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第四話 囲いからの脱走

「それじゃあこの蝋燭の火をよーく見て。じっと、ね」

「はい………」

「それじゃあ君の名前を教えてくれるかな?」

「……………」

「うーん、変わりなしか。どうすればいいのか………」

「…ねぇ、今は夜?」

「え?あ、ああそうだよ」


 私はこの医者に質問する。

 医者は驚きながらもそうだと回答した。

 今は夜のようだ、なら今がチャンスだろう。

 昨日町を見て回った時に何人か“あいつら”が混ざっているのが見えた。

 セレナが表に出ていたから違うと判断したようだが見た目は同じ、さっさと逃げるに限る。


「わかった、じゃあ取りあえずお前は死ね」

「は――」


 私の目の前にいた医者が崩れ落ちる。

 なるべく周りを汚さない殺し方をしたから少しは時間が稼げるはず。

 触れればすぐにばれてしまうけれど大きな力は使えないからしょうがない。

 蝋燭の炎はきちんと消しておいたから火事の心配もない。


 ……やばい、感づかれたかも。

 早く逃げよう。



「これはどうしたの……?」


 しまった、見られた。

 私は急いで声がした方を振り返る。


 そこには少年が立っていた。

 私は少年が見ている方を見る。

 そこにはお医者さんが倒れてた。


「え……?」


 私は一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 どうしてか人がそこで倒れてる。


 何が起こったの?

 私にはわからない、何がここで起こったのかが。

 私はもう一度お医者さんを見ます。

 動く気配はない。



「だ、大丈夫ですか?」


 私はゆっくりと近づいてお医者さんに声を掛ける。

 返事がないのでお医者さんの体を揺り動かしてみる。


 すると何の抵抗もなく、お医者さんの体がひっくり返る。

 そして私は絶叫する。



「いやぁぁぁぁあああ!!!」

「どうした!?」


 少年が傍に寄ってくる。

 私は指を指す。

 私が見た、私の悲鳴の原因を。

 そこには…多分ぐちゃぐちゃに潰れているお医者さんの心臓があった。


 ……あれ?何で今私心臓だってわかったの?

 ぐちゃぐちゃでパッと見じゃあ何かなんてわかるはずないのに。

 どうして?



「あ、あ……あぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どこ行くの!ちょっと待って!」


 私は逃げ出した。

 この場にいたくなかった。

 怖かった。

 あれをやったのは私じゃない。


 でも私が疑われる。

 最後に私を見た少年の目が、私を責めているように感じたの。

 それが、怖かった。


 家を出て、夜の道をひたすら駆ける。

 こんなことしたってこの町は囲われているから無意味なのにね。

 それでも止まって冷静になると気が狂ってしまいそうだったから、止まれなかった。


 暫く走り続けて私は狭い道に入り込む。

 ここなら人はめったに来ないはず。

 ……私は少しだけ見える大通りの方を覗きこむ。


 大通りは騒ぎになっていて私をみんなが探している。

 ふと、こんな話声が聞こえてきた。


「あの子が怪物だったんじゃないかい?あんなこと人間にはできやしないよ!」

「だとするとあのまま迎え入れていたら私たちは……早く見つけ出して始末しないと!」

「逃げ場所はないんだ、じっくりと炙り出してやろうじゃないか」


 ……やっぱり、私が疑われている。

 どうしてあのお医者さんはあんなことに?

 私じゃない、私の記憶には私がやったなんてない。

 だから私じゃない。


 …でもそれすら信じられなくなる。

 私しかいなかったんだもの、それしかないんだもの。

 私、化け物なのかなぁ。

 髪の色も目の色もみんなとは違う、化け物なのかな……


 私はこの路地で膝を抱えて座ります。

 もう、どうにでもなれ………

 ゆっくりと私の意識は夢へと落ちていった。


---------------------------------------------------------


 さて、動き出そう。

 まずはここから出て壁に向かわなければいけない。

 気付かれないように、そっと。

 …いや、そっとの必要はないか。


 私は路地から私の隣にある家の屋根に飛び乗るために膝を曲げる。

 しかし私は跳躍出来なかった。



「……何やってるの?」

「…イグナか」


 跳躍しようとした私の腕を誰かが掴んだ。

 イグナだ。


「うん、そう。初めて僕の名前呼んだね。それで、何やっているの?お母さんのところ戻ろうよ」

「私は疑われている、私は化け物だ、見つかったら殺される」

「…そんなことないよ、きっと話せばわかってくれるさ」


 簡潔にセレナが思っていたことを伝える。

 これで放してくれればいいが……

 イグナは私の手を更に強く握る。

 …放してくれそうにはない。


「しょうがない、さっさと済ませよう」

「……君は、あの子だよね?」

「そうだと言えばそうだけど、違うと言えば違う」


 この子なら隠す必要もない。

 子供の戯言と取られて終わりだろうからね。

 まあ納得してくれるかどうかは知らないけれど。


「…どういうこと?」

「簡単に言うなら“化け物”とでも言っておくよ。多分イグナがこの言葉で連想した奴は私だよ」


 簡単な自己紹介を済ませる。


「あの子はどうしたの?」

「寝てるよ、心配はいらない。ただし私はこの場所から逃げなきゃいけないから、君の誘いを受けるわけにはいかない」

「え……?」

「いいからもう放して」


 私はイグナの手を振り払う。

 簡単に振り払えたがそれでもイグナは私の目の前からいなくなろうとしない。


「どうしても行くの?」

「…どうしてもだよ、じゃなきゃ私が殺されるかもしれないから」

「…外の世界に?」


 諦めの悪い子供だ。


「他にどこに行くというの」

「……どうしても?」

「しつこい。私にこれ以上関わるな」


 私はイグナを軽く突き飛ばす。

 それでイグナは数メートル後ろに飛び、尻餅をついた。


「痛い……」

「今のは手加減、次は本気でやるよ」

「ならもう引き止めないよ。……僕も一緒に連れて行ってくれない?」

「はぁ?」


 いきなり何を言い出すの?

 突飛すぎてちょっと反応に困る。


「……無理。私だけが逃げるだけでも精一杯なのに子供一人連れていける余裕なんてない」

「…そう」


 私が突き放すような言い方をするとイグナは諦めたようだ。

 突飛なことを言い出したと思ったら簡単に諦めた。

 何がしたいのこの子。

 適当な嘘で騙される馬鹿とはわかったけれど。


「…外の世界に興味があるならこれを持っているといい」


 そう言って私はスカートのポケットから石を一つ取り出す。

 見ていると吸い込まれそうなほど純粋に黒い石。

 それをイグナに渡す。

 やれやれ、私も本当に感化されたね。


「いつか役に立つときが来るから、それじゃ」

「ちょっと待って!待ってよ!」



 私はイグナの静止を受け入れずに今度こそ屋根へと飛び乗る。

 下ではさっきのイグナの声を聞いた人が集まってきている。

 ここに人が来ているなら他は少し薄くなっているという事だね、早めに脱出しよう。


 私は屋根を伝って壁の方に行き、畑を気付かれないように通り、壁のところまで来た。

 私はまた膝を曲げ、壁を飛び越える。

 最後に後ろを見たけどイグナが一瞬見えた気がした。

 …たぶん気のせいでしょ。

 化け物「むしゃくしゃしてやった、公開はしたけど後悔はしていない」

 セレナ「せめてもうちょっと綺麗にやってよ……」

 化け物「いや、冗談だよ?ちゃんと理由はあるよ?」


 因みに物語中での化け物の呼び名は次話明らかになります。

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