第1話 吾輩は箱である
気分転換に書き始めてみました。
もう1つの方の更新には、支障ないようにしたいです。
連載ペースは安定しづらいかもしれませんが……楽しんでいただければ幸いです。
どうぞ、お気軽に見ていってください。
……タグ部分に不穏なものがいくつか混じってますが……気のせいです(おい)
突然だけど……『箱』って、好き?
僕は、好きだ。なんとなく。
昔、どこかで聞いたことがある。
いや、どこかで聞いたんだか、本で読んだんだか、テレビで見たんだか、その辺あいまいだけど……とりあえずどこかで『聞いた』という表現でいかせてもらう。
人は……箱を目の前にすると、無意識にその中身を知りたくなるのだそうだ。
そして、うち何割かは、それを開けてみたい衝動に駆られるらしい。
聞いて思わず『確かに』と、納得してしまったのを覚えている。
箱を見ると、中身が気になる。確かに……なんとなく、そんな気持ちになることが多い。
人の本能としてそうなのか、はたまた、小さいころからの経験・積み重ねによるものなのかは、知らんけども……個人的には後者じゃないかな、と思う。
偏見かもしれないが……『箱』って、その中身が楽しみなものであることが多いと思う。
店売りのチョコレートやビスケットみたいなお菓子って、けっこう箱に入ってることが多いし……ちょっと高級なクッキーとかお菓子になると、金属の箱? 缶? に入れられて、遠くの親戚がお土産に持って遊びに来ることが多かった。
大きな紙箱にジュースや缶詰がいっぱいに詰められていたり、高級感漂う桐の箱に、高級なフルーツが詰められていたり……お歳暮やお中元でよく見る光景だった。
同じように箱に入った、ビールや辛子明太子を、大人たちはうれしがってたけど……その当時、僕はまだその美味しさを知ることはできていなかったっけ。
小学校の頃にはやった遊びの一つであるミニ四駆。カラフルな彩色と鋭角なフォルムでカッコよく形作られた車体の下には、モーターや歯車を内蔵した『箱』がついていた。
これがくっついていることで、かっこいい車が動き出すと思うと……興奮したもんだ。
こうして思い返してみると、『箱』ってのは、意識してないというか、意識する必要もないほどに、僕らの生活のすぐそばにいつも寄り添っている存在なんだなあ、と思う。
筆箱、ティッシュ箱、救急箱、弁当箱、金庫、衣装ケース、郵便ポスト、タイムカプセル、棺桶……使う場面も用途も多種多様。1つ1つ並べればきりがない。
さらに言えば、据え置き型の消臭剤や、パソコンとかのHDDだって、あれ形は『箱』だしね……その内側に色々つめて、色んな機能を持たせただけで。
箱というものが、いかに身近で、いかに使いやすく、いかに僕らを日頃から助けてくれているのかがよくわかるってもんだ。
ただの入れ物とか外装、と言い切ってしまえばそれまでだけど、僕個人としては、だからこそ人は『箱』というものに魅力を感じるんだと思う。
木製か、金属製か、プラスチックか……材質や意匠は色々あれど、それらすべてに共通して……その中に、何かがある。
美味しいお菓子か、豪華なアクセサリーか、生活を便利にしてくれるハイテクノロジーか……人は、その中身に思いをはせ、心を躍らせる。
そしていざその中身を知って、時に喜び、時に落胆し、時に驚く。
そんなところも含めて、『箱』というものの魅力なんだろうと、僕は思う。
だから、僕は……なんとなく、程度の理由ではあるけど……箱というものが、好きだ。
…………けどさ、
さすがに僕も、箱に『なりたい』とまで思ったことは……ないよ?
(…………しまった、また……現実逃避してたか)
一辺10mくらいの、広いような狭いような空間。
壁も、床も、天井も、石材……というか、天然の洞窟の石壁みたいな感じである。凹凸が少ないから、ぎりぎり人工物……に見えなくもない。
けど、人が住む、あるいは何かの目的のために使う部屋として作ったにしては、壁や床の凹凸は『大きい』と言っていいレベルだろうし……色々と謎な空間である。
多分だけど……RPGとかの、『ダンジョン』ってやつが実際にあったとしたら、ちょうどこんな感じになるんじゃないかな、と思う。
というか、実際そうなんじゃないかな。
え、何でそう思うのかって? まあ……それは後で話す。
そんな、ダンジョン的な部屋の中心に、ぽつりと1つ、箱が置いてある。
木と金属で作られた……見た目一発『宝箱』って感じの箱だ。ふたは天井部がアーチを描くような曲線で形作られており、前の部分からぱかっと開くようになっている。
部屋そのもののダンジョンっぽさも相まって、宝箱感が半端ない。
宝箱感って何かって? 聞くな、説明しようとするとうまくいかないから。
とりあえず……現代日本でRPGのひとつもやったことがあれば、見た瞬間に『宝箱』という単語が頭に浮かぶくらいには宝箱だ。
ただし……この箱に関して、追記しておかなければならないことが、2つ。
1つは……この宝箱、僕です。
さっきからしゃべってる僕が、この宝箱そのものです。
言ってる意味が分からない? あー、ごめん、そりゃそうだよね。
いきなり『僕は箱です』なんて言われても、一風変わった道徳教材的な絵本か、新手のオカルトかホラーの類に聞こえちゃうかもしんないわな。うん。
じゃあ、それも説明。
結論からもう言っちゃうと……今、巷というかネットではやりの、アレだ。転生。
僕、どうやら……現代日本で死んで、転生したっぽいんだ。この『箱』に。
そんでもって……ただの『箱』じゃない。これが、2つ目。
(あ~……腹減ったような、減ってないような……眠いような、眠くないような……)
そんな、誰も聞いちゃいない独り言を、心の中でつぶやきつつ……くぁ、とあくびを1つ。
ぱかっ、と、箱のふたが開く。
でろん、と、中から舌が伸びて出てくる。
ぎらり、と、ふたと箱本体の端部分にずらりと並んだ牙が凶悪に光る。
今、僕の真上近くまで飛んできていた蝙蝠?が、その光景を見て……大慌てで逃げ帰っていった。
たぶんだけど、『食われる!?』とか思ったのかもしれない。
客観的に見て、今の僕(箱)の仕草は……中々に凶悪だっただろうし。
……さて、ここまででもう、わかった人もいたんじゃないかな?
僕が『転生』した『箱』……コレの正体が、何なのか。
RPGでは、多分だけど、かなりよく知られた、ポピュラーなモンスターの1つだろう。
普段は、身動き一つせず、宝箱に擬態して……獲物を待つ。
そして、宝箱という外見に気を取られ、中身の財宝を欲して近寄ってきた哀れな獲物に、だまし討ちで食らいつく……トラップ型の魔物の代表格。
いわゆる……そう、『ミミック』。
それがどうやら、僕の第二の人生?の形のようだった。