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賀上と日比埜の恋愛ゲーム  作者: asit
#1 運命はいついかなる時も
8/19

#1-8

「…アキって小食なんだね」

「ユンが食べ過ぎなだけだよ。うん確実に」

「そんなことないよー。だって私、スタイルいいじゃん」

「なんだろう。すっげーイラつくわ」


 マサトが自分の部屋に逃げるように戻り、アキとユンの二人だけになった甘い香りが漂う幸せ空間。

 二入は今、ガールズトークに仲良く花咲かせていた。


「この私のふつくしさがわからんのかい」


 ソファーに座っていたユンが勢いよく立ち上がり同じくソファーに座っているアキに大袈裟なモデルポーズをして見せる。

 その姿は同じ女子のアキから見ても綺麗なのだが幾分性格を知ってしまっている身の上のため素直に綺麗と言えないアキがいた。


「……う、うん。ソダネ」

「え? なんで棒読み?」

「ソンナコト…無いよ」

「無いよ。だけ力強く言われても」


 何とも言えないこの時間。他愛もない話を遠慮なくできて言いたいことをズバッと言えてお互いの本心で言い合える幸せな時間。


「えー。じゃあどう反応すればよかったの?」

「きゃー! 夢現姉様ー! みたいな感じ」

「同い年にそれを要求しますかね」

「年齢なんて関係ないのさ」

「…なんかさ。本当に双子なの? って言いたくなるよね」

「そうなんだよね。でも二卵性って言うと何となくって感じしない?」

「あー。強引だけど何となくは」

「でしょ。…あ、そう言えば」

「ん?」

「アキってどっちで寝るの? アキの部屋? 私の部屋?」


 ユンの唐突過ぎるそんなエロゲの重要イベントの選択肢みたいな二択。現実で突きつけられると誰しもが優柔不断になること間違いなしの必須イベント。


「え、いやー」

「…あれ? 迷っちゃってる? そこはさマサトの部屋の一択じゃないの」

「だよね! ……あ」


 勢いよくユンの言葉に続けていってしまうアキ。

 突きつけられた選択しはどうやらもともと存在などせずマサトの部屋の一択だったらしい。


「じゃ、急だけど今から行きますか」

「どこに?」

「決まってるじゃん。富士〇○○ランドだよ」

「……うん?」

「嫌だなー。ボケに決まってるじゃん。そこはマサトの部屋じゃないんかーい! ってツッコまなきゃ」

「…あ、あー。うん。早くカガミの部屋行こう」

「おっと、そうだった」


 ユンの意味不明な関東人には高難易度過ぎるボケについていけないアキ。きっとついていけたらソレはソレで展開があったのだろうが今のアキのツッコミスキルでは無理難題だった。

 そんなアキは何とも言えないやるせなさと無気力感を抱えつつ、のそっと気だるげに立ち上がれば目の前でるんるんと楽しそうに歩くユンの後ろへついて歩く。前なんか歩いた暁にはまた意味不明な高難易度ボケを連発してくるに違いないと察してのアキのせめてものボケに対する抵抗だった。


「たのも―――――!」


 マサトの部屋のドアを討ち入り風に鬼気迫る武士をその身に宿しながらバンッ! と勢いよく開けるユン。


「……あれ?」

「誰もいないね」


 いるはずのマサトは部屋に居らず部屋の中は静かだった。


「そうだ。部屋、荒らそう」

「なんで〇R風に!?」


 これにはアキも反応できた。


「…アキ」

「な、なに?」

「いいツッコミじゃねぇか。負けたぜ」

「しまったぁぁぁぁぁ!」


 周りから見ればその流れ自体がボケであるかのようにユンは爽やかイケメン風に親指を立て爽やかスマイルを繰り出す。対してアキは何かに負けた気がして羞恥心を完全にどこかに忘れその場で頭をかかえしゃがみこみながら叫ぶ。


「……何やってるんだ。人の部屋の前で」


 お決まりなその展開。

 漫才師と化したユンとアキの後ろで思いっきりドン引き憐みの目で蔑み様な視線を二人に送るマサト。手には使い終わったのだろう。トイレットペーパーの芯を持っている。


「や! マサト。ウンコしてたんだ」

「――ぶっ! 急に何を」

「だって使い終わったペーパーの芯持ってるじゃん」

「いや、まぁ。そうなのだが」


 吹き出してしまうマサトとアキ。

 アキはそのまましゃがみこんでたのをいいことにクスクスと笑う。

 マサトは反応せざるを得ないような流れだったのでつい反応してしまう。そしてユンはそれをいいことにさっきまでのあの自分たちに不利だった流れを完全に変えてしまった。


「ま、そんなことはいいや。部屋荒らさせてもらうね」

「…は? 嫌々、それ断りいれてもダメなやつだから。流石のボクでも許さないやつだから」


 普段のあの冷静なマサトもユンを目の前にしてしまえばただの人の子も同然。あんな、~なのだからな。~それはありえん。みたいなちょっとイラッとくる語尾も忘れてしまう。もちろん、意識して言っているわけじゃないとは思うが。


「さーて。AVはどこかなー? あ、無修正のやつ」

「そんなの持っているわけないに決まっているではないか! 見るのならネットで……」

「ん? ネットで何かな~」


 ハメられた。

 マサトは瞬時に理解した。自分の後ろにいるいまだにしゃがみこんでいる秋からの冷たい目戦。目の前にいる自分の姉のあの確信犯のニヤニヤのしたり顔。


「な、なんでもない」

「そっか。…さて履歴でも漁りますか」

「申し訳ごめんなさい」


 マサトは今までの人生で培った運動神経と経験で素早くその場で土下座をする。

 しかし、マサトはこの時気付いていなかった。この流れで土下座をする意味を。


「うっふふ、マサト。今、このタイミングで土下座するってことはどういうことか理解している?」

「一体、なに……はっ!?」


 マサトは床から顔をあげ如何にもな感じで雷に打たれたようなオーバーリアクションを表情だけでとる。


「このタイミングでの土下座。それすなわちAVを見ていることへのコ・ウ・テ・イィィィィ」

「そうだよ。その土下座はマサトのやっすいプライドを売って自ら自白したようなもんなのだよ」


 マサトのキャラ崩壊もいいとこだが、ユンのマサト最期のマサト語尾の完成度の高さにはさすが双子と言わざるを得ないほどに違和感がなかった。寧ろその語尾の方がモテるんじゃないかってほどに似合っていた。


「さて履歴でも漁るか」


 ユンが意気揚々と愉快痛快にマサトの履歴探索を始めようとすると最期にして最大の抵抗をマサトがする。


「あ、これはなかな。って、アレ?」

「間に合った。これでもう履歴を見れますまい」


 マサトがしてやったりとして右手に持っている者は自身のパソコンのコンセント。


「……なーんだ。じゃ、もういいや」

「…へ?」

「別にマサトがAVを見ているって事実が知れただけでも充分だしね」


 マサトが思っているほどユンはガミガミと言ってはこなかった。逆に想像とは全く違いその反応は実にあっさりとした冷静なものだった。


「んじゃ。私はもう部屋に戻るから。ほらアキもいつまでもこんなところにいなーい」


 いまだに部屋の入り口でしゃがみこんでいたアキを後ろからドンッと両手で押すとそのまま部屋のドアを閉めて自身の部屋に帰るユン。


「じゃ、頑張ってね。……子作り」

「ん、なぁ!」

「……!」


 去り際にベーッと舌を出し、悪戯っぽく笑って見せるユン。

 そんなユンは高校生男女が明らかに興味を持っているであろう行為を示す単語を最期に言って部屋のドアを閉めた。

 マサトとアキはキュー、バタンッ。と音をたて閉まるドアの音が響く部屋に二人きり。お互い顔を真っ赤にして互いの顔を視界にいれられない。


「えっと、そのなんだ」

「……」


 マサトは頬をぽりぽりとかきながら斜め上を見てなんとか話し出すが、アキは恥ずかしさと変な気まずさのあまりにどう反応したらいいのかがわからない。


「うーむ。あ、そうだ。一緒にAVでも見るか」

「ふぁっ!?」

「へ? ……あ、いやその違くてだな」


 思わずその場の雰囲気を忘れて素早く反応してしまうアキ。

 ほぼ密室の空間で高校生男女が二人きり。しかも互いに思い合っている中なのかもしれない。さらにはあのユンのおせっかいで余計なひと言。それらがうまい具合にマッチしてしまい生まれていたあの独特の空気感と緊張感。

 それを全て台無しにするマサトの一言。

 あまりにも衝撃的過ぎてアキは完全にドキドキが別のドキドキになってしまっていた。


「無い。マジで無い」

「いやそのだから、違くてだな」

「あのいい感じの空気感とか全部台無しじゃん。せっかくのちょっと背伸びした感じの甘酸っぱい青春みたいな感じ。どうしてくれるの?」


 あの空気感をアキは案外気にいっていたらしい。

 それもそのはず。あんないかにも恋してます。みたいな空気感や緊張感は少女マンガのみでの出来事だとつい10分ほど前までは思っていた。

 そしたらどうだ。アキの今いるこの空間はまさにキングオブ女子マンガ。青春の甘酸っぱさが再現された空間。ユンのちょっとしたおせっかいも功をなしより一層甘酸っぱさに磨きがかかっていた。

 それをマサトは。何話していい変わらない緊張感に動揺しまくってAVを見ようだなんて。

 雰囲気重視が過度に入っているアキにとっては偶然の産物の肉食系マサトの発言がとてもじゃないが許せなかった。……らしい。


「無い無い無い。うん無い」


 アキの目はマサトがこれまで見てきた以上にマジだった。さっきまでとは理由はまた別だがとてもじゃないが目を合わせられない。


「申し訳ございません」


 マサト。人生で初めての1日で2回目の土下座。


「カガミの土下座ってさ。さっき見たばっかで今またやられても信頼性とかゼロなんだよね」


 声も落ち着いたトーンでいつものアキとは違っていた。


「あ、はい。そうですよね」

「もし本当に謝罪の心があるのならば。今日、私をベッドで寝かせろ」

「はい。なんなりと」


 最早、アキの従者と化しているマサト。

 ここは下手に行動せずただアキに従っていることがなりよりも正しいことだと悟ったのだろうか。


「あ、マジでいいの!? やったー」

「……へ?」

「いやー、これでカガミは床で寝ることになるから安心安心」

「あー、確かにそれが一番安心なのかもしれんな。……って、アホかいっ!」


 マサトの人生初のノリツッコミ。まさかこんな場面で使うとは。


「うわー、カガミがノリツッコミしてる。カガミ風に言うなら勢いのある自問自答かな」

「まさか僕の人生初のノリツッコミの相手が日比埜になろうとは。人生わからないものだな」


 さっきまでの勢いはどこへやら。マサトは急に冷静になり自身のベッドへ行くとベッドの下から新たなベッドを引き出しを開ける感覚で取り出す。


「…え? なにそれ」

「あ、これか。収納性能付き2段ベッドだからなコレ」

「なに、その無駄な高性能」

「無駄ではないぞ。ユウがよく泊まりに来るからな。結構役立っている」

「……ブルジョアめ」


 アキはその場で大袈裟にペタンと座り込む。


「どうかしたか? もしかして、こっちのベッドで寝たくなったか?」

「もう、どっちでもいい」

「そうか。なら僕が下のベッドに寝るから予定通り上のベッドで寝て構わんぞ」

「あ、うん。ありがとね」

「女子に優しくするのは当たり前だ。そう父から教わって育ったからな」


 ふんすと鼻息をたて自慢するマサト。

 しかし今はそのレディファーストが仇になんていることを気付いてはいないだろう。やはりどんないいことも時と場所をわきまえなければならない、ということなのかもしれない。


「じゃ、私もう寝るね。なんかこの短時間でどっと疲れた」

「そうか。なら僕も寝ることにするとしよう。カガミは寝るときに豆電球を点けて寝る派か? それとも全消し派か?」

「豆電派」

「なら、ボクと一緒だな」


 そう言ってマサトは部屋についているスイッチを2回程度押して青い落ち着いたライトに変える。

(今、スイッチで変えたよね。私の家まだヒモなんだけど)

 そんなことを思いながらアキはなるべくマサトを見ないようにと壁を見るようにして瞼を閉じた。

 マサトもアキと同じようになるべくアキを見ないように入り口側を見るようにして瞼を閉じた。

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