肆話 たどり着く王都
「――まだ、門開いてた?」
「えぇ、せいぜい5フィット位だから急いだ方がいいわ」
「分かった。」
仲直りした後にその言葉を聞いて走り出した
「えっつ…うこ……うしょ?」
「そっ、各街を出入りするときは自分の街でもらう通行許可書か冒険者組合で発行してる身分証明がないとダメなんだ」
「ってか、それ知らんでどうやってここまで来たんだ?これどこの国でも共通常識だぜ?」
門にいる門番に制止され求められたものがあった。
30代ほどの面長の男は優しげに、がっしりとしたひげの男は馬鹿にしたように言葉を重ねる。どちらも見下すわけではなく視線を合わせてくれるため根はいいのだとリシャロットは頭の隅で感じていた
二人で引きとめられているのはリシャロットが怪しい、というわけではなく夕暮れ時の閉門間近で門を通るものがいないためであった。
「(しまったッ……。ゲームや夢じゃそんな描写無いからあると思ってなかった)……魔法の勉強してたら間違って発動してしまったんです」
「何の?」
「……移転魔法」
「「ッぷ、ワハハハ」」
「お嬢ちゃん大人をからかっちゃいけないよ」
「そうそう、移転魔法なんてギルドのトップクラスか研究者の人ぐらいしかできないって」
「ッからかってないもんっそれにお、ッ痛っ、僕は男‼」
ひげの男に薄ら笑いで先を促されたためしぶしぶ答えるがどちらにも笑われ反論しようと口を開くも己の使い魔に言葉遣いを注意されるかのようにつつかれる始末
「〰〰本当に、移転魔法で飛ばされただけだもん‼……通行書持ってないとホントに入っちゃダメなの?」
「――…ごめんな、それがもし本当だとしても、子どもだとしても持たないものは入れない、規則なんだ」
じんわりと涙の浮かぶ瞳で言い募るリシャロットに面長の男は七、八歳ほどに見える目の前の少zy……少年の頭をなでる
――先ほどまでリシャロットに制裁を加えていた漆黒のフクロウの姿が音も無く消えていたことを気づくものはここにはいなかった
「それじゃあ、<ゴーン、ゴーン――…>なに?この音」
「閉門の音だよ。この音が鳴ったら門を閉じて明日の朝までは閉めておくんだ」
魔物の異常増殖によって門の外、加えて夜は危険な現在、リシャロットにとって一晩を門の外で過ごすことは死活問題であったため、さらに食い下がる……ように口を開きかけたとき大きな鐘の音に遮られる。無情にもタイムリミットが告げられた
思わず溢れそうになる涙を必死にこらえていると、がっしりした男が静かに訪ねる
「――…お嬢ちゃん、お名前は?」
「お嬢ちゃんじゃないっ……リシャロット」
「……リシャロット、今日は「遅くなって済まない」っ何だ……っ!ロゼリアさんお帰りなさい、どうしたんです?もう閉門の鐘がなったギリギリなんて」
「悪いね、依頼が速く終わったからその足で帰ったんだが思いの他のんびり来ちゃって――もう、探したわよリーシェ。一緒に行くから待ちなさいと言っていたでしょう?」
門番の声が別の声に遮られる。落ち着きのある優しい声だった
振り返った先にいたのは茶色の髪で耳を隠ししかし、右側の一房を束ね、弓矢を携えた女性だった
前者には軽く声をかけ後者には声をかけつつ抱き上げる。その際にリシャロット……リーシェの瞳に浮かぶ涙をぬぐうことも忘れなかった
「(いい子だから何も言わずにおとなしくしとくんだよ)悪いんだけどグラールさん今日中には仮加入の身分証明発行するから通しちゃくれないかね?あたし一人ならともかくこの子には夜の外なんて死ににいくようなもんさ」
「っ……それでいいんですか?ばれたら組合から処分がおりますよ」
「処分が降りる云々よりも降りる問題自体が無いんだ、気にする必要がどこにある?」
門番もロゼリアのしようとすることを正確にとらえたのか注意を促すが、内心を見せない笑みでサラリと交わす
「……わかりました。では、明日こちらにお願いします。ご存じとは思いますが、仮加入時の二ヵ月は例外を除いて除名、脱退はできませんので」
「りょーかい、いつもアリガト」
門番の言葉に片手をあげて門をくぐる
この見知らぬ女性、ロゼリア・リリーの助けによってリシャロットはようやく安寧のある門の内へと入ることができた。
この時はまだ、ロゼリアと長い付き合いになることを考える余裕もなかった
用語解説
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