第二話 少年の家庭
「ここが僕の家だよ」
「……………」
結局連れて来られた。
この子の家はそこまで遠いところではなくてあっさりと着いた。
「おーい!外から来た女の子を連れてきたよー!」
「はーい!入っておいで」
大声で何かを叫んだと思ったらこの家の中から大声が帰ってきた。
その言葉を確認したと思ったらこの子は私の方を向いてこう言った。
「ほら、母さんの許可ももらったし遠慮する必要なんてないって」
「そうは言っても……って、あ」
また私は手を引かれて家の中に引きずり込まれる。
この子なんか積極的だね。
無駄に。
「あらあら、随分と変わったお客様で」
玄関らしき場所にいるとこの子のお母さんだと思う人が奥から来た。
分類分けすれば美人に入ると思う。
他の人をあまり見ていないからわからないけれど。
「確かにこの町では見ない目の色と髪の色だよね」
この子も同意してくる。
髪の色?
この子とこの子のお母さんは黒色。
私は…銀色だね。
目の色はこの子たちは黒色。
私のは…自分じゃ確認はできないよね。
「先天性なのかね?左右の目で色が違うというのは」
「え、と」
「この子は最近までの記憶がないんだってさ。だからその辺のことはわからないそうだよ」
私が説明しようかどうか一瞬迷ったけどこの子が言ってしまう。
記憶喪失ってそんなに人に知られて安心できるものじゃないんだけどな…
「記憶喪失ねぇ、きっと辛いことがあってそれで記憶を封じちゃったのね。時間が経てばきっと思い出せるよ」
…辛いことがあって記憶を封じたのなら思い出したくはないけれど。
「まあ今はこの家を自分の家だと思ってゆっくりしていってくださいな。泊まるところがないのなら好きなだけ泊まっていって」
「いや、そこまでは……」
「まさかまた外に出ていくつもりなの?外は危険よ?だから私たちはあの壁で外と隔離して安全を保っているの」
外は危険なんだ……でも荒野があっただけだったし。
私が通ってきたところは安全だったのかな?
それとも運がよかっただけ?
「そうだ!この子にそこまで広くもないけれど家の中を案内してあげなさい」
そう言ってこの子のお母さんはこの場から離れていった。
向こうの部屋に入っていく直前でこっちをちらっと見た気がする。
「ほらこっちだよ、靴を脱いでって……裸足だったんだ」
今まで気づいてなかったんだ。
私はあの荒野で気が付いた時から裸足だったのに。
裸足のほうが走りやすかったりするんだけどね。
「じゃ、じゃあこれで足を拭いて上がって」
「わかった」
渡されたタオルで足を拭いて家に上がる。
そしたらまた手を引っ張られて家の中を案内してくれた。
一階は食事をする部屋と台所、あとはリビングがあるみたい。
あとこの子の父親と母親の部屋があるみたい。
二階はこの子の部屋と物置、後はよくわからない部屋があった。
…何に使っているのかはこの子が知らないだけみたい。
「食事の時間よ!下に下りてきて!」
「はーい!ごはんの時間だよ、一緒に下まで行こう」
「う、うん」
どうして私もここで食べることになっているの?
確かに食べるものもあてもないけれど。
……せっかくだから貰っておこうかな。
私もこの子と一緒に下に下りる。
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「あなたも一緒にどうぞ、机の上に置いてあるから一緒に食べましょ?」
「は、はい」
「記憶もなくてよくわからない人に優しくされて警戒するのはわかるわ。でもね、私たちは知らないしちょっと怪しいと言っても子供に害を加えるなんて真似はしないわ」
信用はしてもいいの……かな?
でも知らない人だし、御飯をご馳走になるのはちょっと気が引けるな……
お腹は減っているけど…
<ぎゅるるるるるる>
私のおなかが鳴った。
「我慢なんてしなくていーの?子供は遠慮なんかしないこと」
「は、はい」
お腹が鳴ってしまった、恥ずかしい。
うう、お腹減ったよう。
……食べよっか。
私は席に座ってご飯を食べ始める。
それを見てこの子のお母さんは微笑んだ。
そしてご飯を食べ始めた。
あの子も私が食べ始めるまで待っていてくれたようで私が食べ始めるのと同時に食べ始めた。
「みんなで一緒に食べる御飯が一番おいしいのよ」
「お父さんも一緒に食べられたらいいのに……」
「お父さんはお仕事が忙しいから。日夜皆のために頑張っているの」
「はーい……」
この子のお父さんは仕事で今はいないみたい。
忙しいのかな?
反応を見る限りあんまり会えてないようだね。
「ねぇ、美味しい?」
「あ、はい。とても美味しいです」
「そう、よかった。ちょっと浮かない顔だったから微妙だったのかなーって」
私の顔が暗かったから心配してくれたみたい。
優しい人、だね。
そのまま食事が終わり、少年が食器を片づけに行った。
この場にはあの子のお母さんと私が残った。
……気まずいです。
「…ねぇ」
「は、はい!」
不意に話かけられた。
あまりにも急だっからびっくりして返事が……
「あの子が急に連れてきたみたいだけど……迷惑だったかしら?」
「い、いえ。その、美味しい御飯も頂いたりしてとても優しくしていただきましたし、その……」
「そんなに緊張しなくても。何はともあれ今日は泊まっていきなさい」
「え?え?」
「そうね……イグナの部屋に泊めてもらって」
「え!?」
イグナっていうのはあの子の事かと。
それであの子と同じ部屋で寝ろと言われて……うん。
「ねぇイグナ、いいでしょー?」
「えー?」
「いいじゃんいいじゃん、こんなかわいい子が隣で寝てくれるんだよ?断る必要なんてないって」
「ちょ、お母さん!」
完全に置いてけぼり。
そして確定事項になっていることに驚きです。
一言も泊まるなんて言ってないのに。
この子といいこの母親と言い……
諦めが肝心か。
溜め息を一つ。
「それじゃ、もう寝なさい。今日はもう遅いんだから」
「は~い」
「……………」
この後私はこの子と一緒にこの子の部屋に行き、布団をしいて寝た。
布団が一組しかなかったので同じ布団で。
体が小さいのですんなりと寝られた。
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ふう、中々苦しいもんだね、こりゃ。
思い付きだったけれど何とかなっているし、まあ結果オーライってところか。
あの母親はなんか気が付いたみたいだけど詳しくはわかってないみたいだし今は様子見だね。
少し運動したいけれどそれはここじゃあちときついか。
体が鈍らないことを祈るしかないか。
今日はもうこの辺にしておこう、明日の朝不審がられても困るし。
それじゃ、お休みー。