表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

第五話 夢の世界の私

 私は夢を見ていました。

 その夢の中では全てが真っ白で、何もなく、そこにいるのは私だけ。

 そう、私の目の前に立っている“私”だけ。

 ……え?


「初めまして、“セレナ”」


 目の前の“私”は私に優しく話しかけてきます。

 セレナ、私の名前?

 “私”は私の考えを読んでいるように回答してくれました。


「その通りだよ“セレナ”、セレナはあなたの名前。あなたの“魂の名前”」


 魂の…名前?


「そう、魂の名前。魂の名前ってのはその人の魂に刻まれている“真名”のことだよ。その真名を知っているかどうかで“力”の引き出し方が違ってくるんだ」


 力?

 何この子、中二病か何か?

 あ、私じゃん。


「…まだ知らないことが多すぎる。これからゆっくり憶えていこう、それしか今の君には道はないんだから」


 どうして?


「わからない?君は魂だけになって彷徨ってたんだよ。それを私が拾った」


 ……………


「今日はもうここまでにしよう。私も少し疲れた、君が目覚める番だよ。……いってらっしゃい」


 ちょっと待って!


「また明日、夢の中で会おう。ここで待っているから」



 私の体はゆっくりと上へと上がっていく。

 そして、私は目を覚ました。


==================================



 私は勢いよく起き上がった。

 その勢いで何かに頭をぶつけてしまう。


「痛い!」


 その痛みで一気に意識が覚醒、自分の状況を把握する。



「あれ?どこ、ここ?」


 周りは木がたくさん生えていて視界が悪い。

 森の中?

 どうしてこんなとこに……?

 私は低い場所にある木の枝に頭をぶつけたみたい。


『君が寝ている間に私がここまで来たんだよ』

「え?誰!?どこから聞こえるの!?」

『私は君だよ、何度言わせるんだか』

「…さっきの夢の“私”?」

『理解は早いんだね、それじゃあさっさと行こうか』



 えー、と。

 どこからか声が聞こえてきたと思ったらさっきの夢に出てきた“私”で。

 “私”がいたのは夢の中でこの現実じゃなくて……あれ?


『混乱するのも無理はないか。でも詳しいことは面と向かって話したいから……わかってくれる?』

「とりあえず……」

『ならいいよ。……っていけない!隠れて!』

「え?え?何で?」

『早く!急いで!』

「わ、わかった」


 いきなり“私”が焦りだし、私に隠れるように言います。

 私は説明が欲しいのに“私”は急かすばかりで答えてはくれない。

 仕方ないので私は近くにあった茂みに隠れました。


「どうして隠れるの……?」

『しっ!静かにしていて……あいつらが近づいて来ているから、ばれると色々大変なんだよ』

「……………」


 私が黙っていると少しして人が何人かやってきた。

 私が見えてくるのは足だけだけだから性別まではわからない。


「おい!ここで合っているのか!?」

「魔力の反応はここで途切れてます!ここまでは確かに反応があったのですが……」

「機械の故障か?取り逃がしたとなっちゃあまた隊長に怒られるぞ……」

「い、急いで故障の原因を調べます!」



 やってきた人たちは声を聞く限り三人で全員男、何かトラブルがあったみたい。

 機械……故障?

 反応が途切れた?

 私が悩んでいると“私”が説明をします。


『あいつらは私を追ってきたんだ。君じゃなくて私を』


 私は男たちに聞こえないぐらいの大きさの声で訊きます。


「でもあなたは私じゃないの……?」

『たとえ同じ体でも使っている魂が違うのなら魔力や気も違うってこと。魔力や気については夢の中で説明するから』

「うん……」


 夢の中で……?

 言葉にするのが難しいってこと?



「まだ原因はわからないのか!」

「い、いえ。どこにも異常がないんですよ。故障なんてしていません」

「ならどうしてあいつを追えないんだ!おかしいだろ!」

「僕にもわかりませんよ!機械そのものがおかしかったんじゃないですか!」


 男たちは喧嘩を始めた。

 私は茂みの中で息をひそめてその光景を眺める。


「なんだと!我らの国家が誇るあの開発部がそんなミスを犯すわけがないだろう!」

「ならどうしてここで反応が途切れているんですか!」

「知らん!……しょうがない、一旦引き換えし、私たちがお叱りを受けるのがベストな選択だ。帰還するぞ」

「うう……了解です」

「サー、イエッサー」


 三人の男たちは去っていきました。

 “私”はそれを確認してから私に話しかけてきた。



『ふう、いなくなったか。もう隠れてなくて大丈夫だよ』


 私は茂みから出る。


「それでさっきの人たちは何なの?」

『私を狙うストーカーたち。しつこくてしつこくて』

「…本当は?」

『いや、嘘じゃないよ?本当のことだよ?』


 嘘ではなくても何かおかしいし。


「いいから」

『…はいはい、セレナは結構強情なところがあるんだね。でも私を狙っているのは本当、捕まると色々とまずいからこうやって逃げているんだ』


 “私”はどうやら誰かに追われているようで。

 …ところでなんだけどさ。


「“私”じゃあその…私と混ざっちゃうから何か呼び方を教えて」

『呼び方…ねぇ……』


 “私”は少し考えているような感じで間を空けてからこう答えた。


『いろんな呼び方をされたな。でもこの世界では“(コク)”で通っているからそれで』

「わかったよ、“コク”」

『でもなぁ――』

「何か駄目だった?」


 コクが何かぼやいた。

 何か嫌そうだったけど、大丈夫かな?

 でも自分でそう言ったんだよね。


『いや、いいよ。それじゃああいつらが戻ってくる前にここを離れよう』

「うん、わかった」

『あと目の前にある木に向かってありがとうって言っておいて。よろしく』


 え?コクいきなり何を言ってるの?

 木に向かってありがとう?

 


「え?なんで?」

『いいから』

「わかったよ……ありがとう」

「いやいや、当然の事をしたまでだよ」

「そうね、子供を助けるのに理由なんてないもの」

「え!?」


 いきなり木から声が聞こえてきた。

 男性の声と女性の声。

 え?木が喋った?


 そう思ったら木の幹から男の人と女の人が出てきた。

 …出てきた!?


「え?…え!?」

「おやおや、私たちが見えるのか。…珍しい子だな」

「そうですね、私達が見える人に会うのは何年ぶりかしら……」


 目の前の二人がそんなことを言いながら目を細める。


『セレナ、ちょっと代わって』

「え?」

『いや、代わるね。終わったら起こすから』


 コクがいきなり話しかけてきた。

 代わる?

 何を言って――

 いきなり私の意識は遠くなり、意識を失った。



「…さて、私の口からも言っておくよ。ありがとう、木の精に蔦の精であってるかな?」

「……まさかあなた様は!?」


 いきなり雰囲気が変わった私に二人の目は丸くなった。

 そして私の正体に気が付いたようで畏まる。


「そんなに固くならないでいいから。リラックスリラックス」

「そう言われましてもあなたほどのお方が目の前にいらっしゃるのですから……」

「私と旦那共々、あなた様の無事を嬉しく思います」

「ありがとう、一度捕まっちゃったから心配されているのはわかっていたけど」


 この二人は何かと知っている様子。

 ここなら風の精も通るだろうし教えてもらったんでしょ。


「しかし何故まだこの世界に……?」

「探し物をちょっとね。“あれ”がないと別の世界に行こうにもいけなくて……」

「なるほど、あなた様が身に着けていらしたあの首飾りですか」


 本当に結構知っているねこの二人。

 見たところそこそこ位の精霊みたいだし風の精からも情報を引き出しやすいのかな?

 それとも精霊王とか?

 それならその属性の精霊と常につながっていられるし。


「そうだよ、知らない?」

「誠に申し訳ないですが……」

「残念、まあじっくりと探すことにしているから。今回はあいつらから私を隠してくれてありがとうね、それじゃ」


 私はお礼を言ってこの場を去ろうとする。


「お待ちください!」


 しかし木の精に引き止められる。


「何?」

「一つだけ、お聞かせください」

「…言ってみなさい」


 大体の予測はついているけど。


「何故人間の魂があなた様と共にあるのですか?更に言えばあなた様はその人間の魂があなた様のお力で壊れないように守っておられる様子」

「……気まぐれだよ、いつものことでしょ」


 私のこの答えに木の精は半ば呆れた様子になった。


「あなた様がつかまることでこの世界どころか他の世界まで影響が及ぶのをお忘れないように」

「わかってる。一度は慢心で捕まったけどもう油断しない」


 私は真っ直ぐ木の精を見つめる。

 傍から見ると大柄の男性を見つめる少女と言う和やかな感じがする。

 実際は大分違うけど。


「なら大丈夫ですね。私達もまだ消えてなくなりたくはないので」

「お前たちぐらいになれば他の世界に避難することも可能でしょ?」

「私達の依代はこの木と蔦ですから……これが無くならない限りはこの場所から離れられないんですよ」


 …精霊は自分と合う物を“依代”とすることが出来る。

 依代があれば精霊は死んでも時間を掛ければ再生することが出来る。

 依代は自分の力の一部、自分の魔力の大部分をその物に注ぐことで作る。

 だから依代を作ればその精霊は依代の近くでしか本当の力を発揮できない。


「じゃあ今から消そうか?」

「それは止めてください」

「冗談よ、洒落が分からないんだね」



 精霊は頭が固いのが多いから。

 冗談が通じないってあーやだやだ。


「さて、そろそろ私は行くから。首飾り見つかったら風の精を通して連絡をお願い」

「わかりました。くれぐれも油断なさらぬよう……」

「わかってる。じゃあね」


 私はそう言って森を出る。

 これからどうしようか?

 ……取りあえずセレナを起こして私は寝よ。


 それじゃチェンジ



「ん……コク、終わったの?」

『終わったよ。適当に行動しておいて、私は一回眠るから』

「え?ちょっと……」

『頑張って~』

「あ……」


 コク寝ちゃったよ。

 どうしよう……また適当に歩いてみようか。

 コクが起きるまで、ね?

 コク「私の呼称が出たね」

 作者「この回だけで一応コクの正体はわかるようになってます。隠す気はさらさらないです」

 コク「これは結構分かりやすいと思うよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ