第一話 男の子と女の子
ここはどこなのだろう?
気が付いた時、私は広い荒地に立っていた。
一人で、広い、荒地の、真ん中に、立っていた。
どうしてここに立っているのかはわからない。
あれ?そもそも私は誰だっけ?
それすらも思い出せない。
……本当に何にも思い出せない。
この場所についても、私の名前さえも。
ここにいてもしょうがないか、取りあえず動き出そう。
行く当てもないけれど、ここでじっとしているよりかはましなはず。
「あっちに行ってみよう」
何となくこっちだと思った方向に歩き出すことにする。
何も考えださずに歩き出す。
目的なんてないの。
もしあっても思い出せないんだから一緒。
~~約一時間後~~
……壁があった。
壁は何かを囲うようにして立っている。
中に入る用の入り口みたいなところもあるから誰かいるのかな?
そこが入り口だと思う理由はは扉がついているから。
壁は何で作ってあるんだろ、触ってみても私にはわからない。
扉はたぶん木製だと思う。
取りあえず扉の前に立ってみる。
そして壁の上の方を見上げてみる。
少しの間そうやっていると上の方から声が降ってくる。
「そこにいるのは誰だ!?」
「私?私は―――」
「子供!?ちょっと待っていろ!すぐに扉を開ける!」
その声が聞こえたすぐ後に扉が開く。
その扉の向こうには大人が何人か立っていてこっちに声をかけてくる。
「こっちだ!早く入ってなさい!」
その言葉の通りに私は扉をくぐって中に入る。
正確には手を掴まれて中に引きずり込まれる。
私がくぐったらすぐに後ろの扉が閉じた。
私が入り終えると周りの大人たちが私の体を見まわしてくる。
怪我がないか調べているのかな?
「怪我はないようだな、よかった。君はどこから来たんだい?子供だけで外にいたなんて考えづらいが……君は?」
「私?何も思い出せないの」
「記憶がないのか?よっぽどひどい目にあったんだろうな、可哀想に」
可哀想?
そう、この人は私を可哀想と言った。
記憶がないのは……可哀想?
よくわからない。
「まあ無理に思い出す必要もない、ここは安全だからな。ゆっくり休むといい」
ここは安全……外は危険ということ?
何もなかったけど、どういうこと?
「しかし子供が外に出て生きていたということはもう大丈夫なんじゃないか?最近は音も聞こえなくなったし」
「馬鹿!そうやって俺らが外に出るのを奴らは待っているんだ!」
奴ら?
大人の言うことは詳しくはわからない。
大人の人達はいつの間にか何人かで固まって怒鳴り合っている。
そして私が何にもわからなそうな顔で立ったままになっていると後ろから声をかけられた。
「大人たちはもう君なんか見てないよ。ねぇちょっと一緒に来てくれない?」
そういってその言葉の主、少年は私の腕を引っ張ってどこかに連れていく。
来てくれない?って依頼系なのに返事をしないうちに連れていくんだね、別に良いけど。
そうやって少し行ったところで少年は周りの目を気にしつつ狭い路地に入って行った。
当然私もそれに連れられて路地へと入っていく。
「それじゃあ君を連れてきた意味を話すけど……君こんだけ走ってきたのに疲れてないんだね、女の子なのにすごいなぁ」
少年は息を少し切らしなだらそう言った。
そんなに走ったかな?
大体百メートルぐらいしか走っていないのに……
速さもそこまで速くなかったし…この子が体力がないだけかな?
「君にお願いがあるんだ、君って外から来たんでしょ?」
「そうみたいだね」
「じゃあさ、外の世界がどんなものか教えてくれよ!俺一回も外の世界を見たことがないんだ。父さんや母さんは知っているみたいだけれど……なあ、教えてくれよ!」
…この子はこの壁に囲われた場所から出たことがなくて、それで外の世界が気になっていると?
うーん、どうしよう。
外の世界とはいってもあの草原にいたときの前の記憶はないから見たといっても一時間ぐらいだし。
私この子に教えてあげられるくらい外の世界を知らない。
「…残念ながら私最近の記憶がなくて、それで外の世界と言っても何にも憶えてないの。だから教えられることなんてないんだ」
これで何とか…
引いてくれなかったらどうしよう。
「そっかー残念。外の世界のことを知れるチャンスだと思ったんだけどな」
「あなたの父親たちに訊いてみたら?何か教えてくれるかも」
「それはもうしたけど……教えてくれないんだ、ほかの大人たちもみんな打ち合わせしたかのようにみんな口を閉ざすんだ」
そうだよね、そんなので知れたらわざわざ聞いてこないよね。
でも教えられることもないし。
うーん。
「ところで君は今日はこれからどうするの?」
「予定?ないけど?」
「だったら俺の家に来ない?きっと父さんたちも歓迎してくれるさ!」
この人は何を言っているんだろう。
出会ってまだ十分も経たないのに人を家に誘うとは。
……ただ単に何にも考えてないだけみたい。
「ほら!早く!」
「え、ちょ、ま――」
また手を引かれて連れていかれる。
この子…さっきよりも走るのが速い……