。
何せ……そこをくぐった向こうが、見えない。光にあふれていて。
……いや、マジ何だコレ?
無理に例えて言うなら……そう、ゲームのダンジョンとかの出口、みたいな感じだ。
ゲームって、通常のフィールドとダンジョンの中が明確に区切られてて……入り口から中に入ると、画面が暗転したりして場面が変わって、完全な別マップとして表現されるじゃん?
その演出の一環で、洞窟のダンジョンの入り口とかって……真ん前に立ってみても、その中が見えないじゃん? ただ暗くなってるだけじゃん?
逆もしかり。出口の真ん前に立ってみても、向こう側に外の世界が見えたりしないじゃん?
そして、このダンジョン世界には、明確に『エリア』というものが定められていて、その境界を超えると、環境やら景色やらが大きく変わる……というのは、前におじいちゃんから聞いた。
……と、いうことは……だ。
この、いかにもな感じで向こう側の視覚情報を遮断してる通路は、ひょっとして……
意を決してくぐってみたら……おお、大当たり!
光に包まれ、一瞬だけ世界がホワイトアウトしたかと思うと……次の瞬間、僕の眼前に広がっていたのは……それまでとは全く違う光景だった。
いや、ていうか……
「……外? ていうか、森?」
そう、としか見えなかった。
出口?から出たそこは……石や岩ではなく、土の地面。そこからは草木が生えていて、普通の外の世界のように明るい。
上を見上げてみれば、天井なんてものは存在しておらず、抜けるような青空が見える。大小の木々が生い茂ってるせいで、見える面積がちと小さいけど。
それでも、少し移動して木々の合間を見つけて空を見てみると……どう見ても、ダンジョンの中であるようには見えない、大空がそこには広がっていた。
事前に麒麟のおじいちゃんから、あの空は『そう見えるだけ』の偽物である、と聞かされていなければ、普通に『わー、外出れたー!』とはしゃいでいたことだろう。
現実にはあの空は、幻なのだ。
天井はちゃんとある。ただし、物理的な天井じゃないけど。
何と言えばいいのか……そこから先の世界というか、空間が用意されていない、らしい。
例えば、僕は使えないけど、飛行魔法とかでどんどん上に登っていくと、一定以上の高さ以上には上がれないようになっている。
天井にぶつかるとかじゃなく、バリアが張ってある感じでもなく……ただ単に、それより先には進めないのだ。
いくらコントローラーの十字キーを押し込もうと、ゲーム画面の端っこより先には移動できない、って感じに近い。ほらアレ、たとえ行き止まりになってなくても、その先に行けないし。プログラミングされてないわけだから、当たり前ではあるけども。
っていうかこの世界、いざって時にはゲームに例えるとだいたい何とかなるな……。
そして、地上のエリアは……だだっ広く森林地帯が広がってるように見えて、実際にはきちんと端がある。岩の壁になってたり、木が並んだりしている。
これもいっそゲームで例えてしまおう。2Dのゲームの森とかのマップそのものだ。
RPGの森系のマップってさ、迷路になってることが多くて、その端っこはたいがい木が不自然なほどにびっちり並んで壁になってるよね。ああいう感じだ。
ホントに、ゲームの中に入り込んだ……って感じがする。
洞窟マップの中にいたときから思ってたけど……外に出るともっとその印象が強まった。
フィールドに移動制限があるあたりで、余計にそう感じてしまう。
昔の携帯ゲーム機用のRPGソフトとかの中に入ったら、まさにこんな感じだろう。画面の端が世界の端。木でも、岩でも、そこを超えてキャラを動かし、探検することはできない。
今僕は、そんな世界の中にいる。
……けど、別に窮屈さは感じない。
この世界を狭いと思うには……まだ僕は、世界を知らなすぎる。
考えてみれば……変わらないじゃないか、地球にいた時と。
あの頃たしかに僕は、壁も何もなくて、空も無限に広がっている世界に住んでいた。
けど、僕の生活圏……移動する範囲なんて、せいぜい徒歩数分から十数分の近所や、電車や自転車で移動する学校までの通学路、そしてその周辺くらいだ。
コンクリートジャングルの外に出ることはないし、舗装されてない道や、使い方や経路の決まった公共交通機関に沿った移動以外の移動もしなかった。
そう考えれば……世界に端っこがあろうがなかろうが、そんなことは些細なことだ。
とりあえず、新たに到着し、眼前に広がっているこの世界を……一から探索してみることから始めようか。話は、それからだ。