壱話 小さな始まり
[リーシェside]
――魔方陣が発動し王都に飛ばされる一瞬、初めてこの世界に来た日が走馬灯のように流れた。
夢の現に漂う中、誰かに抱えられる感覚に意識がはっきりとする
全身をすっぽりと覆われるようなぬくもりに、俺そんなに小さくなかったはずだよな⁉ と慌てて瞼をあげようとするが、意思に反してゆっくりと上がっていく
焦っても開けない視界にイライラして、ようやく開く
広がった視界の先は俺が想像もしていなかった世界だった。
冷たい凛とした空気の中視界が開けた先にあったのは月がきれいに見える夜空、そして本来日本では見かけないような頭から足元まで見に包まれたシスターのコスプレをした女性だった。
「(ぎ、ぎゃーっ‼)おぎゃーっ‼」
あまりの衝撃に悲鳴を上げたが口から飛び出したのは赤子の泣き声そのもの。
な、なんで⁉ 声違くない⁇
焦りに比例して泣き声が大きくなる
自分の耳に聞きなれた声でないこともすでにわからず、
自分でもどうすることもできなかった……
「**、****」
シスターのコスプレをした人は困ったような顔で、何か言いながら俺の背中を優しくさするがそれでも涙は止まらなかった
夜の静寂の中、俺のひっくひっくと声が響く
「~~♪ ~~~♫」
ふいに、キレイな声が響いた。
シスターのコス……もういいか、シスターで。
シスターの口から奏でられる子守唄。易しい、優しいメロディだった。
俺の止まらない涙もその声に自然と退き、同時に包み込まれるぬくもりにうとうとと瞼がおりてくる
「**? ***、リシャロット」
ほんわりと俺をなでる手に逆らうことなく瞼をおろす
最後に呟くように呼ばれた名前も意識とともに闇に消えた。
この時はまだ、自分の夢に深くかかわった世界に転生したなんて微塵もわからなかった……。
ただ、優しい声に安堵が広がり、頭の片隅に引っかかる名前もかき消されたと気づくのは、数年後だった。