#2-3
「夏だ! 休みだ! 水着だ! ぱいおつだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「セクハラで通報されても僕は知らないからな。友人D君」
「どうする? 今ならまだ通報できるけど」
「あ、私は無関係だから。ユンとマサトに任せるよ」
「え? 私も無関係だよ」
「僕もだ」
「…………ましゃとー」
「キモい! 近寄るな」
夏の日差しが虹色に輝く八月中旬の頃。
波音が心地よく耳に響く砂浜。海を思わせる海の家や観光客など一人もおらずいるのは賀上家、日比埜家、新谷家の三家族計十人のみ。
「でも、まさかプライベートビーチまで持ってるとは。新谷家ってすごいね」
「息子はあーだけどね。まぁ、確かに規格外の金持ちだよね」
「確かに。新谷家に関してだけ言えば世間の憧れの的だろう。なにせ世界金持ちランキングにものるくらいだからな」
「へー、で何位?」
「確か千位だったはずだ」
「これで千位って」
「流石に世界の企業には負けるのだろう。石油産業やかの有名なソフトウェア会社もあるからな」
夏の日差しでアツくなっているはずの砂浜にユンに顔面を足で押し付けられなぜか高揚感に満たされている世界的金持ちの息子ユウ。
「ねぇ、ユン。早く入ろうよ」
「そうね。今行く」
高揚感に満たされているユウをその場に置いていつの間にか離れていたマサトとアキの方へと向かうユン。
「あはは。バカで息子でスミマセン」
「なに言っているんだ。男の子はあれぐらいが丁度いいんだよ」
「いいですねー。私の家には娘しかいませんからなぁ」
「何を言ってるんですか。娘がいるだけいいじゃないですか。息子なんてもう毎日毎日ティッシュの消費量が多くて多くて」
「健全な証拠。自分ちのあのせがれなんて思春期だと言うのにティッシュの消費量なんて増えやしない」
そう話しているのはお父さん三人。浜辺で焼きそばを仲良くつくっている。ぎらつく太陽の下男らしさをアピールしようと精一杯の水着を着た新谷家父。服装には無頓着なのか使い古された水着を着ている賀上家父。何故か半袖パーカーを着て妙に若々しさがある日比埜家父。
因みに母親たちは日焼けしたくないからと近くの超大型複合商業施設で楽しくショッピング中。
「それにしてもこのお天道様の膝元でビールの一本も飲めないとは嘆かわしい」
目に見えたわざとらしさを出しつつ惜しむ新谷家父。食糧調達担当。
「確かに。もったいなすぎる」
それにつられて惜しむ賀上家父。包丁担当。
「…誰も見てませんし、今なら」
そう言ってコンロの下からビールを取り出す日比埜家父。調理担当。
「お、準備がいいこと」
「しかも銀麦ときた。中々にお目付けが高い」
「ささ、早く飲んじゃいましょう」
自身の子供たちは海でキャッキャウフフにイチャラブしていてこっちのことなど見ていないし母親たちに関して言えばショッピング中だ。飲むのなら今が最高のタイミングに他ならない。そう思った父親三人は、中々にそそる音を出す醸し出すビール缶を開け、一気に飲み干す。
「んー、たまんねぇな、おい」
「かー! これよコレ」
「くー、体にしみるー」
父親三人は一気に飲み干し、しばしそのビールの、のど越し等に酔いしれるが直ぐにゴミ袋の中へと空の缶を入れる。
「一本飲んでしまうともう一本開けたくなっちゃうよね」
「けど、そこは我慢で」
「夜に今、我慢した分をたんまりとぐいっといきましょう」
この短時間でやけに気が合いすっかり飲み友になった父親三人。収入格差はあれど三人それぞれが心が広く気兼ねのない正確だったおかげで何の問題もなく良好な関係になれた。
「さて、焼きそばはできましたから」
その日比埜家父の言葉を合図にしたかのように父親三人はにやりと笑う。
「さっさと、焼きそばを皿に入れてやっちゃいますか」
「俺たちだけ贅沢しないなんて損だからな」
「だからもちろん。これは働いた分の報酬として」
父親三人はかなりのゲス顔で静かに笑い合いある物をクーラーボックスの奥から取り出した。
「おーい。できたぞ」
賀上家父がマサト達を大声で呼ぶ。
「お、できたみたいだな」
「んじゃ、いこっか」
「なんかシンタニの家が食材を用意したって聞いただけで高級食材をいともたやすく想像しちゃうよ」
「あー、それわかる。なんか毎日A5ランクの肉食べてそう」
「そうそう。とろけない肉なんてあるの? みたいなこと言いそう」
ユン、マサト、アキの三人は仲良く父親たちの待つ焼きそばへ直行だがユウだけはいまだに砂浜で寝転びながらその熱さに酔いしれていた。
「あれ? シンタニは?」
「あー、いいよ。後で私が食べさせるから」
「ふーん」
ユンのその言葉に何となくある疑問を抱くアキ。
「ほら、食べろ。俺たちはいらないから一杯食えよ」
父親三人のところへ着けば大量につくられた焼きそばとなぜか満足げな父親三人がいた。
「父上たちはもう何か食べたのか?」
マサトの当たり前なその質問に不審なほどまでにキョドってしまう賀上家父と新谷家父。しかし、日比埜家父だけは冷静に笑顔で言う。
「さっき焼きそばを味見で食べてみたらおいしくてついね。だからもうお腹いっぱいなんだよ」
「そ、そうそう! だから遠慮なく食べていいんだ」
「ほら、召し上がれ」
父親三人の異常なまでのそのススメ具合は不気味さを帯びていたが目の前にあった焼きそばの輝きに負け食べ始める四人。
「ふ、仕事の後の焼きそばは体に沁みやがるぜ」
「ユウよ。砂と一体化していただけではないか」
「え? それが仕事だろ」
「……しまった。答えがわかってしまったからもうコレ以上ユウには問いただせん」
何が仕事なのかを長年の付き合いの勘でわかってしまったマサトは後悔しながら焼きそばを食べ続けた。
「おいしいねー」
「うん。んまいう~」
「あ、ユン。口元に青のりついてるよ」
「お、どこどこ」
「右の方」
「……どう? とれた」
「ばっちり」
ユンとアキはまったりとその焼きそばをのんびり味わっていた。
「まさか男子と女子でこうも差が出るとは」
「中々に受けがたい現実ですな」
「まーまー。でもそうじゃないと困るでしょ?」
「確かに。うちのアキが男勝りだったらちょっと」
「こっちのユウに至ってはあれで女子っぽかったら本当に警察いきになってしまう」
「うちはまー。双子だし容姿が変わる程度かな? と言っても二卵性だけどね」
父親たちは男女それぞれの会話を聞いて思うところがあるのか、それとも追加で飲んでしまったアルコールがまわり始めているのかすこしぽわぽわな気分になりながら話している。しかし、誰一人として酒のにおいがそんなしない。
「そんなことよりも。これから何しましょうか」
「鉄板洗って片づけて夕飯の準備をして妻のご機嫌とって温泉に入って寝る?」
「まー、初日はそんなもんかな? 本番は明日からってことで」
「ちくしょー。嫁たちは今頃ショッピングうつつを抜かしてんだろうな」
「そう言うこと言わないでくださいよ。めちゃ萎えですよ」
「お、なかなかに若い言葉使いますねー。日比埜さん」
「娘の影響で」
「ナウでヤングだね。俺なんてもうついてこりんこ」
「お、これまたナツイ」
「そうだ、この話は夜にとっておきましょう。酒のつまみ話の一つにでもなりますよ」
「いいね、いいね」
父親たちは結構楽しげに鉄板を洗い夕飯になるバーベキューの支度を始める。
三人ともかなりのこだわり派で肉の下準備は基本として野菜のきり方や棒に刺す順番。火をうまく調整するための木炭の量の微調節や風向きを読みバーベキューセットの位置までをも計算して置く。面倒くさいタイプのこだわり派だった。
「なんか父さんたち楽しそうだな」
「準備をしているのにあの爽やかさは一体なんなのだろうな」
「なんか青春してるって感じだよねー」
「よし! だったら私たちをおおいに楽しんじゃおう」
ビーチバレーボールっぽいボールを持って盛り上がるユン。
「よし! 俺たちだって負けないくらい遊ぶぜー」
「そうだな。たまにはいいかもな」
「私、はじめてかも。ビーチバレー」
「ぐへへ。だったら私が手取り胸とり」
「残念だがユン姉にはそんなうら……小野が欲望に身を任せた行為させられないな」
本心が若干出そうになったマサトだったが何とかこらえて話を進める。
「このビーチボール。僕とアキ対ユン姉とユウで対決しようではないか」
「…結果が目に見えてるけどいいの?」
「あぁ。ユン姉に心配されなくとも」
「そう。なら全力でできるね」
十分後。
「ものの見事にやられたね」
「い、言うな」
「流石の私でもフォローしきれないかな」
「…あぁ、見方が一人もいなくなってしまった」
砂浜で一人大汗をかきながら砂浜に倒れ込みようにしているマサト。そんなマサトの前には余裕な表情のユンと同乗の目を向けてくるユウ。そして苦笑いをしてどんな表情をしていればいいのかいまいちよくわからなくなって困っているアキがいた。
「スマン。天然の水風呂で汗を流してくる」
「なんかそれっぽく壮大に言ってるけど、ただ海水浴してくるって言っているだけだよね」
「壮大かな?」
「あ、じゃあ俺。なんか飲みもん買ってくるけど何がいい?」
「私、オレンジの味がする水」
「私もアキと一緒でいいや」
「僕はお茶。麦茶か玄米茶辺りがあればそのどちらかで構わん」
「おーけー。買ってくる」
そう言ってユウは一人、近くのコンビニへと買いに行った。
この浜辺と海は新谷家のプライベートビーチなので海の家はもちろんのこと自販機の一つも置いてはない。その代わりなのかは知らないが海の出入り口に警備服を着た人が常に十人程度いて地元の人も入ることを許されてはいない完全なるプライベート空間。言ってしまえばVIPビーチなのだ。
「なんか海の家がない海って初めて見たかも」
「まー、たいていの海水浴場にはあるからね」
「なんかもう次元が圧倒的に違うなー。これならまだユンとマサトの賀上家の方がよっぽど私たちの生活に近いよ」
「でしょ。しかもアレで世界ランクは千位なんだから、もう呆れちゃう」
「そこまでの財産を手にして一体人類は何をしようとするんだろうか」
陽も落ちかけてきて砂浜が程よく冷えたのでユンとアキはペタンと座りながらのんびりとマイペースに話し合う。
「私は程よい金持ちがいいかな。もしなるとするなら」
「それだったら賀上家は程よい金持ちって感じがするよ」
「そうなのかなー。生まれも育ちもこの家族だからよくわからん」
「それでいいんだと思うよ。わかっちゃったらつまらないだろうし」
女子と言う生き物はどうしても金の話にありつくらしいと、風の宇わせで聞いたことはあったがよもやそれが本当だったとは。
ユンとアキは崩れていた姿勢をさらに崩しだら~っと脱力感しかない姿勢になる。
「でも、お金があろうとなかろうと、こんな時間があることが何よりの幸せ―」
「言えてるかもそれ。あー」
夕日を正面に脱力の極みを習得したユンとアキは、無駄にかっこよく海水浴を一人で楽しんでいるマサトを若干の冷めた目で見つつ話し続けている。
「おい、お前ら。ちょっち速いが夕飯だぞ」
新谷家父が叫ぶように呼んだ。
「お母さんたちはそのうち帰ってくるか、外で高級ほにゃららでも優雅にお食事召されている可能性が高いから先に食べてようぜ」
「買ってきたよー」
そこにタイミングよくドリンクを買ってきたユウが戻ってきた。
「お、そんじゃ。たべっか」
「え、何もう」
ユウがあわててドリンクを地面におき食べ始める。
マサト、ユン、アキもそれぞれのペースで大いに盛り上がりながら食べ始めていた。
「いやー、たまにはアリですね」
「お、嫁たちが荷物を部屋においてきたみたいだ」
「おーい。早くしないとなくなっちまうぞー」
父親たちがそうさけぶと、あらやだ、と口をそれて言う母親三人。
そして母親三人も加わりその日の夕食はとても賑やかなものになった。




