#1-1
食パンを食べながら遅刻しそうなのでダッシュで登校中にいつもの曲がり角でイケメン転校生とぶつかる運命的な出会い。
高校生活初日に高校へ向かう途中の桜並木の下で運命的に出会う美少女。
幼稚園で誓い合ったあの子とまさか再開するなんて。
朝になるといつもおこしに来てくれているあいつは俺の気持ちなんてしりやしない。
あった時は嫌いだった。なのに今の私は。
この世界には運命に恋い焦がれ現実をみない奴がいるがそんなのは決してない。断じてない!
もし、運命的な出会いがあっても相手が必ずしも美男美女なわけがない!
そもそも運命は突然やってくる? なに爆睡中ですか? 頭、大丈夫ですか?
いいか、現実にはやってこないんだよ。運命なんて。大概の既婚者は妥協して結婚してんだよ。
「なぁ、お前。いつもそれ言ってて飽きないの?」
「飽きる? 一体何を言っているんだ」
「そのやけに力の入った運命論のことだよ」
とある高校のとある教室の一角で机を向き合わせながら二人で弁当を食べている男子学生。
一人はあきれた様子でさっきからずっと話を聞いているイケメンの名にふさわしい美男子学生。そしてもう一人はメガネを光らせずっと話し続けていた普通な男子学生。
「俺、よくお前の親友をやってるわー。やっぱ、これ腐れ縁だよ。絶対」
「あぁ、お前には感謝しているぞユウ。お前がいなけば僕の人生は実につまらんものになっていた」
「おうおう。じゃ、その感謝の形としてお金貸してよ。今週末さデートなんだよ。な、マサト」
「誰がかすか。金の貸し借りはいくらユウとは言え貸さんぞ」
「なんだよー、ケーチー」
「お前な。この前貸した分も返さずに何を言うか。だから嫌なんだ」
「なんだ覚えていたんだー。あははー。………来月まで待ってくだせぇ! おらには妹と母が」
ユウと呼ばれた美男子はいかにもな感じで机に勢いよく頭をつける。
「ごちそうさまでした。さ、次の授業の準備だ」
マサトと呼ばれた男子はユウの大根芝居をことごとくスルーする。
「お前、つめてーよー。金のことはいいからさ、せめてかまってくれーよー」
「ええい、じゃかましい。さっさと机を直さんか」
「へいへーい。なおしますよーっと」
ユウが机を渋々なおしていると教室の出入り口から騒がしい女子たちが昼休みから戻ってくる。
「きゃー! それ絶対にだよ」
「そうかなー。私はなんか違う気がする」
「えー、私もアキと同じだと思う」
「ま、結局はどうでもいいことじゃん」
マサトは入ってくる女子たちをどこか冷めた目で見る。
「まったく、羞恥心は無いのか。あのギャルとか言った類はどうも好きになれん」
「お前とは同じ人間なの? って、言いたくなるぐらいに違う人種だよな」
「まったくだ。どうんな間違いがあって同じ人間に生まれたのか不思議なぐらいだ」
「ま、俺はどんな性格もイケるけどね。どんなプレイスタイルもオッケーだ」
「お前のそう言ったところは本当に尊敬できる。人間そう器の大きいものは滅多にいないからな」
「まぁ、さすがにあの日比埜さんは頑張る必要がありそうだけど」
そう言ってユウが言った日比埜は女子のグループの中心にいる典型的なギャルだった。
「お前がそこまで言うとは凄いな。日比埜明喜は」
「そう言うお前にもなれるまでに時間が必要だったんだぜ。賀上正徒」
「僕だって最初は慣れなかったんだ。親谷友よ」
「……くくっ」
「……ふふっ」
マサトとユウは二人でそう言って笑った。周りの女子から見たらなぜ二人が笑っているかわからないが男子にはわかるらしく特になにもなかったかのように心の中で、わかるよそれ、と、各々呟いているのだった。
「なにあれー。なんかキモいんだけど」
「そうかなー。私はそんな子供っぽさがたまらなく好きなんだけど」
そうマサトとユウを見ながら話しあう女子グループの後ろから教師がやってきた。
「ぉまら、とっとと席につけ。欠席にするぞ」
「「「「はーい」」」」
女子グループはその見た目とは裏腹に教師に言われた通りに自席に着く。
「そこで言うことを聞くな。少しは反発をしろ」
「見た目とは違うのがたまんなく可愛いんだろうが。わかってねーなー」
「わからん。その考えは」
マサトがそう言うとタイミングよく授業菓子のチャイムが鳴った。
「はい、じゃ今日は……」
「ダメだー! つまんねー」
「二年にもなって何を言っているんだ。もう就職か進学かを決めなければならないのに」
「そんなの二学期からでもいけるって。問題はその夏休みだよ」
外を見ればもうすでに外は夕日のオレンジ色に染まりきっていた。
マサトとユウはいつもの通りをいつも通り二人で帰っていた。
二人は家が隣同士とゆうこともあり幼馴染と言う腐れ縁の仲でなんでも言い合える仲だった。最早、同い年の兄弟やまるで双子のようなシンクロ率をたまに発揮するほどだ。
「彼女と遊びつくすとか毎日のように言ってるじゃないか」
「違うんだよ! いや、違くないけど」
「なんだ? わからん奴だな」
「こうなんだ。高校生活最後の青春とでも言うべき夏休みにデートしてただ帰ってくるだけでいいのか? これが問題なんだ」
「何が問題なんだ?」
「あー、わっかんないかなー。こう、なんだ大人の階段ふらいあうぇーいとかこれが本当の卒業式とかほらあるじゃん!」
「あぁ、脱童貞か。うん? 童貞卒業か」
「どっちでもいいよ。て、なんでそんなオブラートに包んでたのに」
道端でわざわざ止まってオーバーリアクションを取るユウを律儀に待つマサト。
「そうだ、お前。今日はデートじゃないのか?」
「……あぁ。金がないからできないのさ。もうこの世のすべてが金で買えるんじゃないかと思えるほどに金が憎いよ」
「おいおい。それはいいことだな」
「おいー! そこは是非否定をしてくれよ!マイベストフレンドゥッ」
「じゃかましい」
マサトはわざわざ止まって待ったことを若干後悔しつつもユウと家へと帰って行った。
高校からマサトとユウの家はそんなに離れてなく10分もあればのんびり歩いてもつく距離だった。
「彼女と遊べないから代わりに遊んでくれよー」
「僕はこれから塾があるからな。もう受験が差し迫っているし、お前も進路を決めたらどうだ?」
「まだ高校2年の夏休み前だぜ。進路とかは夏休み明けでもいいだろ? なにも勉強がすべてじゃないし」
「ま、一理あるな。じゃ、ぞれぞれのやり方で最善の道を進めるよう頑張ろうじゃないか」
「あぁ。まぁ、今は目の前の塾を頑張れよ」
「言われるまでもない」
そう言って2人はそれぞれの家へ入り、ユウは自室でごろごろとマサトは歩きで塾へ向かった。
「ねー、アキ―」
「ん? どうかした」
高校から二駅程行った県内でも屈指の繁華街。そこにはありとあらゆる店が並んでおり近場の高校生がたむろするにはうってつけの場所だった。時刻は午後9時をまわり街はライトで照らされ人工的につくられた毒々しい光が華々しく街を彩っている。
そんな場所でアキは高校のあの女子グループのメンバーと一緒に歩いていた。
「金かしてー。彼氏がさまた私の財布からとってさー」
「もーう、これで何回目よ。貸さないわよ」
「えー、そう言わずにさー」
「そうだよー。かしてあげなーよー」
「アキお願い。ね?」
「だってアンタ返してくれないじゃん。それに私ばっかにかりないで他にもかりたらどうなのよ」
アキはそう言い終わり、はっ、となった。
こういった女子の間柄では大方が表面上の付き合いであり何か小さな本当に微笑で繊細な出来事があるとすぐに友達ではなくなる。
アキそれを過去見てきたから、今の自分の言動がそれに値するとすぐにわかり焦った。
「あ、ほら、ね?」
「ねぇ、アキ。ちょっと場所移動しようよ」
「それがいいね」
「そうだねー」
「……う、うん」
アキはこれから何が起きるのかがすでにわかっており足がすくんでいた。
「なるほど」
塾が終わり帰り道である河原の道を一人歩くマサト。参考書を広げて歩くその姿はまさに受験生そのものだった。
「しかし、この道はいつ通ってもいいな。わずかに聞こえてくる車の音にちょうどいい風。最高だ」
マサトはこの道を通るためだけにわざわざ家から二駅ある塾へ一駅だけ電車を乗り一駅分歩いて通っていた。
「さて、家に帰ったらこのあたりでも予習しておくか。……ん?」
いつも通るこの河原の道の静けさは誰よりもマサトが知っていた。だからこそ、その普段聞かない音に気付けたのかもしれない。
比較的浅瀬のこの川は夏になるとよく子供が入って遊んでいたりするが、流石にこの時期この時間ともなると一人もいなくなる。だから、本来は川から水をかき分けるような音はしないはずだ。
しかし、今日に限ってはその音がなぜか川からした。マサトはその音の正体が知りたくなり川を見てみると人が一人川の中で歩き回っていた。
「……あれは」
「もう、どこいったのよ」
「日比埜明喜、だよな。何をしているんだ一体」
川に入っていたのはクラスメイトの日比埜明喜と気付くとマサトは川へ近づいていきアキに声をかけた。
「おい、何やってんだ? お前、日比埜明喜だろ!……え?」
マサトがアキを呼ぶとアキはマサトの方へ振り返る。
「なんで、お前泣いてんだよ」
アキはなぜか泣いていた。その振り向いた瞬間の表情は何かに怯え何かに必死でもがきつかみ今にも壊れてしまいそうなほどに弱弱しいものだった。そのアキはマサトがよくクラスで見る日比埜明喜とはまったくもって違う。
「……アンタ誰?」
「賀上正徒だ。同じクラスの」
アキのその声色はとても震えていた。
「………そっか。あいつ等クラスメイトまで呼んだんだ」
「おい、呼ぶっていったい」
そう言った直後マサトはふいに川に架かっている橋を見る。するとそこにはクラスでアキといつも一緒にいる女子たちだった。
「まさか、お前」
「……っ!?」
マサトがその先を言おうとした瞬間アキは体をビクッとさせる。そして下を向き顔を青ざめる。そんなアキの様子を見てマサトはそれ以上先はいわなかった。
「…おい。何探してんだ」
「な、なにも探してなんか」
「いいから、言え」
「………バッグ」
「よし、じゃあ探すか」
そう言ってマサトは自身の持っていたバッグからタオルを一枚取り出しバッグを地面に置き靴と靴下をぬぎ川へと入って行く。
「アンタ、なにやって……わ!」
「いいから川から出てタオルで体でも拭いてろ。バッグ探しとくから」
「なに言ってんの? 私とロクに話したこともないただ一緒のクラスの奴ってだけなのに」
「は? そんなの当たり前だろ。たとえ知らない人だろうが困ってる人を助けるのは人として当たり前だろうが。なに言ってんだよお前」
マサトはそう言い終わると黙々と川でバッグを探し続ける。そんな、マサトを見て橋にいてアキを見続けていた女子たちは、ばつが悪そうにその場から立ち去って行った。
「どれだ? てか、僕知らなくないか? アイツのバッグ」
今更なそのマサトの言葉に川から出ていたアキが笑ってしまう。
「ちょ、今更すぎ! もう、ちょっと待って」
アキは立ち上がるとそのまま川へと入る。
「おま、熱出すぞ」
「そんなのどうでもいいよ。だって困ってる人がいたら助けるのが基本なんでしょ? 違う」
「……そうだな。で、どんなバッグなんだ」
「えっとねー、スクバかな」
「スクバだな」
そう言って二人はそれから三十分ほど探しようやくアキが見つけた。
夏休みが近いとはいえまだ六月の前半。昼間はちょうど良い温かさだが夜になればほんのり冷たさが戻ってくる月なのでみつけるとすぐに二人そろって川から出る。
「さぶっ」
「六月なのにねー」
そらは澄み切った夜空。星々はそれぞれの光を放つ。そんな星空の下。川のすぐ手前の野原のような場所でマサトとアキはその場で座る。
「それにしても見つかってよかったな」
「ずぶ濡れだけどね。でも、驚いた。まさかアンタがこんなところにいるなんて」
「いつも通っているんだ。塾への通り道でな」
「だからか。ま、その……ありがと。一緒に探してくれて」
アキは体育座りをしながら顔を半分隠すようにまっすぐ前を見てマサトに礼を言う。そんな気からのお礼が意外だったのかマサトは軽く笑ってしまう。
「まさか、お前みたいなやつから礼を言われる日が来るなんてな」
「わ、私だって言うよ! それぐらい」
「ははっ。……そうだ、寒いだろ? パーカー貸すから着とけ」
そう言ってマサトは自身のバッグの中からパーカーを一枚取り出し立ち上がるとアキの後ろに移動しパーカーを肩の上からかける。
「な! ……あ、ありがと」
「じゃ、帰るか。このまま一人だと危ないだろうから送ってくから」
「いいってそんなの! それに迷惑でしょ?」
「迷惑もくそもあるか! だからほら、帰るぞ」
「う、うん。で、でも」
「まだ何かあるのか」
アキは立ち上がるとバッグを見つめる。そのバッグから中まで水が浸透してしまいありとあらゆるものがダメになっていた。
「帰り、電車なんだよね。私」
「……なるほど」
マサトは一瞬考えて何を思ったのか次の瞬間、手に持っていたバッグを川へと投げ入れた。それを見たアキは何が起きたのかと目を疑った。そしてマサトはそのまま川へと入って行きバッグをとって川から出てくる。
「これで、恥ずかしくないだろ? 一人ならまだしも二人なら耐えられるだろ」
「え、でも」
「いいから早く帰るぞ。僕も帰りは電車なんだ」
マサトはなぜか優しく笑いながらそう言った。その笑顔がアキにはとても暖かく優しいものだった。
「う、うん!」
「そう言えば、僕は次の駅から一駅だがお前はどの駅なんだ?」
「アンタと同じ。次の駅から一駅」
「なんだ、そうなのか。なら、とっとと帰ろう」
そう言ってマサトはアキに手を伸ばす。その手を見てアキは一瞬驚いたが恥ずかしそうにその手を取る。そして、そのまま二人は家へと帰って行った。