第九話 現夢眼
すみませんでした、まさか一話飛ばして投稿していたなんて思いもよらないミスをしてしまっていました。
まことにもうしわけございません、物語の進行には特に差しさわりはないのですがこのような手違いがあったことは深く反省しております。
「そう、そうやって目に魔力を集めてみて……その調子よ」
「うくく…うぐぅ……」
「いい感じいい感じ」
私は今シアンさんの教えの下、“未来視”という魔術の取得のために練習してるんだけど……。
「うきゃあ!」
「ああ!だから力は入れすぎちゃ駄目だって!」
中々うまくいかない。
全くの進展なし、現在停滞中。
頑張っているのになぁ……
コクが何かアドバイスでもくれればいいんだけれどあれっきり出てこないし。
結局シアンさんと二人で色々試しながらやっているんだけど。
「だからうくくじゃなくてうぱー!って感じだって!ほらうぱー!って」
この説明だからさっぱりわからない。
うぱー!って何さ!うぱー!って。
「そんな感覚的じゃなくてもっと理屈で教えてくださいよ!」
「だからうぱー!だって!どうしてわからないの!」
「うぱー!って何!?」
「うぱー!はうぱー!ですよ!」
傍から見たら何をやっているのかわからないやり取りを繰り広げる私達。
延々と同じことを繰り返し言い続けるそんなやり取り。
本当に私は“未来視”を習得できるのかなぁ……
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「はぁはぁはぁ……」
「ぜぇぜぇぜぇ……」
かれこれあの時から三時間が経過、結局三時間同じことをやっていたという……
「そ、それじゃあ続きやっていくわよ……」
「は、はいぃぃぃ………」
なんかもう疲れた。
今日はもう終わりでもいいんじゃないかなって思えてきちゃった。
「未来視や真理眼などの眼を使う魔術は集中が大切だから…ぜぇ……だからこきゅ、呼吸を整えてから…げほっげほっ!」
「は、はい……こほっこほっ」
多少咳き込みながらも私は集中し始める。
意識を目に集中、目の前にいるシアンさんよりも、その奥にある壁よりも向こうを見つめる。
そしてうっすらと今見ている景色とは別のものが見え始める、今度はそれに意識を集中させてはっきりと見ようとする。
そして見えたものは……
「きゃあ!」
「シアンちゃん、大丈夫?何か見えた?」
集中が途切れたせいなのか私は尻餅をついてしまった。
シアンさんが心配して、私に近づいて声を掛けてくれた。
何か見えたかって?
確かあれは……
「わ、私が階段から転げ落ちている光景が見えました……」
うん、確かそんな感じだった。
って、え?階段から転げ落ちる?
この答えにはシアンさんも驚いたようで……
「階段から……だとすると二階には上がらないほうが良さそうね。…疲れているでしょ、とりあえず今は休みなさい」
「はい、それじゃあお休みなさい……」
「寝るの!?」
だって眠いんだもの。
集中しすぎて疲れたし。
いや、その前のうぱー!のほうが疲れた気がする……
まあいい、今は寝よう。
私は床に横になり、そのまま眠り始める。
するとすぐに私の意識は無くなった。
「こうして寝顔を見るとコクちゃんとは思えないわね」
「……悪かったね、寝顔以外はかわいくなくて」
シアンがぎょっとしているのを見ながら私は起き上がる。
まったくセレナめ、まさか床で寝るなんて……
この体でも無理をすれば壊れるんだぞ、全く。
「……全部見てたの?ならセレナちゃんにアドバイスぐらいしてあげれば……」
「アドバイスが出来るのはある程度の実力差じゃないと駄目なんだよ、私じゃあ実力差がありすぎるから」
余りにも私とセレナじゃあ実力差がありすぎるからね。
人間の魂であるセレナと私じゃ自力の差がねぇ……
まあセレナも人間にしては魔術の素質がある方みたいだけれどさ。
魂の時点で魔術の素質があるかどうかある程度決まって、それからその素質を引き出せるかで魔術師の位が決まる。
勿論精霊とかだと完璧に自分の素質を引き出しているから成長とかは滅多に成長しないんだよね。
だから成長がある分人間のほうが見てて面白いんだよ。
あれ?何の話だったっけ?
「まあうまく行ったみたいで何よりだよ。私の目を使っているんだから当然と言っちゃあ当然なんだけど」
「その眼、何て言ったけ……」
「“現夢眼”の事?」
「そうそう、それでどんなことが出来るんだっけ?」
はぁ、まったく人の目の事を面白がって……
ああ、現夢眼ってのは私の赤い方の眼、右目の事だね。
私がそう呼んでいるだけなんだけど。
「前に詳しくこの眼の事は話したでしょ、それでこの眼を利用しているのに“眼”の魔術が使えないほうがおかしんだよ」
「えー、忘れたのでもう一回説明してもらってもいいですか?」
「また!?もう六回目だよ!?」
シアンは忘れっぽすぎでしょ!
六回目だよ!六回目!
いい加減憶えてほしいもんだよ。
私を誰だと思っているんだろうね!
「じゃあ今回で最後だから、よく聞いておいてね」
「そう言って何度も説明してくれたじゃない」
「やっぱり憶えてるじゃんか!」
「あら、ばれちゃった」
私をコケにするのにもほどっていうものがねぇ……
「待った!コクちゃん待った!謝るから、家が軋んでる軋んでる」
おっとちょっと力んじゃった。
いけないいけない、気がちょっと漏れちゃった。
危うくこの家を崩壊させるところだった。
「本当にコクちゃんをからかうのは命懸けね」
「それは命を賭けてまでやることか?」
「楽しければいいのよ」
「人間は本当にわからないもんだね」
楽しくたって命を簡単に投げ捨てるとか…
私が関わってきた人間の中でもオースティンとシアンは変わり者すぎる。
「そうだ、現夢眼の事を簡単に忘れちゃうのなら実体験してみれば忘れないんじゃない?」
「え?」
「私と視界を共有するんだよ、その手の魔術は幾つかあるからね」
実体験に基づく記憶は消えにくいって聞いたことあるし。
何事も経験ってことだね。
でもシアンはちょっと遠慮ぎみ。
「いや、大丈夫。ちゃんと憶えているから、ね?」
「いやいや、人間ってのはすぐに物事を忘れる種族だからね。記憶に刻みつけておかないとまたすぐに忘れちゃうよ?」
「でもセレナちゃんがあんなに悲鳴をあげた光景でしょ?そんなもの見たら気が狂っちゃうかもだし……」
「大丈夫大丈夫」
確かにセレナは悲鳴を上げたけれどすぐに慣れるでしょ。
第一私は常に見てる光景なのに狂ってはいないからたぶん狂いはしないし。
「それじゃあ意識共有やるよ?」
「え?せめて心の準備を」
「【意識共有・範囲指定=眼】」
「ちょ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴がうるさいなぁ。
物質世界よりもよっぽど綺麗だと私は思うけどね。
物質世界は色彩が少なすぎる。
物質世界は世界のほんの一部の一部しか見えていないからね。
さて、と。
「今度はきちんと憶えられた?シ・ア・ン?」
「…はい、きっちりと憶えました。でももう忘れ去りたい……」
「忘れたらまた今のだからねぇ~?」
「ひゃい!」
よしよし、今度こそはしっかり憶えてくれたようで何より。
それじゃあシアンも理解してくれたところで幻夢眼についての説明をしようか。
幻夢眼、私の赤い方の目、右目だね。
こっちの眼は本来の私の目で、左目はセレナの魂を取り込んだ時に青くなった。
青い目はセレナの目で、私の体にセレナを取り込んだ時に私がセレナの魂の記憶を辿って前のセレナの体の目を私の左目にしたんだ。
だって現夢眼じゃあセレナ周りの事が何もわからないし。
それで現夢眼は一言で言えば物を魔力そのもので見る眼のこと。
人間の目は物質で物事を捉えている、私は基本的に物質なんて大雑把なもので物を見てないんだよ。
私が見ている光景は色とりどりの魔力、それですべての物を把握している。
そうだね……サーモグラフィーとかが私の見ている光景に近いかな?
魔力の大きさ、色、形、動きとかで物を判断するから同じ人物が変装や変身したって見破れる。
人間の目じゃ不可能なことだけど、魔力はどうあがいても他人と同じには出来ないからね。
あ、因みに人間のように物質で物を見ることも可能だよ。
でも私レベルじゃないと出来ない芸当だからセレナには不可能だけどね。
それで何故それで眼の魔術が使えないのはおかしいって?
この眼は人間の目に比べて魔力による干渉を受けやすいんだよ。
だから目を使った魔術は通常の何倍もやりやすい。
まあ目潰しの魔術なんかもくらいやすいんだけどさ。
私なら自力の差でそんなもの効かないけれどセレナじゃ無理かな。
「さて、十分遊んだし私はまた引っ込むよ。セレナはもう回復したはずだから、他にも教えたほうがいいと思ったのがあったのなら教えといて」
「うげぇぇぇぇ」
「吐かないでよ汚い。それじゃ、セレナに戻ったら私はまた寝るから好きに話してて。もしも何かあった場合はすぐに起こしてね」
私はそう言ってまたセレナを前の出す。
そうして私は意識の奥に再び隠れた。
暫くは出てこないようにしよう。
今日は少しばかり力を使いすぎた、シアンたち町の住人には気が付かれてないようでもあいつらにはもしかしたら感づかれたかも。
となると暫くは裏方作業が忙しくなるね、セレナには悪いけれど魂への供給を一回止めさせてもらおう。
表に出てなくても出来ることはいろいろあるんだよね。




