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2・気絶コンボ

目を開けると、天井も部屋もベッドも、見知らぬところだった。

ぼんやりとした思考で、今が何かとても非常事態で、普通じゃないのだということをなんとなく理解する。

そして、盛大なため息を吐いた。


「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ため息もでる。

ついさっきまで、新婚さんの朝的な夢を見ていたのだ。

ラッブラブのコッテコテの目からハートが飛び出しそうな朝ラブイチャイチャを夢の中の私は当然のようにやっていた。

ここに来る前の思い出ならまだよかった。

このなんとなく明らかに非常事態である事への怯えと考えたくない不安な気持ちと相まって泣けたかもしれない。

が、残念ながら旦那様はゲームキャラでした。

以前はまっていた女性向け恋愛ゲーム(通称乙女ゲー)のトゥルーエンドの後日談だった。


なんでそんな夢を今こんな時に見るんだこのやろう。

一瞬、マイダーリンがいない悲しみを感じてしまったじゃないか。

自分が痛々しくて辛い。



もう一回ため息を吐いたところで、仕方なく現実逃避をやめて周囲を見渡した。

見る限り、知らないだけで普通の部屋と家具だ。いや・・・家電が一切ない事を除けば。

アンティークな中世ヨーロッパ風?なの?とにかく普段ならそういう名称がついてそうな感じのランプや家具ではあるが、これだけならそういう風に作った部屋にいるだけと思えなくもない。


ここがどこか、という問いから、なぜここにいるのか、

そもそもここにいる前は?という問いが浮かんだその時、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい!」

無意識に返事をしてしまってハッとしたが、遅かった。

ノックの主は目にもとまらぬ速さで既に部屋のドアを開けてこちらへ向かって来ていた。

そしてドアを見た瞬間からその主と目が合い続けていた私は、


そのまままた気絶した。







*********



「・・・・はっ!?」


再び目が覚めた時、窓からは先程より強い日差しが差し込んでいた。

何があったのか考えるよりも早く、ベッドの脇にいる人物に気付いて、ギャッと悲鳴をあげた。

脇では先ほど部屋に入ってきた人が椅子に座って本を読んでいた。

声に気付いて顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込んでくる。

この人物の特徴なのか・・・朝もそうだったが、しっかり目を合わせてくる。

『気付いたか。いきなりまた気を失うから・・・』

心配したと言い終わる前に、至近距離でバッチリ目を合わせさせられていた私は、再度意識を手放した。







**********



「・・・・・・・・っ」


3度目にもなると、さずがに身体は学習する。

目を覚ました瞬間に、脇の人物を確認して思わず目を閉じた。


見知らぬ場所に見知らぬ人といて、今この現状もわからないのに目を閉じるのは怖い。

怖いけど、あの目を見るのは、もっと恐ろしかった。

なぜかわからない。

でも心はすっかり折れていた。

降参して泣いて地面に頭を擦り付けてもなお土下座したい勢いで怯えていた。

今の私の心境は、さながら蛇の前で目を閉じてこれから食われる5秒前の蛙だ。

やるなら一気にお願いします。痛いのは嫌です。

心の中で何度も何度も呟きながら、震える声で隣の人物に声をかけた。

「・・・ぁ、ぁぁぁぁぁああああああのっ!」

まともな言葉が出ない。仕方ない。

ぱっと見、横の人物は化け物の姿ではない。恐ろしい顔をしているわけでもない。

にもかかわらず、よくわからないが、とにかくこの人が怖いのだ。

さっきから嫌な汗が止まらないし手は汗でベッタリしている。

悪寒が止まらない。


声に気付いた横にいる人物が、本を閉じた音が聞こえる。

それが私には死刑執行の音にしか聞こえないから不思議だ。

『気分は、どうだ?』

しばらく沈黙が続いた後に、ものすごく気遣うように話しかけてきた。

「・・・・・ぁ、だ、いじょ・・・ぶ」


ろれつが回らん。

やるなら一思いにやってくれよ頼むよおおおおおおおおおお!!!??

優しい声が一層恐怖をあおってパニックを引き起こす。


『いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ。汗もすごい。』

声の主は再度しばらく黙り込むと、

『毒でももらったか・・・?いや、でも先ほど先生は身体に異常はないと・・・』

小さな声でぽつりと呟き、立ち上がってどこかへ歩いていく。

『何か食べれるなら、粥を持ってくるから食べろ。すぐに先生を呼ぶからとにかく休んでろ』

そう言い残して、ドアの閉まる音がした。



「・・・・・っ!ぁぁあああ・・・・・」


どれくらい固まっていただろう。

一人に戻って少し経つと、ようやく恐怖と緊張が解け、大きく息を吐いた。

心臓がまだ早鐘を打っている。手で握りしめていた毛布は汗でびっしょりだ。

しばらく深呼吸を繰り返してようやく落ち着いたところで、私はようやく目を開けた。


冷静になってみれば、ここがどこで何がどうなってるかは置いとくとして、

今の私の状況は明らかに「今すぐ殺されそうではない」のがわかる。

そして、やたらと理由もなく気絶を繰り返す不可解さ、

どう見ても心配してるだけの彼?に対しての異常なまでの恐怖。

違和感。


現時点では、今この部屋を飛び出して逃げてもおそらく無謀だろう。

意識を失う前のモンスターの記憶がわずかに思い出される。

あの時助けてくれ・・・助けてくれた?助けてくれたのか?

いや、落ち着け、理性で考えろ。

未だとけない恐怖心が思考の邪魔をする。

あの野犬は?モンスターだっけ?噛みつこうとしてきたよね?あれは敵だ。うん。

あのエルフもどきさんは、それを倒してくれた。

私との間に入って私が噛まれるのを防ぎつつ倒してくれた。

つまり、助けてくれた。つまりモンスターよりは敵じゃない。


モンスターへの恐怖心よりあのエルフもどきへの恐怖心の方がなぜか大きいため、

頭ではわかっているのに、それをなかなか受けいれられない。


とにかく、

頭では、不自然なまでの恐怖心に疑問を投げかけ、

いい人なんじゃね?とか、すっごい美形じゃね?とか問いかけるが、

身体は、理屈抜きで怖いんだ!逃げたい!と叫ぶ。

高所恐怖症の人が高いところに立っている時と同じじゃないだろうか。



冷静に現状を把握しようと考えるが、うまく頭が回らない。

うまく考えられない。

くらくら、ふらふら、悪寒がする。

けれど経験から、風邪とも違うものだとわかる。

うまく言えないが、これは違う。おかしい。


これは 体験したことがない 何か 異常だ。




『失礼するよ』

『先生、おねがいします。』



バタン、と声と同時に慌ただしく誰かが入ってきて、ハッと気付いた時には、すでに遅かった。

白衣っぽい白い服に身を包んだイケメンおじ様と、これまた白い服の美女と、例の彼?と、

なにやら箱を持って慌ただしく部屋に入ってきた人達に取り囲まれて一斉に6つの赤い瞳で見つめられた時には、

もう意識はフェードアウトし始めていた。

かろうじて目を閉じれた気がしたけど、どちらにせよ遅かった。

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