ある一人のロスト
「ちょっと戦争に行ってくる」
今どきの若者の定型文だ。
他にも仕事はある。その群を抜いてダントツなのが
自国の為にバーチャルの空間で本気の人殺しをする兵士となる。
リアルで惨めな死より、国のためにというスローガンがあった方が普通に生きるよりも理想的。
本当に死んだ時だって、苦しみの無い一瞬。
死が簡略化された時代。
そこには女性も男性も関係無く殺し合う。
仮想空間の戦場が人気なのは、何もそれだけではない。
昔からある変身願望の象徴たるが一つ。アバターの魅力だった。
勿論他国と間違えないように自国なりのアバターが存在するが、リアルを直視することが少なくなった若者にとって近代的な理想系のシステムが好評を得た。
今現在の日本では、国旗をモチーフとした赤と白。そして過去の名残を残したつもりなのか、紙を染める概念の無い時代だったと考慮し、髪の毛の形は自由であれど黒目黒髪が義務づけられている。
アバターによる過大な自由性は無いものの、リアルよりビジュアル化されるシステムは安易に受け入れられた。
だが-
-
「待ってくれ!」
広大な戦場サーバーの何処かで悲鳴をあげる男の声。
アバターを確認する辺り、日本のユーザーで間違いない。
戦場に待つという猶予があるとは思えないが、確かに彼は命乞いをしていた。
何処の国でもない、統一化されたアバターでもない。
たった一人の少女の前で。
何処の国の人間とも断定出来ない。自分にとって敵を示すポインタも表示されていない。
ただ今分かることは、男性ユーザーの一人が少女に対して命乞いをしている事だけ。
これ以上ユーザーが負傷すればサーバー内で死が断定し、現実世界へログアウト出来ない。つまりは完全なる死だ。
ご丁寧にW2T2はその現実的な死さえも忠実に再現している。
「ユーザー名:kota。早急にログアウトしてください。負傷率98%を越えています」
その場にアナウンスが流れる。
痛みこそアバターの世界では再現されていないが、現実世界での彼は甚大な損害を受けている。
だが少女への命乞いは無意味に等しかった。
「安心して、殺したのは日本のユーザーだけじゃないから」
「ど、何処の国の…」
「関係ないでしょ、今から死ぬんだし」
その瞬間だった。
-
-…
バシュッ
「ユーザー名:kota。負傷率100%。ログアウト不可。戦死を確認しました」
アナウンスがユーザーの死を告げる。
現実世界においても死が確定されたであろう。
その状況がどうなっているかは分からないが、ロストしたユーザーはその場で絶命し、動かなくなった。
「…」
甘栗色の長い髪に、現時点では特定できないアバターコスチューム。
幼さも残るその表情はT2W2の空を見上げ、憎しみを込めた。
そして彼女は自分の素性が知られる前にログアウトして、その場を去った。
-
「戦争なんて…」
-シュン