#2-5
二日目。
お土産をゆっくりと決めるために一日中、ちかくの街を見て周ることになったアキ、マサト、ユウ、ユンの四人は、観光客で賑わいをみせている商店街にいた。
「ふぁー。ねみぃ」
「おい、ユウよ。その眠気は自分自身のせいだと説明したであろう」
「わかってるけどふぁー。…ふぅん」
マサトは眠そうにしているユウにつきっきり。
しかし、アキとユンの女子二人は朝までの眠気が嘘だったかのようにはしゃいでいる。
「なんか、初めてかも。こんなところ」
「そうなんだ。家族で来たことは?」
「あるっちゃあるけど。…私、マサトにあの時話しかけてもらえるまではその、ね。ちょっと調子に乗ってたからさ」
「あー、今も外見にちょっと残ってるもんね。でも、なんか適度に茶髪になったし、服装も結構おしゃれだし、結果オーライじゃない?」
「まーね。こうしてユウとも出会えたわけだし」
海からくる潮風はビルや機械に囲まれて生活をする四人にはとても新鮮で心地の良いものだ。
「んー。この風気持ちいね」
「うん。向うじゃ絶対に味わえないよこれは」
「なんか、朝から贅沢してるよねー」
「それ、めっちゃわかる」
ユンとアキの二人はガードレール沿いにあった小さな甘味所に立ち寄り、ドラマやマンガでしか見たことがなかったあの赤い椅子のようなのに座りあんみつをほおばっていた。
「この新鮮な潮風を朝一番にあたりながらのこのあんみつ。もう、文句のつけようがないよ」
「逆に私たちが、なんでこんなところにいるのよ、とか文句言われそうだよねー」
「まっさかー。あ、ありがとうございます」
可愛らしい着物のような小洒落た制服を着た女性がサービスのお茶を持ってきてくれた。
「そう言えばさー」
「うーん?」
「マサトとユウ君って、どこに行ったの?」
「そのうちくるでしょー」
「だよねー」
ずず。ずず。ずず。ずず。
お茶を四口程度のみ、
「…え!? いつからいない!」
「わからないよ! 今気付いたから」
オーバーなリアクションをお茶をこぼさないようにしながらとる二人。
「まぁ、でもさ。あの二人のことだし」
「なんとかなるっしょ」
女子二人は一気に冷静になり、またお茶を飲みながらあんみつを食べ始める。
その頃のマサトとユウと言えば、商店街をゆっくりゆっくりと見て周っていた。
「なー、マサト」
「どうかしたのか?」
「あそこにいいベッドがあるぞ」
「アレは魚屋の商品棚だ」
「なんだ。そうか」
「うむ。そうだ」
そんなまったりな会話をしていると、商店街のある一つのお店。
主に根付けなどを取り扱っている修学旅行生が寄ってたかって集まりそうなお店があった。
もちろんのこと、木刀は当たり前のように売っている。
「なんなのだ? この絶妙に微妙なキャラクターは」
「あー、たしか、…カイスイヨくんだな」
手にはサーフボードに麦わら帽子をかぶり青い海パンをはき、なぜか日焼けしていない真っ白なお肌。そして安定のスイカ柄の浮き輪からのプリン体という素晴らしく残念なそのキャラクター。
カイスイヨくん。よく見てみると値札の他にもキャラプロがあり、年齢四十。妻と子あり。年収三百万以下。趣味、カラオケ。最近の悩み、妻が冷たい。娘が話してくれない。上司がウザい。部下が働かない。車検高い。
と、ご丁寧に書かれていた。
「このキャラクター。本当に人気があるのか?」
「あるらしいよ。なんか、無駄に凝った設定が同情を誘う様に四十代からの男性から圧倒的支持があるみたい。だからほら、あそこのカイスイヨくんコーナー見てみん」
ユウが指さした先をマサトが見てみる。
するとそこには、日本酒、ダイエット器具などなど子供狙いではないことが明確にわかるグッズの品々。その中でも特に中年男性のお父さんたちに人気で賑わいをみせていたのが、『これで妻のご機嫌取り』シリーズのコーナーだった。
お父さんたちの血眼になって選ぶその様は何かに取りつかれたように不気味だったが、将来自分たちもあーなる可能性があるんだな、と考えれると少しだけだが苦笑いしかできなくなるマサトとユウ。
「不思議だ。急に何故だかカイスイヨくんに愛着がわいてきたぞ」
「あぁ、俺もだ。後、ここにいたらなんか危険な気がする」
「それは確かに同感だ。早く出ようか」
マサトとユウはそそくさとお店を見るだけ見て何も買わずに出て行った。
お店を出るころにはユウの目もばっちり覚め、元気ハツラツとまではいかないがさっきまでとは違い、まともな商品選びをできるようになった。
「よし、まだ時間はあるしゆっくり見て周るか」
「そうだな。明喜よ、明喜はずっと黙っているがどこか見たいお店などないのか?」
鈍感すぎる男子二人は今更に気付く。
「どうかしたかー」
「…明喜がいない。ついでに言えばユン姉もだ」
「……は?」
はぐれたことに気付いた頃にはもう遅く、近くにユンとアキの見る影もない。
そう思っていた矢先、マサトのケータイに着信が入る。
もちろん、相手はアキだ。
「あ、明喜だ。よかった」
「ほら、さっさと出ろ」
慌ててマサトは電話に出る。
「もしもし。僕だ」
《もしもし。あ、つながった》
「明喜。今どこにいるのだ?」
《それは私のセリフだよ。気付いたらなくなってるし》
「それはこっちも同じなのだが」
《もー、心配の度合いが違うの》
「そ、そうなのか」
《そうなの。てか、どこにいるの?》
「それは、今さっき僕が聞いたことであろう」
《細かいことは気にしないの。ほら、教えてよ》
「まぁ、そうだな」
《そうだなじゃなくて》
「スマン。今は商店街にいる」
《商店街のどの辺?》
「入ってきて、どれぐらいだ? ……あ、確認をする」
《もー、早くしてよね》
マサトが近くにあった観光マップに小走りで近づいて現在地を確認する。
「えーっと。お、丁度中央にいるらしい」
《わかった! じゃあそこから一歩たちとも動かないでね》
「うむ。近くの広場にでも移動してベンチで座って待っている」
《…うん。わかった》
「今の間なんなのだ! 僕は今何か間違ったことでも言ったのか!?」
《……ううん》
「わざとか! そうなのだなあ……きれた」
ツー、ツー、となる自身のケータイを眺めるマサト。
「お、どったん? 電話おわったん?」
「う、うむ。ユウよ。あそこの広場にあるベンチにでも座って二人を待っていようではないか」
「お、おう。てか、本当に電話で何話したの?」
「心配するな。日常的な常用会話だ」
「ごめん。その言葉を聞いてより一層不安になったわ」
そんなマサトとユウは商店街の中央から少し右に行ったところにある広場の端っこのベンチに腰掛け、アキとユンの二人が来るのをマサトの電話中にユウが買ってきた、潮風ソフトなる塩バニラの絶品なアイスクリームを食べながら待つことにした。
「どこにいるって?」
「商店街の中央だって。それで、近くの広場で待ってるってさ」
「ふーん。じゃ、いこっか。丁度食べ終わっていい感じだし」
「そうだね」
アキとユンはあの甘味所でマサトとユウの心配を多少しつつも、ガールズトークに花咲かせ軽く二時間はきゃっきゃうふふふと、話していた。
その結果がこれである。
まだ、日は明るい。
かなり早くにでたので時間的に言えば丁度お昼。
お土産屋さんも頃合い的には盛り上がりの加速する時間帯。一体お昼休憩をしているお客さんの目を盗み、少しでも雰囲気を変えようとせっせと、売上上昇のためにハンバーガーを片手に営業努力をしている時間帯。
丁度、ここから商店街までは十分程度。そこからマサトとユウに合流して少しブラッとすれば飲食店も少しは空く時間帯。
「ねぇ、ユン。お昼何食べよっかー」
「そうだねー。そこら辺の安いファミレスとかでもいいよ」
「えー、せかっくの海辺なんだしさー」
「じゃ、冷やし中華かな」
「あ、それ夏っぽい」
「でしょ? 今私思いついちゃってさ」
「冷やし中華とかめっちゃ夏だよね。それ、私も食べたくなってきちゃった」
「じゃ、昼は地元のラーメン屋で」
「それな」
冷やし中華でなぜここまで盛り上がれるのかが不思議だが、ユンとアキはガールズトーク? をしつつ商店街へ向かって歩き始めた。
「あっついなー」
「暑い。発言はなるべくしたくはないが暑い」
「猛暑だよ。海辺なのにめっちゃクチャ暑いよ」
「海辺だからと言って暑くないわけではないだろう」
「わかってるけどさー」
あまりの暑さで、だるーん、としてベンチに座って待っているマサトとユウ。
かれこれアイスも食べ終わり五分くらいは待っているだろう。
本日の最高気温三十八度とケータイに表示されている。一緒に表示されている体感気温に至っては四十度越えだ。
「おい、マサト」
「どうかしたのか?」
「おめぇ、ジュース買って来いやぁ」
「…暑いな。これが夏」
「ジュース買ってコイやぁ」
「…暑い。実に暑い」
「カル〇ス御所望しますんじゃ、ぼけぇ」
「なぁ、ユウよ」
「あ、んーー」
「自動販売機。ユウの隣ではないか」
ユウが座っている隣には自動販売機が、ごうごうごう、と冷却装置をフル稼働させながら稼働していた。
「めんどいんじゃぁー、ぼけー」
「なら金を寄越すのだ。今すぐに。さもなければ貴様の首から深紅の薔薇が咲くと知れ」
ユウがあまりにもうざかったのでマサトはちょいキレ気味でまるで極道さんが使いそうな言葉でユウからお金をもらう。
「あ、はい」
謎の気迫をマサトから感じ取ったユウは大人しく五百円玉を渡す。
「奢ってくれるのか。では遠慮なく馳走になる」
「え、ちょっ」
もはや暑さで言い返す気力もないユウはそのままマサトに奢ることになった。
「いやー、それにしても暑いね。ちょっとコンビニ寄ってく?」
「そんな時間ないよ、ユン」
「わかってるよー。軽いジョブのきいた冗談だってー」
「この炎天下の中じゃその軽いジョブでもかなり危険なんだよ」
「それについてはわからないー」
あの元気はどこに行ったのか歩いて五分。
アキとユウの二人はだらだらと歩いていた。
「あー、海は入りたい。もうヤダよー」
「明日思いっきり入ればいいでしょ」
「今日。てか、今から入る―」
「マサトが待ってるんだから。そんなこと言わないの」
「あ、ユウのこと忘れてるよ。アキ」
「……ほら、もう目の前なんだから」
「あ、ミストシャワー」
「もう、ユン」
アキとユンはもう目と鼻の先に広場をとらえていた。
しかしこの暑さのせいでどうも足が軽やかに前へ進まない。
「暑い。暑いよ。パト〇シュ」
「小さいツが抜けているぞ」
「こまかいなー」
待ち続けて十五分。
ユウが完全に暑さにやられてしまった。
「見てみろよあの雲。…雲だぜ」
「大丈夫か? 水でもかけた方が良いか」
「へーきよ。へーき」
そんな時だった。
「あ、いた」
「お、明喜。遅かったではないか」
「ちょ、ちょっとね」
「やっほー」
「…大体は察しがついた」
マサトは自身の双子の姉であるユンを見てすべてを察した。
おおむね、すぐそこにあるミストシャワーで涼んでいたに違いない、と。
「ねぇ、マサト。時間も時間だし、ちょっと遅めのお昼にしない?」
「うむ。そうするか。こっちも一人暑さに負けた人間がいるからな」
そう言って間さとはベンチに座っているユウを静かに指さす。
「…あー、お互い大変だったんだね」
「そのようだな。でだ、お昼はどうするのだ?」
「そのね。冷やし中華なんてどうかなーって」
「僕とユウは別になんでもかまわんよ」
本当にユウはそれでいいのか? と、少し疑問に思うアキだがここでユウに直接聞いたら面倒くさいことこの上なくなることはわかりきったことなのであえて聞かないことにした。
そう、あえてだ。
「じゃ、いこっか」
「うむ。冷やし中華ならこの時期どこでも置いてあるだろうしな」
そう言って四人はまた合流し、お昼を食べにラーメン屋さんに入って行った。




