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賀上と日比埜の恋愛ゲーム  作者: asit
#2 そして運命は走りだす
12/19

#2-1

「えー、今学期もこれで終わりとなります。これから始まる大型連休ですが生徒諸君は本校の誇り高き一員であることを忘れずに過ごしてもらいたい。特に最上級生にあたる三年生諸君らはこの夏休みが進路の総てを決めると言っても過言ではない。気を引き締めるように」


 暑い中での終業式。

 校長の言葉での激励から三年生全員は声をそろえて「はい」と、体育館に響くように力強く返事をしていた。


「来年は僕らがあの立場になるのだな」

「そう考えるとなんか嫌だな」

「確かに。嫌だな」


 ユウとマサトがこそこそと小さな声で三年生を見ながら言う。


「以上はもちまして一学期末終業式を終わります。この後ですが一学年はこの場に残り会場の片づけを。二、三学年はそれぞれの教室へ戻り担任の先生の指示に従ってください」


 体育館に響き渡るそのアナウンスは一部からブーイング。そして一部はがやがやと話しながら教室へ戻る声や足音でほとんどがかき消される。


「さて、僕達も戻るか」

「そうだなー。てかもう家に帰りたい」

「総計にもほどがあるぞ。友よ。後、一時間の辛抱だ」

「その辛抱ができません―」


 だらだらと歩きながら教室へ戻っていく生徒たち。


「そう言えばだが。少し前のことになるのだが」

「お、どったん?」

「友は、かなりのマゾヒストなのか?」

「今更感がコレ以上になくある質問だな」

「で、どうなのだ?」

「あの時、マサトが見たまんま。アレが現実さ」

「…そうか」


 周りの目など気にも留めずマサトとユウはあの日のことを振り返るように話している。そんな二人に誰一人として近づけない。


「はぁ。やっぱ教室の椅子の方が落ち着くわ―」

「どっちも変わらんだろ」

「解ってないなー。この椅子の材質から何まで違うじゃん」

「そんな細かいとこまで気にせんぞ」

「これだから素人は―」


 だらだら。

 マサトとユウは自身の机の席に着くなり、より一層だらーっとなりつつもどこか絵になるような。まるでBLにでもできそうなそんな場面になる。

 これも一重にユウが稀代の美少年なおかげだろう。


「そもそも玄人ならば学校に設備されている椅子程度で満足しないのではないか?」

「……庶民派なんだよ」

「大金持ちが何を言うか」

「マサト家もそうだろうが」

「何を言っている。僕の家は極めて普通な中流階級だ」

「その言い方が。たとえ方がもうすでに金持ちの証拠だ」


 テンションが徐々に普段へと戻ってきた二人。


「はい。静かにしてねー」


 そんな時、タイミングよく教師が入ってきて二人は大人しく規律正しくなる。


「はい。明日から夏休みだね。みんなは二年生だから、まだ遊べる。けどこの夏休みが来年にすごい影響が出てくるから気を付けてね。素行とか悪くしちゃだめだよ」

「つまりはアレか。素行を悪い生徒がこのクラスから一人でも出たらただでさえもう後がない私の立場がなくなるから家で引き込まって来年のために勉強でもしていなと言うことだな」

「おい。妙にリアルだからマジでヤメロ」


 教師の言葉に反応したマサトが前の席にいるユウへ小声で話し出す。


「そして理事長や校長のお気に入りになって将来安泰を目指すのだな。さて次の天下り先はあの有名私立校かな。とか考えていそうだな」

「ただの人事異動を天下りとか言うのやめい」

「それからは、一度体関係になってしまった校長などからある種の種を分け与えられて子を成してしまうが校長はそれがバレるのを恐れ、首をきられ責任を何一つとってもらえず世間には顔を見せられないような人生を歩んでいくのだな」

「だからやめい」


 教師はそんなことを言われていることなど知らずにいつも通りに連絡事項を言って必要な連絡書類をクラスの人数分配り終える。


「さて、これから夏休みに入ります。くれぐれも事故とか無いようにね。じゃ、また二学期になったら会おうね」


 教師がその言葉を言い終えた瞬間、生徒たちは教師に目もくれずにそれぞれ騒ぎ出したりすぐに帰宅したりし始めた。


「よし。帰るか」

「やっとだー」


 二人が帰ろうと席から立ち上がった瞬間、アキが近づいてきた。


「あ、マサト」

「どうした? 何かあったのか」

「何もないんだけど。ちょっと時間いい?」

「? 別にかまわんが」

「じゃ、俺先に帰ってるわ」

「シンタニも。一緒に」

「俺も?」


 マサトとユウが思っていた展開はアキがマサトを誘って夏休みのことに関して相談しよう。と提案してくるかと思っていたのだがまさか、ユウまで一緒に着てと言われるとは想像もしていなかった展開だけに二人は目線を合わせ互いに首をかしげる。


「お願い。本当に」

「わ、わかった」

「ありがとう! じゃ、後で連絡入れとくね」


 そのままアキは勢いよく帰って行った。


「なぁ、マサト。何かしたの?」

「こんなことを言いたくはないが、する勇気など微塵も持ち合わせておらんぞ」

「だったらなんであんなテンション高いんだよ。ヒビノさんは」

「僕が知るか」

「…ですよねー」


 二人はこの時直感的に感じ取っていた。とてつもなく何か嫌な予感を。


「お、連絡が来た」

「んで、集まる場所ってどこって書いてある?」

「……逃避行しないか?」

「…愛を抜くのなら考えよう」

「よし。それで」


 二人の息の合った絶妙な掛け合い。そして、当人同士でなければわからない謎の面白さ。


「って、なに? 逃避行しなければならないほどに指定された場所って危険なのか?」

「男にとってはひとつ言動を間違えれば命を落としかねない場所だ」

「まさかそれって」


 二人がごきゅりと唾をのみ込む。

 一体それほどまでに覚悟をつけなければならない場所とはどこなのか。


「友よ」

「覚悟はできた。俺は人生を捧げるようにお前のサポートをしよう」

「その心使い。痛み入る」


 二人はそれぞれの身の丈に合うシャレた格好をしていた。制服を脱いでしまえばそこにいるのはオシャレで金持ちで頭がいい男子高校生とオシャレで金持ちで美少年で男子高校生二人。

 その紹介文だけ見てみれば可笑しいほどにステータスがあり過ぎる二人。

 しかしそんな二人もこんな状況には緊張を隠せなかった。


「押すぞ」

「おう。覚悟はできた」


 マサトがその漆黒と堕天の象徴である灰色の混じり合う物質の突起物を人差し指で恐る恐る押すと、同時にとても軽快な音が鳴り響く。


「はーい」


 目の前の見た目が妙に小じゃれたとてつもなくデカい箱から人の声と早歩きでもしているのか少し速めの足音が二人に迫って来ていた。


「頑張れ。僕」

「大丈夫だ。例えどんな状況に陥っても俺が常に隣にいてやっからよ。安心して前へ突き進みやがれ、コンチクショー」

「友よ」

「だって俺等」


 ユウの言葉は遮られギギギと何かが動く音がした。


「いらっしゃい。マサト」

「…あぁ」

「……」


 その時の二人は目の前に突如現れたアキよりもその後ろにいろ魔王の風格を持つにやりと憎たらしく笑ったある一人の人物に目がいっていた。

 それでかユウは自身のナメが呼ばれていないことに気づきもせずに冷や汗をだらだらとながし始める。


「お先に着ちゃってました」


 俗世間的には天使の笑顔。しかし彼らからすればそれはただの魔王の笑顔。


「……なぁ、マサト。俺」

「大丈夫だ。僕のことより今は自身の心配を優先的にするのが先決だ」

「ごめん。さっきまで」

「状況が状況だ。自分の身ぐらい自分で守るさ」


 今マサトとユウの目の前に現れたのは一人の少女と一つの絶望。

 曰くマサトは言う。


「死ぬのではないぞ。盟友」


 曰くユウは言う。


「お前こそくたばるんじゃねェぞ。マサト」


 二人は固い決意をして前へ一歩、歩み出した。それがどんなに目の前が闇に覆われた絶望だろうと眩しすぎる光が毒々しい希望であろうと二人は目の前の現実に打ち勝つために一歩足を動かす。

 そう。日比埜家へと今二人は入って行く。


「お邪魔します」

「あ、お邪魔します」


 マサトとユウはさっきまでのあの無駄にそうだな勢いはどこへやら。ちゃんと挨拶をし靴をそろえ端へと置く。


「そんな、改まらなくても」

「何を言っている。例え相手が嫌いな相手だとしてもだ。人様の家に上がらせてもらう以上客人としての義務をちゃんと果たさなければならんだろ」

「そうだ! そうだ」


 ユウが何かから必死に身を守るようにマサトの後ろに配置を確保しその他大勢を演じている。


「やぁやぁ。一緒に来ればよかったかな」


 無駄に爽やかスマイルな魔王ことユン。実際は魔王でmのなんでもないのだが、そのタイミングの良すぎる妨害や空気の読まない迷惑な行動についたあだ名が魔王。

 その名を聞いた者は全員が立膝をつき忠誠を誓う。たとえそれが名の通った不良でさえも。

 そしてついた二つ名が平和の体現者・魔王である。ここまで来るともう訳が分からなくなってくるのが人間である。今現在は噂に尾ひれが付きに付き何故か、今の魔王は後継者選びに余念がないらしい。などと馬鹿げた感じになってきている。


「なんだ。ユン姉も呼んでいたのか」

「うん。……だって二人きりとか恥ずかしいし。だからシンタニも呼んだんだよ」

「な、何も言ってないよ。それよりもほら。私の部屋に」


 そこでアキは気付く。自分が今、どれだけ大胆なことを言ったのか。


「あ、えっとその」

「うむ。上がらせてもらおう」

「…え、あ、うん」


 しかしマサトは何の反応もしない。

 そんな時、ユンがアキにある耳打ちをする。


「マサトはその辺に関して言えば鈍いとかじゃなくて無関心だから」

「え!?」


 ユンのその言葉に思わず声が出てしまうアキ。

 それもそうだろう。高校生が思春期真っ只中のガキが異性の部屋に入って興奮や緊張をしないわけがない。それは逆もしかりであり上がらせる側も相当な勇気がいる。

 しかもそれが、上がらせる相手が想い人だったらその感情はさらなる高みへと上がることであろう。それをマサトは全く持って気にせずに上がろうとしていた。緊張している身の人からしてみればその行為は正気の沙汰ではない。


「どうした?」

「あ、なんでもないよ」


 この状況で緊張しているアキは平気なマサトを見て自分が恥ずかしがっているのがさらに恥ずかしいと思いさらに恥ずかしくなる。いわゆる悪循環。


「恥ずかしがるだけ無駄だよ」


 そんなユンの小声でのアドバイスが今のこの状況をどれだけどれだけ的確に判断できているのかがよくわかる。


「あ、ここが私の部屋」


 階段を上り終え少しだけ歩くとドアに可愛くアキの部屋とプレートがかかっているドアがあった。


「どうぞ」


 アキがドアを開けるとそこから甘美な臭いが一気にその場を包み込む。


「これが女子力」


 思わずユンがつぶやいてしまう。

 それもそうだろう。目の前に広がっていたのは日々きれいに掃除されているであろう埃一つない完璧な部屋と一つ一つの小物がいちいち可愛い飾り。そして淡いピンクのベッド。この部屋はまるで教科書に出てくるようなそんな女子の部屋。


「すごくいい部屋だな。今まで女子の部屋と言えばユン姉の部屋しか見たことがなかったからな」

「あー、あの。妙に大人な部屋」


 マサトは目をキラキラさせる。

 子供のころから女子の部屋と言えば大人な部屋と思ってきたマサトにとってはアキの部屋がどれだけ夢見てきた理想的な女子の部屋か。きっと今この状況でわかるのは完全に言葉を発さなくなったユウだけだろう。


「あ、適当なところに座っちゃっていいよ」


 そう言いつつ床にはすでに人数分の可愛らしいクッションのようなものと小テーブルの上にお菓子がおかれていた。


「では、失礼」

「そんなかしこまらなくていいって。私の部屋なんだし」

「そう、か? ならそうさせてもらう」

「うん。ラフな感じの方がやりやすい」


 そう言って全員が座るのを確認するとアキも座る。


「それで、今日はなぜこんな感じで呼んだのだ? 僕は明喜からだったらいつでもどこでもはせ参じるが」

「ありがとう。…でも今日集まってもらったのはね」


 アキがマサトからの言葉に頬を赤らめつつも本題を言う。


「今から、夏休みの予定をみんなで決めようと思うの」

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