#2-8
「なんか、あっついね」
「夏だしな。暑いに決まってるではないか」
「もー、そう言うことじゃなくてさー」
「では、一体どういった意味合いが」
「……もうどんくさいな」
「何か言ったか?」
「ううん。何にも」
夏の夜。
少し蒸し暑い。昼のからっとした暑さよりも下手したら過ごしにくいかもしれない。
しかし、夏の夜は四季折々ある日本の季節の中でも橋空が別格といってもいいほどに綺麗に輝いている。
そんな星空のもと。アキとマサトは互いの心臓をいつもより速く鼓動させながら海辺を二人きりで歩く。
少し離れた距離。隣同士で歩いているのにそのちょっと距離が埋まらない。
「…で、マサトはどうして急に散歩しようって言い出したのかな」
アキはマサトの顔を覗き込むようにまるですべてを理解しているかのように聞いてくる。
女とはズルい生き物だと常々思う。
意識はしていないのに男の心をいともたやすく動かしてしまう。
あれ、俺に気があるのか? これってまさか両想い? 今、確かに目があったよな!?
男がその場に百人いたとして女が一人だけだとしても女は確実にそのうちの半分の男を虜にしてしまうだろう。それが無意識であれ意識的であれ。
「あ、明喜と星空でも。と思っただけだ」
「…本当にそれでだけなの?」
「ほ、本当にそれだけだ」
マサトは照れ隠すので精一杯。
覗きこんできたアキから目線をそらすのでいっぱいいっぱい。
「…言っちゃうのなら今の方がいいかもよ。私の気持ちが変わる前に」
アキはぼそっと呟く。
正直、二人きりで散歩をしないかとマサトに誘われた時点でアキは勘付いている。むしろ、それで気付かないか勘違いをしない方がおかしいってものだ。
マサトからの告白。
まだ、出会ってそんなに経っていない。
けど、そんなのは関係ない。恋とはいつでも突然に起きて愛を生み出してくるものだ。
それがどんなに他人に理解や共感されなくとも、恋は始まってしまったら止まらないものである。
むしろ、止まらない恋なんてこの世に一つでも存在するのだろうか。
ある人がこんなことを言っていた。
恋は止まらず、愛を生み出す。しかし愛は止まることもある。そんな愛を永遠に止まらせないためには恋を忘れてはならない。と。
「ねぇ、マサト」
「ど、どうかしたのか」
極度に胸が高鳴っているマサトは急にアキから話しかけられ声が裏返ってしまう。
「さっきから下ばっかり見て歩いてるけど、星空は見なくていいの?」
「そ、そうだな! 確かに! うむふむ。なかなかどうして良い星たちではないか」
「もう。慌てちゃって」
「あ、慌てるだと? な、なにを慌てるのだ」
「…告白」
アキのその妖艶なひと言はマサトを正気に戻すのにはうってつけの一言だった。
思わずマサトは目を見開き覗き込んでいたアキの顔を凝視してしまう。
そんな、アキは笑っていた。
「まだかなーて。ずっと待っていたんだよ」
「き、気付いていたのか」
「気付かないわけがないじゃん。夜に二人きりで星が照らす海辺を散歩しようなんて誘われちゃったら期待の一つや二つしちゃうのが普通でしょ」
「言われてみれば確かに」
「でしょ。それが一人先走って緊張して。本当は私の方が緊張してるのに」
「とても緊張しているとは見受けられないがな」
「そう? なんなら私の胸に手を当てて確認してみる」
「破廉恥だな」
「女の子はみんな破廉恥なんだよ。わかった? 手をつなぎたいなー。キスしたいなー。抱かれたいな。そんなことを好きな人を見ながらいつも思うの。例えば彼ならどんな風に告白してくれるだろう? どんな風に笑って見せてくれるだろう? どれだけ私のことを思ってくれるだろう。考えてくれるだろう。そんなことは毎日のように頭の中をぐるぐるーって巡り巡ってる」
「それは凄いな」
いつもの調子に戻ったのかマサトは平常心を取り戻していた。
「…それで。女の子にこんな話までさせておいて。告白はまだなの?」
「そうだな」
マサトは言い終わると突然に片膝をつく。
その姿はまるで愛を宣言する王子様の様。
左手を自身の胸に添え、右手をアキへと差し出す。
「僕と付き合ってくれませんか」
マサトは優しく微笑みながら言う。
「…そんなキザなマサトはマサトじゃないなー」
「僕は明喜の心の奥底の気持ちを知りたい。明喜の色々なことをもっと知りたい」
「それだけなの」
「なにより明喜の笑顔をずっとそばでもっともっと見ていたい」
「……その言葉。忘れないでね」
アキはマサトが差し出した右手にそっと手を置く。
そして涙を流しながら言う。
「えぇ。喜んで」




