第七話 湖の畔の町
ある意味ここからが本編
『それじゃあ一回休憩しましょか』
「うん。ねぇコク、私達一体どこに向かって歩いているの?」
『取りあえず私の知り合いのところ、記憶が正しければこの先にある町にいるはずだから』
あの後私はコクが起きるまで一生懸命に一人でさみしく歩いたよ。
コクが起きた後は進行方向をコクが指示してもらって進んだ。
「知り合いってどんな人?」
『変人だよ、性別は男。行商をやってる。後その妻』
「それでその人に何の用なの?」
『セレナに関してちょっとね。気にしなくても私が言っておくから大丈夫だよ』
私に関して?
一体何だろう、そして一体どんな人何だろう?
ちょっと期待しながら私は再び歩を進める。
『もう休憩はいいの?』
「うん、なんか疲れないし」
『なるほど、それじゃあ先に行きましょうか』
「うん!」
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『この町だよ』
「ここが?壁がないよ」
『壁で外界と隔離している町なんてかなり少ないよ、人は過去に何かあってもすぐに忘れてしまうから』
コクが少し悲しそうな声でそう言った。
でもすぐに付け足した。
『でもそれでいいんだよ、馬鹿みたいに前を向いてこその人間だもの。それじゃ、行こうか』
「うん」
私は町の中へと足を進めた。
「あらあら、コクちゃんじゃないのさ!?今日は何の用だい?」
町に入るとすぐに露店にいたおばちゃんに話しかけられる。
驚いて飛び跳ねそうになるのを必死で堪える。
私は声がした方を向いておばちゃんと向き合う形になる。
「いえ、あの、その……」
「あら、よく見たら片方の目の色が違うわ。ごめんね、君によく似た知り合いがいたものでねぇ」
「……………」
コク、どうしよう。
コクに助けを求める。
この状況私には耐えられない。
てか片方の目の色だけで別人と判断されただけど。
『代わる?私が出てもいいけど』
私がどもっているとコクが私に話しかけてくる。
それだとややこしいことにならない?
私は頭の中でそうコクに言ってみる。
『私だから大丈夫だよ、それで代わる?出番が来たら戻すからさ』
……いや、何とかやってみるよ。
私も少しは人と話さないと駄目になっちゃう。
それと私だからって……コクってどんな立ち位置なの?
『そう、じゃあ頑張ってね。無理だと思ったら言ってくれればいつでも代わるからね、寝てるとき以外は』
コクは見守ってくれるみたい。
勇気を出せ!私!
「あの」
「ん?何だい?」
「そのコクっていう人について教えてもらえませんか?」
「え?」
『え?』
目の前のおばちゃんとコクが同じタイミングで困惑した。
おばちゃんはいきなりだったから驚いたんだと思うけどコクはなんでかな?
『私に質問があるなら答えるよ?何で直接聞かないのさ』
…あ
本人がいるのにその本人について人に聞くって……
「コクちゃんかい?私達もあの子については詳しくは知らないんだけどね。詳しく知りたいのなら向こうの家に住んでいるオースティンっていう人に聞いてみなよ、あの人はコクちゃんと仲いいからよく知っているはずよ」
「あ、ありがとうございます」
私がお礼を言ってその場を去ろうとするとおばちゃんに呼び止められた。
「ちょっと待ちなさいな。今オースティンは町の外に仕入れに行っていて家にはいないよ」
「じゃあいつごろ帰ってきますか?」
「そうだねぇ……出ていったのが一か月前ぐらいだからそろそろだとは思うんだけどねぇ。何せあの人は平気で一年とか出かける人だからねぇ」
一年……
コクが変人だって言った意味が分かった気がする。
一年も家を空けるなんて不用心じゃない?
そもそもそれは家と言えるの?
「全く、嫁さんも可哀想にね。あんなに放置されてさ」
「嫁さん?結婚しているんですか?」
おばちゃんが明らかに呆れた様子になってそう言った。
そんな人でも結婚できたんだ……
「ああ、前まではいいとこのお嬢さんみたいだったんだけれど……」
そこでおばちゃんはそこで口を閉ざします。
「前までは?今は?」
「あんた結構ぐいぐい来る子だね、好奇心は向ける方向を間違えちゃ駄目よ」
私が少し気になったことを聞くとおばちゃんに軽く窘められてしまった。
うう、子供扱いって気分悪いなぁ。
子供なんだからしょうがないんだけど。
『まあそこら辺は後で私が教えてあげるから』
うん、慰めが心に沁みる。
泣きそう、でも泣かない。
「まあ行ってみたら?あの人ならあの人が戻ってくるまで家に泊めてくれるでしょうし」
「わかりました、それでは」
私は今度こそこの場を離れてあの家に向かった。
そして家の前に着き、ノックを三回して待機。
…誰も出てこない。
『インターホン使えば?』
「い、いんたーほん?」
『扉の横にボタンがあるでしょ?それを押せばいいの』
「わかった。……んーー!」
いんたーほんを押そうと手を伸ばすも届かず。
…私は爪先立ちをして何とかぎりぎりいんたーほんに手が届いた。
足がプルプル震えて倒れそう。
ボタンを押した後少しすると優しそうな女性が出てきた。
「はいはい、どちら様?ってあれ?コクちゃん?」
「……久しぶりだね。相変わらず旦那は自由にその辺を駆け回っているそうで」
ここはややこしくなりそうだから私がやる。
話せばわかる人だし私が最初にすべて話すのが一番後が楽だし。
「そうなのよ、困って人よね。…あの人に用なの?」
「そう、でもいないみたいだね」
「たぶんそろそろ帰ってくると思うんだけどね」
「なら泊まっていってもいい?今宿無しでさ」
多少呆れながらもそこがいいという感じで話している。
ああ、この女性の名前はシアン、オースティンの嫁。
優しい人だけど嘘と本当はしっかりと見極められるちゃんとした人。
過去に色々とトラブルに巻き込まれていたトラブルメーカーでもある。
「コクちゃんなら幾らでもいいに決まっているでしょ!なんて言ったって私の恩人だもの」
…私もそのトラブルに関与しているわけで。
ちょっと通りかかったところを気まぐれでやっただけなんだけど。
気まぐれにここまで感謝を憶えられても困る。
この人はそんなことお構いなしだから余計に頭が痛い。
「じゃあお言葉に甘えて、いつもの部屋でいいのかな?」
「ええ、そこでお願い」
「あと話したいことがあるから、後でゆっくり話できる?」
セレナの事を言わないわけにはいかないでしょ。
大丈夫、この人は私の事をある程度知っているから簡単に受け入れてくれるはず。
「ところで左目、どうしたの?青くなっているけれど……」
「ん?ああ。それも後で話したいことに関係してるから後でね」
「えー、今じゃないの?もったいぶらないでよー」
子供っぽい一面もある。
まとめると一緒にいると暇しない、一人で賑やかな人。
いつもはこうだけど知識があり、理解も早い。
ぶっちゃけオースティンなんかには勿体ないほどの上玉だよ。
私は家に上がり、いつもここに来た時に泊まっている部屋に向かう。
その部屋はこの家の二階の廊下の一番奥にある。
この家は二階建てでこの家の夫婦の生活は一階で終わっていて、二階は私のような客人が来た時に泊めたりしているっぽい。
二階にも部屋が結構あるけれど私が泊まっていたりするときには別の客人なんて一人も来たことないけれどね。
「さて、一体どのタイミングでセレナを起こそうかな?」
普通に考えれば私がシアンにセレナの事を話した後がいいよね。
話す内容を考えておかないと……
めんどくさ、適当でいいや。