第六話 想像と妄想の狭間
少し長くなっていましました。
俺は震える足を抑えながらエリスと共に魔法協会第二支部へ向かっていた。俺は向かっている場所に少し淡い期待をしていた。ゲームやファンタジーなどで言うギルドというものが魔法協会だと考えられるからだ。大きな平屋や2階、3階建ての様な建造物を想像していた。ファンタジーと言ったらギルドで冒険者になって…など色々と模索している。
「シンヤさん、この先にある大通りに出れば第二支部が見えますよ。」
エリスに言われ俺は足早に大通りへと出た。俺はこの異世界に来てから色々と俺の期待を悉く裏切られている事を忘れていたのをその件の第二支部を見たときに思いだした。
魔法協会第二支部は俺たちのいるところからは少し遠いようであったが、その巨大な姿はここから簡単に確認できた。魔法協会は高層ビルのようなたたずまいをしていた。見た目高さは40mほどあり、10階建てのビルのようだった。マンションであれば13階建てとも思える。
「あの第二支部は異世界転移者の亜人による技術で造られたそうです。今ではその技術も失われてしまって今では第二支部自体が街の名物になるそうです。あと1ヵ月ほどで第二支部自体異動なんですけどね。」
あれは亜人の技術提供で造られたのか。しかしその亜人がいた異世界の建築技術は地球のように発達していると思えるな。それにしてもその第二支部が異動するのならあの建物はどうなるんだ?
そうこうしている間に第二支部に到着。道中はまた割合させてもらいますよ。お店がそこらじゅうに犇めいていたから大変賑わっていた。どうやら第二支部が異動とのことで今が稼ぎ時だとお店が閉店セールをしていた。
「それにしても街の建物に比べて随分大きいなぁ…」
「はい、第二支部自体が一種の要塞になると聞いたこともあるくらいなので大きく造られたと聞いたことがあります。でも中はとってもきれいなんですよ。」
高さ40m、床下面積大体1,200㎡ぐらいあるようだ。本当にでかいビルだなと思いながら俺は第二支部の中へと入って行った。
「どこの市役所だよ!」
まず魔法協会第二支部の第一印象。中はずらっと窓口が並んでいて、各々に職員が座っていて対面には傭兵稼業のような人たちが身振り手振りで何か訴えていた。また長椅子がきれいに並べてあり、そこには屈強な男たちが手に番号札の様なものを持って狭そうに座っていた。壁や床は白を基調とした色で統一されておりとても清潔感のある内装だ。
「番号、427番の方、427番の方。6番窓口にお願いします。」
天井に備え付けられている丸石から職員の声が響く。スピーカーのようだ。屈強な男たちは手に持っている番号札を見ている。本当に市役所みたいだな。ここの仕事風景も多分異世界転移者によるものだと容易に想像できる。むしろこれ地球、それも日本の市役所役員が転移でもしたのかと疑いたくなるほどのものだった。
「ではシンヤさん。発動条件を調べるための部屋は3階になるので向かいましょう。一応私の同伴させてもらうので心配なさらずに。」
エリスに言われるまま俺はその部屋へと向かうことにした。残念ながらエレベーターなどはなく、各階には階段で向かうようだ。だから重要な役職の人の部屋や一般人などに対して使用する部屋は4階までに大体設置されているとのこと。そこから10階までは各部署の部屋が設置されてるとのこと。本当に市役所みたいだとしか俺は言えない。言わないけども。
「本日発動条件の調査におこしたシンヤ・イノーウェさんでよろしいですか?」
エリスに誘導されるまま部屋に入ると、ずいぶん寒そうな頭をした職員の人がいた。どうやら今回俺の発動条件の調査の担当だとのこと。俺はよろしくお願いしますと会釈をしたあと用意されている椅子に腰をかけた。それからイノウエだと言っといた。
「では今回の発動条件調査を行うに当たる説明や注意事項をお教えいただきます。」
そういうと髪の薄い職員は机の上にある水槽ほどの容器と小さいナイフ、そしてこぶし程の大きさの球を見せてきた。これが調査に必要なものだそうだ。
「この容器に協会が用意した特殊な液体で満たした後、被験者の血液一滴と少量の髪の毛を液体に入れてもらいます。大変申し訳ありませんが調査のためにご理解お願いします。その後、球が血液と髪から被験者の情報を読み取り、発動に必要な条件が発現します。」
「その球に発動条件が描かれるってことですか?」
「いえ、そういうことではないのですが何故かこの調査をすると発動条件になにをすればいいのか被験者の方が行動を起こします。原因はわかりませんがその場ですぐ発動条件がわかります。」
原因不明の調査方法を使っていいのか?しかしこの発動条件調査はかなり昔から使われているとのことで体に害をなすことはないとの事。調査直後に行動をするって事はバルボッサさんは赤子の状態でケツになにかを挟んだってことか?エリスに至っては赤子の状態でガチギレとはこれ如何に。
ちなみにこの職員の男性の発動条件は『髪の毛を毛根から抜く』だそうだ。ご愁傷さま。
「ではこれより発動条件の調査を始めます。」
職員の人に渡されたナイフでまず伸びた襟足をこの機会にエリスにばっさり切ってもらった。少量とは言い難い髪の毛を容器の中に入れ、その後指先に少し切れ込みを入れ指を絞り、血を一滴垂らした。
少し間をおいた後、液体に入れていた球が少し淡い光を発した。しかしその後はなにも起こらなかった。そして俺の体にも何も起きなかった。
「あの、なにか体に変化ありませんか?」
「え、特になにもありませんけど…」
「本当になにもないんですか?こう頭の中に何か思い浮かぶとか…?」
俺は球が発光したあと何も行動を起こさないことに疑問を持ち、向かいの部屋に移動した。この部屋は応接間の様で目につくような物は特に何も置かれていなかった。
「なにか道具に異常があったのか…?」
「でもこんなこと一度もなかったですよ?」
なんかエリスと職員さんが困った顔で何か言い合っていた。あれやこれやと言い合った結果再検査をすることになった。今日は時間が空いていないとのことで後日行うことになった。この職員定時で上がる気満々だな。協会のほうで原因の究明をした後での再検査との事で2日後とのこと。特に何かする予定もないので俺は職員の人に感謝の言葉を贈り、エリスと共に部屋から出た。
「エリスは仕事しないでいいの?」
そういえば朝からずっと俺に付き添うをしているこの人は魔法協会の職員の人だったと今更になって思いだした。
「私は討伐などの職務に就いているので特に決まった時間仕事をすることなどはありませんよ。」
なんという優良企業化。でもエリスの様な年齢の子が働いているという事はこの魔法協会人材不足と思われる。俺でも働けるかな?
「魔法協会には組合員というのがあり、これは誰でも入ることができるものです。まぁ、私も最初はここの組合員だったんですが仕事をしていくうちにスカウトされて今の仕事に落ち着きました。」
なら俺も魔法が使えるようになり次第に魔法協会の組合員になれるということか。組合員はファンタジーで言うところの冒険者、探検者の様なものと考える。組合員の仕事は魔物の駆逐や魔物の生息地の探索などとの事で俺が予想していた冒険者のお仕事だった。胸が躍る。
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「それにしても一体なにが原因なんだ?」
先ほどの調査の問題について髪の薄い職員は悩んでいた。今までたくさんの人の発動条件を調べてきたが被験者になにも起こらないことは一度もなかった。
「容器のほうをもう一度確認するか。」
なにか道具に不備があるのか確認するためにもう一度髪の薄い職員は先ほどの部屋に向かい調査した容器を見たときに違和感を感じた。
「なん…だと…?」
容器に入っていた球は液体の中を漂っていたのだが液体に入れておいた髪の毛が一本も残らずなくなっていた。先ほどシイヤが髪の薄い職員にこれ見よがしに髪の毛を入れていた髪の毛は今はどこにもない。
「一体何が起きたんだ…?」
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「ここの紅茶とクッキーがお勧めなんですよ!」
今俺はエリスと二人で第二支部近くにある喫茶店のテラスで紅茶とクッキーを楽しんでいた。エリスはここの喫茶店の常連らしいのだが誰とも一緒に来たことがなく俺を無理やりに連れてきた。エリスよ、本当に人間関係に苦労しているのだな。俺にできることがあれば何でも言え。
「それにしてもなんで俺の発動条件はわからなかったんだろうな?」
「私もあれこれ考えたんですけど今までこういう事例がなかったので不思議に思います。」
エリスがクッキーをほおばりながら先ほどの調査の疑問を口にする。どうやらあの調査はなにかしら被験者が行動するらしい。でもいきなり俺が踊りだしたり脱ぎだしたりしなかったことに少し安堵したことは内緒だよ。
「でもいきなり発動条件をすることで何かしらの魔法が発動しちゃうことがあるんじゃないか?」
「それは大丈夫ですよ。魔法を使うには発動条件と杖が必要なんです。」
なら、いきなり魔法を使えるという事はないという事か。踊るだけで魔法が使えたら怖いものだ。服を脱いだだけで魔法を発動したらどうやって着替えるのと突っ込みをいれたくなる。相変わらずエリスはクッキーを頬張っている。
「魔法が使えると分かっても、その…精神力とか魔法陣とか鍛錬みたいなことは必要だったりする?」
ゲームで言うレベルアップしたり、鍛錬したりして魔法を覚えていくのだと思っている俺なのだがどうやらそういう事は必要ないらしい。
「いえ、魔法を発動するには先ほど言った杖と発動条件だけです。使う魔法に関しては術者の想像力と魔力が必要となります。こぶしほどの炎や水などを扱う魔法は誰でも行う事ができます。高度な魔法になると豊かな想像力と魔力が多めに必要になります。」
「じゃぁ、高度な魔法を使うには想像力を鍛えるか、魔力を高める特訓をすればいいのか?」
「いえ、魔力の量は生まれたときの量がすべてです。それ以上増やすことも減らすこともできません。魔力を増やす方法は二つあります。杖の本数を増やすか、発動条件に必要な行動を増やします。私の場合は普段より何倍も怒らないと高度な魔力を練ることができません…」
という事は持てるだけ杖を持てば誰でも魔法が使えるということか?というわけでもないようだ。杖を増やしたらその分想像力を高めなくてはいけないようだ。あまり理解できないが基本高度な魔法を使う際は発動条件を増やすしかないとの事。しかしエリスよ、それ以上怒ったらどれほど強力な魔法が使えるんだ?十分だぞ。あと俺の分のクッキーまで食わないで。
「よかったら杖持ってみます?なにか発動条件に見合う動きをするかもしれませんよ?」
「え?もってみていいの?」
「はい。自慢じゃないですけど私杖にはお金をかけているので少々自信があります!!」
それを自慢というんじゃないのか?杖を見たまず最初の感想はまるで菜箸だったが確かに杖と言えるものだった。持つ部分に厚手の布が巻かれておい先端には米粒ほどの小さな宝石がちりばめられていた。宝石は今エリスが手に持っているクッキーの飴細工のようなきれいな色をしている。
「この杖を持って魔法が発動するイメージを持って振ると魔法が使えるの?」
「そうですけど実際にはその行動に発動条件を伴います。だから即座に魔法を発動できる発動条件を持っている人は重宝されるんです。バルさんなどがそれになります、バルさんの発動条件は皆から羨ましがられていますよ。」
複雑な発動条件よりも即座に魔法が使える発動条件は重宝されるようだ。お尻に杖を挟むだけと言うがその行為がどれだけ恥ずかしいのか理解してほしいところだ。先ほどの職員の男性の発動条件なんて同情したくなるものだったな、あの職員の人は何回魔法が使えるかわからない。あとエリスさん、俺まだ一枚もクッキー食べてないから残しといてね。
俺は炎をイメージして杖を振るう。しかし何も起こらない。
「やっぱり発動条件がわからないとなぁ…、想像力ならだれにも負ける気しないのだが…」
俺の脳内にはいままでの人生で読んで見てきた漫画、アニメ、ゲームの知識があるのだ。これは大きなアドバンテージになると俺は考えている。昔から魔法を使う事は色々と妄想していたから。想像と妄想ってどう違うだっけ?
「あ、シンヤさん。あとクッキー二枚なのでこちらの一枚どうぞ。」
エリスは俺にプレーンなクッキーを手渡してきた。二人前のクッキーを一人でどれだけ食べたんだよと言いたかったが幸せそうな顔で食べていたエリスを見れたので何も言わない。
俺は片手にクッキーを持ち、再度杖をテラスに生えている木に向かって振るう。
「やっぱりなにも起こらないか。」
「シンヤさん、クッキー食べないなら私にくださいな。」
どうやらエリスは甘いものに目がないようだ。この最後のクッキーは絶対に渡さんと横目でエリスを見てクッキーを食いながら再度杖を振るう練習をした。今回も杖の先から某ゲームの某炎属性最初の魔法をイメージする。
直後、杖の先からこぶし大の炎が木に向かい飛んで行った。
「「えっ?」」
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シンヤは紅茶をストレートでエリスは砂糖を4個いれます。