第十七話 誘拐
「またコクが最近いないんですよ」
今私は四人で朝ごはんを食べている。
私、シアンさん、オースティンさん、ついでにイグナの四人だ。
食事をしながら私は最近の出来事や思ったことなんかを報告している。
「また、ねぇ。コクの事だから色々対策しているんだと思うんだけど」
「コクが言っている“あいつら”に対してか?それとシアン、おかわり」
「はいはい。たぶんそうだと思うわ、他に思い当たるものはないし……オースティン、イグナちゃんの稽古はどんな感じ?」
「おお、少年は結構筋がいいぞ。魔術も特に問題なく使えている。が、実戦にはちょっと足りないぐらいだな」
「十分じゃない!すごいのねイグナちゃんは」
「ちゃん付けは止めて下さいよ。それよりもオースティンさん、今日も稽古お願いしますね」
「わかってるよ、食事が終わったら始めるぞ」
「ああ、それと今日は私一日中町でやることあるから。セレナちゃん留守番よろしくね」
シアンさんは今日は町の方で占い師としてやることがあるみたい。
オースティンさんとおまけは今日も湖の方で稽古だか何かをするみたい。
だから私しか家にいない、コクも最近はまた姿を見せないし完全に私一人。
でもこの家に訪ねてくる人なんていないし、私一人でも大丈夫。
私簡単なものなら料理も出来るし。
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三人が出かけてから大体一時間ぐらい経った時、家のいんたーほんがなった。
珍しい、誰だろう?
「誰ですかー?シアンさんは留守ですけど……」
私は玄関のドアの前に経ってそうドアの前の人に告げる。
すぐに返事が返ってくる。
「ええ!?困ったなぁ……他の大人の人はいませんか?」
「オースティンさんなら一時間ぐらい前に湖の方に出かけていませんが」
「そんなぁ……取りあえずドアを開けて貰えますか?届け物があるんですがいかんせん重くて。置いていきますので帰って来た時に渡してください」
届け物?
私はその時は対して何も考えずにドアの鍵を開けた。
それと同時に男の人が家の中に沢山入ってきて、私の意識がなくなった。
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そんな……予想よりも早過ぎる!
まだ準備が終わっていないというのに………しょうがない、とりあえずオースティンだけでも呼び戻さないと。
「オースティン!急いで家に戻れ!イグナも一緒に来い!」
「セレ……コクか。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「いいから早くしろ!セレナが攫われた!」
「!?、わかった、今すぐ戻ろう。行くぞ少年」
湖の傍で剣の練習をしていた二人を連れて私は再び家に戻る。
くそ、もっと準備をしてからにすればよかった!
急いだためすぐに家にはついた。
家の玄関のドアは開いたままで、玄関は荒らされている。
おそらく客人とセレナに思わせてドアを開けさせたところを攫ったんだろう。
この状況を見てオースティンとイグナは固まっている。
「これは……!コク、どういうことだ」
「“あいつら”にセレナが攫われた、私と間違えたんだろう」
「――!くそっ!」
オースティンは家の壁を蹴飛ばした。
イラつくのはもっともだ、オースティンはこれでも正義感が強い男だからね。
「コク!セレナちゃんがどこに連れ去られたのかわからないのか!?」
「それはわかる。だが今の私達じゃ返り討ちにされるのが落ちだよ」
「―――!畜生が!」
この場にいる奴らは剣術がそこそこ使える男の大人一人とひよっこの子供一人、更に力が使えない精霊が一体だけ。
あいつらに勝てる要素が一つもない。
「コク!お前何とか出来ないのか!?すごい力持ってんだろ!?」
「そう怒鳴るなオースティン。私は“首飾り”がないと戦いで使えるようなものは何一つ使えないと言っているだろうが!」
オースティンの顔が真っ赤になっている。
ここでシアンがやってきた。
「オースティンどうしたの!?町にまで声が聞こえたわよ!」
どうやらオースティンの怒鳴り声が町の方にまで届いていたらしい。
シアンはそれを聞いて急いで帰ってきたんだと。
私が大体の内容をシアンに伝える。
シアンの顔がどんどん青くなっていくのが分かる。
「そんな……」
だがすぐにシアンの顔が引き締まる。
こういう時一番気持ちの転換が早いのがシアンだ。
「それで、コク。私達はどうすればいいの?」
「そうだね……セレナを助け出すのは正直今の私たちじゃ不可能だよ。……そして重要なことが一つある」
三人とも私に注目する。
きっとその眼には珍しく真面目な顔をした私がいるだろう。
「おそらく、いや必ず。このままじゃ“災厄”が再び起こる」
シアンとオースティンの顔が強張り、そして血の気がどんどん引いていく。
イグナは年齢的に知らないだろうから特に反応は見られない。
だが次に口を開いたのはイグナだ。
「災厄って……あの年寄たちが言っていた災厄の事?」
「…その通りだ、その災厄で間違いない。この世のすべてを飲み込みかけたあの災厄だよ」
シアンたちに事の重要さをわからせるため何回も言う。
これで切り出しやすくなった。
顔色がすっかり悪くなったシアンがもう一度私に問いかける。
「私達はどうすればいいの?どうすればその災厄を止められるの?」
声はかなり切実だ。
怯えがかなり含まれている。
「止めるにはセレナを“あいつら”から奪い返さないといけない。あいつらの手の中にセレナがいる限り、災厄は防げない」
シアンが今にも倒れそうなくらい顔色が悪くなった。
オースティンもようやく落ち着きを取り戻したみたいだ。
「……俺たちに出来ることは何もないのか?」
「そんなことはない。“もしも”“私が”“首飾りを”“持っていたのなら”」
強調するように区切りながら言葉を発する。
「全てを解決させられる。首飾りさえあればね」
さあこれで残された選択肢はなくなったぞ?
ねぇ、オースティン?
オースティンは少し悩んだ表情になったがすぐに決心がついたようだ。
「…ちょっと待っていてくれ」
オースティンは家の中に入っていった。
やはりか。
シアンは信じられないようなものを見る眼で私を見てくる。
「コク、いつから気が付いていたの?」
「さあね、そこまで教える義理はないよ。重要なのは私の首飾りをシアンたちが持っていながら私に渡さなかったことだよ」
私は知っていたんだよ。
一階、オースティンの部屋の机の引き出しの奥。
そこに首飾りが隠されているはず。
あの首飾りはそこにあるだけで膨大な量の魔力をばらまいているからすぐにわかったよ。
もっとも、あまりにもその量が多いから普通の人間には逆に気付けないんだけどね。
そんなこんなでオースティンが首飾りを持ってきた。
「……これだ」
「さて、それじゃあ一応確認しておくよ。私たちの“契約”の内容について」
「コク、それは今じゃないといけないの?」
シアンが軽く怒りの感情を含めて訊ねてくる。
「今じゃないと駄目だよ、契約は果たされた瞬間に効果を終えてしまうんだからね。…それで、願い事は決まった?」
シアンとオースティンの顔が強張る。
「…少し相談させて頂戴」
「早くしてね。災厄が始まるまで大体後二、三時間ぐらいだと思うから」
私が急かす。
え?どうして私がそんなことわかるのかって?
当然適当言ってるだけだよ。
おや?意外にも早く二人の決断はついた様子。
「私達の願い事は決まったわ、変更はなしよ」
「そう、なら言って。それで契約は完了する。……念の為に確認するけど前まで言っていた奴はいいの?」
「それも含めて変更はなしってことよ。もう訊かないで、決心が揺らぐから」
揺らがせるために聞いてんだよ。
このぐらいで迷うくらいなら後で絶対後悔するから。
私ぐらいの力をもってしても時間の流れだけはどうにもならないからね。
でも即答出来るなら大丈夫でしょ。
「それなら、早く言って。前に何回か教えたでしょ?」
二人は顔を見合わせた後全く同じタイミング、全く同じ音程、全く同じスピードで契約完了の為の言葉を発した。
ここまで一緒だと逆に気持ち悪いぐらいにぴったりだった。
「「我らは契約の元、この【首飾り】を汝、【コク】に返上する。代償に我らの願いを叶えたまえ」」
「契約の元、我は【首飾り】を見つけた汝らへの報酬として汝らの願いを叶えよう。申せ」
二人が黙る。
ここで迷ってしまったか。
人間の意志なんてこんなものか、自分が良ければ他はどうでもいいって生き物だもんね。
期待した私が馬鹿だったか。
と言うか早く願い言ってくれないと私何も出来ないんだけど。
今何か別の事喋ったりすると契約破棄されちゃうしさ。
そんなこんなで一分ぐらい沈黙がこの場を支配してたよ。
二人は何回か顔を見合わせた後にようやく口を再び開いた。
初めからそうしてよ、時間がおしてるんだからさ。
私でも時間の流れはどうしようもないってさっき言ったじゃん!
この三人には聞こえてないけどね。
あれ?意味ないじゃん。
それよりも二人の願いのほうが大切だよ。
「「災厄を未然に食い止め、この世界を救え!」」
「……………」
思わずにやりとしてしまう。
うん、今とっても嬉しいよ。
思わず笑ってしまうくらいにね。
「「………?」」
おっと今度は私が黙り込んだから二人が不思議そうな眼になっちゃった。
今度は私が答える番だからね。
「我願いを聞き届けたり。契約の元、我首飾りの代わりとして災厄を未然に食い止め、この世界を救おう」
これで契約は完了した。
私はオースティンが持ってきた首飾りを手にし、私の首に掛ける。
すると私の体は重くなり、魔力の量が著しく低下した。
少しの間完全な状態だったからこの状態だとやっぱり動きづらいなぁ。
でもこれならセレナを救いに行ける。
「それじゃ、行ってくるよ。さすがに時間もそこまで残されてないはずだし」
適当に二時間程度とは言ったけれど実際はどれだけ時間の猶予があるかわからない。
急ぐ必要があるね。
さらに実はこれで願いにされなくても私にはセレナを助ける必要があるわけなんだけど……
これは言ってももう終わりだけどね。
さて、それじゃあ急いで出発するとしようか。
「……ねぇ、私急がないといけないんだけど。さっきの話聞いてたよね?」
イグナが私の腕を掴んで引き止める。
本当に急がないと危ないんだけど。
流石に私のイラッときたよ。
イグナの顔はどこかで見たような表情になっている。
さて、どこだったけな?
「ほら早く放してよ。セレナやみんなが死んでもいいわけ?」
「…連れてって」
「は?」
「俺も連れてってくれ!」




