第十二話 昔語り3
今回はコクの昔語りです。
「…どうやらシアンから私の事は聞けたみたいだね、セレナ」
ここは、夢の中だね。
私はまた夢の中、あの白い空間にいた。
目の前にはいつもと変わらずコクが立っていた。
「…うん、コクは大分変わったんだね」
あれ?声が出た。
いつもはここじゃ声が出せないのに……
ちょっと不思議だったけれどコクの話が始まるとすぐにその不思議もどこかに飛んでった。
「私は変わった、そう言われるとそうかもね。私は“代わった”んだから」
「え?………」
「セレナなら、いいかもね。魂の輝きも、今までの行いも、今まで私が見てきた者たちとは違うから。私の過去を話してあげるよ」
そこから始まったコクの話は、私の想像なんてはるかに超えた場所にあった。
「まずは私の正体を話そうか、別に隠してはいないんだけどね」
そう言ってコクは一拍おく。
その一拍で空気が一気に変化する。
「“コク”はあくまでも私の呼称、私の名前は“闇の始祖精霊”。全ての“闇”を生んだものであり、全ての“闇の精霊”の親、そして“最初の世界”を作りだした六柱の一角」
「え?」
「…まずは創世から順を追って話そうか」
さっきまでの張った空気がちょっと緩まる。
コク自体はさっきと何も変わったところはないんだけれど……
「…最初に生まれたのは“始祖”と仰られていたお方でね、その始祖様は何でも出来たの、だから何にも出来なかった」
何でも出来たのに、何にも出来なかった?
コクが何を言っているのかちょっとわからない。
「そこで始祖様は私達“姉弟”を作りだした、世界を作るためにね」
姉弟……さっき言っていた六柱って奴かな?
「私達姉弟は力を合わせて世界を作りだした、その中での私の役目は不浄を消し去ること。簡単にいうと駄目なところを消すことだね」
他の役目も知りたいけれど今のコクには言っても届かないかな。
今のコクの目はここよりもどこか遠いところを見ているから。
「そうやって世界は完璧になった、その世界こそ全ての世界の中で最初に生まれた世界。今は神と名乗る者たちが住んでいた世界だよ」
…あー、何かとてもスケールの大きい話になってない?
神様とか世界の始まりとか。
私には理解しきれないんだけれど…
でもコクは喋るのをやめない。
「その世界が生まれた後に私達姉弟の中でちょっとした争いがあってね、二つの派閥に分かれて喧嘩を始めたんだよ。それで始祖様は悲しみのあまりお隠れになり、私たちは散り散りになったの。世界は私達が放っておいても勝手に増えて、成長するようにまで育ったからね」
姉弟喧嘩、喧嘩するほど仲がいいっていうけれどコクたちの喧嘩じゃ大変なことになりそう。
でも世界が勝手に増えるまでに成長って気になるね。
コクはそこまで詳しい話はしてくれないんだろうけれどね。
「それで時間が経って今の世界群が出来上がったと、最初の世界の住人は始祖様に近づこうと完璧な存在になろうとしてたりするみたいだね。管理者は始祖様の真似だし」
はぁ、なんか盛り上げた割には最後は簡単だね。
コクが面倒臭くなったのかな?
…そうでもないみたい、またコクの放っている空気が変わった。
「…さっき私が言ったことを憶えてる?“私の役目は不浄を消し去ること”ってさ。消し去ると聞けばなんてことないけれど実際のところは吸収に近いんだよ、闇に飲まれて消えることは闇と同じになることと同じなのさ。全ての不浄は私の中にあるんだ」
…それじゃあ
「コクはその世界の駄目な部分、汚い部分を全て受け持ってきたってことなの……?」
「…そう、そして私は人間と言う生物に絶望したんだよ。人間と言う生物の醜さにね」
「だからシアンさんたちに手助けを求めるときもあんなに嫌そうに?」
「あのころの私にとって人間はもっとも忌むべき存在だった。汚い部分だけを私は見てきたからね」
コクがとても悲しい顔をしている。
後悔とも怒りとも取れる顔を。
でもコクは、コクのままだったんだね。
コクがいつもの感じに戻る。
「ま、私の話はこんなところ。私の本当の名前ややってきたことはシアンたちも知らないんだよ、これが初めて」
「どうしてそんなことを私に?」
コクが一気ににこやかな顔になる。
そしていつも通りとでも言った感じに簡潔にこう答える。
「気まぐれだよ、決まってるじゃん。私は人間じゃないんだからさ」
「ふふ、コクらしい」
いつも通りのコクだ、安心した。
私は思わず笑ってしまう。
あ、そうだ。
あの事も聞いておこうかな。
「そういえばコク、どうして分離なんてことしてたの?」
「ん?あれの事?万が一私が捕まった時にセレナを逃がせるようにだよ、セレナをあそこまで巻き込むわけにはいかない、セレナを私の体に取り込んだのはあくまでも奴らの目を誤魔化すためだからね」
捕まってしまったら私はもう必要ない、と。
コクはどうしてあんなに凄い力があるのに戦わないんだろ?
戦いたくない理由でもあるのかな?
「今日はこれで終わりにしておこうか。セレナは未来視の練習をもっとしておくこと、使い慣れれば自分が望んだ時間を見ることも出来るすごい魔術なんだからね」
「そんなにすごい物なんだ……頑張るよ」
未来視ってそんなにすごいものだったんだ。
でも長い間使えないんだよね。
シアンさん曰く、水晶玉とか振り子とかばいかいっていうものを使えば楽になるらしいけれど。
私のこの眼はある意味ばいかいを使っているようなものだとも言ってたけど。
「そろそろ時間だね、また明日ね」
「うん、また明日」
私の体がどんどん空へと上がっていき、いつものように消えてなくなった。
「そろそろ仕上げの時期かな。オースティンも明日には戻ってくる、そろそろ首飾りも私の手に戻ってくるでしょ。でも、そのためには――――」
そう、未来視は確実な未来を見せてくれる。
未来視で見えたとおりに動けばそれは絶対なんだ。
…昔の私ならこんなことで迷わなかったのにね。
どうしても別の方法がないかと思ってしまう。
私は神なんかよりも力を持っている。
だからこそ力を使えない。
強すぎる力は自分と周りを巻き込んで滅びをもたらすだけ、私なら尚更。
始祖様はそれを知っていた、だからお隠れになったんだ。
もう私は感情に身を任せて暴れたりしない、ただでさえ私は手加減が苦手なんだから。
だから…首飾りを早く私の手に……
選択肢は残されていないのかもね。
力があっても、抗えないことはあるんだよ。
でも私はもう、失いたくない。
コウ、君なら一体どんな決断をするんだろうね。




