護るアイ
濃い青の直方体は、赤茶色と黄色、白で目を象っている。
その名もアイビーズと呼ばれるこの類のビーズは、昔から護符代わりにも使われてきた。
主に邪悪な目に対抗する為に。
人魚の末裔である美玻璃には、「見張り」の役目が課されている。
「人の世を見張れってさ」
美玻璃は応接間でティーカップを置き、本日の戦利品であるアイビーズを見ながら肩を竦めた。
「アイビーズは護符だけど、私は厄介な存在って訳だ。何せ何か事あれば、人魚の同胞たちを呼んでこの町を水没させると言われてるんだから」
万智人はアイビーズを見て、苦笑した。
「迷信だよ」
「どうかな」
「僕には美玻璃が、寧ろ町を見守っているように思える」
「…どうかな」
〝美玻璃〟の名は、新開夫人が天啓のように閃いたものだ。
しかし婦人は美玻璃が成長するにつれ、〝見張り〟の役を負う娘を疎んじるようになった。節操無く、男性と浮名を流すようになった時期と前後している。
「美玻璃が町を護るなら、僕はそんな美玻璃を護る」
「万智人がアイビーズになってくれるのかい?」
「うん。僕は美玻璃の護符になるよ」
「…私は万智人が時々、怖いよ」
「なぜ?」
「解らない…」
「解らない振りをしているよね」
「…………」
こんな時の万智人こそ、美玻璃は怖いと感じる。
自分の知らない〝男〟の目で見るから。
母親が、どうしてああも色んな男性と付き合えるのか、美玻璃には理解し難い。
恐ろしくはないのだろうか。
アイビーズは持ち主を護るもの。
では万智人は。
美玻璃を護るだろうか。
けれど一体、何から護るのだろう?
美玻璃が怖いと思う少年が――――――――。
怖いと思うと同時に、惹かれて堪らない幼馴染みの少年が。