プロローグ 夢の始まり
[No side]
「ついに来たか……」
時代を感じさせる木造の建造物の一角、山積みになった色あせた本に囲まれ白銀の髪に蒼色の瞳の美少女の姿をした少年は、窓から差し込む光の下何時ものごとく“魔法”に関する本を開き小さく呟いた。
彼は、人よりも目を惹く外見をしていたが、中身は別の意味で変わっていた。誰にも口にしたことは無いが彼が今の自分になる前の村岡優輝としての記憶、所謂前世の記憶というものを持っているのだ。
前世の記憶の中にある一つのゲーム「光に誘われて」という世界に酷似した、この世界で生を受けて一年、ゲームの世界ではないかと疑念を抱いて九年――。
合わせて一〇年という月日をかけて彼は今の生活をしており、今がある種の、節目でもあった。
王都に、近年急激に増えた魔物を浄化する力を持つ聖女が現れたと遠く離れたこの地にも噂が流れ、ゲームの開始を象徴でもあった。
冒頭のセリフはこれに対しての小さな小さな呟きだった。
辺境のこの地では“生活魔法”以外の関心も薄く現皇の命で各地に設置されたらしい図書館も魔法関連の本を利用するのは彼のみ――。
もはやそこは彼専用の部屋のようなもののために不用意な発言もほとんど許される、彼にとっては心が落ち着く場所でもあった。
――彼は考え事に夢中のあまり、無意識に王都への移転魔法の陣を作り上げていることに気づいていなかった。
「聖女が出てきたってことはシナリオ回避になったのか、いや、もともと俺の性別が違うんだからここは別世界?それとも……。」
考え込むがゆえに後ろから近づく気配に気づかなかった。
「さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「ぅひゃぁっ‼」
後ろから覗き込まれるようにかけられる声に驚きとっさに手をついてしまった。
無意識に作り上げた魔方陣が書かれた床に、だ。
パァッ 輝く光の中、彼の顔が一瞬にして青に染まる。
――そう、魔方陣が発動したことに対する輝きであった。
少年の姿が光に包まれるほんの一瞬、彼の肩にいつの間にか現れた漆黒のフクロウが舞い降りる。
声をかけた女性が光に目をそむけた一瞬。その間にゲームの人気脇役キャラクターであり、この物語の主人公でもある彼、リシャロットの姿はなく、彼の使い魔の黒い羽が一枚、宙を舞っているのみであった。
そして、魔方陣の発動中光に紛れて胸元の蒼玉が光を発したことに気づくものはこの時、誰もいなかった。