第七話 ローションタカダ
チートキャラの登場です。
また主人公が力の使い方を覚えます
「ちょっとシンヤさん!何してるんですかっ!!」
慌てふためくエリスと横目に俺も盛大に慌てふためく。なんで魔法が使えたの?そんなことより今現在盛大に燃えている木をどうにかしなくてはいけないと思いクッキーを飲み込み再度杖を振るう。水が炎を鎮火させるイメージをする。しかし何も起こらない。
「え、なんでさっきは魔法が使えたのにまた使えなくなった!」
「そんなことより早く杖を返してください!私が何とかしますから!」
俺は言われるままに杖をエリスに返した。今はあの炎が建物に燃え移らないか一刻を争う。エリスは杖を木に向け目を閉じ一度深呼吸した後、野獣の様な眼光を開き殺気を身に纏う。
「もしこの店が燃えたら私の唯一の憩いの場が消えるだろうが!!さっさと消えやがれよ!クソがっ!」
エリスが怒りを言葉にすると木が大量の水で包まれた。大きな水柱が立ち瞬時に炎を鎮火させた。まだ2回しか見ていないがやはりエリスさんの発動条件は恐ろしい。
衛兵まで出てくる始末になってしまいその後は大変だった。だが、何故かその場ですぐに解放された。どうやらエリスが衛兵さんに何か言ったのだろう。または衛兵さんが恐れたのか定かではない。
今俺とエリスは先ほどの席に着き燃えてしまい散々な木を眺めていた。
「一体どうして魔法が使えたんだろう…」
「私も少しわかりませんね…シンヤさん、あの時何か特別な事をしましたか?」
あの時の行動と言えば足を組んでいたことかクッキーを食っていたことぐらいだ。まさかその二つのうちどちらかなのか?クッキーが発動条件だったらしまらないぞ。
「そこの彼の発動条件は食べることよ。」
ふいに声をかけられる。見ると俺たちの座っているテーブルの空席に上半身裸の屈強な男が座っていた。いきなり声をかけられたことにびっくりしたがそれ以上にその男の風体に度肝を抜かれた。
男の顔はなぜか化粧されていて口紅がしっかりついていた。ルージュまで塗っているようで唇はみずみずしい状態をしていた。何より一番気になったことはその男の上半身がこれでもかという位にテカテカと光沢を発しているのだ。油でも塗っているのか?
「あ、タカダさん。お久しぶりです。」
「あらエリスちゃんお久しぶりね。そちらの魅力的な男性はエリスちゃんのいい人?」
「ち、違います…何言ってるんですか…///」
エリスさん、照れてるのすごい可愛いんだけども、目の前の男性、タカダさんが俺を品定めをするかの様な目で見てくるんでとめてください。菊門がキュッとしてしょうがない。
「そんなに警戒しなくていいのよ。私はプラトニックな関係を好むから大丈夫よ。」
そんなことは聞いてません。ウィンクしてこちらに同意を求めるな、俺はノンケだ。
「あ、紹介が遅れましたね。シンヤさん、こちらの方は魔法協会第二支部殲滅課の長、タカダルト・ヌルメルトさんです。私やバルさんの直属の上司になります。この国でも5本の指に入るほどの力をお持ちしております。タカダさん、こちらはシンヤ・イノウエさんです。」
色々突っ込みどころはあるがまずエリスさん、あなた殲滅課なんて恐ろしい名前の部署にいるのか。そしてタカダルトさん、めちゃくちゃ強いんですね、でもなんでオネェなんですか?
「紹介ありがとエリスちゃん。シンヤ君ね、よろしく。私の事はタカダと呼んでね。ちなみに二つ名はローションよ。」
ああ、テカテカの原因はローションか。ローションって何?馬鹿なの?なんでそれを体に塗りたくっているの?小一時間ほど問いただしたくなるけど面倒くさいから放置。
「タカダさんは恵まれた発動条件、豊かな想像力により発せられる滑るように魔法を使う姿から国の方々から怖れを込めてこう呼ばれています…」
エリスは真剣な目で俺にその畏怖の名を俺に言う。
「ローションタカダと…」
うん、知ってた。分かっていたよ。この流れも何回目かなと思考を停止しようとしていた。もう何が凄いのか俺の常識が先ほどからエラーを算出し続けている。これを受け止められるほど俺は人間ができていない。恵まれた発動条件がローションを体に塗るね。この世界の神様は頭のネジが2、3千本ほど抜けてるんじゃないか?
俺はため息をはき頭を抱えた。
「それでタカダさん、先ほどのシンヤさんの発動条件に対して何かわかったんですか?」
話が色々飛んでいたが一周廻って戻ってきました。俺の発動条件に対してタカダさんは何か気付いたようだ。
「えっとね、最初から話すと、今日は私1日暇だからどこかにいい男はいないかと品定めをしているとなんとエリスちゃんと一緒に魅力的な男性を発見したのよ。それが私とシンヤくんの最初の出会いになるのかしらね。少しの間私はシンヤ君を眺めているとクッキーを口にした瞬間彼の魔力が顕現したのよ。もう目でも確認できるくらいにね。」
「ちょっと待ってください。私シンヤさんが魔力を纏うところなんて見てませんよ?」
「だってエリスちゃんクッキーしか見てなかったじゃない。」
「あ、そっか。」
さてとこの二人、どこから突っ込めばいいかわからない。タカダさん、いやもうタカダでいいやタカダ。どうやら相当な力を持っていてその力で俺の魔力を感知したのだろう。でも調べるまでにいたった動機が不純すぎる。そしてエリス、おまえは今後クッキー禁止な。
「じゃぁ、確認するためにこのパンを食べてみてくれない?」
そういいタカダは俺にパンを差し出してきた。パンを手に持つと異様に湿っている。ん?
「おいタカダ、このパンどこからだした?」
「あら、いきなり呼び捨てなんて情熱的な人なのね。でもそういう人のほうが私は好きよ。どんどんと私に意見をぶつけてね。ああ、話がそれちゃうわね。このパンはね私の下半身で温めていたパンよ。私の汗を吸って塩気がアクセントを出していると思うわ。」
「そぉぉいっ!」
「ああ!私のパンがっ!」
全力投球でパンを道端へと投げ捨てた。どうやらこいつには容赦ない言葉をぶつけてもいいみたいだな。俺は触った手を布巾でひたすら拭いた。さすがのエリスも苦笑いをしている。布巾で手が赤くなるまで擦り続けているとお店の方がパンなどが入ったバスケットを持ってきてくれた。どうやらエリスが頼んでくれたようだ。
「シンヤさん!じゃんじゃん食べてください!」
この量を一人で食うのはきついぞ。まぁ、そんなことはさておき早速この潤滑油の言う事が正しいのか検証してみよう。違ったらどうしようか。
杖を片手にパンをむしゃむしゃと頬張る。意識を集中すると体に何かが廻るのを感じた。
「あ、シンヤさん!魔力が練られてます!シンヤさんが咀嚼するたびに魔力が練りあがっていくのを感じます!」
「これはおどろいたわ。凄い魔力ね。」
俺は食べ物はよく噛む派だ。しかし噛めば噛むほど体を廻る魔力と思われるものはどんどん増えていく。次は魔法のイメージだ。俺は空になったカップに向けコーヒーを満たすイメージをして魔力を解き放つ。
「ぉぉぉおっ!!」
俺は歓喜の声を上げる。杖の先から見慣れた色の液体がいい匂いを散らしながらカップに注がれる。並々とカップにコーヒーが注がれたところで止めようと思ったがまったく勢いを止めない。もったいないと思った俺はエリスとタカダのカップにもコーヒーを注ぐ。タカダのカップにはまだ紅茶が残っていたが知ったこっちゃない。タカダのカップに注いでいる途中で俺はパンを飲み込んだ。すると勢いのまったく衰えていなかったコーヒーもぴたっと止まったではないか。
ふむ、俺の発動条件がなんとなくだが理解できた。エリスとタカダも理解したようだ。
そう俺の発動条件は『食事する』だ。
なんて幸運、強運。俺は声を出して喜んだ。今まで見てきた、聞いてきた発動条件とは天と地ほどのさがあるぐらいに俺の発動条件はすばらしいと思えた。二人は先ほどから驚きの顔を維持している。
「さすがわたしの見こんだ男だわ。こんな発動条件見たことないわ。」
「シンヤさんすごいですよ!すごい発動条件ですよ!!」
二人も俺の発動条件に驚嘆していた。周りにいたタカダのギャラリーたちもびっくりしていた。俺はこの異世界に来てから初めて優越感に浸っていた。うん、やはり転移したりした先の異世界では選ばれた力を与えられるんだな!と俺は思い、パンを頬張っていた。
まわりのギャラリーに言われるがまま魔法を使った。風をおこしたりコーヒーを振るまったりした、空に対して色々な魔法を行使した。しかしこの発動条件には欠点があることがすぐに理解できてしまった。
俺はその瞬間に口に手をあて、しゃがみこんでしまった。
「どうしました?」
「シンヤちゃん大丈夫?どうしたの?」
二人が俺に心配の声をかける。周りのギャラリーも少しオロオロしていた。俺は理解した。何回も魔法を使う際に食べたパンの数は7個、枚数にかえたとしたら6枚ほどであると思う。しかし食べたパンはすべて油であげていた。我ながら馬鹿だと思い今の状態に対して口を開いた。
「気持…悪い…」
とても胃がムカムカした。
胃の大きさは変わってないようだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
タカダはガチムチです。