#1-10
「デートしないの?」
アキの賀上家一泊二日のお泊りも終わり平穏無事に最終日である今日を過ごしていたアキやマサト。
そこに朝食を食べ終わり本調子になったユンがさも当然のようにリビングでまったりと日向ぼっこをしながらくつろいでいるアキとマサトに言った。
そしてお決まりのようにアキとマサトは口を大きく開け驚いていた。
「……しまった。盲点だったのだよ」
そう言うマサトはソファーで寝転んでいる。
「…私もつい。てか、お泊り自体がデートかと」
そう言うアキは窓際で今年最後の春の日差しを日向ぼっこで楽しんでいる。
「お泊りデートって。…ま、確かに言われればそうなんだけど。何だろう。もうアンタ等外でイチャついて来いよ」
珍しくユンが正論を言った。そして呆れていた。
「えー、外あちぃーじゃん」
「じゃー、日向ぼっこすんなよ」
「日向ぼっこだと日差しが丁度良く味わえるのー。しかも日向ぼっこじゃなくて森林浴だよー」
「森林要素一つもねぇよ!」
丁度良い気持ちのいい日差しにやられたのかアキがぽわぽわ属性を身に着けてしまった。
「確かにな。なにせ森林浴は高尾山でするものだからな」
「他の場所でもできるわ!」
マサトはマサトで休日だからか妙にユルくなっている。
「なんで、ツッコミになってるの。私ボケ担当じゃないの」
ついにはユンが二人の休日ボケに負けてしまいその場で両手で顔を覆う。
そんな時だった。
「High! Youたちupなtonightをberryなsongでアゲアゲしたかい? おっと失礼。あがらせ」
「門前払いじゃー!」
テンションが妙なあがり方をしたユウが訪ねてきてそのまま賀上家宅に入ろうした瞬間、ユンが全力でユウの腹部にバトルマンガの主人公並の威力の蹴りを入れる。
「……もっとけ、って」
「……」
まるで最後の願いとも見て取れるような状態でユウが何ともアレなことを言ってそのまま大袈裟にバタンと地面にうつぶせになる。
(この状況。私にどうしろと?)
目の前にはアレなことを言って倒れ込んだ幼馴染。それを見て見ぬふりをして家に入ったとしてもそこに広がるのは土曜日と言う定期休日に脳内を犯されてしまった双子の弟とその彼女レベルの女友達。自分の部屋に行こうとも今は賀上家母が絶賛お掃除中である。
「…なにコレ?」
それは今のユンが言える精一杯の言葉であり本音。
「おぉ、夢現。そんなところで突っ立って……。って、友君!?」
「やぁ、親父様殿」
「ちょっと、女の怖い現実から逃げようかなって」
「…そうか。家に上がっていきなさい」
「わーい」
地面にうつぶせになっていたユウはスクッと立ち上がり、何事もなかったかのようにスタスタと賀上家宅へ入って行く。
そしてなぜか服に汚れが一つもついていなかった。
「で、夢現は」
「この、老い耄れがー!」
「ぬんっ!?」
全力で賀上家父の股間に蹴りを入れるユン。中々に酷いことをする。
「そこで一生そうしてな」
賀上家父が股間に手を抑え怯えた子供の様に体を小さく丸め小刻みに揺らしているその実に父を横目に一人家に入って行くユン。
家の中ではユウが来たことによって持たされた化学変化でわいわいがやがやと賑やかになっていた。
「year! レッツ休日ー♪」
「year!」
そしてテンプレともいうべきかお立ち台と見せかけたソファーの上で立って騒いでいるユウにユンが全身全霊全力を尽くすように叫びながら体当たりをする。
「ちょ、にど、めは、ま、じなな、いって」
「……ほらマサトとアキは外に遊びに行く」
華麗にユウをスルーするユンは休日の謎テンションで可笑しくなったマサトとアキの背中を押し無理矢理外へ出す。
「いってらっしゃい。…デート」
ポカンとしている二人に対してこれでもかとニカッと笑うユン。そしてそのまま勢いよく出入り口であるドアをガンッと本来鳴るはずもないであろう音をドアで奏でながら閉める。
「うぅ。痛いよ。娘に股間蹴られたよ。母さんに蹴られるのは快感なのに何故娘に蹴られるとこんなにも痛いんだ」
家から追い出される形で外に出た二人の横にはいまだに小さく丸まっている賀上家父がなにやらぶつぶつ言いながらその痛さゆえに泣いていた。
「…どっか行くとするか」
「…うん。そうだね」
賀上家父の醜態を見てマサトとアキは休日テンションがとけたようで一気に普段通りの二人のテンションへと戻りそのまま出かける。
「それにしても。どこに行けばいいのだ?」
「う~ん。行きたいところとか?」
「そうか。…なら日比埜はどこに行きたいのだ?」
「え? 私!? 私はそのー」
「なんだ? 行きたいところの一つや二つあるのではないのか?」
「あるっちゃあるんだけど」
「なら、そこに行けばいいだけだろう。で、そこはどこなのだ?」
マサトはいとも簡単にアキに聞く。
しかし当の本にであるアキはどこに行きたいのかは、はっきりとして入るものの恥ずかしさと遠慮が重なり合って中々言い出せなかった。
それを知ってか知らずかマサトは気に止めもせずに聞いてしまったのだった。
「…えっと。その」
「もしかして遠慮でもしているのか? そんなものしなくていいのだぞ」
「いや、してないって」
「そうか。ならいいのだが」
あくまで建前上そう言うしかない。
そんなアキの気遣いと乙女な心を全く理解せずにいるマサト。
「…あ」
アキが色々と悩んでいるうちに駅の前まで来てしまっていた。
特に駅を目指していたわけではないのだが遊べる場所・デートスポットと言えばこの辺はここらあたりしかない。後は高校生にはまだ早い大人な雰囲気を醸し出しているロマンティックな並木道や何かが起こりそうなホテル街。さすがに二人はそこに行く勇気などはなく駅に来てしまった。
「ここまで来たのだ。せっかくの休日だし電車にでも乗ってどこかに行くか?」
「うん!」
「今回、夢現姉がご丁寧に大層なお金も一瞬で持たせてくれたからな。ちょっとした贅沢を味わえるかもしれんな」
「…あの一瞬で」
ユンのスペックの高さに驚愕しつつどこの駅で降りるかの相談。
「それでだ。そこまで行くか?」
「えっと、私。…あそこがいいな」
アキが遠慮しがちに希望したのは駅と直結した国内最大ともいえるであろうテーマパークのある駅だった。
「よし。ではそこに行くか」
「…うん!」
マサトとユンは電子カードにお金をそれぞれチャージして改札口を通る。
「それにしてもだ。休日の駅とはこんなにも人が溢れかえっているのだな」
「そうだね。でも、あっちについたらもっと人がいると思うよ」
「だろうな。流石の僕でさえ容易に想像ができてしまうから恐ろしい」
駅のホームでそんな他愛もない会話をしていると電車がやってくる。もうすでに結構な人が乗っており座席には座れず二人してつり革をつかみ目的地までたって過ごす。
「久々だ。もう何年も電車に乗っていなかったからな」
「そうなんだ。…あれ? 塾とか」
「あー、スマン。休日にだ。主語を言い忘れた」
「あ、なんだ。びっくりした」
最近ではマナーを守らずに大声で話す人などが多々いるがそこはマサトとアキ。マナーをしっかり守り声の大きさを下げて話す。
そうやって話していれば時間なんてすぐに過ぎてしまうもの。あっという間に電車は目的地の駅に着く。
「お、着くようだな」
「そうだね。もう見えてきているしね」
電車の窓から見える外の風景にはそのテーマ―パークの一大名所ともいえる西洋風ファンタジー風のデカいお城建っており、その中にも入れるようになっている。
それに流石は名所。二人が乗っていた車両にどうやらテーマパークに行く親子がいたらしく子供がお城を見つけるやすぐに騒ぎはじめ母親が子供を黙らせ、父親が周りに謝っている。そんなどこか心があったまるような場面も見受けられる。
「到着。久しぶりだな」
「日比埜は来たことがあるのか?」
「うん。もう何年も前になるけどね。あれ? カガミは」
「僕は今日が初めてだ」
その日のマサトの目は純真無垢な少年のキラキラとした輝かしい目をしていた。きっとずっと着たかったのだろう。テレビでよく流れるし小さいころなんかは特に願いが強かったのかもしれない。そしてそんな願いから数年たった今ようやく実現したのだろう。今のマサトはワクワクと緊張が止まらない感じだった。
そんなマサトを横目でププッと笑いながら見るアキ。
「な、どうしたのだ? そんな悪戯した子供の様な表情をして」
「え、してるかな? まー、とにかく早く行こ」
「そうだな。時間も有限なわけだしな」
しかし二人は後悔する。
休日のテーマ―パークを少し甘く見ていたかもしれない。まさかチケットを買うだけに小一時間待たされるとは思いもしなかっただろう。
「なぜだろうか。ここで遊びまわる前に謎の疲労感が」
「大丈夫。私もだから」
チケットを無事買ってまたさらに三十分程度待って入園検査を受けてパーク内に入ればそこは様々な人たちが歓喜の声をあげ喜びを分かち合うかのように笑いあうそんな素敵な夢空間だった。
「これが巷でよく聞いた。パークマジックとやらか」
「……カガミってそう言うのもちゃんと知ってるんだね」
「当たり前だ。興味のあることは何でも知りたい自分でも理解できてしまっている面倒くさい奴だからな」
「そ、そう」
きっと今のアキはこのテーマパーク内のキャスト以外の人たちの中で唯一、笑顔ではないだろう。若干の引きつり笑いである。そんなアキとは対照的に隣にいるマサトは今か今かと何かを期待して興奮冷めやらぬと言った満面な笑みでいる。
「さて、まずはどこに行くのがいいのだ?」
「そうだねー。やっぱり順番に周るのがいいんだとは思うけど。そんな悠長なことできないしまずは妥当なこのアトラクションかな。場所も近いしね」
マサトとアキは案内板を見ながらどのアトラクションを楽しむか検討した。
その結果最初はこのテーマパークでも安定で定番な不動の人気アトラクションに乗ることに決めた。
小さなボートのようなものに乗り水上を様々な国の民謡に合わせて人形たちの踊りを楽しむ子供からお年寄りまで幅広い層から人気のあるアトラクションであり比較的効率的な営業努力によりそのアトラクションは人気でありながらもそこまで並ばずに乗れる時間にも優しいアトラクションである。
「あ、そうだ。途中でポップコーンでも買う?」
「うむ。それはいい提案だな」
完全にテンションが子供の様に上がっているマサト。
そんなマサトを見てアキは幸せそうに笑う。
「あぁ、今日一日がとても楽しみだ。早くアトラクションに乗ってみたいのもそうだが何より。……日比埜と一緒に来られたのが嬉しい」
「うん、私も。マサトと来れて嬉しい」
「…そうか。なら明喜も、楽しむぞ」
「うん! 楽しもう」
魔法の力。きっとそんなものは存在しないのであろう。しかし今のマサトとアキにはそんな魔法の力がかかっているように思えてくる。
なにせ二人はコレ以上になく至上の喜びを噛みしめるかのように静かに笑っていたのだから。
きっと、これが有りもしない魔法の力なのだろう。
「あ、そう言えばだ。ポップコーンはどこで売っているのだ?」
「あそこの売店。ほら、好きな味も選べるよ」
そこには、塩・バター・キャラメル。この三種類のポップコーンが販売されておりマサトが盛大に悩み結局、アキに決めてもらった結果、キャラメルと塩を一つづつになった。
「ほら、見て。この容器もこのテーマパーク限定なんだよ」
「確かに。だが、これであの値段は高すぎやしないか」
「そこはほら。魔法の国の住人が安定した生活を送るためには仕方のないことなんだよ。……きっと」
「なんだ。その夢もない現実的な話は」
マサトとアキは二つのポップコーンを食べあい談笑しつつ第一目的であるアトラクションへと向かっていった。




