雨音
雨が降る音が聴こえる。
美玻璃はベッドの上で丸くなって、寝具越しに雨音を聴いていた。
こうしていると落ち着くのだ。
雨音に包まれ、守られているようで。
シーツが擬似的な海となる。
しとしとと言う音を耳に。
〝僕にとってもそれは同じだ〟
万智人の声が今でも耳奥に響く。
貝殻を耳に当てると、海の音がするように。
(万智人は、私を宝と想ってくれる)
ぎゅ、と美玻璃は一層丸くなる。
(例え私が海を呼んでも。町を海に沈めても)
万智人は美玻璃を許すのだろう。
新開夫人がベッドでしどけない媚態を晒す横で、陸彦はさっさと身支度を整えた。
「嫌だわ、陸彦さん。情緒が無いのね」
「そんなことはありませんよ、伯母さん」
「嫌。美禰と呼んでくれなきゃ嫌よ」
「美禰さん」
要望に応じて、陸彦は新開夫人――――美禰の名を呼び、手の甲に口づけた。
「知っているのだから。わたくし」
「何をですか?」
余裕を以て訊き返す陸彦は年相応の若々しさと闊達さ、そして朗らかな色気を備え、美禰の視線を釘づけにする。
「貴方、あの子が好きなんでしょう。美玻璃が好きなんでしょう、そうでしょう?」
「ええ、好きですよ」
「物怖じせず認めるのね。憎らしい」
「俺は貴女も好きですが」
「二番目かしら?それとも三番目、いえ、四番目かしら?」
美禰が芝居がかった顔と声音で憂いてみせる。
陸彦はそれには答えず、ただ、にこっと笑った。