新しい戦争の形
「限りある自然を守りつつ」
仮想空間戦争システム「T2W2」が生まれたのは
そんな理由だった。
戦争を続ける滑稽さはあれど、実際の自然破壊におけるリスクも承知していた。
だからこそ死そのものまでリアル化したT2W2が生まれたのだ。
死を完全リアル化したのは、戦争をゲームと思わない為。
昨今の若者に戦争とは本来こうあるべきだ、と説くためである。
国のために死ぬ。美談とも取れるその思想は、時を重ねるごとに定着し、だれも仮想空間の戦争で死ぬかもしれない事を理不尽だと思わなくなった。
そのシステムもまた滑稽なことに敵対する各国が共同で製作したのだから、どれだけ終戦を見いだそうとしない滑稽さを痛感する。
その基となる国家ゲーム会社「ユーゴ」はおのおのの国の戦争に特異性のある差別を禁止する立場であり、裏金を積まれようと中立的な立場を維持していた。
T2W2が開発されてから、もう何十年。
しかしまだ何十年。
これからも定着していくネット上での国家戦争。
最早国では義務化されずとも志願する若者に事欠く事はなかった。
現実世界でのリアルな死よりも
仮想空間でのバーチャルな死を選ぶ若者を取り込めたのは、今でこそオンラインゲームとして世に出したユーゴの戦略的価値の賜物である。
そして今日もまた、サーバーの何処かで若者は美徳化された有意義な戦場に赴き、国のためという薄っぺらいスローガンの元、死と隣り合わせのゲームに参加するのだ。
それだけで給料が支払われるシステムもまた、各国の戦略と言うべきか。その場での仕事が終わればログアウトして、飯を食って風呂に入って生理的な行為もそこそこにまたログインする。
恐らく一番今人気のある仕事なのかもしれない。
仮想空間での、人殺しが。