発光
ベッドに寝そべり、美玻璃はウラン硝子ビーズを手の上で転がしていた。
青みがかった緑と黄緑が何とも美しい。
ウラン硝子は、1830年代にボヘミアの硝子工芸家により発明された。
人体に害の無い程度の、極微量のウランを着色剤とすることで、緑、黄色の鮮やかな発色になるのだ。
蜻蛉玉に限らずグラスや器にも用いられ、もてはやされた。熱狂的な蒐集家も多い。
注目すべきはブラックライト(紫外線)を当てると発光することだ。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。
「はい」
扉を開けたのは陸彦だった。
にこやかな笑顔で近づいてくる。
「それ」
「うん。以前、陸彦兄様に貰ったウラン硝子ビーズだ」
「美玻璃の髪の緑にも似ていると思ってね」
「暗闇の中でブラックライトを当てたら、本当に発光したよ。綺麗だった」
「そういうところも、美玻璃に似ている。暗い中でも、光を当てると自ら輝く」
「…そんな大層な」
「美玻璃は自分の価値にまだ気づかないね。伯母さんがどうあろうと、美玻璃は美玻璃だ。美しい物だけに心を開くことはない。君の今の在り方は、俺を悲しませているよ」
ベッドに腰掛け、陸彦は美玻璃の左頬に触れた。
「いつまでもそんなとこにいないで、出ておいで。可愛い美玻璃。俺が外界の楽しさを教えてあげるから」
唇よりぎりぎり、外した箇所に口づけられる。
美玻璃はぼう、とした目で陸彦を見た。
(怖いんだ。陸彦兄様。私は、私は――――――)
「美しいものは私を裏切らない」
いつもの美玻璃の口癖だ。
「俺が美玻璃を裏切ると?」
「解らない。そうは思わないけど、でも。ウラン硝子にブラックライトを当てないと気づかないことがあるように、陸彦兄様にも私の知らない顔はあるだろう」
陸彦が、緑と金の混じる美玻璃の双眸を覗き込む。
至近距離だ。
「美玻璃。唇に、口づけて良い?」
美玻璃の目の輪郭が、覚醒したように明瞭になった。
緑と金も明瞭に。
「――――――駄目。駄目だよ」
「……万智人なら良いのかな?でも、美玻璃のファーストキスは俺だよね」
きし、とベッドが鳴る。
美玻璃の頬は紅潮している。
「前から訊きたかったんだけど。美玻璃にとって、万智人は何?幼馴染?友達?…彼氏?」
「万智人は。万智人は――――――」
美玻璃が陸彦の胸に縋りつく。
「万智人は、ブラックライトだ。闇の中、私を照らす――――――。兄様。私は時々、万智人が怖くなる。万智人が怖いよ」
「………」
怖いよ、と繰り返す美玻璃の髪を陸彦は撫でた。
少女はまだそのブラックライトが恋と呼ばれるものであることを知らない。
緑と金の混じる髪の毛は絹糸のような触り心地で、彼女を万智人に渡したくないと陸彦は思った。